障害者を特別扱いせず、必要な社員として
期待することで、活躍を引き出している事例
- 事業所名
- 金精軒製菓株式会社
(法人番号: 6090001011057) - 業種
- サービス業
- 所在地
- 山梨県北杜市
- 事業内容
- 信玄餅を中心とする和菓子の製造販売
- 従業員数
- 110名
- うち障害者数
- 3名
-
障害 人数 従事業務 知的障害 3名 信玄餅の製造ラインにおける作業(製造、清掃、洗浄) - 本事例の対象となる障害
- 知的障害
- 目次
-
事業所外観(白州第2工場)
1. 事業所の概要、障害者雇用の経緯
(1)事業内容
金精軒製菓株式会社(以下「同社」という。)は明治35(1902)年より本物の和菓子を丹精込めて作り続けて今日に至っている。職人が一つ一つ心を込めて手作業で生み出す手の温もりが、そのおいしさを作り上げている。金精軒は一番愛している人のために、笑顔になれる和菓子作りを探求している。
<本社・工場などの状況と事業内容>
・本社・白州工場:信玄餅を中心とする和菓子類の製造と販売
・白州第2工場:信玄餅の製造
・韮崎営業所・工場:信玄餅を中心とする和菓子類の卸販売
・金精軒韮崎店:信玄餅製品化工場と隣接の和菓子類製造と小売販売
(2)経営方針
お菓子は「慈愛」。
人と人との楽しさや幸せのなかにあって、多くの方に喜んでいただける。
心を込め、やさしさに溢れ、
勝ち負けを競わず、幸せだけを求めて。
感謝を形にしたお菓子を作りたい。上記の経営方針からは、人の幸せを大切にする企業姿勢が伝わってくる。
(3)組織構成
製造部、営業部、管理部の三部体制となっている。
(4)障害者雇用の理念
経営理念である「慈愛」と地域貢献に根差している。
(5)取組のきっかけ
約12年前、社長の同級生が身体障害者であったことから、その人に、社長から声をかけたことをきっかけとして障害者雇用が始まった。その後、身体障害者のみならず、知的障害者の雇用にも取り組むこととなった。これまでに7人を採用しており、現在は3人の知的障害のある従業員が働いている。また、退職者もそのほとんどが定年まで勤め上げている。お話を伺った取締役営業本部長の清水広大さん(左)と
製造部白州第2工場製造係長の生出和彦さん2. 取組の内容と効果
本稿は、前出の清水さんと生出さんへの取材にもとづき作成している。
なお、現在、同社における障害者雇用は知的障害者のみであるため、以下の記述は主として知的障害者に関するものである。
(1)採用方法
現在では、毎年、山梨県立あけぼの支援学校や、わかば支援学校の在学生を職場実習(インターンシップ)で受け入れ、その中から、本人側と同社がお互いに合意できた場合に採用している。このように、支援学校との連携を大事にすることで、採用につなげている。
(2)労働条件
同社の雇用形態には、正社員、フルタイム(社会保険・雇用保険加入)、パートタイム(雇用保険のみ加入)、アルバイト(社会保険・雇用保険なし)の四つの区分があるが、あくまで正社員としての採用であり、各労働条件は次のとおりである。
ア 雇用期間:無期
イ 就業場所:工場
ウ 勤務時間:原則としてフルタイム(8時間)
エ 賃金:月給制、昇給・賞与・退職金あり
(3)仕事の内容
主に信玄餅の製造ラインにおいて、餅の充てん作業や清掃(機械の洗浄)作業を受け持っている。
餅のトレイ準備作業の様子 清掃作業の様子
(4)労働環境の整備
これまでに雇用した身体障害のある社員の要望を受け、玄関出入り口のスロープや軒下延長の整備を行った。
(5)労務管理上の工夫
ア 職場内での理解の促進
過去に一名だけではあるが障害のある社員が、いろいろなすれ違いから中途で退職した。それを契機として、職場全体としての障害者雇用への理解を深めるために、社員に対する説明会を実施している。これは、同社が周囲の理解や認識なくして、障害者の採用や定着はできないと強く感じたためであり、現在の定着につながっていると認識している。
イ 安全対策
(ア)安全第一であり、事故防止のため、火や刃物を使う機械の操作(オペレーション)は担当させないように仕事を割り振っている。
(イ)仕事に負担を感じた場合などには障害のある社員から上司へすぐに相談することをルールとしている。上司は本人と相談の上、必要な対応をとるようにしており、例えば勤務時間を6時間から8時間の間で柔軟に変更することを可能としている。
ウ 相談・指導体制など
(ア)配属部には年齢の近い先輩社員を1名配置し、常時相談に乗ることができるようにしている。
(イ)作業手順などで混乱しないように、それぞれの作業について指導担当者を決め、一つ一つステップを踏みながら、仕事を教えていくようにしている。それは、異なる人から、異なる作業の指示が出ると、混乱や躊躇してしまう傾向があるからである。
(ウ)採用直後の勤務時間は一日6時間からスタートし、仕事を覚えながら、慣れるのに従い、8時間にのばすこととしている。
(エ)仕事に慣れるまでの間は、日々の困りごとのヒアリングシートを書き、上司に見せている。それにより、障害のある社員の日々の悩みや不安、疑問に対して、タイムリーに上司から答えを得ることができる。その結果、本人の安心感や信頼感につながり、職務遂行能力及びモチベーション、定着率の向上につながっている。
