障害がある人もない人も共に笑顔で
働ける職場づくりを目指して
- 事業所名
- 獨協医科大学
(法人番号: 2030005005840) - 業種
- 教育、学習支援業、サービス業、うち除外率設定業種
- 所在地
- 栃木県下都賀郡壬生町
- 事業内容
- 教育、医療、研究
- 従業員数
- 5,529名
- うち障害者数
- 52名
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障害 人数 従事業務 視覚障害 3名 医療、事務 聴覚・言語障害 5名 医療、事務など 肢体不自由 23名 教員、司書、医療、事務など 内部障害 10名 教員、医療、事務、機器清掃など 知的障害 6名 事務、機器清掃、リネンなど 精神障害 3名 医療補助、調理 発達障害 1名 医療補助 高次脳機能障害 1名 作業補助 - 本事例の対象となる障害
- 視覚障害、聴覚・言語障害、肢体不自由、内部障害、知的障害、精神障害、発達障害、高次脳機能障害
- 目次
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事業所外観
1. 事業所の概要、障害者雇用の経緯
(1) 事業所の概要
ア 教育機関として
獨協医科大学(以下「本学」という。)は、獨逸学協会を源流とする学校法人獨協学園が運営する学校などの中の一つで、「患者及びその家族、医療関係者をはじめ広く社会一般の人々から信頼される医師を育成する」ことを建学の精神として、昭和48(1973)年に栃木県下都賀郡壬生町において開学した。
その後、附属看護専門学校(昭和49(1974)年)、看護学部(平成19(2007)年)、附属看護専門学校三郷校(平成27(2015)年)を順次開設し、地域医療に貢献する医療人を多数輩出している。
イ 医療機関として
本学開学の翌年(昭和49(1974)年)には隣接に大学病院を、昭和59(1984)年には首都圏のベッドタウンとして人口増加が著しい埼玉県越谷市に獨協医科大学越谷病院(現埼玉医療センター)を、さらに、平成18(2006)年には面積が広大で高い高齢化率が特徴の栃木県西部地域の中核病院となる獨協医科大学日光医療センターを開院した。
また、地域の医療ニーズに応えるため、日光医療センターの開院に併せて無医地区の医療を支える日光市立三依診療所の運営を受託するとともに、平成24(2012)年には予防医学や外来透析を行う埼玉医療センター附属越谷クリニックを開院するなど、それぞれの地域において、その特性に合わせた医療の提供や地域支援を行うなど、大学病院としての役割を果たしている。
(2) 障害者雇用の経緯
ア 雇用戦略室の設置
本学における障害者の実雇用率は、平成23(2011)年6月が0.91%、同24(2012)年が1.15%という状態であった。一方、障害者の法定雇用率は、平成25(2013)年から、それまでの1.8%から2.0%に引き上げられることとなっていた。
このような状況も踏まえ、また、日々様々な疾病の治療に当たり患者の在宅・社会復帰を支援する中で、当時の学長の「医学を看板にしている本学として、障害者雇用については、きちんと基準(法定雇用率)を満たす必要があり、戦略的に先を見通して、しっかり進めたい。」との思いもあり、平成25(2013)年度に大学事務局内に「雇用戦略室」を設置し、その所掌業務の大きな柱(三本柱)の一つとして、人事部との協働の下に本学における障害者雇用の推進を担わせることとなった。
イ 障害者雇用の現状
雇用戦略室設置年の実雇用率は1.63%であったが、翌26(2014)年には2.02%と法定雇用率を上回り、平成29(2017)年まで連続で法定雇用率をクリアしていた。
平成30(2018)年になると、法定雇用率が2.2%に引き上げられ、一方本学では、埼玉医療センターの増床などに伴い職員総数が大幅に増加するなどの要因から実雇用率が1.94%となり、法定雇用率を達成することができなかった。
平成31は、4月に特別支援学校から新卒者3名を採用するとともに、中途障害者となった職員の就労継続を支援するなどして、6月現在の実雇用率は2.00%まで回復した。
2. 取組の内容と効果
(1) 職域拡大に向けた従事業務の洗い出しと職員の啓発活動など
障害者の職域の拡大を図るため、平成29(2017)年度に、主に事務局の各部署を対象に知的障害者や精神障害者が従事可能と思われる業務の洗出しなどに係るアンケート及びヒアリング調査を実施した。
結果としては、郵便物などの発送、文書類の印刷・シュレッダー処理・集配送等々の業務が挙げられたが、基本的に単発、短期間で不定期な業務が多く、安定的な就労の確保には工夫が必要であることが分かった。また一方で、「従事可能な業務はない。」との回答があり、その中には、知的障害者や精神障害者の特性や作業能力などに関する職員の間での理解が必ずしも十分ではないことに起因すると思われる状況があることなども分った。
