特別支援学校との連携強化により
障害者雇用の推進に向けた基盤作りに取組む
- 事業所名
- 株式会社まるひで
(法人番号: 8320001015940) - 業種
- 卸売・小売業
- 所在地
- 大分県大分市
- 事業内容
- 食肉卸・小売
- 従業員数
- 187名
- うち障害者数
- 5名
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障害 人数 従事業務 聴覚・言語障害 1 店舗にて食肉の加工・販売 内部障害 2 加工場での野菜加工、営業 知的障害 1 加工場での食肉のパック詰め、仕分けなど 精神障害 1 加工場での食肉のパック詰め、仕分けなど - 本事例の対象となる障害
- 聴覚・言語障害、内部障害、知的障害、精神障害
- 目次
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事業所外観
1. 事業所の概要
株式会社まるひで(以下「同社」という)は、昭和51(1976)年に大分市東部で小さな精肉店からスタートした。「お客様のために」「お客様と共に」の経営理念を掲げ、順次業容を拡大した。大分県内各地に「大分の食文化」を提供する窓口として、百貨店やスーパー等に食肉専門店を30店舗設けるまでに至った。また、平成14(2002)年からは日本を代表する温泉地である湯布院・別府を中心に、グループ会社として宿泊・観光事業にも進出。近年、特に顧客の多様化するニーズや食の安心と安全が求められるなか、平成20(2008)年6月からHACCPによる管理手法を導入し、ISO22000を認証取得した。これからもお客様に新鮮で健康な暮らしをお届けするために全社をあげて万全の体制で臨み、お客様の満足や感動と社員の満足が一致するような、「高品質・高効率・高賃金」の経営を目指している。
<沿革>
昭和51年10月(1976年) JR大在駅の近くで丸秀精肉店を開業
昭和58年 3月(1983年) 有限会社丸秀を設立
平成 3年 6月(1991年) 有限会社丸秀を有限会社秀観に社名変更と同時に、株式会社まるひでを設立しグループの中核企業
となる。以後、大分県内のスーパー、百貨店内に食肉専門店を開設
平成14年10月(2002年) 大分流通業務団地内に本社を移転
平成29年12月(2017年) 持株会社の株式会社F&Tホールディングスを設立
平成31年 1月(2019年) 現在、食肉加工場と30店の食肉専門店を有する同社を中心にまるひでグループを形成。食肉販売、
旅館・ホテルなどの観光事業、飲食店などのを全9社のグループで事業を展開
2. 障害者雇用の経緯
同社が障害者雇用を意識し始めたのは、本社を大分流通業務団地に移転した平成14(2002)年頃になる。その頃は食肉加工場の新設や食肉専門店の出店が相次ぎ、急速に会社の規模が大きくなっていった時期と重なる。大分県内で同社が食肉業者としての基盤や地位を固めていくにつれ、会社として社会的責任(CSR)の重要性が増大し、その対応が必要になってきた。それまでは、以前から雇用していた社員がたまたま身体障害者手帳を所持していたというだけで、障害者に対する知識も少なく、配慮や労務管理等は手つかずの状況にあった。近年ダイバーシティ(多様な人材)が注目される中、同社においても様々な人材の確保は経営上不可欠であると考え、障害者雇用の積極化に舵を切った。社会的要請への対応で始まった同社の障害者雇用は、最近ではその位置付けが少しずつ変化してきている。障害者の法定雇用率や雇用納付金制度への対応もまた会社としてクリアしていかなければならない課題となった。同社にとって障害者雇用が大きく転換したのは、特別支援学校から職場実習を希望している生徒の受入れ要請が入った時からで、それを機に知的障害者の職場実習や新規採用に向けた取組みが始まった。3. 障害者雇用の取組と効果
(1)特別支援学校からの要請をきっかけに連携を強化
