個人の障害特性に配慮した継続雇用への取組
2019年度掲載
- 事業所名
- 株式会社金沢環境サービス公社
(法人番号: 1220001002047) - 業種
- サービス業
- 所在地
- 石川県金沢市
- 事業内容
- 下水道管路管内調査・修繕、廃棄物収集、環境測定・計量証明事業、し尿処理浄化槽清掃など
- 従業員数
- 135名
- うち障害者数
- 5名
-
障害 人数 従事業務 知的障害 1名 清掃、雑務補助 精神障害 2名 環境分析専門職補助(2名とも発達障害あり) 発達障害 2名 事務 - その他
- 障害者職業生活相談員
- 本事例の対象となる障害
- 知的障害、精神障害、発達障害
- 目次
-
事業所外観
1. 事業所の概要
株式会社金沢環境サービス公社(以下「当社」という。)は、金沢市の一部出資により、社名を株式会社金沢市衛生公社として昭和39(1964)年に事業を開始した。後に平成6(1994)年より現在の社名に変更した。
設立当初、当社は金沢市のし尿汲み取りと浄化槽清掃の委託を主に事業展開を行っていたが、急速な下水道普及に伴い会社の存続を賭け、一般・産業廃棄物収集、浄化槽清掃、下水道管路維持・管理・清掃、下水道処理施設の維持管理、環境計量証明事業、排水管・貯水槽清掃、各種公害分析業務など環境全般に取り組む企業へと転換、環境と人にやさしい企業を目指し、市民環境保全の業務を行い市民サービスに努めている。
2. 障害者雇用の経緯
当社の障害者雇用のきっかけは、労働局から障害者の職場実習受入れを勧められ、多くの障害者の実習を受入れたことである。実際に実習生を受け入れていくなかで、高い業務遂行能力を発揮する者があったことと、障害者雇用は企業の社会的責任であるとの認識を深めたことから採用を始めた。
そうして始まった当社の障害者雇用であったが、雇用してきた身体障害のある社員が定年退職を迎え徐々に障害のある社員数が少なくなってきたことから、障害者の実雇用率も考慮して引き続き身体障害者の採用を進めることとしハローワークへの求人募集を行った。しかし、なかなか応募者がいないなかで平成24(2012)年に金沢産業技術専門校から発達障害者を紹介され、初めて身体障害者以外の障害者雇用に取り組み始めた。その後は障害の種別を問わず就労支援機関、特別支援学校から積極的に職場実習やトライアル雇用を利用して障害者の雇用に努め、現在は知的障害、精神障害、発達障害のある社員を雇用している。
本稿では、そうした当社の取組について、発達障害のある社員2名の雇用事例を中心に述べる。
3. 取組の内容
(1)社内体制の整備、職場実習の受入れと採用
発達障害者の採用に向けて、まず初めに社内の受け入れ体制を整えるために担当社員(総務部門と配属を想定している部門の社員)を対象とした研修を実施した。研修は障害者職業センター(以下「職業センター」という。)の担当者から障害特性やコミュニケーションの取り方などの基礎知識についてであった。
次に職場実習を積極的に受け入れることとし、ハローワークと連携しながら、就労移行支援事業所、特別支援学校、県関係関などへの働きかけを行い、実習生として受け入れた。そして、実習の中で働く意欲があり当社が求める仕事への対応ができると思われた人とは面談を行い、採用していった。
今回採用した事例は、別々の就労移行支援事業所からアスペルガー症候群(Aさん)と広汎性発達障害(Bさん)2名を2週間、事務職の職場実習として同時に受入れた。
両名の実習は就労移行支援事業所のプログラムとしての実習であり、一般企業への就労体験を目的としたもので、当社での雇用を想定したものではなかったが、実習での様子から、障害に配慮した対応を行えば会社にとって大きな戦力になると判断し、当社からスカウトする形で本人・関係者に話をした。本人たちも希望し、関係者も同意したことから、石川県の障害者職場実習制度(1か月)からトライアル雇用制度(3か月)を活用し、トライアル終了後は嘱託社員(事務補助)として2名を採用した。
(2)雇用後の配慮と勤務状況
2名は半日勤務からスタートし、会社に自らの居場所があることを実感してもらいその上で徐々に勤務時間を延長していくこととした。
2名とも障害特性から非常にコミュニケーションは苦手で、始めから電話対応はしなくて良いと伝え、一つひとつの仕事を理解して次のステップに進んでもらうよう意識し、一連の流れを分かりやすく、不安を感じさせないよう指導することを心掛けた。
また、普段のコミュニケーションもストレスとならないよう、ある程度距離感を持てるベテランの障害者職業生活相談員(以下「相談員」という。)が対応した。
こうしたし対応の結果、Aさんは順調に職場に適応し、勤務時間も延長することができた。
Aさん、Bさんともに本人の障害特性(込み入った言語指示が苦手、周りの刺激に注意がとられやすいなど)から、作業手順が分かりやすく、他者とはあまり接点を持たずに自分のペースでできる仕事が適していると考えられたが、事務職の場合は電話の話声やお客様の出入りなど様々な雑音(刺激)が飛び交う中での作業となることから、刺激を少なくするための周知の間仕切りを設置した職場環境も整えスタートした。
しかし、Bさんは、過去の就労が不調だった経験から自信を失っており、周りへの気遣いをしすぎる傾向があり、環境の変化によるストレスや就労による疲労からうつ状態が悪化し、就労が安定せず、勤務時間の延長も難しかった。
