夢をもって、働こう
2019年度掲載
- 事業所名
- 日の出医療福祉グループ(日の出福祉会・奉志会・博愛福祉会)社会福祉法人 博愛福祉会 デイサービスセンター和(なごみ)
(法人番号: 4140005010943) - 業種
- 医療・福祉業
- 所在地
- 兵庫県加古川市
- 事業内容
- デイサービス事業
- 従業員数
- 20名
- うち障害者数
- 1名
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障害 人数 従事業務 知的障害 1 清掃、配膳、配車時の呼び出しなど - 本事例の対象となる障害
- 知的障害
- 目次
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本部外観
1. 事業所の概要
「日の出医療福祉グループ」(以下「同グループ」という。)は、日の出みりんで知られるキング醸造株式会社が、平成4(1992)年に創立90周年事業として、社会福祉法人日の出福祉会を創設したことに発している。同グループでは、医療・介護・保育を通じて地域貢献を推進するため、現在、日の出福祉会、医療法人社団奉志会、社会福祉法人博愛福祉会(以下「博愛福祉会」という。)の3法人で、「HINODE PRIDE お客様のよろこび、社員のよろこび、地域のよろこび」をグループ理念として掲げ、「おはようからおやすみ」までをモットーに、生命に携わるプロ集団として横断的にサービスを提供している。
現在、グループ全体の事業所数は125か所で職員数は2,500名を超える。グループ全体では、障害のある職員を30名雇用し、法定雇用障害者数を超えており、過去1年以内の障害のある職員の離職者はゼロである。
今回取り上げる「デイサービスセンター和(なごみ)」(以下「センター和」という。)は博愛福祉会に属し、平成25(2013)年に開設された高齢者向けデイサービス施設である。職員数は20名で、平成30(2018)年に初めて知的障害者を雇い入れしている。2. 障害者雇用の経緯
同グループは平成29(2017)年から本格的に障害者雇用を開始したが、それまでは法定雇用障害者数が達成できていなかった。グループ内のほとんどの施設がバリアフリー化され、障害者用のトイレなどの設備が整っているなど、障害者雇用に関する物理的環境は整っていた。しかしながら、雇用すべき障害者数を達成できていないことは、社会福祉法人などを擁する団体として問題であり、人材不足の解消と併せて取り組むことから対策をスタートした。その結果、現在では雇用障害者数をほぼ倍増させ、当初の目標であった法定雇用障害者数を超えており、障害者雇用に関するスキーム整備やノウハウの蓄積に止まらず、障害のない職員の離職率低減などにも相乗効果が出るなど多くの成果を得るに至っている。3. 障害者の採用及び定着に向けた取組
(1) 担当部門の設置
同グループは、平成29(2017)年11月に、グループ全体の障害者の実雇用率達成のために三法人での採用と定着を横断的に進める部門として「中途採用課(障害者雇用部門)」(以下「中途採用課」という。)を発足させた。中途採用課は障害者の採用において、『営業活動』、『整備』、『フォロー』と名付けた一連の取組を行っている。
『営業活動』とは、特別支援学校や障害者の就労支援機関などとの関係作りであり、各機関への挨拶回り、公開授業見学、内部見学会などの取組である。障害者を送り出す側と雇用する側がお互いの状況を直に知ることで、入社してからのギャップの軽減だけでなく、新たな発見もある。お互いの想いをまず知って、働くことが楽しいと言えるレベルまで意欲を高めることが採用活動の近道とのこと。
