一人ひとりの可能性を信じ、
やりたいことに挑戦させて成長を促す!
障害者が自立して働き続けられるよう
優しく見守れる職場の実現を目指して!
- 事業所名
- センコーファッション物流株式会社
(法人番号: 4040001032687) - 業種
- 製造業、運輸・物流業、サービス業
- 所在地
- 千葉県市川市
- 事業内容
- 貨物自動車運送業、倉庫業、小運搬業、派遣業
- 従業員数
- 265名
- うち障害者数
- 8名
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障害 人数 従事業務 聴覚・言語障害 2名 倉庫内作業、倉庫内デリバリー事務 肢体不自由 2名 事務(データ入力)、倉庫内軽作業 内部障害 1名 倉庫内事務デリバリー事務 知的障害 3名 倉庫内軽作業 - 本事例の対象となる障害
- 聴覚・言語障害、肢体不自由、内部障害、知的障害
- 目次
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事業所外観(市川ファッションロジスティクスセンター)
1. 事業所の概要
センコーファッション物流株式会社(以下「同社」という。)は、国際的総合物流企業「センコー物流ホールディングス株式会社」の100%子会社で、主として千葉県北西部におけるアパレル通販及び百貨店向けに物流事業を運営している会社である。
平成18年2月の設立で、千葉県市川市、船橋市、習志野市に、物流倉庫であるファッションロジスティクスセンター(以下「FLC」という。)を有し、百貨店、アウトレット及び各種 (カタログ・テレビ・ネット) 通販業者に納入する高級(ブランド)衣料品等(アパレル用品)の集荷・配送、ならびに検品やタグ付けなどの流通加工を行っている。
障害者雇用の舞台となる市川FLCはJR京葉線「二俣新町」駅から徒歩5分の至近距離にあり、1階の広さが縦180m、横60m、高さ6mの6階建で総床面積18,000坪のアパレル専用センターを展開している。
当センターは平成21年に完成、東京都江東区潮見にあった本社と共に移転して今年で11年目になる。
同社は、「地域のお客様から信頼される物流企業」をめざしており、社員教育に力を入れるとともに、安全な職場環境作りの推進及び地域貢献活動にも積極的に取組んでいる会社である。
2. 障害者雇用の経緯
障害者雇用への取組は、平成19年、親会社であったセンコー株式会社(以下「センコー社」という。)の東京主管支店の主導により、傘下の事業所として地域の特別支援学校からのインターンシップ(職場実習)の受入れを開始したことから始まる。当時のセンコー社の障害者実雇用率は法定雇用率を下回っていたこともあり、ハローワークに相談しアドバイスを受けたことが契機になっている。
早速、同社で採用を担当している管理部門が窓口になり、同じ地域内にある特別支援学校に声掛けをしたところ、3校から知的障害のある4名の高等部の生徒を対象として平成19年秋、20年春、20年秋の3回にわたる職場実習を受け入れることになった。また、受入に当たって、市川FLCをはじめとする複数の事業所の実習に参加させることにした。そして、実習終了後に4名の生徒それぞれに自分が働きたい事業所を確認したところ、当時の市川FLCは移転前の古い社屋であったが全員が市川FLCを希望した。
同社は、特別支援学校やハローワークと連携しながら募集・採用などの手続きを進めてきたが、このような確認ができたことから4人の採用を決めた。そして、平成21年4月、本人の意向を尊重し現在地に移転した市川FLCに4名を配属した。
採用後、4名のうち1名は体調不良から就業が困難になり、同年9月に退職を余儀なくされたが、残る3名は現在に至るまで10年以上の長期間にわたり勤務を続けている。担当業務としては、返品された衣料品の値札を外したりビニール袋を交換して新たな商品にするなどの返品業務を中心とし、出荷準備や搬送補助などの軽作業にも従事している。
また、同じ年の平成21年6月には、一般公募により船橋FLCにおいて身体障害のある者1名を採用した。当人は通販商品の出荷・梱包業務を担当しており、今日に至るまで10年以上勤務を続けている。
平成25年11月には、新たにセンコーグループの人材派遣会社から船橋FLCに聴覚障害のある者1名を転籍再雇用社員として採用した。当人は65歳を超えた現在も、派遣先である配送センターにおいて、医療及び介護用品の倉庫内入出庫業務を取り仕切るリーダーとして活躍している。
さらに平成29年1月、取引先からの要請を受け、身体障害のある3名(うち2名は重度)を市川FLCに正社員として採用することを決定した。いずれも当時50歳以上の高年齢者であったが、それぞれに入出庫伝票や値札を発行する倉庫内デリバリー業務(事務作業)、倉庫内出荷業務(派遣スタッフを使っての業務の取り仕切り)、生産伝票登録等の事務作業(データ入力)を担当している。そして、3名とも現在それぞれの職場において活躍中である。