要請は大分県立大分特別支援学校(以下「同校」という)からであり、現在、同校の生徒を職場実習として毎年1~2名を受入れており、そのなかから採用している。職場実習の受入れや採用を同校を中心にしている理由は、同社の立地場所から通勤上の制約があるためである。公共交通機関を利用して通勤することが難しい場所に同社があるため、社員は自力通勤が必要であるが、障害者にとってそれは容易ではない。職場実習についても、自宅からは自転車や家族の送迎により通うことになるため、遠方からの実習受入れは難しい。就職を考えた場合にも同様であるが、同社に近い同校生徒の通学範囲であれば通うことは可能になる。これまで同校から職場実習を経て採用した知的障害者は4名にのぼる。平成31年4月には新たに1名の知的障害者の雇用が決まっている。同校の進路指導教諭との連携も十分保たれているため、採用後の相談や助言も受けやすい環境にある。また、県立の高等技術専門校と連携した「障がい者のための委託訓練」の制度を活用し、同社でいったん訓練を実施した後に正式採用する取組も実施しており、まだ採用までには至っていないが、今後に期待している。
(2)採用後の配置・配慮など
ア.十分な話合いによる配置と柔軟な対応
採用を決定した場合には、入社前に職場実習での状況などを基に、同学校の担当教諭や両親を交えて十分な話し合いを行い、最終的に現場に配置している。そうはいっても、実際に就職となると、学校とは全く違う環境で初めて働くことになるため、障害者本人やその家族も様々な不安を抱えている。覚えやすい仕事なのか、また周りの社員からのフォローがあるのかなど、初めて仕事をする上で不安は尽きない。そのためいったん職場に配置しても、本人の適性などを見極めた上で、その後の配置転換を柔軟に実施していくように考えている。
イ.仕事の切り出しと安全確保
障害者雇用にあたっては個々人に応じた仕事の切り出しが重要である。そして、最初からこの仕事は障害者には無理ではないかと考えると仕事の切り出しは難しくなる。同社人事部門では、同校の担当教諭などからの助言を基に、現場責任者とともに仕事を細かく一つひとつ切り出していった。その際には、障害のある社員の仕事、障害のない社員の仕事と区別するのではなく、ニュートラルな思考で切り出していくと様々な仕事を切り出すことができた。しかし、食肉加工場に配置する上では、社員の安全面の確保を最優先に考える必要があり、切り出した仕事のなかには障害者には一部適合しないことも分かった。加工場には刃物で食肉をカットするラインや大型の加工機などがあるため、そうしたラインなどは避け、安全で仕事が覚えやすい最終ラインの現場で食肉のパック詰め、仕分け、コンテナへの積み込み、シール貼りなどの現場に配置することになった。来年度の新卒採用予定の知的障害者も、最初は同じ業務を担当する予定となっている。
(3)雇用・配慮の具体例
Aさんは知的障害のある社員で入社6年目。現在、本社食肉加工場内で食肉のパック詰め、仕分け、コンテナへの積み込み作業、シール貼りの業務を担当している。
ア.入社の経緯
同校高等部在学時に食肉加工場での職場実習を実施し、卒業後すぐに就職。実習を始める際には、同社担当者がAさんと両親、担任教諭との面談を行い、通所手段や配慮事項の確認などを行った。実習終了後には、労働条件の確認などを経て採用を決定した。
イ.勤務時間
通勤は親の車での送迎が必要なため、現在の勤務は一日5時間勤務としている。今後新たな通勤手段の確保(送迎バスの導入など)や仕事に対する適応状況などを見極めて勤務時間の延長も検討していきたいと考えている。
ウ.業務上の配慮やサポート体制
食肉加工場内には、食肉をカットする際に刃物を使用するラインや、大型の加工機がある。そのためAさんの安全面を最優先に考え、刃物を使用しない最終ラインでカットされた食肉を出荷するためのパック詰めや仕分け作業、コンテナへの積み込み等の定型化された業務に配置するようにした。現場ではAさんの障害について情報を共有し、全員でサポートする体制をとっている。Aさん用に特別に作業指示書などは用意していないが、その分周りがフォローする体制となっている。現場に配置した当時、現場の責任者などが仕事のやり方を根気強く繰り返し教えることに徹した。一度覚えてしまえば貴重な戦力になることも分かった。現場の責任者が常に注意を払い、何か問題が起きればすぐ対応できるようにしている。また、同じ作業をする同僚もAさんのことを気にかけるようにしており、Aさんが困っている時や作業が遅れ気味の時などには積極的に声をかけて極力Aさんが自分一人で悩まないように気を配っている。
エ.現場の声(上司・同僚)
