地域の就労支援機関を活用した障害者雇用への取組
- 事業所名
- 永大産業株式会社 敦賀事業所
(法人番号: 7120001030374) - 業種
- 製造業
- 所在地
- 福井県敦賀市
- 事業内容
- 住宅用資材・木質ボードの製造
- 従業員数
- 111名
- うち障害者数
- 5名
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障害 人数 従事業務 知的障害 1名 製造職(オペレーター) 精神障害 1名 製造職(オペレーター) 発達障害 3名 製造職(出荷、梱包業務) - 本事例の対象となる障害
- 知的障害、精神障害、発達障害
- 目次
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事業所外観
1. 事業所の概要、障害者雇用の経緯
(1)事業所の概要
永大産業株式会社(以下「同社」という)は本社を大阪府に置き、住宅資材及び木質ボードの製造をメインとした生産拠点を国内3か所(山口県・福井県・大阪府)に設けている(令和元年3月現在の全従業員数999名)。同社グループ企業の永大スタッフサービス株式会社、ほか多数の協力企業と「木を活かし、よりよい暮らしを」理念として操業している。
(2)障害者雇用の背景と経緯
同社では以前より障害者雇用に取り組んでおり、その内容は多岐にわたる。また障害者雇用のみならず派遣社員から同社社員への登用、女性や高齢者、外国籍の人達の採用などについても積極的に取り組み、そうした社員が活躍できるための方策や適切な雇用管理について、日々検討を続けている事業所である。
本稿では同社の生産拠点のひとつである福井県の敦賀事業所(以下「同所」という。)における障害者雇用の取組について紹介する。
2. 取組の内容と効果
(1)取組内容
ア.採用に向けた取組(1)~就労支援機関利用者などを対象とした工場見学会の実施~
同所では特別支援学校の在校生や就労移行支援事業所の利用者などを対象に工場見学会を実施している。見学会は参加者に製造している製品への理解はもちろん、"工場"という場の存在や雰囲気、"製造業"という職場で求められる役割、また、そこで働く人達の様子を知るよい機会であると考えている。令和元年5月の見学会では圏域在住の求職者、就労支援事業所(移行型、B型)の利用者15名が参加した。
工場見学会の様子 工場見学会における説明場面
イ.採用に向けた取組(2)~職場実習などの受入~
同所では特別支援学校の在学生や障害のある求職者を対象に、福井県独自の障害者等就業体験支援事業による就業体験(職場実習)や、障害者委託訓練による訓練の受入など(以下「職場実習など」という。)を行っている。これは、「障害」があるために生ずる「働きにくさ」や、経験不足などから抱く就労への不安を解消するために、同所で働くなかで仕事や職場について体験し理解する機会として設けている。
職場実習などを経て本人に就労の自信や希望があれば、同所の担当者が改めてハローワーク専門援助部門を中心とする関係機関と相談しながら、募集・選考・採用などを進め、個別の雇用条件や配慮の内容、支援体制の設定などを行っている。※(福井県委託事業)障害者等就業体験支援事業
・対象者:県内に居住する障害者など
・対象事業所:県内の一般企業
・実施日数:3日~10日以内 ・対象者に対しての手当:1日当たり 700円
・対象事業所に対する謝金:1日当たり 1,000円
・事故への対応:傷害保険などに加入(加入費用は福井県負担)
ウ.職場定着に向けた取組~就労支援機関との連携など~
職場定着に向けた雇用管理などにも力を入れており、採用時には配属先の管理職と医務室とが障害のある社員について情報共有し、連携した対応をとれる体制をとっている。また、就労移行支援事業所などの送り出し機関、ジョブコーチ、障害者就業・生活支援センター(以下「就労支援機関」という。)による継続支援の受入、配置転換や業務変更の際の障害特性などとのマッチング相談、日々の経過観察から不調時の対応相談など、従来の雇用管理プラスアルファの部分について積極的に就労支援機関を活用している。
エ.在職者への配慮
障害のある社員のさまざまな「働きにくさ」や職業生活上の課題については、同社だけでは解決が困難な場合もある。一方で採用時には障害者就業・生活支援センター(以下「支援センター」という。)などの利用登録をしていないケースもある。そうした場合には、就職時あるいは在職中に支援センターなどの支援機関を地域の相談窓口として紹介し、就労継続、雇用関係維持を目的とした相談機会の設定や制度の利用につなげている。
また、合理的配慮のあり方についても適宜、支援機関に相談しながら、本人の就労意欲の維持・向上につながるよう雇用管理を行っている。
オ.地域の就労支援機関を招いての作業委託検討会(見学会)
資材の一部や梱包資材の生産など、補助的業務の中で外部委託が検討可能な工程について洗い出し、地域の就労支援機関を招いた見学会を実施している。
(2)個別の取組と効果(3事例)
ア.作業難易度の把握と改善(発達障害のある者で職場実習の状況を活かした事例)
職場実習時における、数多くの資材のなかから注文に応じた資材をピッキングする作業において、従来の口伝え(口頭指示)や慣れ、経験によっての正確な対応が困難であったことから、「識字」、「商品のイメージ(※1)」、「広い倉庫内での動き方(動線の構造化)」への配慮として、「手がかり」の可視化と「在庫配置の工夫」によってピッキング作業工程の難易度を下げた。この取組により作業の確実性と処理効率は向上した(改善などの詳細は後述を参照)。