同社は、一般に障害者の就業が困難とされる業種である道路貨物運送事業や倉庫事業(いわゆる「除外率設定業種」)を営んでいる。
そして、このような困難な雇用環境の中でも、現在5.3%と高い障害者雇用率を実現している。3. 取組の内容
同社のFLCは、家電品などの重い製品を扱いフォークリフトの走り回るような物流センターとは異なり、高価な衣料品を一品一品丁寧に取り扱う業態であり、ある意味で労働集約的な職場ともいえる。
また、倉庫内は常時完全空調が施されており、ほこりが立たぬよう土足厳禁のうえ動力車は一切使われておらず、製品(衣料品)の移動はハンガー・レールや手押しのカートに依っている。まるで巨大なウォークインクローゼットの中で作業しているように見える。
このような職場環境の中で障害特性や個性の一人ひとり異なる方を継続的に雇用していくためには、「職場内の人間関係」が何よりも重要になると同社では考えている。
倉庫内作業場の風景
(1)知的障害のある者への取組
そのため、特別支援学校の生徒を職場実習で受け入れるにあたり、「職場で一緒に働く人たちと上手くやっていけるか否か」が採用につながる鍵になると考えた。そして生徒たちに「働きたい職場」を確認したのも、本人に働く職場と一緒に働く仲間の選択を委ねることが雇用継続につながると考えたからである。
また実習を受け入れる際には、一緒に働く人たちに理解され対応することが重要であると考え、指導にあたる社員とスタッフには、十分な趣旨説明を行うとともに以下のとおり具体的な指導の仕方を徹底した。
①実習を通して必要な業務スキルを習得させるために、能力以上の仕事を無理に押し付けることはしないこと。
②本人の自主性を尊重し今できる範囲の仕事を着実に身につけさせること。
③現在できる以上のことを今すぐには期待しないこと。
採用後も、「本人の自立的な成長を忍耐強く待って少しずつ着実に仕事の幅を拡げさせていく一方、新しい領域の仕事も計画的にやらせてみて更なる成長を促す」、という指導を継続させた。
実際のところ、当初は本人ができると思って手掛けたことができなかったり、気持ちが不安定になると泣きながら相談に来ることが幾度となくあったが、そうした中で解決の糸口になったのは、当人達を取り巻く社員とスタッフによる協力・支援体制であった。障害のある子供を持つ社員が作業場のリーダーであったり、あるいは「お母さん世代」である女性スタッフが母親のような役割を買って出てくれるなど、職場の仲間である社員やスタッフから暖かく見守られフォローされることにより、当人たちが自らの努力によって可能性の幅を拡げていくことができた。また、当初は障害のある者同士のいざこざなどへの対応で周りが苦慮することが多々あるなど、職務遂行に係る指導や生活指導の面で苦労することも多かったが、その都度学校の進路指導担当の先生や就労支援施設の担当者や親御さんと情報交換を継続しながら、このような関係者からの熱心な協力と支援を得て、当人のメンタル面での安定とケアが図れるよう対処することができた。
そして、このような取組を続けたことにより、今では知的障害のある3名は以前より簡単な指示のもとでも自発的・主体的に仕事を組み立てて行動できるまでに成長し、皆目を輝かせ自信を持って自分の仕事に取組めるようになった。ちなみにこれまで当人達が手掛けた商品の品質について顧客からクレームを受けたことは皆無である。
(2)身体障害のある者への取組
一方、身体障害のある者の受入れにあたっては、物理的な就労環境の整備が重要であると考え直ちに対策を講じたが、実際に当人が勤務してから初めて気づいたことも多かった。
例えば車いすを使用する者への対策では、事務室内の段差を無くすためにスロープを設置し室内の通行の安全を確保したり、事務室の入り口の扉をドアノブ式の外開きの開閉扉から自動ドアに取り替えたりして、当人の移動時などの負担軽減を図るなどの措置が必要と判断し直ちに実施した(下の写真参照)。
しかしながら、車いすに座って視認できる範囲は、障害のない人が立って視認できる範囲と異なることまでは直ぐに気が付かなかった。事務机や作業台、ファイル棚なども車いすを利用する者にマッチしたものでなければ当人の就労(作業)に支障が出ることになる。
そこで、当人の就労(作業)を容易にするために、事務所の壁の掲示物を当人の目に入りやすい高さの位置に移動させたり、当人が使いやすいように伝票や書類の配置換えを行うなどの配慮を行った。
また、車いすを自動で設置したり収納が可能な車で通勤する者にも配慮し、守衛から見える位置に専用の駐車スペースと車いすの上げ下ろしに必要なスペースを確保するとともに、当人の出勤時間に誰かが誤ってそのスペースを塞いでしまうことのないよう監視できる体制をとるようにした。
