支援機関との連携、各種制度を利用した障害者雇用の進め方
2019年度掲載
- 事業所名
- エヌ・デーソフトウェア株式会社
(法人番号: 8390001010794) - 業種
- 情報通信業
- 所在地
- 山形県南陽市
- 事業内容
- 福祉・医療関連オリジナルソフトウェアプロダクトの企画・開発・販売及び運用支援・保守サービスなど
- 従業員数
- 489名
- うち障害者数
- 8名
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障害 人数 従事業務 肢体不自由 4 開発業務、事務 知的障害 1 事務補助 精神障害 1 客先でのシステム導入、操作説明業務 発達障害 2 清掃業務 - 本事例の対象となる障害
- 肢体不自由、知的障害、精神障害、発達障害
- 目次
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1. 事業所の概要、障害者雇用の経緯
(1)事業所の概要
エヌ・デーソフトウェア株式会社(以下「同社」という。)は、昭和54(1979)年の設立時より介護・福祉・医療分野の業務支援ソフトウェアの開発・販売・運用サポートを中心に、「誰もがすこやかに暮らせる社会の実現」を経営理念とした事業活動を行っている。
介護・福祉・医療業務の省力化・円滑化を支えるソフトウェアを自社開発するとともに、事業フィールドを障害者福祉・児童福祉へと広げ、全国に40,000件を超えるユーザーを持つ事業所である。
業務の拡大により子会社を設立するなど、企業グループの拡充に伴い、より大規模なシステムソリューションの提供、歯科 巡回診療サポート業務、経営相談、調査研究を行うシンクタンクとしての活動、企業・自治体向けに防災食販売などに取り組んでおり、今後は介護食開発なども検討している。
「人のやらない事を人のやらない方法で」を社是とし、多様化、高度化するユーザニーズに最適なヘルスケア全般に渡るトータルソリューションを提供している。
(2)障害者雇用の経緯
障害者雇用の取組については、以前は身体障害のある社員を数名雇用していた程度であり、積極的な活動は行っておらず法定雇用率を大きく下回る状況が続いていたが、福祉事業に携わる事業所として、障害者雇用の達成は大きな経営課題との認識をしていた。
平成23(2011)年に総務部より人事部門が独立したことを契機に、身体障害者だけの雇用ではなく、知的障害者、精神障害者の雇用を行い、障害者雇用率の改善を目指すこととなった。
そうした時期に、同社での就業を希望する発達障害のあるAさんがハローワークの紹介で応募してきた(Aさんは精神障害者保健福祉手帳を所持)。早速、同社ではAさんの採用に向けての検討と準備に入った。Aさんとの面談、本人、同社の人事担当者、関係機関の担当者で構成する就業前の拡大ケース会議を、打合せを重ね採用に至った。採用に当たっては関係機関のジョブコーチ支援を利用することで、スムーズに就職・定着が図られた(経緯や取組については「2.取組の内容と効果」に記載)。
Aさんの雇用が順調なことにより、障害者雇用に対する同社全体の理解も徐々に深まり、平成25(2013)年4月には地元出身の高等養護学校の卒業生(知的障害者)を採用している。
その後も発達障害者などを採用しており、今では身体障害者だけでなく、知的障害や精神障害、発達障害などの多様な障害を持つ社員の雇用につながっている。引き続き多様な障害のある人の雇用を増やしたいと考え、それに合わせた職域の開拓も検討している。
次に、Aさんの採用の経緯や取組などを中心に報告する。
2. 取組の概要と効果
(1)取組の概要
ア Aさんの状況、募集・採用
Aさんは発達障害を有しており、障害者就業・生活支援センター(以下「支援センター」という。)へ平成22(2010)年に登録し、支援を受けていた。
Aさんの障害特性・課題の主なものは以下のとおりである。
・数処理に関する学習障害があり、数字の記憶やスケジュール管理・計算などが苦手。
・細かい注意力にやや欠けることがあり、判断を伴う作業が苦手。