これらのことも踏まえて、業務の洗出し、障害者と業務とのマッチングや、職員の意識啓発に向けた取組(特別支援学校生徒の職場実習の受入れや職員研修)などについての検討、実施、改善を継続的に行っている。
(2) 特別支援学校との連携
障害者の雇用に当たって、職場実習などを通じてお互いの「相性」を事前に確認することは、障害者の就労の持続可能性を確保する上でも重要な要素であることから、次のような事業を通じて特別支援学校との相互理解と連携の強化を図っている。
なお、いくつかの学校では、本学医学生及び看護学生の実習などで協力を得ており、それも相互理解などのよい機会となっている。
ア 教材備品などの寄贈
「障害者雇用支援月間」に合わせた本学独自の取組の一つとして、本学と関係が深い特別支援学校に対して教材備品などを寄贈し、児童・生徒の教育活動に役立ててもらっている。事業の詳細は、後述の(4)のウに記載する。
イ 学校行事への職員の派遣
毎年、公開授業、学校祭、体育祭、卒業式などの案内を受けて、人事部や雇用戦略室の職員を派遣しており、職員の見聞を広めるとともに学校との連携を深めている。
ウ 進路指導教員の見学受入
特別支援学校の進路指導教員などからの希望により、障害のある職員が実際に働いている職場の見学を、各部署や本人と調整を図りながら積極的に受け入れている。教員が職場を実際に見ることで、本学の業務や職場を理解し、在校生とのマッチングの参考にするなど、進路指導に役立っているとのことであり、本学としても教員との情報交換などの貴重な機会となっている。
(3) ハローワーク等関係機関との連携
ハローワークなどが主催する障害者合同面接会などに積極的に参加しており、それらを契機に、毎年、何人かの障害のある職員を採用することができている。
また、職員として採用した後も、必要に応じて障害者就業・生活支援センターなどの関係機関とも連携を図りながら、本人又は家族からの相談対応や支援を行っている。
さらに、国や県などが主催する各種研修会にも積極的に参加し、担当職員の資質向上を図ることにより、障害者雇用の促進や就労継続に向けた相談・支援に役立てている。
(4) 障害者雇用支援月間に合わせた取組
毎年9月に全国的に展開されている「障害者雇用支援月間」に合わせて、本学独自の取組として次のような関連事業を実施している。
ア 啓発ポスターの掲示
「障害者雇用支援月間」に関する啓発ポスターを、大学、附属専門学校及び各病院の構内掲示板などに掲示し、教職員を始め学生や来院者などに周知している。
イ 職員向け研修会の開催
病院を含む学内の教職員、特に役職者に対して、障害者雇用関連の研修を実施し、障害者雇用の推進や職域の拡大などを図っている。これまで、ハローワーク、先進企業、障害者支援事業所などから講師を招いて、様々な制度や先進的な取組事例について学んできた。
平成30(2018)年は、管理職的立場にある教職員を対象として、栃木県障害者権利擁護センター相談員による「障害を理由とする差別の解消の推進について」をテーマに開催し、約200人の参加を得て有意義な研修となった。特に、障害の社会モデルの考え方や社会的障壁、事業者としての合理的配慮の提供や雇用主としての環境の整備などに係る具体的事例などについて、分りやすく示唆に富んだ内容で、今後の実践に大いに役立つものと考えている。
平成30年度研修風景
ウ 教材備品などの寄贈
平成30(2018)年度は、本学に関係する県内5校と県外3校の特別支援学校に対して、パソコン、手洗い評価キット、洗髪器、サッカーボール、ユニフォームなど、計22種類・68品目を贈呈した。また、これとは別に、パンの製造販売などを行っている学校に、手提げ袋の材料になる英字新聞の古紙を定期的に送付しており、生徒からは感謝の手紙が送られてくる。
本学職員が各校の学校祭や体育祭などで訪問した際には、生徒が寄贈物品を用いていきいきと活動している姿を見かけることもあり、この事業が相互の交流を更に深めるきっかけとなっていることを改めて実感できている。
平成30年度教材備品等贈呈式(県内5行)
(関係特別支援学校校長と本学人事部職員)(5) 採用から正式配属までの仕組み
ア 受入部署への支援等
各部署では「障害者を受け入れることは賛成だが、面倒をみたりすることなどの負担が大きいため気が重い。」と躊躇してしまうことも多いため、採用時の所属を人事部長付又は雇用戦略室として、次のようなステップを踏んで受入部署の精神的負担の軽減を図りながら、配属先を決定している。
イ 職場研修
継続して当該部署でも業務遂行が可能かどうかを見極めてもらうため、受入候補部署において2~3か月間の研修を実施する(必要に応じてトライアル雇用制度も活用する)。
ウ 雇用戦略室によるサポート
