障害のない人と一緒に働き、鍛えられることが成長の糧
- 事業所名
- JR水戸鉄道サービス株式会社
(法人番号: 6050001002555) - 業種
- 製造業、サービス業
- 所在地
- 茨城県水戸市
- 事業内容
- JR東日本関係の鉄道車両入換運転・検査修繕、駅舎・車両・社員寮などの清掃・整備、駐車場の営業管理など
- 従業員数
- 650名
- うち障害者数
- 15名
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障害 人数 従事業務 肢体不自由 4名 車両の清掃など 内部障害 2名 車両メンテナンスなど 知的障害 5名 車両、駅舎の清掃など 精神障害 4名 車両清掃など - その他
- 障害者職業生活相談員
- 本事例の対象となる障害
- 肢体不自由、内部障害、知的障害、精神障害
- 目次
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本社外観(ビルの2階に入居)
1. 事業所の概要
JR水戸鉄道サービス株式会社(以下「同社」という。)はJR東日グループの会社であり、茨城県・福島県にわたって車両や駅の清掃、車両の検査修理などを担当している。
<沿革>
・創業:昭和34年(1959年)鉄道整備株式会社 水戸事業所
・設立:昭和51年(1976年)鉄道整備株式会社より事業継承し、水戸鉄道整備株式会社として設立
・社名変更:平成21年(2009年)株式会社水戸サービス開発を吸収合併し、現在の社名となる。
2. 障害者雇用の概要と経緯
(1)概要
同社では従来から障害者雇用に取り組んでおり、平成26年(2014年)以降は、特に力を入れ、26年度からの5年間は毎年採用している(26年度3名、27年度1名、28年度3名、29年度1名、30年度2名の合計10名)。29年度入社の水戸高等特別支援学校の卒業生は、全国障害者技能競技大会のビルクリーニング競技に出場している。30年度は、精神障害者が新たに雇用義務の対象になったこともあり、精神障害者2名を採用している。そして、現在15名の障害のある従業員を雇用している。
(2)茨城県障害者雇用優良企業に認定
同社では障害者雇用を進めるに当たり、障害者職業生活相談員を各事業所に配置し、障害者の受け入れ態勢づくり、教育、作業の効率化をはかるなど、障害のある従業員の職場定着について熱心に取り組んできた。その活動が認められて、平成31年(2019年)3月には、茨城県障害者雇用優良企業に認定された。
また、平成30年(2018年)には、長年にわたる勤務と努力が認められ、優秀勤労障害者として(独)高齢・障害・求職者雇用支援機構(以下「機構」という。)の理事長努力賞を受賞した従業員がいる(詳細は後述)。3. 取組内容
(1)採用への取組
採用に際しては、以下をはじめとする様々な機会や支援機関・支援制度をフルに活用し、採用につなげている。
・茨城労働局主催の障害者就職面接会へ積極的に参加。
・茨城障害者雇用支援センターの活用。
・近隣の特別支援学校と連携を密にし、職場実習生を多数受け入れ、継続的に雇用。
・東海村「知的障害者チャレンジUPオフィス」の利用。
注) 東海村では、知的障がいのある方を事務員(非常勤嘱託員)として雇用し、郵便業務や廃棄機密文書のシュレッダー処理、
庁内各課からの依頼業務などを担当するチャレンジUPオフィスを開設している。事務員は指導員の支援の下で最大3年間
の業務経験と社会人に必要なスキルやマナーを習得し、民間企業への就職をめざしている。
(2)雇用の特徴
同社の障害者雇用の特徴(基本的な考え方)は、障害のある従業員を特定の部署に配属する、障害のある従業員だけでチーム編成をするというようなことはしないことである。チーム作業であれば、障害のある従業員とない従業員が協力して一緒に働いているところにある。また、駅周辺の清掃などでは、いろいろな人と接触する機会も多いが、それも当然のことと考えている。それは、障害のある人も障害のない人も同じ場所で自然に働き、生活するというノーマライゼーションの理念を職場で実現していると感じた。
