丁寧なアスセメントと支援にて
発達障害者が能力を発揮している事例
2019年度掲載
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事業所外観
1. 事業所の概要
(1) 事業概要
株式会社東海化成(以下「同社」という。)は、昭和49(1974)年、岐阜県美濃の地に循環型社会の構築を目指し、地球環境に優しい素材として再生ポリエチレン・ポリプロピレンを主な素材とした農園芸用のプラスチック製育苗鉢(ポリポット)を製造し、独自の販売網にて全国販売する企業として設立。
顧客ニーズに沿った多種多様な製品開発から商品化、安定した生産体制と生産技術の伝承、営業力の強化など等には、さらなる体制の充実が必要として、新社屋や配送センター、曽代工場、蕨生工場の建設など、国内の生産拠点や流通拠点の充実を図る中で、生分解性プラスチック製品の開発・販売や顧客ニーズに沿ったオリジナル資材開発・販売にも成功し、生産品目は約1,500種類の資材となっている。
平行して、平成18(2006)年中国浙江省に独資会社[杭州真地塑料製品有限公司]、平成29(2017)年ベトナム・ホーチミンに独資会社[TOKAI AGRICULTURE DEVELOPMENT]設立など、海外事業にも取り組んでいる。
(2) 経営理念
・美濃の地の自立型企業として変革をすすめ、継続・発展していく、強い会社
・お客様に地域に喜ばれる仕事を誠実にとりくみ、社員一人ひとりが高い使命感をもって行動する、働きがいのある会社
・深い信頼関係を土台とする、あたたかい会社
以上のような会社づくりを目指して
「われわれ東海化成は、食・花・緑あふれる、より豊かな社会をめざします」をスローガンに掲げている。
2. 障害者雇用の経緯
先代社長が縁故で頼まれ、平成2(1990)年に知的障害のあるAさんを雇用したのが最初で、平成13(2001)年にも知的障害のあるBさんを雇用した。
当初、障害者に対する知識のない生産現場では、動きが遅く数もかぞえられない者には生産ライン業務は無理として、補助作業に限って担当させていた。
その様な時、たまたま現在の社長が障害者雇用で有名な企業を見学で訪れ、障害者が集中して的確に作業をしている光景を目の当たりにしたことと、社内のジョブコーチを務める人から「障害者雇用支援制度」の説明を受けたことが契機となり、人手不足の解消にもつながるとして社長自らが障害者雇用に動き出した。
しかし、生産現場からは、大きな事故につながりかねない機械の隙間への潜伏や周りが気が付かないうちに本人の姿が見えなくなり家族とともに周囲の畑や田圃を探し回るなど、常に二人の行動に振り回されていた現実も含めて反対の声が上がった。
だが、社長は『制度を使えばできるはずだ』と固い決意を表明し、本格的な障害者雇用をスタートした。
3. 取組の内容と効果
ア ジョブコーチ支援などを利用した雇用
障害者雇用決意表明直後に、ハローワークから知的障害のあるCさんが紹介されトライアル雇用を決定した。トライアル雇用開始にあたり、岐阜障害者職業センター(以下「職業センター」という。)の配置型ジョブコーチ支援を活用することとし、職業センターから提示された支援計画と具体的な支援内容の打合に沿ってトライアル雇用を開始した。ジョブコーチは、障害者に寄り添った丁寧な指導だけでなく、習熟度の数値化に向けたデータ収集・分析を行い、「Cさんは時間は要するが確実に作業性は伸びていく」との分析結果と可能性を提示。同社は提示内容に期待して平成20(2008)年採用。
Cさんの真面目に集中して作業を遂行する姿勢は、障害者に対する生産現場の見方を変え、本人に応じた指導・支援の重要性と効果を現場の社員が理解することにつながった。一から手探りで始まったCさんの実例を身近に体験したことにより、AさんやBさんへの社員の対応にも変化が現れたことで、両者ともにトラブルを起こすこともなく作業性は向上した。これらの経験を活かすべく続いてハローワークから紹介された知的障害のあるDさんを平成21(2009)年採用。
また、障害者雇用の円滑化や定着化には、支援期間に定めのある職業センターの配置型ジョブコーチの支援を受けるだけでなく、日常的・継続的に支援が可能な企業在籍型(社内)ジョブコーチも不可欠として、その育成と配置を行った。
