できることからはじまった
～みんなの笑顔をお菓子でつなぐ～
- 事業所名
- 有限会社ラポール
（法人番号: 4500002010422） - 業種
- 製造業
- 所在地
- 愛媛県松山市
- 事業内容
- 洋菓子製造・販売
- 従業員数
- 48名
- うち障害者数
- 2名
-
障害 人数 従事業務 肢体不自由 1名 外装シール貼り・箱詰めなど 発達障害 1名 仕込み業務 - 本事例の対象となる障害
- 肢体不自由、発達障害
- 目次
-
事業所（本店）外観1. 事業所の概要、障害者雇用の経緯
（1）事業所概要
有限会社ラポール（以下「同社」という。）は2005年に創業し県内では松山市を中心に、ケーキ・焼き菓子製造販売の「パティスリー ラポール」を5店舗展開している。同社は障害者の雇用に留まらず、障害者の支援活動にも創業時より積極的に取り組んでいる。ホームページに掲げられている同社の経営理念は、「お菓子作りは笑顔づくり 豊かさは心に橋を架ける」である。お菓子を通じ、それを作る人・買いに来る人・食べる人みんなが笑顔になっていくという場面は、誰しも思い浮かべることができるだろう。
白と明るいターコイズブルーを基調とした店内には、ケーキ、シュークリームをはじめ、「スリール」というオリジナルのチーズケーキや焼き菓子などが多数並ぶ。常に人を笑顔にすることを考えた商品を提供している。
本店の内部
（2）障害者雇用に取組むきっかけと支援活動
代表取締役である橘憲一郎さん（以下「社長」という。）の障害者雇用への取組みは、以前に勤務していたスターバックスコーヒージャパン株式会社がサポーターを務めていた「2005年スペシャルオリンピックス冬季世界大会」（知的障害のある人を対象とするスポーツの大会）に関わった経験がひとつの原点となっている。ひたむきに頑張る選手と、それを応援する家族の姿に非常に感銘を受けたという。
その後同社を設立し、事業を軌道に乗せるため苦心していた頃に、東京の恩師の自宅に飾られていた自閉症の子供が描いた絵に出会う。自然と涙が溢れるほどその絵に引き込まれたという社長は、この絵のように飾らずありのままでいたいと、自社のケーキは余分なものを加えず素材の良さを引き出したものにしようと方向性を定めるとともに、現状で自分が取り組めることから、障害者の支援活動を始めていくことにした。
まずアメリカで事例のある「画材バンク（注1）」が頭に浮かんだことから、早速店舗に画材を提供してもらうボックスを設置した。ボックスに集まった画材を障害者施設へ寄付し、その施設利用者が描いた絵を店舗や市内の教育機関の文化祭で展示するなど、同社を拠点として生徒や保護者をはじめ、広く一般に障害者理解の端緒を開いている。
またこれらの絵は、障害者施設で作られる愛媛県特産のはだか麦を使ったクッキーのラベルとして採用されており、「エイブル（可能性のある）クッキー」という名前で同社の店舗で販売している。（注1）家庭で眠っている絵具・色鉛筆・スケッチブックなどの画材を障害者施設に寄付することで、障害者の創作活動を支援する活動
店内の画材バンク2. 取組の内容と効果
(1）障害者雇用の取組み—事例からー
同社には現在2名の障害のある社員が勤務している。次に両名への取組の概要を紹介する。
ア Aさんについて
勤続9年になるAさんは、病気による肢体不自由の障害があり、郊外にある本店で主に焼き菓子の外装のシール貼りや検品作業を行っている。
当初は朝10時の始業から4時間の勤務であったが、夜よく眠れないなどの理由により、始業時間からの勤務では支障が出たため、勤務を13時からの始業に変更することで肉体的な負担を減らすことができた。
Aさんは几帳面な性格で、細かい作業を念入りに行うことから作業効率は決して良くないが、シールを貼りながら異物の混入がないか、不良品がないかなども併せて注意深くチェックをしている。勤務日には1箱100～140個の商品を3ケース分程度責任を持って仕上げている。
通勤は家族による送迎だが、作業場に車いすを常備しており、移動に支障がないよう配慮されている。
Aさんによってまっすぐに貼られたシール
Aさんの作業スペース
イ Bさんについて