(3)障害に応じた業務内容
障害者雇用の基本的な考え方は先に述べたが、実際の担当業務は個々の希望や特性、適性などをもとに決定している。現在、障害のある従業員が担当している主な仕事は、以下のとおりである。
ア.JR勝田車両センター関係の清掃業務
障害のある従業員は同社の勝田事業所に所属し、勝田事業所を中心に近郊の駅やJR関係の施設などに勤務している。勝田事業所では、JR常磐線を走る685両の特急車両や普通車両のメンテナンス、車体、車内の洗浄、清掃及び駅舎内周辺の清掃などを行っている。
車両の洗浄、清掃、駅舎内周辺の清掃は、お客様に清潔感溢れる心地よい環境を提供するために欠かせないものである。特に車内の清掃は、限られた時間内に完璧な仕事をする必要があり、障害のある従業員も日々職場の先輩から指導を受けて業務に励んでいる。
イ.宿泊施設の清掃
JR勝田車両センターにおける庁舎内及びサニタリー関係の清掃と、泊り勤務者の宿泊用の18床のベットメイキングの請負業務、勝田事業所庁舎内及びサニタリー関係の清掃と、泊り勤務者宿泊用4床のベッドメイキングを行っている。
これら宿泊施設の清掃などは、車両の運行などに従事する従業員がゆっくり休養し、日々安全に仕事を行うために欠かせないものである。
(4)就労事例から
ア.Aさん
Aさんは対人関係に難があるといわれる障害があるが、全従業員が参加する社内の清掃競技会において、わずか勤続1年で見事最優秀賞に輝いた(詳細は後述)。こうしたことが自信になっているのであろうか、職場では障害を全く感じさせない明るく明快な話しぶりである。
イ.Bさん
Bさんは知的障害のある従業員で、入社以来浴室の清掃、ベッドメイキングを担当してきた。常に前向きに仕事をしてきたことが認められ、半年経過したところで清掃用クロスの在庫管理業務も兼務するようになった。クロスは4種類、約200枚あり、毎日出入りをチェックしているので大変であるが、やりがいがあると本人は話している。また、在庫管理業務の合間に、浴室の清掃、ベッドメイキング、最近は、分別ごみ箱の中身のチェックまでこなし、充実した日々を過ごしている。
知的障害者は、仕事内容や環境(上司・指導者・同僚、就業場所など)が変わると戸惑ったり、馴れるまでに時間がかかったりすることがあるといわれている。そのため、仕事を変えたり、増やしたりすることは避けたほうがよいと考える関係者が少なくない。
しかし、Bさんが働く勝田事業所の内田所長は、Bさんの前向きな姿勢を見て、もっと幅広く仕事ができるのではないかと感じた。そこで周りの人たちの応援を受けながら新しい仕事にチャレンジを促し、見込みどおりにBさんは仕事の幅を広げることができたのである。
ウ.Cさん
Cさんは下肢に障害があり、夜間の短時間パートとして、33年間勤務している。仕事は、常磐線を走る車両の車内清掃であり、終点の勝田駅でお客様が降車し、電車が車両基地に戻ってきたところを清掃する。車内の通路や座席シートのゴミ拾い、シートの汚れの拭き取り、トイレの清掃などを、働き続けて帰ってきた車両に感謝しながら、明日また、お客様を気持ちよくお迎えできるよう作業しているという。
帰宅時間は、毎日夜の10時以降になるので大変であるが、慣れた仕事であり、足が不自由でも仕事に支障をきたすことはない。
33年間、黙々と責任を果たしてきたCさんは、先に紹介したようにその努力が認められて、平成30年(2018年)には、機構の理事長努力賞を受賞しており、励みとなっている。
(5)定着のポイント
今回の取材に協力いただいた勝田事業所の内田所長は、障害のある従業員の定着(雇用継続)のポイントについて次のように話す。
