知的障害者の特性を生かし、快適な職場
環境の中で長期雇用されている事例
2019年度掲載
- 事業所名
- 厚生産業株式会社
(法人番号: 120000106081) - 業種
- 製造業
- 所在地
- 岐阜県揖斐郡大野町
- 事業内容
- 漬物の素、米麹の製造・販売
- 従業員数
- 131名
- うち障害者数
- 3名
-
障害 人数 従事業務 知的障害 3名 製品の製造部門での包装・箱詰作業 - 本事例の対象となる障害
- 知的障害
- 目次
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事業所外観
1. 事業所の概要、経営理念、障害者雇用の経緯など
(1) 事業所の概要
厚生産業株式会社(以下「同社」という。)は、岐阜県揖斐郡大野町にある、漬物の素(もと)や米麹の製造会社である。
昭和30年頃、厚生産業の創業者である現社長の父が営んでいた薬局で、近所の方が沢庵漬作りに利用する甘草やウコンを調合して販売し始めたところ、評判が評判を呼び人気商品となった。そのような経緯があり、昭和34年前身の有限会社厚生食品工業を創業、以来地元の「農業協同組合」(以下「JA」という。)から全国農業協同組合連合会を通じて販売され、自宅で作る漬物愛好家に愛され、全国のJA・食品の量販店・スーパーマーケットへ販路を広げていった。現在、当社は年商24億円を超える成長企業である。
(2) 経営理念
社是には、会社の仕事を通じて人間性の確立を目指すこと、お客様へのサービスを通じて心豊かな人間になること、自らの成長と自立を通じて「企業の発展と社会貢献」を行うことを掲げている。また、企業使命には、社会への貢献と生きがいの場作り、経営姿勢は、自然に優しい・人間尊重・積極性の重視としている。さらに、行動指針として、"目的意識を持ち、各自がそれぞれの役割を認識し、常に相手の気持ちに立って考え、行動することを基本に、創造性を発揮し、自らの責任と成長を果たそう"を掲げている。
(3) 障害者雇用の経緯と雇用状況
創業者の家族に知的障害のある人がいたことから、障害者の雇用については採用する前から理解が深く、障害者を雇用することに、何の抵抗もなく障害者を雇い入れたことが、障害者雇用のスタートである。この社会福祉に対する理解と行動は現社長にも引き継がれ、障害者雇用や福祉活動に対するモチベーションが高く、現在も岐阜県社会福祉協議会を通じて、岐阜県内老人ホームなど約100か所に同社製品の甘酒を寄付したり、現社長自ら趣味の楽器の演奏を生かし、仲間と訪問演奏会を行ったりするなど積極的に福祉活動に取り組んでいる。
障害者の雇用状況は、現在3名の知的障害のある社員が製造部門で長期にわたり働いている。各人の概況は次のとおりである。なお、3名とも自宅から自転車で通勤している。
ア Aさん(男性、養護学校中学部卒業後に入社し現在55歳。40年勤続)
現在、漬物の素そのものの製造については、製造機械にて行っているが、Aさんが入社した頃はすべて手作業で、大きい樽に塩や香料・色付の材料などの原料を入れてかき混ぜ、袋詰と箱詰をして製品化していた。作業現場では、当時から10数名をひとつのグループとして組み、協力して作業を行っていたため、Aさんは障害のない社員とともに作業を行ってきた。現在は、原料の投入や混ぜ合わせなどの作業は機械化されているので、機械から出てくる製品はすでに計量して袋詰されている。社員はその後の作業として、袋詰された製品の数量を数え、袋に印字された賞味期限の確認などを行い、箱詰を行っている。3名は製品を入れる段ボール箱の準備、箱の組立から袋詰めされた製品確認から箱詰めまで、機械化できない作業については、ほぼすべてを経験し対応可能となっている。
取材でもAさんからは、「いろいろな作業を経験できて楽しかった。定年までこの会社で働き続けたい。」とコメントがあった。Aさんは、まもなく入社40周年記念の社内表彰の予定となっており、まとまった休暇を取ることを楽しみにしている。
イ Bさん(男性、特別支援学校高等部卒業後入社し現在50歳、32年勤続)
学校在学中から同社で職場実習を経験し入社。現在、製品の袋詰や箱詰作業に従事している。最初は難しい作業もあったが、試行錯誤しながら経験するなかで覚えてできるようになった。知的障害のある人は同じ作業を繰り返し着実にこなすことが得意であるといわれることがあるが、Bさんはまさにそうである。
「間違えずにコツコツと仕事をしていると、周りの障害のない社員から褒められること、それがとてもうれしかった。今は、製品の数(60種類)がたくさん増え、製品数量やパッケージもそれぞれ違うため、覚えることが多いが、今までやってきた経験で、ひとつずつ乗り越えることができた」と、Bさんはインタビューで応えてくれた。
Bさんがここまでに至ったのは、Aさんのところで触れたように、作業を間違えないようにグループ内ですぐにフォローできる体制になっていることも大きな要因となっている。
ウ Cさん(男性、障害者職業訓練校卒業後入社し、現在43歳、26年勤続)
