働きたい障害者に地域に根ざした医療機関が担う役割
- 事業所名
- 医療法人純青会 せいざん病院
(法人番号: 8340005004236) - 業種
- 医療・福祉業、うち除外率設定業種
- 所在地
- 鹿児島県西之表市
- 事業内容
- 精神科・内科病院、福祉施設(グループホームなど)の運営
- 従業員数
- 111名
- うち障害者数
- 3名
-
障害 人数 従事業務 肢体不自由 1名 運転手・営繕 知的障害 1名 ケアスタッフ 精神障害 1名 看護師 - 本事例の対象となる障害
- 知的障害、精神障害
- 目次
-
外観・グランド外観・外来入口
1. 事業所の概要、障害者雇用の経緯
(1)事業所の概要
医療法人純青会せいざん病院(以下「同院」という。)は、鹿児島県の南方に浮かぶ種子島唯一の精神科病院として、医療法人種子島会有馬病院のあとを受け継ぎ平成25年に住吉中学校跡地を利活用して建てられた。
前身の有馬病院以来54年間、
1.地域に根ざし、信頼される病院
2.温もりと思いやりのある医療を提供する病院
3.医療の質を高め、お互いに学び合える病院
を基本方針に、地域社会と連携をはかりながら質の高い医療の提供を目指している。
【沿革】
昭和40年2月 有馬医院開設
平成19年7月 医療法人純青会せいざん病院へ名称変更
平成25年4月 現住所へ新築移転
平成28年8月 (共同生活援助事業)グループホーム一歩開設
平成30年8月 (就労継続B型支援事業)ほのぼの開設
(2)障害者雇用の経緯
理事長の「人間の尊厳と自立を基本に地域社会と連携をはかりながら誠心誠意、質の高い医療の提供を目指して病に苦しむ人々に奉仕する」という考えの下、入院患者の退院促進を図ると共に、地域での受け入れ体制の整備に取り組んできた。障害者の雇用についてもその一貫した精神の下、受け入れ体制を整え、ハローワーク、くまげ障害者就業・生活支援センター(以下「支援センター」という。なお、筆者は支援センターに所属している)との連携を取りながら雇用してきた。
すでに述べたように同院は精神科の病院であり、精神科デイケアも提供している。デイケアの利用者が回復し、そろそろ就職を考えようという場合に同院ではまず支援センターへ相談することを勧めている。また、支援センターにはデイケア利用者に対する就職ガイダンス(就職活動に必要な知識などを)の実施を依頼したり、院内での定期的な相談の機会を設けるなど、医療機関と就労支援機関が連携して精神疾患のある人への治療と支援を進めている。
また、障害のある職員に対し同僚として適切な対応をしていくためにも、障害に対する理解を深める必要があることから、職員対象の定期的な研修や意見交換の場を設けている。そうした取組により現在3名の障害のある職員が同院で働いている。
次にそのうちの2名についての雇用の経緯や取組などについて紹介する。
2. 取組の内容
(1)Aさん(精神障害)の取組
Aさんは、精神障害のある女性である。現在、徒歩15分の自宅から通勤している。Aさんは准看護師の資格を有し、県内で准看護師として約25年働いていたが、45歳で発症し退職。入院治療を受け、退院後精神科デイケアでリハビリを続け、支援センターの障害者相談支援専門員などと連携を図りながら53歳で同院に就職した。当初は8年のブランクから看護業務への不安を訴え、デイケアでのリハビリを継続しながら、看護助手業務から徐々に環境に順応できるように同院と支援センターは支援を行った。また、勤務時間も短時間から徐々に増やし現在は認知症病棟で准看護師として常勤職員である。
ア.ステップ1:(4時間勤務のパート雇用から)
看護業務への不安があったため、当初は看護助手業務から開始し、まずは単調な業務(コップ洗い、洗濯など)から始めた。午前中の4時間勤務をした後、常勤を目標として生活リズム・症状の安定や体力の向上を目的に午後は精神科デイケアを利用した。また、デイケイア担当の清水看護師がAさんの話し相手となるような緩やかな相談などを担当することとし、朝の通勤は清水看護師の車に同乗することや昼食を清水看護師と過ごしながら、その日の仕事の話や他愛もない話をし、本人の困っていることに早めに気付き、病院として対応できる体制を取り、寄り添う支援を続けた。
イ.ステップ2:(6.5時間勤務の看護業務へ)
働き始めてから5か月後、Aさんの意欲や体力にも自信がつき、看護部長や病棟師長と連携を図りながら6.5時間勤務の看護業務にステップアップした。精神科デイケアは卒業となったが、朝の通勤、昼休みはデイケアの詰め所で清水看護師と過ごすことは続けていた。同職種の同僚として、お互いに自信のない看護知識や技術を一緒に勉強をしたり、仕事の振り返りをする場となっていた。
ウ.ステップ3:(8時間勤務の常勤へ)
働き始めてから1年9か月後、いつのまにか他の職員と同じ職員食堂で皆と一緒に昼休みを過ごすようになった。職場にもすっかり慣れて看護業務もテキパキとこなし、生き生きと働くAさんは病院からの希望もあり、週5日8時間勤務の常勤へとステップアップした。こうした徐々にだが着実な変化やステップアップについては、何よりも本人の意思を重視して進めており、病院からの一方的な指示にならないようにしてきたことの成果と考える。