『整備』とは、障害者を雇用するために各職場のソフト面の整備を進めることで、障害者への理解を深め、現場担当者を任命し、障害に応じた業務マニュアルを作成することである。職員向けのマニュアルは以前からあったが、障害に応じたマニュアルは、障害のある職員個々に合わせた、真に働くための具体的なマニュアルであることが重要である。例えば、従来のマニュアルであれば、単にスケジュールを載せるだけだが、障害のある職員向けではその人に合った仕事・時間を切り出して記載している。仕事の細分化・要素化を行い、その人ができる仕事を見つけ、担当業務として再構築することがコツとのこと。また、現場担当者を任命し、施設管理者と2人で障害のある職員への指示や指導を行うことで、本人にとっては、業務指示が一本化され、困った時の相談相手もはっきりし、迷いがなくなる。さらに、障害者の現場での情報が、このラインによって本部へ上げられ、本部担当者の現場把握の材料ともなっている。
『フォロー』とは、応募者人一人ひとりの採用に向けた具体的なプロセスであり、職場実習やトライアル雇用を活用して行っている。同グループでは、まず2週間の実習を行い、次に3ヶ月のトライアル雇用へと移行し、そののちに通常の雇用契約締結に至るスキームの中で、本人の意向や適性などを時間をかけて確認している。実習で障害者が仕事を経験することや、事業所が障害者を受け入れてみることは非常に有益とのこと。実際に仕事をやってみると、「これは実は向いていなかった。」、「実はこんなスキルがあった。」など様々な発見ができる。実習で希望職種が変わった者も多数いる。事業所側でも「次のトライアル雇用では、こうしてフォローしていこう。これも任せてみよう」という適切な軌道修正のための"気づき"が、障害者、職場、そして支援機関にはたくさんあるとのことである。
(2) 成果と成功要因
中途採用課の取組により、学校関係や支援機関などからの応募者があり、実習やトライアル雇用を経て障害者の採用は順調に進み、先に述べたように法定雇用率を達成するとともに、定着も実現している。
このような取組や成果が短期間で成し遂げられた要因は、「障害者の雇用支援に係わる窓口や支援機関との連携」、「現場任せにしない」にあることが見えてくる。
まず、「障害者の雇用支援に係わる窓口や支援機関との連携」では、特別支援学校、ハローワークや就労移行支援事業所、兵庫障害者職業センター(以下「職業センター」という。)などと連携しながら、各機関の担当者から話を聞き、提案を取り入れながら、各関係機関に対して支援を受けるための配慮を十分に行っている。まさに、中途採用課の「営業」活動であり、成果である。
次に、「現場任せにしない」では、障害者を新規採用した事業所や障害のある職員などに対して、法人本部人事部が目配りを怠ることなく、適切に係わっている。「現場で何が起こっているのか」「現場で困り事はないのか」「障害者はどんな状況であるか」など、現場目線・当事者意識を持って状況把握が行われている。日頃からの本部による現場把握が、課題解決に向けたスピード感のある対応と成果につながっている。また、本部担当者や施設管理者が、障害者と面談を行う月日を、毎月スケジュール化(「振り返り予定表」と称するシートで調整・管理)し、事業所管理者からの情報によっては臨時面接を行うなど、障害者と現場の声を直接聞くことを怠ることなく、課題があればすぐに訪問し、解決に向けて関与している。
また、職務能力に応じた適正な処遇を行うため、新たな職務給を導入した。例えば、「生活支援員(ヘルパー2級)」の職務区分の中に、障害のある職員の担当業務に合わせた「生活支援員(無資格)」を創設している。さらに、勤務を容易にする制度改革を行い、各人に合わせた勤務が可能となるよう、短時間勤務、時差出勤、柔軟な契約期間設定、業務開拓、時間有給、資格取得支援、自己申告制度、ストレスチェックなどの制度を取り入れている。4. 具体的取組事例(知的障害者の事例から)
中途採用課では、各機関を通じて求人活動を行ない、ハローワークの紹介により職場実習から受け入れていたが、知的障害があるAさん(継続就労支援B型を利用中)も、同グループが出していたX事業所の障害者求人を見て、応募してきた。
Aさんは、X事業所で職場実習として草むしりなどの軽作業に従事したが、就業環境や業務に慣れず、元気を無くしていった。この状況を見て、中途採用課では何とか対応ができないかと議論を重ねた。グループ内の別の事業所・施設で、幅広く本人に合った業務や環境のある事業所を探したところ、Aさんの住居の近くに高齢者向けにデイサービスを提供するセンター和があり、施設内清掃や利用者の飲食の準備などを担当する職員を募集したいとのことであった。そこで、Aさんにセンター和で改めて実習を受けてもらうこととなった。