障害者職業訓練校では、箱折の訓練を修了し入社、当初は出荷用の段ボールの作成の仕事から始め、現在は、袋詰・箱詰作業ともできるようになっている。
作業場面1 Aさん(手前)による小袋の表示内容の確認作業
作業場面2 Bさんによる小袋の表示内容の確認作業
作業場面3 Cさんの箱詰作業
作業場面4 Cさんの箱詰の準備作業
2. 取組の内容と効果
(1)取組の内容
先に述べたように、同社の製造部門の仕事は、創業当時から10数名をひとつのチームとし、チームで協力して作業を行うこととしており、現在もそのスタイルである。そのため障害のある社員の周囲にはフォローできる社員がおり、作業で分からないことやできないことがあっても自然と周りの社員が教え、確認しフォローすることで作業手順などを習得できている。このように、障害のある社員と障害のない社員がグループで一緒に行う同社の体制(仕組み)は障害のある社員の作業習得に効果があったと考えられる。これは周りの社員が、ジョブコーチ的役割を果たしてきたともいえる。チームのメンバーが互いに協力しあい、チーム内でコミュニケーションをしっかり取りながら取り組んできたことも障害者の長期雇用の要因になっている。まさに、職場内でナチュラルサポートができている事例である。
一方、会社としても、安全確保の観点から、障害のある社員一人だけでの仕事はさせないこと、危険な機械作業はさせないこと、この2点を一貫して行ってきた。また、障害者本人の意見をよく聞き、できる限り本人の意思も尊重してきた。本人の家族との連携も重視しており、職場で体調面など、気になることはささいなことでも家族に連絡と相談をするようにしている。
さらに、5S活動(職場内の整理・整頓・清掃・清潔・躾)では、本人たちから働きやすさ、動きやすさの検証(意見やアイデアの聞き取りなど)を行った。そこで提起された、商品の移動をより早くできる方法や、効率的な清掃の順番などを、取り入れて改善(導入)したことなどが、Aさんたちの仕事に対する参画意識の高揚、自覚と責任にもつながっている。
(2) 取組の効果
製造部門の社員は40名だが、ベテランの女性社員が15名と多いこともあって、職場の雰囲気はソフトで働きやすい。総務部長も「障害のある社員の家族の理解や周りの障害のない社員さんに助けていただいて本人たちも頑張って仕事を続けている。」と感じていると取材時に話された。
取材では、職場内を見学し、Cさんから仕事や社内の様子を伺ったところ、こちらの質問にはっきりと的確に応え、食品を扱う仕事であること、食品衛生法で白帽子と白制服を着ること、仕事に対する自信などが言葉のはしばしに感じられた。信頼関係に基づくスムーズなコミュニケーションがなされる職場の中でAさんたちが生き生きと働いている姿はとてもすがすがしく感じられた。
経営理念にあるように、漬物の素をはじめとする同社の商品・サービスは、社員の人間性(人間力)を基盤としている。そして、お客様へのサービスと社会貢献を通じて、社員を心豊かな人間に育てていくことを実践しており、障害者雇用もその一環であるともいえる。
Aさんたちから周りの社員に「最近、あそこに新しいお店ができたね」などと話しかけること、逆に周りの社員から話しかけ、話題が広がる、話が弾むといったことも頻繁で、社員が話しやすい職場環境・雰囲気となっている。また、3名の仕事に対する取り組む姿勢は他の社員の刺激・励みにもなっており、人間性(人間力)を高める契機ともなっている。
3. 今後の展望と課題
取材の最後に社長は次のように話す。
「創業者の意思を引継ぎ、これからも障害者雇用を行っていきたい。会社の経営理念の中に社員の『自立』があり、障害のある人ない人に関わらず社会人として自立し、仕事を通じて人間性の成長を図りたい。障害者雇用を継続的に行い、地域や社会のお役に立つように貢献していきたい」。
同社では、今後、漬物・なす漬け・べったら漬けの素を主力に、新たに米麹をはじめとする天然素材からパウダーや肌にやさしいクリームなどの化粧品の原材料を生産するため、目下、新工場を隣に建設中である。今後も麹の機能性向上や汎用性について研究開発し、社員の"人間力"を磨き、食文化の発展や人間の健康について貢献したいというのが社長のビジョンであり、この"人間力"の中に障害者雇用ももちろん含まれている。
Aさんたち3名はいずれも勤続20年以上である。これまでの間に、各人に応じた仕事の設定や教育、働きやすい環境作りを行い、本人たちも懸命に取り組み、周りの社員の協力をえることで、障害の有無に関係なく一人前の社員として立派に成長している。
同社社員の増加に伴い、障害者雇用もタイミングを見ながら採用したいと検討中とのことで、企業が直面する近年の人手不足や社員の高齢化の課題もあるが、同社では今後も障害のある者がいきいきと働くこと、障害者の雇用が継続されていくであろうことを取材を終えて筆者は強く感じた。執筆者:独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構
岐阜支部 高齢・障害者業務課 早野 善雄
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