・初めての場面や複数の人の会話が飛び交う環境で不安を強く感じる。
・手順やものなどにこだわりがあり、やり方が自己流になる傾向などがある。
支援センター利用中に精神障害者保健福祉手帳を取得し、ハローワークの専門援助部門に求職登録。その後、山形障害者職業センター(以下「職業センター」という。)で職業評価を受け、その結果を踏まえ、障害をオープンにして求職活動を行っていた。
ハローワークではAさんを同社に紹介し、Aさんと面接した同社では採用は可能と考え、採用に向けた準備を進めることとした。そのため、Aさんと同社の人事担当者、ハローワーク職員、職業センターのカウンセラーとジョブコーチ、支援センターの支援員とジョブコーチがメンバーとなり、就業前の拡大ケース会議を実施し、その後も打合せを重ね、平成23(2011)年に清掃業務で採用となった。
そして、採用時点から職業センターと支援センターのジョブコーチによる支援を利用することとなった。
同社では、Aさんとのコミュニケーションや、従事させる業務や指導の仕方などに関して当初は不安があったが、ハローワークをはじめとした各種機関(職業センター、支援センター)の支援や、トライアル雇用、ジョブコーチ支援などの各種制度を利用することで、スムーズに受け入れを進めることができた。
イ 従事業務・体制、関係機関の支援など
Aさんの従事業務は社内の清掃業務で、勤務時間は8:30から14:00(休憩12:00~13:00)までの平日勤務で、週5日勤務となった。作業態勢は、もう1人の清掃員(障害のない人)との2名で清掃場所の分担を決めて業務に当たった。
入社時より3か月、職業センターのジョブコーチと支援センターのジョブコーチによる支援が行われた。主な支援内容は、作業の習得とスムーズな作業遂行、職場でのコミュニケーションの促進、困りごとの確認の3点であった。
支援の頻度は、支援開始直後2週間程度は週3~4日、その後の数週間は週2~3回、その後は週1回程度であった。
3か月のジョブコーチ支援の終了後は、1年間のフォローアップ支援を利用し、その後は支援センターが主となって支援している。そのため、フォローアップの期間中には、職業センターから支援センターへの引継ぎが徐々に行われた。
支援期間の中間と終了時のケース会議には、支援センターからも担当者が参加し、状況を共有した。その後は、定期的に職場へ訪問し、面談を中心に支援した。
平成27(2015)年より、清掃業務にもう1人障害者(発達障害)が採用になり、3名で3か所の清掃場所を月ごとにローテーションで担当する体制に変更となった。
(2)取組の内容と効果
ア 作業面
入社当初Aさんは、自己負担で自身の業務用備品を購入してしまうことがあった。ものへのこだわりが強いことによるものであるが、ジョブコーチはその件を同社の担当者へ報告・相談し、業務に必要なものは会社が対応することとなった。そして、Aさんには業務で必要なものは、自己判断せず同社の担当者に相談することを助言し、以降は必要なものがあれば本人から相談ができるようになった。
作業手順については、同社の現場担当者とジョブコーチが具体的に指導などをすることで、おおむね順調に習得し、細かいところの気づきもできてきた。しかし、慣れてくると自己流で進めるところが出てきて、他の清掃業務担当者と掃除の進め方、作業方法などに違いが生じてしまい、このままではミスなどの悪影響が出ると判断し、事業所担当者が「清掃チェックシート」を作成し、シートに沿って仕事を進めるよう指導することで改善を図っていった。そうした取組をジョブコーチとも連携しながら行ったことで、Aさんの自己流な作業はなくなった。
清掃チェックシート
イ コミュニケーションなどの職場適応面など
コミュニケーションについては、時折ではあるが言葉遣いが不適切になることがあり、他の社員との関わり方について課題となることがあった。清掃業務に配属されたAさんともう1人の障害のある社員(平成27年採用の発達障害のある社員)とは、それぞれにこだわりが強く、お互いの言葉や行動で誤解を生じることがあった。それぞれの障害の特性や発言・行動の真意についてお互いが理解するため、支援センター担当者と同社の担当者が個別に助言するなど粘り強く関わることで、双方の理解が進み、徐々に関係は良くなっていった。