ア.障害者を先入観で決めつけない
内田所長は、「障害者はこういう人であるという先入観、決めつけが最もよくない」という。また、「障害者が働く環境は、そこに働く管理者や従業員の心がけひとつでよくも悪くもなる。だれもが障害者を理解し、その人に合わせた環境づくりができれば、ほとんどの職場において障害者を受け入れることは可能である」と考えている。
イ.労働意欲・作業態度などの状況把握と適切な対応
前述したように、障害のある従業員とそうでない従業員が一緒になって作業しているため、フォアマンクラスや先輩・同僚がその場で状況や課題を早めに把握し対応できるのが強みであると話す。そうしたタイムリーで細やかな対応により、意欲や態度に課題のある人も数年で見違えるほどに成長するという。
(6)様々な機会を活用した教育・人材育成
同社では障害のある従業員やその指導などにあたる従業員への教育、人材育成に力を入れており、次のような取組みをしている。
ア.総合訓練センターの活用
同社では従業員のスキルアップのための研修を重視している。そのための施設として勝田事業所の近くに総合訓練センター(以下「訓練センター」という。)を設置している。訓練センターでは多くの従業員を対象に日々研修が行われているが、仕事と同じく、障害のある従業員もすべての研修に参加しており、スキルアップがなされている。
訓練センター以外にも、公益社団法人全国ビルメンテナンス協会が認定する清掃作業従事者研修にも他の従業員と同様に参加し、清掃に関する知識や技術・技能を習得している。
イ.災害・事故防止に向けた安全教育の重視
同社では業務災害・労働災害、交通事故は起きていないが、これは日頃からの安全に関する徹底した教育の成果といえる。教育には費用・時間が必要だが、いったん事故などが起きるとその対応には多大な費用と時間、労力が必要とされる。また、被災当事者の心身には様々なダメージが残るし、最悪の場合には命まで失うこともある。そして、顧客や社会からの信用・信頼を失うことにもつながる。それらを考えれば、教育にかける時間や費用などを惜しむべきではないと同社は考えており、全従業員への安全教育には力をいれている。
障害のある従業員についても同様で、障害に配慮し、分かりやすい資料や説明、実際の体験などを入れた安全教育を実施している。
ウ.障害者職業生活相談員講習の活用
障害のある従業員への指導や相談を担当する人材の育成も重視している。新任の管理者は障害者職業生活相談員資格認定講習に必ず参加している。また、茨城労働局主催の「精神・発達障害者しごとサポーター養成講座」にも参加し、障害の特性や日常的な配慮について学び、指導などに活かしている。
エ.競技会などの活用
各種競技会への参加も教育の有意義な機会のひとつである。社内5事業所合同の社内清掃競技会(以下「社内競技会」という。)を実施し、切磋琢磨している。社内競技会の上位入賞者は、JR東日本グループ13社が参加する競技会に向けてハードな技能トレーニングを積んでいる。また、茨城県障害者技能競技大会のビルクリーニング競技へも積極的に参加している。
この社内清掃競技会が近くなると、当事業所では事業所に設置されている競技会と同じ車両を使い、通常業務が終わった後の一日2時間半、2か月間、先輩の指導を受けながら練習する。かなりハードであり、練習というより特訓といったほうがよいかもしれない。前述した入社1年で最優秀賞に輝いたAさんもこの練習を乗り切っている。
社内競技会の内容は、日ごろの仕事内容と全く同じなので、ここで上位に入賞するということは、日ごろからレベルの高い仕事をしていることの証明になるので、練習に身が入るのは当然である。
下の写真は、社内競技会の模様と同社における表彰式である。
写真1 社内清掃競技会
日ごろの仕事と同じ内容で行われる競技会。
つり革一本の汚れも見逃さないで磨き上げる。写真2 表彰式
特訓を乗り越えて堂々最優秀賞
