（1）事業所の概要
　「呉信用金庫」（以下「同金庫」という）は、大正14(1925)年に産業組合法による呉市信用組合として設立された。平成31年（2019）年3月末日現在では呉市をはじめ、広島市、東広島市など、43店舗（うち1出張所）で業務展開しており、同日における預金積金残高は7,112億円、貸出金残高4,054億円で、健全な経営を行っている。
　同金庫は協同組織の地域金融機関として、「地域社会の繁栄に貢献する」ことを重要な使命のひとつと考え、地域の企業・事業者への経営サポートや、会員をはじめとした顧客に対してライフステージに応じた各種提案を行うなど、地域密着型金融の推進に積極的に取組んでいる。

＜同金庫の経営理念＞
・地域社会の繁栄に貢献する
・地域社会から信頼される信用金庫を目指す
・働きがいのある職場の実現を目指す

＜創立から現在まで＞
大正14（1925）年　　呉市信用組合として設立
昭和26（1951）年　　信用金庫法の改正に伴い呉信用金庫に組織変更
昭和41（1966）年　　本店を現在地に新築移転
平成 2（1990）年　　呉中央信用金庫と合併
平成11（1999）年　　芸陽信用金庫と合併
平成18（2006）年　　事業所内託児所「しんちゃんランド広」（2018年4月より呉市認可保育園「ニチイキッズ『しんちゃんらんど広』
　　　　　　　　　　　保育園」）オープン
平成27（2015）年　　創立90周年

（2）障害者雇用の経緯
　同金庫では、従来から障害者雇用に取り組んでおり、平成25（2013）年4月の障害者の法定雇用率2.0％への引き上げに伴い、より積極的に取り組んでいる。また、障害の有無にかかわらず、各人が持つ能力を発揮できる職場環境づくりにも取組んでいる。
　しかし、障害のある職員に対する雇用管理に関するノウハウの不足を感じたことから、平成25（2013）年度に人事担当（人事部）職員が障害者雇用企業の視察や見学会、セミナーなどへ積極的に参加。雇い入れ実務や採用後の労務管理、早期の戦力化の知識を学び、障害者雇用を促進するための土台作りを地道に行ってきた。
　具体的には以下をはじめとするさまざまな機会へ参加した。
　　・広島障害者職業センター主催「障害者雇用に係る総合的理解・取組促進のための視察・交流会」
　　・呉安芸地域障害者就業・生活支援センター主催「就労移行支援事業所見学会」
　　・コニカミノルタビジネスソリューションズ主催「障害者雇用促進セミナー」

　また、障害者の能力開発に向けた取組などを見学するため、広島障害者職業能力開発校へ人事部長が訪問している。そして、ハローワークなどと連携しながら採用活動を進めた。
　その結果、同金庫では、令和元（2019）年現在、10名の障害のある職員を雇用している。
 

（1）取組の内容
ア　採用について
　障害者の雇用は、ハローワーク主催の「障害者合同面接会」への参加や広島県就労振興センターからの紹介を通じて行っている。
　ハローワークが年1回主催する「障害者合同面接会」へは人事部が毎年参加し、毎回10名程度の面接を実施。障害者の雇用機会の創出に積極的に対応している。
　面接に際しては、人事担当者が事前に同金庫内で受け入れ可能な部署を把握したうえで、募集要件を整理し面接に臨んでいる。応募者の要望と同金庫の環境や条件に齟齬が生じないよう、面接時の説明内容や応募者から確認するポイントを明確にしている。
　面接を合格した応募者には、1～2週間程度の職場実習を実施し、採否を決定している。職場実習は、応募者が業務内容を体験的に理解することにより同金庫で働くことへのモーチベーションを高めるとともに、職場側でも応募者について理解し、就職した際にスムーズに職場に適応できることにつながっている。