現在でも清水看護師と朝の通勤を共にすることは続いていて、それは2人にとって当たり前の日々だ。5分程度の車中での何気ない会話だが、Aさんが支援を必要とする時には清水看護師が、そして病院が気付いて対応するなど、今も寄り添った支援を続けている。
<病棟師長持田氏のコメント>
「Aさんは患者さんに明るく挨拶をしながら病棟に入り、担当する患者さんの情報収集やバイタルチェックの準備をして業務に備えています。看護業務での仕事ぶりも他の看護師となんら変わりありません。夜勤に関しては、生活リズムの変化や少人数の職員での業務であることから、本人の負担を考慮して外しています。また、体調不良時はすぐに相談できるような環境つくりにも努めています。」
<主治医吉嶺ドクターのコメント>
「看護師として就労することにより意欲がみられ症状は安定しています。今後も服薬治療を継続することで安定した状態が持続すると思います。十分な社会復帰ができていると評価できるのではないでしょうか。」
同院では、約1年9か月をかけて、4時間→6.5時間→8時間就労へと院内での情報交換を密に、支援センター、本人と話し合いながらステップアップしてきた。陰性症状が強かったAさんだが一日も欠勤なく、今では休日にコンサートに出かけたりして趣味を楽しみ意欲的に過ごしている。
ミーテイングの様子
(2)Bさん(知的障害、うつ病)の取組
Bさんは、軽度知的障害とうつ病のある女性である。隣町の障害者グループホームのサテライト型を利用してひとり暮らしをし、現在同院の病棟ケアスタッフとして短時間就労のパート職員である。
Bさんは中学校卒業後、スーパーに10年勤務するも対人面の悩みから退職し、支援センターに相談しながら再就職にチャレンジしていた。
支援センターから同院のケアスタッフの仕事を勧められ、職場見学や体験を数回行い就職への意思確認を慎重に行ったところ、本人は希望するとのことであったため、障害者雇用の窓口である看護部長に、支援センターから依頼を行い、3日間の職場実習を実施した。
実習の結果、採用されることとなったが、初めての職場であることに伴う本人の不安や精神的負担を考慮し、本人、支援センター、ハローワークと同院の人事担当者が相談・調整し、短時間トライアル雇用からスタートすることとした(スタート時は一日5時間の週3日勤務)。また、通勤で使用するバスの時刻に合わせた出勤時間の設定や、相談や作業指示の一本化のために配属先の主任看護師がキーパーソンとなることで本人の不安解消になるなどの病院の配慮がなされた。
Bさん本人の頑張りと病院側の配慮により、トライアル雇用(当初6か月の予定を延長して1年間実施)の終了後はパート職員として採用となり、徐々に勤務時間を延ばし現在週20時間の勤務となっている。
Bさんはケアスタッフの業務に真面目に取り組み、同僚からの高い評価を得ている。思うようにいかなくて悩んだり落ち込んだりする時もあるが、病院のスタッフや友達・地域の相談支援機関(支援センターなど)に支えられながら、入院患者様を支える立場として元気に働いている。
それはまさに、障害のある人と障害のない人がお互いに支え・支えられるという社会が実現されているように筆者には思われた。プライベートでも自動車免許の取得にチャレンジし見事取得。現在は自家用車での通勤もできるようになり、ますます職業生活の自立ができていくことと思われる。
<木原看護部長のコメント>
「患者さんがお茶をこぼしたときなど、さっと駆けつけて優しく対応しているBさんの姿をよく見かけます。目配り・気配りができ、さらに優しい対応ができるBさんを見ていると、私たちも気付かされることが多いです。Bさんの経験の中から"こういう時はこんな声掛けをして欲しい"という実体験も今の仕事に役立っているのではないかと思います。Bさん自身のペースを大切に、常勤を目標にこれからもがんばってほしいです。」
Bさんの作業の様子
3. 今後の課題と展望
AさんとBさんは、周囲のさりげない細やかな配慮のもとで、安心して自然体で持てる力を発揮している。
そして、自分の仕事が、他の職員から認められ、感謝されることを通じて、職場の中で自分がどれだけ大切な存在であるかということを認識できることで、ポジティブに自分をとらえることができ、明るく親しみの持てる看護サービスにつながっていると思われる。
しかし、障害のある職員が抱えている事情や家庭環境などは様々であり、今後も様々な課題が生ずることも考えられる。
医療法人純青会は昔から受け継がれる真に優しくおおらかな風土の中で、今後も障害者雇用について積極的に取り組み、様々な課題に直面することがあっても、関係支援機関(ハローワーク、支援センターなど)と連携し、制度を活用しながら根気よく解決を図り、その経験や知識をより質の高い医療の提供へ活かし、病に苦しむ人々に奉仕することを目指している。
執筆者:くまげ障害者就業・生活支援センター 所長兼就業支援員 長 八千代
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