黙々と仕事をしているAさんを見ていると非常に好感が持てる。一度仕事を覚えれば同じ仕事の繰り返しでも淡々と仕事をこなしていく。今では大きな戦力になっており、なくてはならない存在です。
食肉加工場での作業風景
(4)障害者雇用を通じて分かったこと
これまで障害者を一括りに見ていたため、障害者を経営上戦力として捉えることに目が向いていなかった。しかし、知的障害者や精神障害者を実際に受入れ、そこから見えてきたことは、障害のある社員も障害がない社員と同じように十分な戦力となり得るということだった。そのためには、その人に合った仕事を切り出し、丁寧かつ根気強く教えることが重要になってくる。また、社員の考え方も変化してきた。当初は障害者というだけで大した仕事はできないと思い込んでいた社員も多かった。しかし、時間をかけて戦力になってくると積極的に関わりを持つ社員が出てくるようになり、社員の意識も変化してきたと言う。4. 今後の展望と課題
(1)人材の確保
障害者に限らず、会社としては働く意欲のある人は積極的に雇用したいと考えているが、職種のイメージだけを捉えて応募が少ないのも現状だ。このことからも、まるひでグループとして今後も積極的な経営を展開する上で、人材の確保は大きな課題になっている。障害者を含めた多様な人材を確保することは、経営上の課題を克服し、成長を遂げるための切り札として位置付けられている。ハローワーク主催の合同面接会への参加や支援機関との連携強化などにも積極的に取り組んでいくこととしている。
(2)通勤上の課題
同社の本社食肉加工場(パックセンター)は、大分市東部に位置する大分流通業務団地内にある。近くに公共交通機関がなく、社員のほとんどは自家用車または二輪車(自動二輪、自転車)で通勤している。そもそも大分流通業務団地は、バスや徒歩での通勤を想定していない立地となっている。そのため、知的障害のある社員が自転車で通勤する場合は、本人の負担を考えて自宅から会社までの通勤時間が概ね30分圏内に限られてしまう。そのため特別支援学校などからの職場実習や卒業生の受入れも、同社に一番近い同校に限られることになる。この通勤上の課題が、知的障害者の採用実績が同校のみとなっている理由にもなっている。職場実習の目的も、実習生が業務内容や職場環境などについて理解を深めることなどの他に、日々の通勤が可能なのかを判断するためでもあるとの説明であった。
そして、障害者雇用をより積極的に進めるために、先に述べたような通勤手段の確保や就業場所の拡大などの可能性を検討してゆきたいとのことであった。
(3)就業場所・職域の拡大
食肉加工場以外の就業場所としては百貨店やスーパーなどでの食肉専門店があるが、1店舗あたり2~3名の少人数で業務を行っている関係で、現在は聴覚障害者1名を配置するにとどまっている。店舗では休憩時間になると、一人でお客様の対応をする必要があることから、食肉専門店での障害者の配置には今一歩踏み込めていない。その結果、ほとんどの障害のある社員は本社の食肉加工場内での食肉の加工、パック詰め、シール貼りなどの業務を担当することになる。今後も障害者雇用を進めるにあたっては、就業場所や職域の拡大に向け、更に一歩踏み込んだ仕事の切り出しや社内調整などを進める必要があると考えている。
(4)社員教育の必要性
最近特に障害者を取り巻く雇用環境は大きく変化し、障害も多様化するなど一緒に働く社員にとっても関心を持たざるを得ない状況にもなっている。障害のある社員と障害のない社員が共に働く上で、障害に対する正しい理解と適切な配慮のため社員教育の充実が必要になってくる。
(5)定着率の問題
現場への配置や障害のある社員が働きやすい環境の整備など、本人や関係者(家族・関係機関の支援者など)の意見を取り入れ実施しているが、不本意ながら障害者自ら離れて行くケースがある。障害者が職場に定着し働きやすい職場とするために、離職に至った要因を徹底的に分析し、雇用の継続や障害者雇用の底上げにつなげていきたいと考えている。
執筆者:独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構
大分支部 高齢・障害者業務課 山口 広継
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