これで障害者雇用は円滑に進めることができると同社では考え、発達障害(自閉傾向が強い)と知的障害のあるEさんを平成23(2011)年採用。
ところがEさんは、採用後6か月を経過しても先輩の障害のある社員とは異なり、「安定した作業ができない」「指導中に笑う」など、理解に苦しむ行動を取ることから、本人に対する不満の声が現場から噴出した。職業センターのジョブコーチから、そうした行動が発達障害(自閉傾向)によるものであることを現場の社員に説明したものの、発達障害を理解することが困難であった。というのは、いままでに入社した人(AさんからDさん)が療育手帳を所持していたことで、療育手帳を持つ人はAさんたちのような知的障害を有する人というイメージが現場社員には強かった。そのため、Eさんも療育手帳を所持していたが、障害特性などがAさんたちとは大きく異なっていることや、特性に応じた対応の必要性についての理解が得られなかった。そして、ジョブコーチと現場社員との間に溝ができるなど、深刻な状態に陥った。
イ 新たな関係機関との連携による課題解決と社内体制の整備
同社では、多様な支援機関の支援を得る必要があると判断し、障害者雇用に取り組む企業をサポートしている「特定非営利活動法人くらしえん・しごとえん』(静岡県浜松市。以下「くらしえん」という。)に支援を求め、連携して解決をはかることとし、まず課題整理に着手した。
課題整理は、しごとえんによる同社の障害者雇用の現状に対するアセスメントから始まった。その結果、障害者雇用を進めようとした経営者(社長)の方針の背景や思いと社内の雰囲気や社員の理解との間にギャップがあるという「方針に対する理解の齟齬と企業文化の課題」、次に障害のある社員の配属部署における体制や人材(キーパソン)が十分でないという「雇用管理体制の課題」、そして、障害者雇用を進めるための社会資源(制度や機関など)に関する情報収集と活用が不十分という「関係機関との連携などにおける課題」が明らかになった。
そして、そうした課題に対し、以下の取組をしごとえんと連携して進めることとした。
(ア) 経営者と障害者雇用に携わる社員(総務担当者、配属先の現場担当者)との会議を定期的に開催し、方針や現場の状況についての認識や理解などについて齟齬がないようにする。
(イ) 配属先における体制を整えるため、障害のある社員に対する指導担当社員を新たに定めるとともに、指導方法などについても障害特性に応じて変更する。
(ウ) Eさんの障害特性とそれに応じた指導方法などについての情報取集を改めて行い、しごとえんなどの関係機関の協力を得て、的確な理解と効果的な対応を図れるようにする。
そうした取組を進めたことで、経営者の思いや方針が社員に理解されるとともに、Eさんに対する理解や対応が変わり、作業遂行や職場適応面での改善がみられ、周りからの評価もよくなり、職場は落ち着いてきた。また、会社の進める障害者雇用を理解し、進める人材づくりとして、しごとえんが行う企業在籍型ジョブコーチ養成研修や、障害者職業生活相談員資格認定講習に社員を毎年参加させ、現在は7名の社内ジョブコーチと障害者職業生活相談員1名が活躍している。
ウ さらなる雇用に向けて
現場が落ち着いたことから、知的障害のあるFさんを平成28(2016)年採用。続いて平成30(2018)年に、地元の障がい者就業・生活支援センター(以下「支援センター」という。)から精神障害者保健福祉手帳を所持するGさんの紹介を受けた。精神障害者の応募は初めてのことであり、支援センターに障害特性などに関する情報提供を求めるも、必要とする情報提供はなかった。
そこで、「これまでの経過」「仕事に関わる要素」「生活面の要素」「自己評価と他者評価」など、障害のある人に用いるアセスメントを実施。その結果、精神障害者保健福祉手帳の所持者であるが、発達障害と精神障害を併せ持っていることが確認でき、両障害症状に配慮した詳細な支援計画を基に製造部門でのトライアル雇用を開始した。また、Gさんは接客業から製造業への転職であり、業務内容も環境も大きく変わることから、外部支援機関に厚生労働省編一般職業適性検査(GATB)を依頼。結果は製造業での適性があるとはされず、トライアル雇用での順調な作業ぶりとは相反するものであったが、採用後の指導・支援の参考にするにとどめ、実際の作業ぶりから判断してGさんの採用を決めた。
