働く意欲を心身両面からサポートし、29年の就労を実現
2019年度掲載
- 事業所名
- 株式会社タイガーマシン製作所
(法人番号: 4260001018887) - 業種
- 製造業
- 所在地
- 岡山県高梁市
- 事業内容
- 各種コンクリート製品製造設備の製造・販売及び環境関連設備の製造・販売
- 従業員数
- 150名
- うち障害者数
- 3名
-
障害 人数 従事業務 視覚障害 2 総務関係業務、製品の仕上げ作業 知的障害 1 鋼材および製品の運搬、塗装 - 本事例の対象となる障害
- 知的障害
- 目次
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事業所外観
1. 事業所の概要、障害者雇用の経緯
(1)事業所の概要
株式会社タイガーマシン製作所(以下「同社」という。)は、昭和25(1950)年に農機具販売会社として創業。昭和38(1963)年初めにコンクリート製品製造設備メーカーに転じ、現在国内のコンクリート2次製品メーカーの約75%を顧客とする業界最大手の機械メーカーである。
コンクリート製品(建築用ブロック・舗装用ブロック・擁壁用ブロック)製造設備の製造販売を中心に、近年は石炭灰、焼却灰、廃棄ガラス、廃棄太陽光パネル、使用済み紙おむつなどのリサイクル事業や、各種有機物の炭化装置の製造など、環境分野の機械設備の製造販売も手がけている。
<沿革>
昭和25(1950)年 岡山県高梁市成羽町に農機具販売、修理会社として有限会社成羽農機商会を設立。
昭和38(1963)年 コンクリートブロック製造関連機械の製造を開始。
昭和46(1971)年 社名を有限会社タイガーマシン製作所に変更。本社と工場を現在地に移転。
昭和49(1974)年 株式会社タイガーマシン製作所に組織変更。
(2)障害者雇用の経緯
ハローワークから、授産施設利用者のAさんを紹介されたのがきっかけであった。同社の従業員とハローワーク職員が知人で、「このような人がいるが、採用してみないか?」とAさんを紹介された。
Aさんは知的障害のある者であり、同社の近隣にある授産施設で就労に向けた訓練を受けながら生活をしていた。一時期、温泉地のホテルで就労していたが、人間関係のストレスから退職した経緯があった。
それまで同社では障害者を雇用したことはなかったが、Aさんと面接し、コミュニケーションの面で問題がなかったことから採用を決定。平成2(1990)年5月にAさんは同社に入社。以来、29年間、正社員として就労している。
2. 取組の内容と効果
(1)取組の内容
ア 取組の概要
Aさんの担当業務は製造現場での作業が中心であったが、本人に身体的な支障はなく、障害のない従業員と同じ環境で作業ができるため、設備・機器などでの特別な措置はとっていない。障害者雇用のための制度や助成金の活用も特にしていない。
留意しているのは、障害の特性に合わせた職務設定や指導・教育と本人の仕事に対するモチベーションを維持するための工夫である。
イ 担当業務
入社当初は鋼材や製品を台車で運ぶといった運搬作業を行っていた。クレーンで物を吊るためのワイヤーの掛け外しをする「玉掛け」作業の技能講習を受け、その後はフォークリフトやホイストクレーン(天井クレーンの一種)を使用した作業の資格も特別教育を受け取得。溶接や穴あけ作業も行う。他の従業員の理解・手助けを得ながら徐々にスキルアップし、一連の工程に関係する作業の中でAさんができることを試していくうちに、「対応できる作業」が増え、職域は広がっていった。
ただ、作業内容によっては危険を伴い、本人や他の従業員がケガをしたり、事故につながったりする可能性がある。そのため、現在は海外リピート部品の塗装作業を担当。扱う製品が小さく、エアガンを使い手作業で仕上げていくため、危険度が少ない。最後までやり通せる作業でもあるので、完了を認識・把握できる。
ウ 職場配置
Aさんは仕事熱心で責任感が強く、指示した作業は最後まで完遂させている。一方で指示通りに作業を遂行するが、応用ができないため、クレーンによる大型製品の移動といったその場に応じた臨機応変な対応を求める作業部門には、安全性の面からも避けている。
エ 指導・教育、モチベーションの維持などに関する対応と留意点
Aさんの入社後、4、5年間は同じ同僚が一緒に作業をしながらサポートしていたが、現在は、職場のリーダーが直接本人に指示を出し、作業の完了まで見守り、確認する体制をとっている。
リーダーは毎日、朝と夕方にその日の仕事の指示と進捗をチェック。皆の前で「誰」が「どのように」作業を行うかも声に出して周知し、部門の全員に理解させている。Aさん自身が作業内容を確認するためだけでなく、他の従業員とともに全体の作業の流れを把握し、従業員もAさんに対し目配り気配りできるように配慮している。
早くするようにと作業を急がせる指示は出さない。Aさん自身にせっかちな面があり、急がせることで必要以上に焦りが出て、作業に影響が出るため「正確に、ケガをしないように」という指示を心がけている。