その後、雇用されて半年後あたりから同期入社したAさんの仕事の進捗状況を意識してしまうことや、周りの環境への戸惑いが見受けられ、作業へ集中することが困難になったため、仕事中に耳栓を用いることを許可するなどして改善に努めたが欠勤が目立つようになった。
(3)課題解決に向けた取組(配置転換とジョブコーチ支援)
当社ではBさんへの対応が必要と考え、人事担当者、相談員、本人を交えた面談・相談を持った。また、外部の支援機関の協力も必要と考え、Bさんの利用していた就労移行支援事業所のジョブコーチ支援を利用することとし、面談などにはジョブコーチも参加した。
まずは、Bさんのストレスを減らすべく、事務職から個室で作業ができる別の部署に異動させ、仕事は環境分析助手業務への配置転換を行うこととした。そして、ジョブコーチが相談員と連携しながらBさんとの面談などを通じてサポートなどを実施した。
異動後は、意識してしまう同期のAさんとも離れ、気分転換も兼ねた容器の洗浄や事前準備作業、事務作業では集中できる個室での作業環境などが本人に合っていたのか、日を追うにつれて表情も明るくなった。
特に事務作業では、結果報告書の読合せなど新たな得意分野の発見があり自信につながり現在では順調に仕事に取り組んでおり、就業時間も4時間から5時間に延長した。
<Bさんの配置転換先での勤務の様子>
業務1 容器洗浄作業
業務2 報告書読合せ作業
業務3 パソコン入力作業
4. これまでの取組結果のまとめ
Bさんの例も含め、当社がこれまで進めてきた障害者雇用に関する取組から重要と考えていることを最後に述べる。
(1) 第一に障害者自身の就労意欲が大切である。しかし無理はしない。両親や周りの人から仕事に就くことへの強い要望だけでは定着へつながらないため、本人に仕事に就くことの意味を理解したうえで、意欲を持って取り組んでもらうことが大切である。
(2)障害者本人のできること・できないこと、得意・不得意、配慮が必要なこと、障害特性などの情報を企業と就労支援機関が共有し連携することは職場定着にとって重要である。
障害者に限らず「人」が働く際に「好きな仕事」につける人ばかりではない。「この仕事が好き」であるというより、「この仕事なら続けていけるか」という本人の意思確認と就労支援機関などから見た障害特性と得意・不得意を考慮したうえでの職種・就職先の選択が大切である。
(3)障害のある社員にとって働きやすい職場環境作りは必要である。しかし、例えば周りの社員の話し声が気になる障害者に静かな環境を用意するのは企業によっては限度がある場合もあり、環境を整えることを気にし過ぎると周りの社員が気疲れなどにより仕事にも支障をきたし、むしろ障害者を遠ざけるような事態にもつながりかねない。
Bさんへの対応においては、間仕切りの設置、耳栓の使用により集中しやすい環境作りを行い効果があったと考えるが、それには周りの社員への負担が大きなものではなかったこともあると思われる。
(4)職場実習を効果的に活用することも重要である。障害者が企業で実際に働くなかで仕事の内容を体験的に理解するとともに、企業も採用を検討するための場として実習を活用するための体制づくりなどがとても大切である。
また、実習においては、仕事に取り組むことだけでなく休憩時間の過ごし方などにも留意する必要がある。障害のある社員のなかには休憩時間をうまく使えないことが職場適応上の課題となる場合もあるので、そうしたことも考慮して実習を行う必要がある。
(5)発達障害のある社員の場合には障害特性に関する職場(上司・同僚など)の理解と対応が必要である。指示の単純・明快化(抽象的な表現の「あれ」「それ」などは避ける、一度に一つの指示にするなど)、指示系統の一本化(指示する人や困ったときに相談する人をあらかじめ決めておくなど)は共通しておこなっており、話し声などに影響を受けやすい人の場合には間仕切り・耳栓などの職場環境対策も実施したが、そうした対策が効果をあげるには周りの社員の配慮、協力が必須となる。そのため、当社ではプライベートな部分を伏せながら入社する障害のある社員の特性などについては全ての社員に朝礼で周知し理解を求めている。
しかしながら、全ての場面で周りからの配慮を行き届かせることには限界があり、障害のある社員の側にも定着するために努力が必要である。生じた課題に対し企業全体で協力し乗り越えていくことが大切である。
(6)職場では障害者に寄り添う障害者職業生活相談員の育成が重要で、これについても周りの社員の理解・協力が必要不可欠である。
当社では、障害のある社員一人ひとりに1名の相談社員を配置し、相談などに対応させている。そして相談社員には障害者職業生活相談員の講習や外部研修に参加させて相談社員として能力の向上を会社としてバックアップする体制を構築している。
相談社員の人選には障害のある社員に向き合えて勉強意欲のある人を人選している。障害のある社員や周りの社員が相談社員に頼ってしまうことから、一度配置した相談社員は人事異動させにくいといった課題はあるが、 障害のある社員の定着には相談社員の存在は大切である。
執筆者:株式会社金沢環境サービス公社
取締役事業部長
沖津 勝一
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