イ　定着に向けて
　同金庫では、障害の有無に関係なくすべての職員は、年に数回、所属長との個別面談の機会を設けている。
　このようにコミュニケーションを密にとることで、障害のある職員の状況を的確に把握することができる。また、他の職員からの情報や意見も収集することで些細なことであっても早めに把握することができる。そして、障害者雇用については人事部が中心となって進めているが、所属長と人事部は情報を共有化することとしており、全社的に対応できる体制となっている。
　
（2）内部障害のあるAさんの取組
　Aさんは飲食店の店長として勤務していたが、長時間労働などが影響し「急性腎不全」を発症。仕事を辞め、治療に専念した。現在、人工透析（夜間）を受けるため、週3回の通院を続けている。
　いったんは退職したAさんであったが、病状が安定したことから再就職活動を開始した。そして、ハローワークを通じて「障害者合同面接会」に参加し、同金庫の一次面接を受けた。その後、同金庫での二次面接を経て、平成27（2015）年に採用された。総務部で経費の処理手続きなど、総務事務の業務を担当している。
　同金庫では、Aさんの採用に際し、二次面接後に現在の所属部門で1週間の職場実習を行った。実習でAさんの適性、周囲の職員とのコミュニケーション面に支障がないことを見極めるとともに、Aさん自身がスムーズに職場と業務に馴染めるように配慮したうえで採用に至った。
　採用時、最も考慮したのがAさんの通院時間の確保である。Aさんと相談のうえ、所定労働時間を通常よりも短く設定した。夜間通院に支障をきたさぬよう終業時間をやや早め、所定外勤務は必要最低限に留めるなど、一定範囲内での柔軟な対応を行っている。
　所属部署の上席者（総務部副部長）は、Aさんの通院のスケジュールや体調を考慮したうえで、業務量を配分している。また、定期的な通院を要するため、部署内でAさんの障害の内容、通院の頻度などの情報を共有し、職員間で業務を分担・フォローしている。
　有給休暇については、全職員に対して積極的な取得を推奨しており、障害の有無にかかわらず取得しやすい雰囲気づくりに努めている。
　　　　　　　　　　
　　　　　　　

 　　　　　　　　　　　　　　　　　　職場のAさん

 

（3）Aさんの声
　「社会復帰するにあたり、就業時間が一番の懸念事項でした。病院で夜間透析を週3回受けるため、早退できる職場を希望していましたが、現在、希望通りの就業時間で安心して働くことができています。金融機関で働くのは初めてで、未知の部分もありますが、業務自体はこれまで自分が経験してきたことが生かせる内容なので、抵抗なく馴染むことができました。
　内部障害は外見からわかりにくく、体調が悪い場合も人に言いづらいのですが、職場で私の障害や通院を要することを知ってもらっているので、無理をすることなく毎日の業務もできており、オープンな職場環境に感謝しています。」

（4）取組の効果
　障害者雇用を進めるにあたり、同金庫では、仕事と治療の両立も念頭に置きながら、一人ひとりの事情を考慮したうえで、就業時間を柔軟に設定するなどの対応をしてきたことで、障害のある職員の定着、雇用の安定につながっている。
　雇用形態も柔軟に対応しており、パート職員として採用した場合も、一定期間経過後に契約職員に登用、さらには契約職員から正職員へ登用するケースもあり、障害のある職員のモチベーション向上にもつながっている。また、体調を崩し、退職した職員を体調の回復とともに契約職員として再雇用したケースもあるなど、同金庫では本人の働く意欲に応え、「働き続けられる」環境の整備と対応を行っている。
　配属先においても、所属長は障害のある職員の心身に負担のかからない配置や業務の配分などは十分考慮しているが、それ以外の面では障害があることを特別視することなくフラットな対応を心がけており、その姿勢は他の職員にも浸透している。
　同金庫では、人事部が中心となり、障害者雇用促進のための土台作りを進めてきた。セミナーや研修会、他企業の見学会などへの参加を通して雇用管理の知識や理解を深め、できることからコツコツと積み重ねを続けた結果、平成30（2018）年10月に、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構から障害者雇用優良事業所として理事長努力賞を受賞している。これは、障害者の積極的な雇用にとどまらず、障害の種類・程度に応じた柔軟な職務配置や職場改善などの雇用安定に向けた取組み、障害者法定雇用率の達成など、障害者雇用の促進、職場定着に関する同金庫の取組みが認められた結果といえる。
 

　「働きがいのある職場の実現を目指す」ことを経営理念の一つに掲げる当金庫では、全職員に対して各自の能力が発揮できる職務と職場づくりに尽力している。また障害の有無に関係なく、全職員が「長く勤務できる」職場環境を整備している。
　金融業には多種多様な業務があり、専門的な業務（職務）も多い。そのため、障害者雇用においても障害の種類・程度、個人の能力・適性に応じた業務をマッチングするとともに、ステップアップしていける体制を整えることで、障害のある職員はハンデを意識することなく業務に従事することができると考えている。同金庫では、今後も一人ひとりの障害や体調などを考慮しつつ、本人の得意分野や適性を見極め、ルーティンワークから専門的業務へステップアップできる体制を充実させていく意向である。
　そして、障害のある職員の状況や要望に応じた、ケースバイケースの取組により、各人の働く意欲に応える職場づくりをいっそう進めていくこととしている。