また、気になることがあると作業に集中できなくなる課題について、Aさん本人から遮光メガネや耳栓の使用に関する希望があった。遮光メガネは、社内のLEDライトの眩しさ軽減や清掃場所近くを通る人が気になることへの対応のため、耳栓は、金属の摩擦音やドアの開閉音、他の人の話し声が気になることへの対処のためであった。
同社としては、それらを装着して掃除をする姿に違和感がないか少々気になったが、初めての場面や複数人の会話が飛び交う環境で不安を強く感じることや聴覚過敏への配慮を優先するべきと考え、本人の状況も考慮し使用を認めた。
結果的にこれらのことは大変効果があり、業務へ集中できる環境を整えることにつながった。またしばらくすると、遮光メガネがなくてもある程度周囲を気にすることなく業務に集中することができるようになっていった。
このことは、Aさんの希望を同社が把握し、配慮したことにより、安心して業務に取組むことができることとなったと同時に、本人の自信につながったものと考えられる。
以上のように、作業面・職場適応面での改善点は見られてきたが、Aさんは家庭内の状況でストレスを抱え込むと、そのことが仕事上で不機嫌な態度として表れてくることがあった。そうした態度で業務を行うことが原因で、作業などに支障をきたすようになったため、同社の担当者は本人との面談の中で悩みを話すよう促し、内容によっては対応できる機関の利用について相談・助言した。またそれ以外の生活上の悩みなどについても、支援センターや社内のそれぞれの担当者に本人から助言を求めるよう勧めるなど、課題解決に向けた取組を行っていった。本人から丁寧に話を聞き、一つずつ悩みを解消することで、落ち着きを取り戻し業務に集中できるようになっていった。
3. 今後の課題と展望
Aさんは平成28(2016)年、精神的に不安定となったことが原因で入院。不調になった理由は、悩みを相談できる人がおらず、一人で家庭の悩み事を抱え込んだためとのことであった。
約3か月で退院することとなったが、退院前にAさんより退院日を知らせる連絡が支援センターに入った。支援センターからは復職に向けた主治医との話合いを持てないかが提案され、Aさんと主治医の了解を得た。同社からも、産業医への情報提供の必要性から、話合いへの担当者同席の希望があったため、Aさん、主治医、同社担当者、支援センター担当者による話合いがもたれ、本人の状況や配慮すべき事項(主治医は、本人の状況から当面は毎週の受診、短時間勤務が必要との判断)、職場の状況などの確認を行い、本人が無理なく復帰できるような環境整備、調整を図ることとした。
その結果、復職当初は、本来より短時間勤務で毎週の通院日は休みにするなど、勤務日数や勤務時間を配慮したところからスタートし、徐々に元の勤務時間に戻すようにしていった。
本稿作成時には復帰後約3年が経過しており、おおむね安定した勤務である。同社では一人で悩みを抱え込まないように定期的に面談を実施しながら支援を継続しているところであり、支援センター担当者も定期的な面談を行っている。支援センターとの面談では話を聞いているうちに表情が和らぐことも多くなっている。また、面談の内容は、これまで通り可能な範囲で同社と支援センターとの間で共有化され、連携が常に図られている。
同社では、以前より社員のライフスタイルに合わせた多様な働き方への配慮を充実するよう努めている。障害の有無に関係なく、今後も社員に長く無理なく働き続けてもらうために、そのような取組がより一層きめ細やかに活かされていくことを考えている。
執筆者:独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構
山形支部高齢・障害者業務課
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