改善例1:資材種類の表示(床上表示例) 改善例2:資材種類の表示(製品上表示例)
従来は資材置き場に名前などを示す表示類はなく、資材そのものの形状・特徴を見てピッキングしていたが、職場実習において前述の課題が確認されたため、上の写真のように床上や資材上に印字表示をすることにより、表示が「手がかり」となって作業難易度が下がった。動線についても在庫配置を整理することで動きやすくなり、効率的な作業につながった(改善例1は床上に大きく記号表示などすることで、障害のある者、外国籍や識字の苦手な者でも判別しやすくなった。改善例2では資材に品番を印字することで判別しやすくなった)。また、本対応が現段階では整わない部署への配属となる場合は、ペア作業での業務内容とする、または現場内の移動が伴わない部署にするよう配慮した。
なお、こうした改善により、当該部署では外国籍、女性でも作業が可能な環境となっている。
※一般木造住宅用建材の階段部材には階段の右回り/左回りが存在するため、でき上がり商品をイメージしたピッキングが必要。
イ.マニュアル中の暗黙事項の明文化(発達障害のある者で職場見学、実習を実施した事例)
同所の品質管理は国の定める基準(工業規格)に沿った各種検査を日々実施している。検査作業は社内のマニュアルに基づき実施しており、同所では本事例の者には検査作業での職場実習を想定し、職場見学を受け入れ、相談も行った。その際に、実際の検査作業においては経験などに基づいて暗黙的に行われている(明文化されていない)部分があることが分かり、実習に向けてマニュアルの改善が行われた。
まずマニュアル(「検査手順書」)と実際の「作業手順」を見比べ、曖昧な事項を確認、抽出し、補った新たな詳細マニュアルを作成した。そして、詳細マニュアルに基づく職場実習(作業体験)を実施した。あらかじめ不明点を解消した上で作業に臨むことで、短期間の内に複数検査の同時遂行やスケジュール管理など、次のステップに進むことができた。
その結果、本人は同所での採用につながるとともに、同所におけるマニュアル作りの進化に寄与することとなった。
ウ.誰もが安心して働ける、働きやすい職場環境づくり(精神障害のある者の職場定着の事例)
本人及び周囲より何らかの「働きにくさ」への気付きがなされ、1)安全管理、2)品質管理、3)生産性に基づき、適宜、外部の支援機関と相談し、1)2)3)点を踏まえた雇用継続を念頭に、相談場面の設定と定着支援の受入環境を整えた事例である。
相談のきっかけは、機械オペレーターとして就労中の本人の職場内における「動き」に関する周囲の「気付き」であった。それは、一見すると「工場内で急に立ち止まってしまう」もので、フォークリフトの往来する職場においては、"不"安全な行動と評価されやすいものであった。本人にとっても立ち止まる理由について自身で理解しにくく、「働きにくさ」になっていた。
同所では支援機関に相談し、関係者の同意を得たうえで、本人と同社、支援機関による今後に向けた話合いを持った。話合いの主たるポイントは以下のとおり。
・どうして不安全とみなされる行為に至っているか?
・どうしていきたいか(どのように働いていきたいか)?
・その対処法はあるか? 現場で試行・実践していけるか?
・取組の経過を見守ってもらえるか?
話合いでは支援機関から、今回の「動き」は、学齢期の不安症状の想起が認知機能に影響し、身体症状に表出し、それらを処理するという行動である説明がなされた。また、本人からは「動き」や働きぶりがどう評価されているかに不安を感じてはいるが引き続き同所での就労を強く希望していることが話された。
話合いでは今後の方向性と職場で可能な対処方法について検討がされた。「動き」については事業所(所属長と安全管理責任者である総務部長)の理解が得られ、継続雇用されることとなった。
また、これまでの仕事ぶりについて事業所として評価していることが伝えられ、本人の自信と前向きな意欲につながった。そして、次のステップへの目標と課題について関係者が共有し、症状を正しく理解し適切に対応することで、無理のない働き方を目指していける見通しを立てることができた。
3. 最後に~取材を終えて~
同社は企業としてこれからも安全管理、品質、生産性などを追求していかなければならない存在である。その中にあっても同社は、同社で働く人達、働きたいと希望する人達に何らかの「働きにくさ」があれば、本人の希望、体力、知識・技能、経験などを考慮し、企業として可能な配慮(職務や配属先の決定など)を行い、各人の働きぶりへの評価を行う企業であると感じている。
以前に筆者が担当する障害者の支援で同所の面接に同行した際、面接の最後に面接担当者から応募者に「どんな地域の活動に参加していますか?」との質問があった。質問の意図としては、子ども会でも奉仕作業や資源回収でも何でも良いので、誰かとつながっていることや、誰かのために動ける気持ちを社員には持っていて欲しいと考えているとのことで、今は無くても入社後に仕事が落ち着いたら考えて欲しいとの言葉もあった。こうした同社の地域との共生の姿勢を大切にする文化は、障害者雇用の取組にも通じるものであり、今後ますます進展していくものと強く感じた。
執筆者:社会福祉法人 敦賀市社会福祉事業団
嶺南障害者就業・生活支援センター ひびき
山本 謙二
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