研修中は、障害者と受入部署との双方に安心感を持てるよう、雇用戦略室スタッフが最初から付き添ってサポートする。
エ 正式配属(マッチング)
イの研修期間終了までに、当該部署で継続して勤務が可能と判断される場合は正式に配属する。また、当該部署での勤務継続が難しい場合には別の部署で改めて研修を行う。
オ 配属後のフォロー
正式に配属となった後も、雇用戦略室は当該部署との連携を密にして勤務状況などを把握するとともに、安心して働いているかなど必要に応じて本人と面談するなど、フォローアップを行う。
(6) 就労事例から
ア 獨協医科大学病院(所属:臨床工学部)
平成31(2019)年4月に入職したAさんとBさんは、二人とも前年度に特別支援学校高等部からの職場実習を行った上で採用となった。
現在は、病院の臨床工学部において、輸液ポンプやシリンジポンプ、クベースといった医療機器の清浄業務などを行っている。
(ア)現場主任のコメント
二人とも真面目で熱心に取り組んでくれており、作業手順なども覚えるのが早い。
配慮していることとしては、病棟などを一緒に巡回し、自分たちが清掃した機器がどんな役割を果たしているのかを実際に見てもらい、モチベーションを上げたり、周りの職員も「声がけ」をするなど積極的にコミュニケーションをするようにしている。
(イ)Aさんのコメント
仕事には慣れてきた。月曜日は、戻ってくる機器の数が多く大変だが頑張っている。
将来の目標は、一人暮らしをすること。
(ウ)Bさんのコメント
曜日や時間帯によって仕事の量が変わるので大変なときもあるが、職場内の話合いでスケジュールを教えてもらうなど、作業の目安が分るので助かる。下に両名の作業場面を掲載する。
臨床工学部での作業風景(左の写真奥がAさん。右の写真がBさん)
(左手前の白衣の職員は本人も内部障害があるが、先輩として作業の
最終チェックをするなど、二人を細やかに支援している。)
イ 日光医療センター(所属:看護部)
平成31(2019)年4月に入職したCさん。特別支援学校高等部から2回(2年時と3年時)の職場実習を経て採用となった。
看護部に配属され、手術部・材料部において、手術室や各部署から返却された器械の洗浄、滅菌パック詰め、また透析室では使用後のベッド清掃を行っている。
(ア)担当師長のコメント
「できること」が増え、会話も大きな声が出せるようになって頼もしい。手洗い台などいつもピカピカにして清潔に保たれているので、他の職員も気持ちよく仕事ができる。
指導面では、本人ができること、長所を伸ばして自信に繋げるよう配慮している。
(イ)Cさんのコメント
元気で楽しく仕事ができている。仕事が増えてきて、今は30を超える医療器械の名前も覚えてチェックリストを基に払い出す作業もやっている。
今後も、いろいろ教えてもらって、できることをもっともっと増やしていきたい。
Cさんの作業風景(手術部・材料部での医療機械の払出し作業)
3. 今後の展望と課題
(1) 障害者雇用に係る理解と実践
障害者雇用に関する職員全体の理解は確実に深まっており、実際に障害者を受け入れる部署も徐々にではあるが広まってきている。特に、日光医療センターにおいては、今年4月に開院以来初めてとなる障害者を採用することができた。また、それ以外の部署でも、できるだけ障害者を受け入れ、そのための環境整備にも配慮しようとする機運が醸成されつつあり、採用時には障害があることを公にしていなかった職員も、自ら申し出ることでよりよい職場環境の構築などに貢献している例なども見受けられる。
(2) 障害者雇用の更なる推進
本学においては、障害者雇用について理解はできるが「教育機関であり医療機関であることから、障害者が従事できる業務は限られている。」との考える職員も少なくないと感じられる。
このため、研修会をはじめとした啓発活動を、引き続き粘り強く展開していくことが必要である。また、時間はかかるが逆に近道なのが、障害がある人と実際に一緒に働くことで、障害者に対する理解が深まり、持続可能な雇用にもつながるのではないかとも考えており、他の事業所の先進的な取組なども参考にしながら、より効果的な取組につなげていきたい。
(3) 法定雇用率の達成だけでなく
障害者の法定雇用率の達成は、本学においても最低限の社会的使命であると考えている。もちろん、それだけでなく、障害者を雇用することは業務上の戦力につながることであり、障害者が働きやすい職場は障害のない職員にとってもハード面やソフト面でも働きやすい環境につながるなど、得るところは大きいと考える。それらを踏まえて、本学としては、引き続き、関係各位の指導、助言、協力などを得ながら、障害者雇用の推進に真摯に取り組み、そして、障害がある人もない人も共に笑顔で働ける職場づくりを目指していきたいと考えている。
執筆者:獨協医科大学 雇用戦略室長 伊藤 公三
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