実習を始めると、もともと人と話をしたり、人と関わることが好きだったAさんは、利用者が高齢者であったこともあり、孫のように可愛がられ、慕われる存在となった。一緒に働くスタッフは、医療・福祉のプロ集団であり、Aさんへの接し方やフォローもスムーズにできる環境にあった。また、センター和のセンター長やスタッフが、Aさんの障害を受け入れながら、特別な職員として扱うことなく、できていない点があれば、きちんと注意するなど、チームメンバーとして普通に、明るく、積極的に関わっていることも、受入環境としてプラスに働いた。そして、Aさんは実習段階から職業センターのジョブコーチ支援を受けていたが、担当のジョブコーチによると、Aさんは仕事が合わないと飽きたり拗ねたりすることもあったが、この仕事はピッタリ合ったとのことであった。
Aさんは、やる気満々で仕事をこなしていき、あれもしたい、これもやってみたいと、多くのことにチャレンジしようとした。しかし、センター長は暖かく見守りつつ、欲張ることなく、ひとつの業務が完全にできてからひとつずつできることを増やすという姿勢で指導に臨んだ。Aさんもそうした指導に応え意欲的に取り組んだ。実習の評価結果は良好で、トライアル雇用も順調にこなし、センター和での正式な採用となった。
現在のAさんの仕事は、風呂場の清掃、飲食の準備や片付け、入浴用名札の準備、利用者の帰宅時の配車案内など多岐にわたる。事業所の利用者様は130名ほどだが、Aさんは全員の名前と顔、それぞれの方が来所される曜日をすべて記憶している。もともと特別な能力があった訳ではなく、メモ帳に手書きしながら憶えるなどの努力を積み重ねる事で、健常者でも覚えられない量の顧客情報を頭に入れている。利用者が帰宅される際の配車案内では、大きく張りのある声で利用者の名前を読み上げている。
Aさんの適性や就労意欲を、現場担当者と見続けてきたセンター長は、本人のキャリアアップのため、介護初任者研修(ヘルパー2級)の受講者として本部へ推薦し、現在Aさんは研修を受講中である。Aさんは取材に対し、「利用者の方と話をできるのは楽しい。周りの職員さんも、気にかけてくれて本当にうれしい。この仕事を今後も続けていきたい。今、介護初任者研修を受講しているが、次の資格をクリアして、できる仕事を増やしながら、更に次の資格取得に挑戦していきたい(現時点での最終目標は、介護福祉士)。」と語っている。また、最近子供ができたことで、就労意欲はますます高くなっているとのことである。
デイサービスセンター和(なごみ)
センター長とAさん Aさんの仕事ぶり(配車案内)
5. 現状の課題と今後の展望
今後、同グループとしては、雇用している障害者の意向を踏まえ、個々の潜在能力を引き出しながら、人と仕事をマッチングさせ、障害者の新たな仕事を創造することを目指したいとのこと。「想像×創造」をキーワードに、障害者であるからといって、軽作業だけを仕事として押しつけたりするのではなく、個々の「やりたいこと」をベースに、通常業務の中から業務の切り出しを行い、もっと色々な仕事をしていただきたいと考えているとのこと。現在、当グループでは「自己申告シート」と言うツールを使って、職員の「やりたいこと」を明確化させ、個々の意向を伝えることができる仕組みを導入している。これは職員から直属の上司へでも、更に上の本部長へでも提出することができるものだが、障害のある従業員についても自己申告シートなども活用して、その人の潜在能力を引き出していきたいとのことである。また、グループとして更なる事業拡大を企図する中で、障害のある職員を重要な戦力として雇用拡大していきたいと考えている。そのために、これまでの活動で蓄積したノウハウや仕組みを、一定のスキームとして再構築し、エリアや事業内容に合わせてブラッシュアップを図っていきたいとのことである。
執筆者:独立行政法法人高齢・障害・求職者雇用新機構
兵庫支部高齢・障害者業務課 日高 久治
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