に輝いたAさん4. 今後の課題と展望~執筆者からの期待も踏まえ~
(1)多能技能者の養成
少数精鋭を実現する決め手のひとつになる多能技能者の養成は、各企業の課題になっている。残念ながら「知的障害者が多能技能者になることは無理」と決めつけている企業は多い。しかし、前出のBさんのように周囲が応援し、本人の努力次第では、知的障害者も多能技能者になることができる。知的障害者にかぎらず、1人でも多くの障害者が周囲の応援を得ながら多能化へチャレンジしていくことを期待したい(Bさんの多能技能者ぶりは次の写真と説明のとおり)。
写真3 浴室の清掃 写真4 ベッドメイキング
写真5 在庫管理作業
Bさんは、6か月で浴室の清掃(写真3)とベッドメイキング(写真4)など、ワーカー的業務をマスターし、さらに清掃用クロスの在庫管理業務(写真5)までこなすようになった。本人は、「班長や周囲の先輩たちの丁寧な指導のお陰です」と謙虚であるが、周囲の人たちは、「Bさんの一生懸命な仕事ぶりを見ていると、応援したくなるのは当然です」と言う。
(2)健康面での配慮の重要性
一概にはいえないが、障害者の生活圏、活動範囲は「障害」の影響もあり、狭くなりやすくなっているという話を聞く。体を動かす機会も少なく、運動不足になりやすかったり、栄養への配慮や自己の健康状態への気づき、周囲への相談、医療機関の受診などが遅れることなどもあると聞く。特に、知的障害者や発達障害者などでは、コミュニケーションが苦手で医師などへの説明が十分でない人もいるといわれている。
そこで同社が重視しているのが、障害のある従業員の体調などについての周囲の観察と声かけである。日ごろの言動と違っていないか、顔色が悪くはないかなどに気を付け、声をかけることである。そうしたことの裏には何か心配事や体調不良がかならずある。上司・同僚が早めに気づき、声をかけ、話を聞き、対応することが早めの課題解決につながり、職業生活の安定につながっているとのことである。
(3)長期の雇用継続へ向けて
現在同社で働く障害のある従業員の年齢や生活環境はさまざまである。しかし、家族と生活している者もいずれは一人で生活するようになるなど、就労による経済的自立の重要性は大きくなってゆく。同社の定年は65歳と、他社に比べて進んでいるが、人口減少、高齢者の増加に対応する国の方針もあり、近い将来、多くの企業において、「希望者全員70歳までの雇用」が制度化されるだろう。障害者についても高齢期までの雇用継続が必要であり、同社においても雇用継続をさらに進めて、「希望者全員70歳までの雇用」をめざすことを期待したい。
5. 同社の担当者からのコメント
(1)現場で陣頭指揮をとる勝田事業所の内田所長
「班長はじめ、職場の人たちは障害特性には留意しますが、それ以外は、一般従業員と同じように接しています。私たちは、職場を"小さな社会"にたとえ、この社会で障害のない人と一体になって働くことを基本としています。仕事ですので、時には厳しい指導をすることもありますが、やさしさだけでなく、本人のための愛情のある本気の指導が、信頼関係を築いていると考えています。」
勝田事業所所長 内田勝也氏(2)後方支援を担当する本社総務部の長谷川係長
「事業所(就業場所)が分散し、守備範囲が広いので、私自身がすべての職場を頻繁に回ることは困難です。その分機会をとらえて、みなさんのお話しに耳を傾けるようにしています。
当社のよいところは、ハンディキャップを抱える障害者のために、一般従業員とチームを組む仕事が多いことです。障害のない人と仕事を続けることで鍛えられるのでしょうか、期待以上の仕事をする人が多く、その成長スピードには驚かされます。」
総務部係長 長谷川真由美氏
執筆者:ヒューマン・リソーシズ・コンサルタント 北村卓也
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