平成24（2012）年、全日本空輸株式会社の人事部に「グループ障がい者雇用推進室」が設置され、グループ全体での障害者雇用の取組が本格化した。これと同時に同社も障害者雇用に積極的に取り組むこととなった。
   同社は、障害者雇用を法律で定められているからではなく、社会的公器である企業の当然の責任として取り組むこととしている。また、更にはグループを支える貴重な戦力の確保への取組と考えている。

　同社は、5つの部署の確かなチームワークで成り立っている。3名の障害のある社員は、旅客サービス課と品質企画課に所属している。次に3名の担当業務を紹介する。

（1）Aさんの場合（肢体不自由）
　空港内のラウンジで、利用客が使用した食器の洗浄や飲み物・食器の補充を行うパントリー業務に従事している。下肢が不自由なため、立ち仕事が負担にならないよう作業場所には必ずイスを置き、いつでも座れるよう配慮している。
日々の業務を確実にこなし、現在では、物品在庫の減り具合にも幅広く目を配り、改善点を提案するまでになっている。当初は、パントリー業務のみを行っていたが、各便の搭乗数により利用客数も変化するため、閑散としている時間帯には、他に自分にできることはないかという意欲・積極性を持って臨んでいる。元々、事務系のスキルがあったため、事務業務も任せることとなった。今後は、発注業務などにも関わってもらう予定である。

（2）Bさんの場合（発達障害）
　カウンターにて、利用客から預かった手荷物をベルトコンベアーに載せるなどの業務を行っている。
高校卒業後、他分野の仕事に就いていたが、飛行機をみるため頻繁に松山空港に足を運ぶほど「乗り物」が大好きで、いつかは「乗り物」に携わる仕事に就きたいと思っていた。同社がハローワークへの障害者求人募集を行った際に応募し、向上心の高さと真面目な性格から採用となった。
　Bさんは、発達障害（自閉症スペクトラム）があり、曖昧な表現や複雑なことが理解しづらい場合がある。同社ではBさんの同僚に対して障害特性と対処法について説明し、指導する際には写真を使ったり、一緒に作業を行ったりするなどの配慮をしている。Bさんは、仕事に対して真摯に取り組み、「これをやってみたい、次はこれをやってみたい。」と意欲も高く、できる業務の範囲を広げつつある。

（3）Cさんの場合（内部障害）
　現場の業務を円滑に進めるためのサポートを行う部署で事務業務を行っている。定期的な通院が必要なため、通院時間の確保ができるよう配慮している。
　真面目にコツコツと業務を遂行し、年下の社員への気遣いもできている。入社して約1年経ち、業務にも慣れてきた。これまで以上に、自分の力を存分に発揮してもらいたいと期待している。

 

　発達障害者の雇用経験のなかった同社は、Bさんを採用するにあたり、障害特性について正確に理解し必要な配慮を考え、受入れる環境を整えた。また、ジョブコーチ支援の活用も行った。
（1）環境の整備
ア．場所の明示
　カウンターの後ろにシールを貼って何を置く場所かを示した（写真参照）。

                                           
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　置く物の名称を壁に掲示
 

イ． 業務マニュアルの作成
   業務手順が具体的にわかるよう写真つきの業務マニュアルを作成し、業務を指示するときにはマニュアルを使ってわかりやすい説明を行い、指示した者も実際に業務を行う場所で一緒に行うようにしている（写真参照）。
  Bさん自身もノートを用意して、一度教えてもらったことは、理解しきちんと行えるよう業務の習得に励んでいる。

 

　　             　　

 　

　　　　　　

 　
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　業務マニュアルの例　　

（2） ジョブコーチ支援の活用
   Bさんの入社前に職場環境を整備したことにより、業務そのものにはスムーズに馴染むことができたが、障害特性により人間関係に対する不安があったため、Bさんの家族の希望もあり、愛媛障害者職業センターのジョブコーチ支援を活用することにした。
   ジョブコーチには、主に人間関係や職場でのコミュニケーションを改善するための支援を依頼した。Bさんの障害特性として、自分の中で考えすぎたり、気持ちを発散できなかったりすることがある。他の社員には話せないことでもジョブコーチには話すことができ、Bさんの安心だけでなく、周りの社員やBさんの家族の安心にもつながった。

（3） 取組の効果
   最初は少し緊張ぎみであったBさんだが、現在では自発的に考え、先を見て業務に取り組んでいる。担当業務も、障害特性に配慮し、複数の業務を同時に担当させることは避け、一つずつ着実に積み重ねていくなかで徐々に拡大している。
コミュニケーション能力もジョブコーチの支援もあり、少しずつであるが向上しているように周囲は感じている。本人の気持ちにも余裕ができ、カウンターの内側からお客様の様子を確認したり、手荷物搬送業務が比較的少ない便と便の間の時間帯には、自分から手荷物を梱包するコンテナボックスをきれいに掃除することに取り組んだりしている。最近では、今後やってみたい業務の話を自分からするなどの意欲や積極性もますます見られている。それに応えるべく、同社でも安全上の問題を配慮しつつ担当業務の拡大を検討している。

                                             

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　いきいきと働くBさん