(1)社内の推進体制
　同社は中規模事業所であり、障害者雇用についても人員面で特別の体制整備は難しい状況にあり、現在、総務人事担当ラインで幅広い業務をこなす中で、次長級社員1名が障害者雇用推進者を、係長級社員1名が障害者職業生活相談員（以下「相談員」という。）を担い、障害者雇用を推進している。
　こうした推進体制の立ち上げ時には、関連のノウハウもなかったことから、まずは、管轄のハローワークへの相談を皮切りに、地域の特別支援学校や障害者就業・生活支援センター（以下「支援センター」という。）に直接足を運び、学校見学、関係セミナーへの参加や相談援助を受けることを通じて、積極的に基礎知識の習得を行った。
　その後、障害者雇用を拡大する中でも、個々の障害者の特性に即して適切な対応を図るため、ハローワーク、特別支援学校、支援センターなど（以下「専門機関」という。）との人的なつながりを大事にしており、密に相談し、随時協力を得る取組を継続している。
　なお、同社では後述するように複数の部署に障害のある社員が配置されているが、障害者雇用に関する社内での横断的な情報共有や意見交換は、職制会議の場を活用して随時行われている。

(2)採用
　採用段階では、特別支援学校の2・3年生の職場実習を受入れ、ハローワークのトライアル雇用や三重県が実施する委託訓練を活用し、求職者が実際に同社で仕事を体験することを必須としている。
　これは、会社側が一人ひとりの特性を理解し、就職後に必要な配慮事項や適性のある業務を把握するとともに、求職者側にも、職場環境や仕事内容を十分に理解し、長期間安心して働き続けられると納得してもらう大事なプロセスとして位置付けているからである。
　また、近年は、障害者の雇用実績が蓄積する中で、ハローワークなどから求職者の紹介を受け、採用に至るケースが増えている。
　さらに、会社として雇用経験のない障害種別の方であっても躊躇することなく、まずは前向きに検討し、採用した上で、専門機関の助言を得ながら、職場定着に向けて様々な工夫を行う姿勢で取り組んでいる。

（3）配置
　障害のある社員の配置については、まず、本人の特性への配慮を重視し、随時、専門機関の助言を受けて決定しており、例えば、聴覚と視覚の重複障害の方については、通常よりも広い作業スペースでより安全性を確保できる配置としている。
　また、特定の部署に偏ることがないように、複数の作業ラインに組み込んだ形で行われているのが特徴である。その上で、日常業務でのサポートは基本的には配属ラインの管理者に委ね、当該管理者が障害のある社員本人とコミュニケーションを密にとり、丁寧に意向確認を行いながら、必要な配慮を行っている。各管理者は、10名から20名程度を統括し、ライン全体を管理する業務の自然な流れの中で障害のある社員に目を配る形となっている。
　一方で、総務人事ラインは、障害のある社員本人や各作業ラインで困りごとが生じた際の相談の受け皿となり、外部の専門機関などへ必要な照会を行い、対応策の提示、社内調整などを行うなど、できる限りサポート役に回っている。
　例えば、障害のある社員から、「周囲の音が気になり、仕事に集中できないため、仕切りを作って欲しい」という要望が出された際には、ラインの管理者からは、仕切りの設置は業務の流れを妨げるため困難との見解が示されたことに対して、総務人事ラインの相談員から、本人が集中できるように耳栓をしてもらう対応が提案されている。この対応であれば、業務上の支障もないとの結論に至るとともに、耳栓は相談員ではなく、配属先の管理者から本人に手渡す形が採られている。
　こうした配慮を各ラインの管理者が直接行うことで、本人には、会社がチームでサポートしている姿勢が伝わり、安心して仕事に臨めるとともに、管理者側にも、実践の積み重ねにより、管理者の心構えを促すことができている。
　また、知的障害のある社員が、昼休み終了後になかなか職場に戻ってこないという事例が発生した際には、上司が頭ごなしに注意するのではなく、本人の障害特性により特別な事情がある可能性に配慮し、相談員が、以前、本人の支援を行っていた支援センターに相談し、センターが間に入ることで、本人から休憩後の戻り時間が遅れていた理由を聞き取り、関係者が共有することで周囲の社員の理解も得ることが可能となった。
　

（4）事例から（担当業務と配慮）
　次に同社における就労中の2事例を紹介する。なお、両事例とも知的障害のある社員である。　
ア．Aさん
　勤続3年目のAさんは、自動販売機内でペットボトルや缶を収納・保持するラック部分の製造工程で板金プレス作業を担当している。Aさんは同社入社前から、同業務の経験を有しているが、当初は、職場環境や仕事の進め方の変化が影響し、職場内での意思疎通がうまくできず、同僚とのトラブルが生じたこともあった。
　その際、ラインの管理者と総務人事ラインの担当者がAさんのヒアリングを丁寧に行うことで、Aさん自身でトラブルの原因を特定するとともに、反省点を自覚することにつながった。他方、周囲の職員に対しては、改めてAさんの障害特性やトラブルの原因を説明し、Aさん側の気持ちを理解するとともに、今後の対応方法を学ぶことで、現在では双方が安心して仕事することが可能となっている。

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　　　　　　　　　　　　　　　　Aさんの板金プレスの様子　　　　

　
イ．Bさん
　同じく勤続3年目のBさんは、自動販売機内で商品をラックから取出口に送り出す際、その落下速度を緩和する部品へのバネ付け作業を担当している。
　Bさんは、コミュニケーションが苦手である一方、体力に優れ、また、黙々と作業することが得意である。
　入社当初は、こうしたBさんの特性を踏まえ、日常的なコミュニケーションの方法として、Bさんに、日記のように簡単なコメントをノートに書き、当該管理者へ渡してもらい、管理者側からは、それを踏まえて、随時声掛けなどを行う形で、コミュニケーションを図る工夫を行っていた。
　また、作業内容については、入社当初は、単純な手作業のみであったが、周囲の社員のフォローを受けながら関連作業についても習得し、現在では、バネ付け機械のセッティングや、エラーで機械が停止した際の簡単な復旧作業も自身で行うことが可能となっている。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　
　
　　　　　　　　　　　　　Bさんの板金部品バネ付け作業の様子

(5)全体的な特徴
　筆者が感じた同社における障害者雇用の特徴は次のふたつである。
　まず、実施体制について、総務人事ラインと配属先のラインとの役割分担と連携にもとづいて対応されていること、また、配属先を特定の作業ラインに集中させず、複数の作業ラインに分散させていることである。これにより、特定部署の担当者に責任や対応が負わされ、疲弊するようなことがなく、また、障害者雇用が会社全体の共通の課題で、どの部署にとっても身近なテーマであるとの認識が浸透することにもつながっている。
　次に、個々の課題解決に向けた考え方、進め方に関することで、具体的には専門機関と連携しながら丁寧な対応を慎重に行っていることである。
　いままでの同社の雇用事例においては、障害のある社員の言動などで周囲が理解しにくい変化が生じ、困りごとや解決すべき課題に直面することがあったが、そうした際には担当者が拙速に判断せず、専門機関との相談や連携を図りながら対応している。専門機関は疾病や障害、支援事例などについての知識をもち、障害者本人やその家族との関係を有しており、相談や助言などの連携・協力をしていくことは大変有効であると感じているとのことである。
　以上のような体制や課題解決に向けた考え方などについては、障害のある社員へも伝えられており、彼らが安心して働き続けていける職場環境につながっていると思われた。