片側の聴覚に障害のある者に対しては、職場の社員・スタッフともそのことを十分に承知していて、必ず聞こえる方の耳に語り掛けるようにしているし、安全確保のために声や音以外の方法で危険を知らせるような配慮が徹底されている。
また、内部障害のある者に対しては、当人が倒れても誰も気付かなかったということのないよう、必ず誰かの目が届く位置で作業をさせるよう配慮している。例えば当人が事務所から出て倉庫内の作業現場にいる社員に伝えなければならないような用件があると、必ず誰かがその役割を代わりに買って出るような体制をとっている。
(3)長期の取組の重要性
障害者を雇用する職場におけるこのような配慮は、職場の社員・スタッフの全社員が障害者の立場に立ち障害者の目線で考え行動する習慣が身につかないと上手くはいかないものである。同社が10年以上の歳月をかけて全社員を指導し協力を得られてきたことにより、全社員に障害のある者を「見守る余裕」が醸成されたことによるものであり、毎年作業施設や設備を整備し障害者が就労しやすい職場環境に改善し続けた企業努力の賜物でもある。
(改善前) (改善後)
事務所入り口扉の改善例(手動扉を自動ドアに変更)
4. 取組の効果と今後の展望
同社は、雇用した障害のある者のほぼ全員が長期間にわたり勤務を継続している現状を誇りに思っている。そして、「障害のある者の立場に立って全社員で職場環境づくりを押し進めてきたことが長期雇用につながっている」と捉えている。そして、この長年の取組みで体得した以下の3項目を今後も大切に守って障害者雇用を更に推進しようと考えている。
① 障害者本人の立場に立って、その目線で物事を考え行動すること。
② 障害に応じた配慮はするが、それ以外は障害のない人と対等に接すること。
③ 本人の努力でできたことは共有し合い、お互いのモチベーションにつなげること。
同社の職場を見て筆者が感じるのは、社員・スタッフの一人ひとりにこの3項目がしっかり浸透しており、全員の力で障害のある者を「見守る職場体制」が創り上げられていることである。
また、障害者の就労を容易にするための作業施設や設備の整備・改善の取組は、例えば事務室入口の扉を自動ドアに変えることで明るくきれいで快適な職場環境を全社員にも提供することになり、従業員満足度の向上につながることになった。
しかしながら、この3項目の教えを徹底し「見守る職場体制」を維持し続けることは、見守る側の社員・スタッフにとっては「負荷のかかる」ことでもあり、同社としても従業員満足度(ES)の見地からすると現状は「微妙なバランスの上に成り立っている」と冷静に捉えているようだ。
その意味で、同社が今後も障害者雇用率を維持していくことは簡単なことではないと考えている。
また、同社はこれまで精神障害者を受け入れる機会がなかったが、今後は受け入れる可能性を検討しておくことの必要性も感じている。
同社が今後とも目指しているのは「障害者雇用における職場環境の更なる向上」である。
そのためには第一に、「障害のある者に担当していただく仕事の領域に限界を設けず、当人がやりたいと思うことは何でも挑戦させてその可能性を追求させ成長させる」取組を継続させることである。
そのための仕組として、特別支援学校との関係づくりを継続し、職場実習を積極的に受入れ、雇用している障害のある者を成長させる取組が重要であると考えている。
筆者が同社を取材訪問した時も、特別支援学校からの職場実習が行われていたが、知的障害のある者が指導員となって後輩の生徒達に作業を教えている最中であった。手を取って説明をする3名の喜々とした声、キラキラと輝く目から限りない自信のほどが読み取れた。かれらは、「教える」ことで自分の仕事をより確実なものにできる。後輩を指導するという満足感と達成感を味わえる。そして、この場は仕事に対し新たに考える機会を提供するものであり、新たな発見と成長につながる場にもなる。素晴らしい育成の仕組である。
第二に、その実現に向けて重要な鍵となる「職場の見守り能力」に更に磨きをかける取組を実施することである。そのためには「受け入れる側」の社員・スタッフの意識を高めるとともに、心身のケアにも配慮しつつ職場環境の改善を進めて従業員満足度の向上を図っていくことが重要であると考えている。
同社は、平成30年12月に船橋市より「障害者雇用優良事業所」に認定された。また、平成31年2月には千葉県から千葉県障害者雇用優良事業所認定事業「笑顔いっぱい!フレンドリーオフィス事業」にも認定され注目されている。
これは、同社にとって「地域貢献」の一つ、地域の関係法人や関係者への恩返しだと言う。自分たちが苦労して体得した障害者雇用の経験とノウハウを、同じ地域の他の事業主と共有化する機会を得ることで少しでもお役に立ちたいという思いからとのことである。
執筆者:65歳超雇用推進プランナー 新井将平
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