誰にとっても働きがいのある職場をつくる
2019年度掲載
- 事業所名
- 柳井化学工業株式会社
(法人番号: 7250001012590) - 業種
- 製造業
- 所在地
- 山口県柳井市
- 事業内容
- 化学品の製造・受託製造及び販売
- 従業員数
- 206名
- うち障害者数
- 4名
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障害 人数 従事業務 内部障害 1名 工場勤務 知的障害 1名 施設清掃 精神障害 2名 施設清掃 - 本事例の対象となる障害
- 内部障害、知的障害、精神障害
- 目次
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1. 事業所の概要、障害者雇用の経緯
(1)事業所の概要
柳井化学工業株式会社(以下「同社」という。)は、山口県柳井市に本社工場を置き、化学品の製造・受託製造及び販売を行う企業である。創業は昭和13(1938)年、柳井市第一号の企業誘致による化学繊維事業(当時)がその始まりである。
(2)障害者雇用の経緯
公共職業安定所等からの勧めがきっかけとなり、平成27(2017)年より障害者雇用を開始し、現在4名の障害のある従業員が働いている。雇用開始に先立ち、総務課担当者(以下、「担当者」という。)が中心となり、障害者雇用についての情報収集、職域の開発、社内体制の整備などを進めた。当初は、担当者も含め、どんな人がどんな仕事を求めているのかがわからず不安を感じていたというが、実際に柳井市合同就職面接会へ出向き、障害のある人たちと出会うこと、就労希望者の関係機関(障害者就業・生活支援センター、福祉サービス事業所、医療機関など)と積極的に情報交換を行うことで、障害のある人が現場で働くイメージを具体的なものとしていった。特に、雇用開始後も関係機関との連携を非常に重視し、障害のある従業員の日々の細かな変化や対応の工夫について情報共有しながら、従業員の職場定着を図っている。
2. 取組の内容と効果
(1)基本的な考え方
担当者を中心に、同社が一貫して大切にしてきたのは、従業員にとって働きがいのある職場をつくることである。なかでも、障害のある従業員一人ひとりに合わせた職場環境の改善は、従業員の職場に対する安心感、正確な作業の遂行につながるなど、従業員・会社双方にとって大きな成果をもたらしている。ここでは、精神障害のあるAさん、知的障害のあるBさんの二人の従業員の事例について紹介する。なお、同社工場では、化学物質を扱う業務が多く、作業には危険を伴う。そこで担当者は、安全で安定した作業への従事が二人にとっては重要であると考え、施設清掃(写真1)、屋外美化業務を二人の主な担当業務とした。
写真1 施設清掃の各場面
(2)障害者雇用の事例
ア Aさん(精神障害)
Aさんは、現在8:00~15:00までの勤務で、厚生施設清掃業務を担当している。当初の勤務時間は8:00~12:00、複数の作業を行うことに難しさがあったが、徐々に作業にも慣れてきた。後に述べるBさんと同様、業務の見通しが持てると安心して仕事に取り組めるため、専用のスケジュールを活用している(写真2)。また、Aさんは、自分から休憩をとるのが苦手で、不安が強くなりやすいところがあるため、スケジュール内に休憩や仕事上の約束ごとを具体的に提示している。例えば、「(休憩時間に)休む=悪いこと」という認識がAさんにはあり、担当者が「休んでいいよ」と口頭で伝えても、休憩時間に仕事を始めてしまうことがあった。このため、「一息いれて〇時〇分からがんばりましょう」とスケジュール内に提示することで、Aさんは担当者からの声かけがなくとも、時間まで待って作業を開始するようになった。
清掃業務に使用する洗剤類の在庫管理(在庫チェックと要補充の報告)もAさんの業務の一つであるが、従来の補充のタイミングはAさんにとっては判断が難しく、不安げな様子もみられた。そこで、在庫が全体の半数になったら補充するサイクルに変更すると、Aさんは補充のタイミングを正確に理解し適切に担当者に報告できるようになった。担当者は会社側の発注のタイミングを変えればよいだけと話し、Aさんにとっての作業のしやすさを重視していた。また、Aさん、Bさんともに作業日報(就労報告書)をつけているが、その連絡事項欄に、AさんとBさんが在庫状況を記入すると、担当者が発注予定日を記入して回答する(写真3)。連絡内容も「見える化」することで、二人の安心感にもつながり、双方にとって確実な仕事をするための連絡手段ともなっている。