(オ)必要な社員については地域障害者職業センターのジョブコーチ支援を利用しており、会社とジョブコーチが協力して本人が仕事・職場に慣れるよう配慮している。
エ 社内行事の活用
障害の有無に関係なく、社員旅行や新年会、忘年会などの社内行事への参加を促し、コミュニケーションの円滑化を図っている。
オ その他
勤務先の地域には公共交通機関が少ないため、マイカー通勤を許可することで通勤負担の軽減を図っている。現在の3名は全員が免許を取得し、家族などの支援に頼らず、マイカー通勤している。
(6)取組の効果
ア 作業の効率化
現場の仕事は単純作業が多く、障害のない社員は集中力が続かず、音をあげてしまうことが少なくない。時には退職してしまうこともある。そのような、単純だが大変重要な作業を障害のある社員が着実にこなすことで現場が回っている。もし、彼ら彼女らがいないと生産性が上がらないことになる。そのように、会社にとって必要不可欠な戦力となっている。3人の上司である生出さんの言葉だと「いないと困る」戦力であるとのことである。イ 社内の雰囲気の改善
ベテランの社員とは、あたかも親子みたいな信頼関係を築き、また、障害のある社員がいることで、思いやりのある職場へと生まれ変わった。それが、常に笑顔の絶えない、明るく温かい雰囲気を作り出している。
(7)社内の声から
取材の最後に生出さんからは、次のようなエピソードを聞くことができた。
「慣れてくるに従い、仕事が楽しそうで、明るくなったと感じている。本人達は『仕事が楽しい。1日経つのが早い』と話している。また、ボイスパーカッションや手品を趣味にしている者がおり、社員旅行などの際に披露して、大いに場が盛り上がっていた。ある年、ある社員が都合で納涼会に出られなくなりそうだった時、泣いていた姿も印象に残っている。結局は参加できたのだが、それほど、社内行事を楽しみにし、会社との関係や職場を大事に思っていてくれていたことに胸を打たれた。」
以上の話からは、同社に障害者雇用が定着し、円滑に運用されているかがわかる。実際の取材時にも、障害のある社員が笑顔で明るく仕事をしていたのが大変印象的で、上司との会話や、作業の様子から、障害者雇用が社内に根付き、働きやすい職場であることが強く感じられた。
3. 今後の展望と課題
(1)展望
障害者雇用については、現在行っている支援学校との連携を継続し、採用活動を維持したいと考えている。一方、中途採用は予定しておらず、新卒採用に絞って進めていく予定である。したがって、今後も、職場実習(インターンシップ)を通じて、良い人材であれば採用していく。こうした方法をとるのは、職場実習(インターンシップ)を通じて、お互いに、理解を深めることができ、定着率や社員満足度の向上につなげることができると考えているからである。
(2)課題
障害者が持つそれぞれの特性などへの個別の細かな対応が課題と考えられる。というのも、今後は障害の種類や程度がさまざまに異なるケースの雇用を進めることが予想されるからである。一方で、個人差もあり、ちょっとした出来事、行き違いの積み重ねが、本人や関係者の不平不満につながるおそれがある。そのような事態を防ぐためには、多様な労務管理を実現することが求められる。
具体的には、今以上に障害のある社員一人ひとりの作業における得意不得意、対人関係の状況把握などをベースに、それぞれが意欲を持ってストレスなく働けるよう、画一的ではなく、多様性のある対応を心掛けることがポイントとなると思われる。
(3)障害者雇用に取り組む企業へのアドバイス
障害者雇用だからといって、障害者に遠慮しすぎないことが大切である。それは障害の有無によって特別扱いをしないことであり、具体的には、次のとおりである。
ア 良いところを見つけてほめる。
イ 決してほったらかしにしない。
ウ 「戦力として必要だ」と声をかける。
エ 年次有給休暇の取得を促し、上手にリフレッシュする。
(4)最後に
同社は、「慈愛」という経営理念のもと、社員も含めた人の幸せを大切する企業として経営する中で、自然と障害者雇用にも取り組んでいるという印象を受けた。
障害者雇用のきっかけが、社長自らの、身体障害のある同級生への声掛けからというのもそれを物語っているように思われる。また、ほとんどの障害のある社員が定年まで勤めたという点も、障害者雇用に関する労務管理などが適切であることを裏付けている。
社会保険労務士である筆者が、本事例から得られる同社の障害者雇用に関する労務管理のポイントは次の二点と考えるが、これらは障害の有無にかかわらず、すべての社員に共通するものとも考えられる。
ア 特別扱いはしないが、ほったらかしにせず、一人ひとりの特性に応じて柔軟に対応する。
イ 障害のある社員に対して、「あなたが必要」と期待すること。
執筆者:雨宮労務管理事務所
所長 雨宮 隆浩
アンケートのお願い
皆さまのお役に立てるホームページにしたいと考えていますので、アンケートへのご協力をお願いします。
なお、事例掲載企業、執筆者等へのお問い合わせや、事例掲載企業の採用情報に関するご質問をいただいても回答できませんので、あらかじめご了承ください。
※アンケートページは、外部サービスとしてMicrosoft社提供のMicrosoft Formsを使用しております。