また、Aさんには思い込みが強い面があり、間違いを指摘しても、本人が納得するまでに時間がかかる。口頭で注意するだけでは理解・納得できないので、作業を指示する際には工程表を色分けしたり、道具に色違いの札を付けたりして、本人が目で見て分かるように「見える化」し、確認できるように工夫している。
思い込みによる間違いや失敗は誰にでもある。現場で叱ったり、怒って感情をぶつけたりすると気分を害すのは誰でも同じであるが、Aさんの場合、否定されたり強く言われたりすると、心を閉ざし、それ以降のコミュニケーションがとれなくなってしまう。信頼している人とは自ら進んでコミュニケーションをとろうとするが、そうでない人とは口をきかない傾向にある。
作業場のミスは危険を伴う。しかし、頭ごなしに怒鳴ったり、否定したりしたのでは、本人が納得し、次の行動に活かすことができないので、本人の気持ちを尊重し、きちんと理解し納得できるように伝えることをリーダーは配慮している。気をつけるべきところは分かりやすい表現で「○○に気をつけて」と時間をかけて伝える。その結果、本人が本当に納得すれば、意欲(モチベーションン)をもって次の行動に活かし、間違いなどを繰り返さずに最後まで作業を遂行できることにつながっている。残業が必要な場合にも、Aさんの意志を尊重し、残業の必要性を伝えたうえで依頼し、同意が得られた場合にのみ行うこととし、意欲的な作業ぶりにつながっているとリーダーは話す。
(2)Aさんの声
いまは部品に色をつける作業をエアガンを使って行っています。業務では、色つけの間違いがないように確認作業をすることを心がけています。職場の人間関係が良く、働きやすいです。
Aさん 塗装作業を行うAさん
(3)管理者(リーダー)の声
製造部検査・塗装課 小林重隆リーダー
毎朝、雑談をしながら確認しているのがAさんの心身の状態です。顔色や服装、挨拶の声や表情、疲れがないかなど、その日のコンディションを把握するようにしています。
業務をする中で集中力が途切れることは誰にでもあります。同じ作業を繰り返す場合は特に集中が続かないので、Aさんには、冗談を言ったり、違う作業をしたりするなどして、気分転換が図れるように働きかけています。
Aさんには「ありがとう」という言葉を意識して伝えています。自分が一通りできた作業は教えようとするなど、人に何かしてあげることに喜びを感じているので、日頃から「よくやってくれてありがとう」といった言葉を意識して伝えるように心がけています。「ありがとう」と言われることで、本人も達成感を感じているようです。
指導する上で心がけているのは、相手と同じ目線で本人に分かるようにものごとを見て伝えることです。障害のある者に限らず、新入社員に対しても同じ対応をしています。例えば、同じ内容のことを伝える場合でも相手に伝わるように言い方を変えます。
「分からないまま」にしていると失敗につながります。「これでいいだろう」という曖昧な判断や対応では安全性を維持できないだけでなく、影響が他部署にも及ぶため、指示する側もされる側も、みんなで考えていく必要があります。Aさんに対しては「分からないことはリーダーや人に聞く」と伝え、対応を徹底しています。
現場を管理する立場として、そのとき、その場で求められることを瞬時に判断し、良いか悪いかを即決する必要があるため、相手の目線で良い方向に向かうようにしています。職場のような小さなコミュニティでは上に立つ者の「質」が求められます。私自身、毎日判断や決断を迫られる状況の中で「本当にこれで良いだろうか」と自問しています。
(4)取組の効果
Aさんは平成29(2017)年11月に長期勤続の障害者として岡山県知事賞を受賞している。
個人で受賞した賞であるが、Aさん自身の就労意欲とひたむきに仕事に従事する姿勢は、障害の有無にかかわらず一社会人として多くの人の手本として尊敬に値するものと筆者は考える。
3. 今後の展望と課題
Aさんは60歳。「まだ働きたい」という意欲も旺盛であるが今後も仕事を続けていくうえで課題となるのが、Aさんを指導・サポートする人材の必要性である。長年、その役割を一手に担ってきた職場のリーダーもAさんと同世代であり、定年を控える。現場で一緒に働く若手従業員に徐々に継承し、シフトしていくことが望まれる。
Aさんは障害のため字を読んだり書いたりすることはできないが、それ以外は他の従業員と変わらず業務に従事しており、待遇面でも正社員として働いている。
危険の多い現場であるにもかかわらず、Aさんは長年、経験を重ねることで、何が危険かを知り、危険を察知することができる。現場の作業に適応・継続している希少な事例であり、Aさんだから可能だったともいえる。同社ではAさんのほかに視覚障害のある従業員2名を雇用しているが、いずれも入社後に発病したケースである。今後も更なる障害者の雇用について長い目で考えていきたいとしている。
執筆者:神垣 あゆみ
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