写真2 Aさんが使用しているスケジュールの一部
写真3 総務課担当者への報告も兼ねた日報
イ Bさん(知的障害)
Bさんは、障害者就業・生活支援センターの支援を受け、同社で1週間の職場実習を体験した後、職業訓練校在校中に2か月の長期実習(委託訓練)を経て、短時間パートとして採用された。現在は、朝8:00~12:00までの勤務で、社内の施設清掃が主な業務である。担当者によれば、当初は作業をこなすのが辛そうに見えることもあったというが、慣れてくるにしたがい、自分のペースをつかんで取り組めるようになった。
Bさんより前に、初めて知的障害のある従業員を採用した際に、担当者はどのように仕事を教えてよいか、指示の出し方、作業の進め方について戸惑いを感じることが多かったが、本人をよく知る福祉事業所の職員と日々やりとりを続け、対応について理解を深めていった。担当者は、知的障害のある従業員へのこれまでの対応のノウハウをいかし、Bさんが作業中に携帯できる、手のひらサイズのスケジュールを作成した(写真4)。天候によって、Bさんの業務スケジュールの一部が変更されるため、スケジュールは晴天時用と雨天時用のパターン別に裏表へ書くことで簡単に確認できるようになっている。Bさんは、自分で作業スケジュールを確認する手段を得たことで、作業の見通しが明確となり、安心して次の業務へ進むことができるようになった。
写真4 手のひらサイズのスケジュール
今回紹介した二人の従業員を含め、同社がこれまで障害者雇用で採用した従業員は皆、意欲的で真摯な勤務ぶりと、担当者はその仕事ぶりについて評価している。しかし、それゆえ担当者は、障害のある従業員と積極的にコミュニケーションを取り、冗談を言うなど、緊張感を和らげるようなかかわりが大切であると感じていた。また、各人が利用している医療機関などの関係機関の支援者などに助言を求めるなど、従業員が働きやすい環境を作るために改善を重ねている。個人に合わせて職場環境を変える発想の転換によって、障害のある従業員の働きやすさにつながることを示す好事例である。
3. 今後の展望と課題
同社で障害者雇用を始めてから、5年が経過した。前述の事例のように、社内外のサポート体制を構築し、働きやすい職場環境を作ることで、障害のある従業員の安心感や担当業務に対する自信につなげてきた。担当者はこれまでも、「従業員が毎日職場に来たいと思えるような、働きがいのある職場」づくりをめざしてきた。今後の課題として、具体的には次の3点を挙げている。
(1) 職域を増やすこと
現状では内部障害の従業員以外は、清掃業務の担当に限られている。危険な作業が多い現場ではあるが、5年を経て従業員の仕事への意欲につながるような、新たな作業を切りだせるかどうかが今後の課題だとしている。
(2) 職場を開発すること
現在は総務課が障害のある従業員をバックアップする体制をとっている。内部障害のある従業員以外の担当業務が単独で完結できる清掃業務であることから、他の部署とのかかわりはほとんどない。今後は、例えば事務作業を担当業務に含めるなど、様々な部署とのかかわりを生むような業務のありかたを視野に入れている。総務課以外の部署を含めて、職場の開発をしていく。
(3) 社内の理解をさらに進めること
今後5年を視野に、障害者雇用に自分も携わりたいという志を持つ社員が増えることを目指している。
担当者は、障害者雇用に際し、全社員に向けて「(障害のある従業員の作業状況について)できていないことがあったら、本人にではなく、担当者に言ってください」と伝えるようにしてきた。実際に、社員から、(障害のある従業員が)清掃した箇所があまりきれいになっていないという指摘を受けることもあったが、問題が個人に起因するとは考えず、総務課として解決にあたるという姿勢を明確に示したことで、他の社員の理解を得てきた経緯がある。また、担当者は、担当者と障害のある従業員が会話を楽しむ姿を、他の社員に特別なことではない、ごく当たり前のこととして見てもらうことも、社員の理解を促すために必要なプロセスだと考えている。しかし、担当者が中心となって進めてきた同社の障害者雇用が、もう一段階先へ進むためには、より多くの社員が自分ごととして障害者雇用にかかわることを期待している。おわりに
会社の大切な人材として、責任を持って、本人と周りの環境を育ててきた担当者の言葉は力強い。職場が、働く人にとっての居場所にもなりうると改めて感じた出会いであった。
執筆者:山口学芸大学教育学部 講師 立田 瑞穂
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