同社は、これらの体験を通して障害者雇用には、「障害者特性への理解」「職場環境の改善」「組織体制の見直し」や支援機関のサポートも重要であることを学び、順次改善を進めている最中であり、発達障害者も普通に働ける職場となっている。
製造現場には、ロータリーブロー成形機、双頭式・単頭式ブロー成形機、シート成形機・真空成形機・ダイブレス機が設置されている。
エ 具体的な作業環境と個別の担当業務
障害のある社員が勤務しているのはいずれも製造部門であり、さまざまな機械が設置されている。
社内ルール(「作業規則」)では、ロータリーブロー成形機で基本作業を習得後、双頭式、大型機械へと進むことができるスキルアッププロセスを定めており、障害のある社員でも着実にスキルアップをしている者もある。次に各人の現状を紹介する。
作業場面1
ロータリーブロー成形機から出てきたポリポットの
不要区分を除去し100枚毎にセットしている。従事
者は全員が障害のある社員(ア)Aさん
ロータリーブロー成形機から生産される製品のセット業務を担当して勤続28年。当初は数が数えられなかったが、周囲の指導と本人の頑張りにより徐々に数えられるようになった。現在では不良品除去・補填も含めた製品セットと箱詰め作業もできるようになっている。
(イ)Bさん
双頭式ブロー成形機から生産される製品のセット業務を担当して勤続17年。職場のムードメーカーでもある。
(ウ)Cさん
双頭式ブロー成形機2台で生産される種類の異なる製品のセットとロータリーブロー成形機のサポートを兼務で勤続10年。双頭式ブロー成形機操作の第一人者である。
(エ)Dさん
大型機械の操作に挑戦中で勤続9年になる。
(オ)Eさん
ロータリーブロー成形機から生産される製品のセット業務で勤続7年となり、新人のよき手本になるまで育っている。
(カ)Fさん
将来期待の社員であったが、勤続2年で残念ながら退職している。
(キ)Gさん
入社間もないがロータリーブロー成形機から生産される製品のセット業務と穴開け業務を兼務で担当。リーダ的な存在になっている。
作業場面2 作業場面3
ポリポット100枚を紐で束ねている作業 束ねたポリポットの穴開け作業
4. 今後の取組、展望
新たに稼働する新工場に当面3名の障害者を雇用する予定である。また、経営理念の一つである「地域の生徒は地域の会社で受入れる」の具現化に向け、特別支援学校生徒の職場実習が円滑に進み、採用に結びつくように、新工場の設備配置には工夫を凝らしている。
新卒、途中入社を含めて継続的な障害者雇用に取り組んできたことで、本来業務と障害のある社員への支援を兼任する社内ジョブコーチへの負担は増加したことから、体制の一部を改善したものの、抜本的な体制の確立が不可欠として、関連部署を含めた仕組み作りにも取り組んでいる。
障害のある社員、そして彼らを指導し支援する社員が孤立したり、無理しなくてもよいことを前提とした仕組み作りだけに、「支援体制」「情報の共有化」「知識水準の同一化」「障害者と家族双方からの信頼関係の構築」などについて、外部の支援機関の協力を得ながら検討を進めている。
筆者は平成27年(2015)年にも同社を訪問しており、本稿執筆にあたり今回2度目の訪問であったが、障害のある社員の作業ぶりや障害雇用に取り組む社内の雰囲気は大きく進化していたことに驚いた。障害のある社員の動きは障害のない社員と変わらない動きであり、特定の機械の操作では第一人者の方があった。また、社内体制の整備や指導担当者の力量アップもなされていた。加えて、関係機関と連携しながら新たな取組を進めており、障害者雇用における同社の進化はまだまだ続くと強く感じた。
執筆者:独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構
岐阜支部 高齢・障害者業務課 中谷 伊三美
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