今年の春に、障害者職業訓練施設からの紹介で入社したBさんは、発達障害があり、周りとコミュニケーションを取ることが苦手である。お菓子作りが好きということで、洋菓子の仕込みを担当しているが、製菓担当社員が多く出入りする時間帯は本人の負担になるため、当初は人が少なくなる18時から22時に作業を行っていた。
その都度店長や社長が立ち会ってきたが、元々19時が閉店のため、社員の残業が増えたり、社長のスケジュールとの調整が付きにくいという問題が発生した。そこで、継続可能なフォローができるよう、パソコンや手書きの絵や文字を使って手順や必要な作業を分かりやすく伝えるように工夫し、困ったことがあれば店長はじめ周囲のスタッフが親身になって相談に乗るなど、Bさんに寄り添ってきた結果、現在では時間差ではなく通常の終業時間までに業務を終えられるようになってきた。
店内から見たキッチン（Bさんの就業場所
キッチンの様子
（2）周りの社員に対する取組み
同社は「まつやま働き方改革推進プロジェクト」認定企業（注2）であり、障害者雇用のみならず、職場環境の改善にも積極的に取り組んでいる。
「心の教育」として、例年、社員がスタッフとして参加している「小児慢性特定疾病のある子どもときょうだいのためのお泊り会」というキャンプでは、お菓子教室を担当している。こういった活動に参加することで、人に笑顔をもたらす「パティシエ」という仕事が持つ「力」を再確認し、障害のある同僚と共に働く現場の社員の意識向上につながっている。
障害者雇用に際しては、勤務時間の変更や、適した仕事への配置といったことから柔軟に対応してきた。「まだまだ考えながらですけど」と社長は言うが、周りの社員との「心のバリアフリー」化に努力をし、社員間の調和に配慮をしている。
（注2）松山市が官民一体となって進めている働き方改革プロジェクトで、減少する労働人口問題に直面する中で、障害者も含めた多様な人が働きやすい環境を整えることで企業の業績もアップさせようという狙いがある。「チャレンジ企業」として6か月のコンサルティング期間後、下記の①～③を満たすことで働き方改革の「モデル企業」となる。
①まつやま働き方改革推進プロジェクトが掲げる働き方改革の本質を理解していること
②継続的に働き方改革を進めていること
③トップが働き方改革についてコミットしていること（公の場で発表いただきます）
（※以上、「まつやま働き方改革推進プロジェクト」ホームページより抜粋）
3. 今後の展望と課題
（1）新たなステージ
同社では、社長の想いに共感している児玉取締役が率先して行動し、近々松山市の中心部に近い店舗の敷地に「セントラル・ラボ」を建築する計画がある。計画では、Aさんの家族のネットワークなども活かし、支援団体の協力を受けながら、障害者や高齢者が集まって洋菓子の製造ができる場にしたいという。「人間力が高い」と社長が敬意を払う高齢者たちが障害者を見守り、柔軟な勤務体制でお互いが助け合いながら作業していくことを目指す。
障害者も作業がしやすくなるように、設備投資をして新たな機械を導入する予定である。いくつかの商品をここが製造し、全店へ配送することになるため、障害者が担当できる作業が内容・量ともに増え、新たな雇用も見込んでいる。
支えられる立場になることの多い障害者が、このラボの商品を供給することで店舗を支える立場となり、障害のない社員とともに同社を支える存在になってくれれば、と社長は語る。
(2)最後に
インスピレーションを与えてくれた一枚の絵がきっかけとなり、「今の自分でもできることから始めようと思って」と障害者支援の始まりを語った社長であるが、10年以上にわたる支援には、確固としたモチベーションと情熱の維持が必要である。色とりどりのお菓子にはその思いが込められていると筆者は強く感じた。
社名にある「ラポール」ということばは、心理学用語で人と人の心が通い合い相互に信頼が築けている状態をいうそうだ。そのことばを掲げる同社が、障害のある社員と障害のない社員が互いに理解し支え合って働ける場として、今後更に発展していくことを期待したい。
執筆者：独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構愛媛支部
高齢・障害者業務課 小笠原 美幸
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