障害のあるスタッフと患者様との信頼関係がある職場作り
- 事業所名
- 医療法人和仁会 和仁会病院
(法人番号: 3310005001364) - 業種
- 医療・福祉業
- 所在地
- 長崎県長崎市
- 事業内容
- 総合病院
- 従業員数
- 368名
- うち障害者数
- 5名
-
障害 人数 従事業務 視覚障害 5名 理療業務 - 本事例の対象となる障害
- 視覚障害
- 目次
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事業所外観
1. 事業所の概要、障害者高雇用の経緯
医療法人和仁会 和仁会病院(以下「同法人」という)は、総合病院として昭和48(1973)年に開業した。従業員数は、現在、368名となる。
同法人は、同法人の基本理念である「私たちは病む人の身になり、医療は、真心でいたします」に基づき地域に根ざした医療を追求し邁進してきている。またそれを実現するために診療体制の充実、看護・介護スタッフの充足、リハビリテーションサービスの拡充を積み重ねてきている。
診療科として内科、外科、整形外科、泌尿器科、リハビリテーション科、放射線科、循環器内科、脳神経外科、糖尿病内科、腎臓内科、人工透析内科、リウマチ科などがある。障害者雇用は、昭和51(1976)年に、高齢者に特有な慢性疼痛や筋の過緊張を緩和するため鍼灸・マッサージのサービスを拡充したいという当時の理事長の思いと、法人として障害者雇用を進める必要性とがマッチングすることにより始まった。そのため、リハビリテーション科に物理療法室を開設し、視覚障害のある鍼灸・マッサージ師の雇い入れを始め、その後も継続して採用を進めており、同法人の障害者の実雇用率は現在、3.26%と高い水準にある。
2. 障害者雇用の取組
(1)採用について
物理療法室の開設に合わせ、まず障害のない鍼灸・マッサージ師(以下「Aさん」という。)を採用し業務を開始した。Aさんは鍼灸・マッサージ業務(以下「理療業務」という。)を行いながら、視覚障害のある者の採用にも関わり、盲学校の先生との情報交換などを担当した。同法人では盲学校の卒業生を順次採用し物理療法室に配属してきた。現在、物理療法室の理療スタッフは6人であり、うち5人が視覚障害のあるスタッフであり全員が鍼灸・マッサージ師である。障害状況は全員が弱視である。なお、本稿では視覚障害のある者について記述していることから、特に説明がある場合を除き、「障害」は「視覚障害」を指すこととする。
同法人で新たに障害者の採用を検討する時は、Aさんと盲学校の先生との間で情報交換がなされ、同法人はそうした情報を参考に、募集・採用を進めている。その際の採用基準としては、鍼灸・マッサージの資格を有していること、実際に鍼灸・マッサージの仕事ができることである。
同法人への応募を希望する方に対しては、施設見学、実際の作業の説明などを行い応募者の仕事環境の理解を深めている。
(2)担当業務と配慮事項など
配属先がリハビリテーション科・物理療法室であることから、スタッフは各人が持っている資格に応じた業務を行なうこととなる。
仕事の分野としては、開設当初は医療分野でのサービス提供を主としていたが、平成12(2000)年に介護保険制度がスタートしてからは、通所リハビリテーションでの利用者に向けた介護サービスも提供することとなり、同法人内での職域は拡大している。
採用後の教育や配慮については、理療業務のための資格、技能はすでに有していることから、それ自体に関するものはあまり必要としていない。
他方、仕事の周辺部についての配慮などは以下をはじめ様々に行われている。
業務マニュアルは、活字を大きくするなど見やすくしたものを用意しており、スタッフは業務マニュアルを活用して業務に従事している。各人の障害の程度により、不得手な作業がある際には、お互いカバーしあっている。自分たちでできることはできるだけ自分たちで解決していくというのが職場の基本方針である。
理療業務は、医師の処方箋に基づいて交通事故の外傷、首の捻挫、痛みを伴う患者への鍼灸・マッサージなどの施術が行なわれる。
患者によっては、金属アレルギーがあったり、糖尿病の患者であればホットパック(体を温める器具)を長時間当てることにより低温やけどを引き起こすなどの注意を要する患者もいて、それらの患者に対しては医師から病態に応じた治療時の禁忌指示が出る。障害のあるスタッフは、その指示を上司から口頭で受け、その内容を手書きでメモして各自のカルテを作る。そのカルテを上司が取りまとめて確認しスタッフ全員に周知している。これにより事故などの発生を防いでいる。
障害のあるスタッフは、患者に対しては担当制ではないため、患者全員の施術を行なっており、患者一人ひとりの治療部位、施術内容を全て把握している。
施術室には施術用のベッドが8台設置してあり、同時に複数の患者への施術を行なえるように機器を揃えてある。
高齢の患者に対しては、ベッドへの移乗時に転倒する危険があるため特に全員で注意を払っている。
毎日の業務報告については、障害のあるスタッフが何人の患者に応対したかなどをお互いに確認し合い、自分たちで業務日誌を作成している。業務日誌への記入の際は、細かい記入は求めず、ルーペを使ってレ点チェックで簡単に済むように改良された様式を使っている。また、取りまとめを行なっているスタッフが聞き取りなどを行い業務日誌の内容を補完している。
(3)サポートについて
障害のあるスタッフに対する仕事上のサポートは、前述のAさんが担当している。Aさんは約40年間勤務しており、事務処理、苦情の処理、教育指導(お客様への接遇他)などのサポートを行なってきた。同法人では退職者も含めこれまでに10名の障害のあるスタッフを雇用しており、そうした経験を踏まえ、障害雇用に関する経験・ノウハウを積み重ねてきた。
現在、Aさんは非常勤のスタッフであるが、今でも障害のあるスタッフに目配りし、悩みを聞くなどのサポートを行なうなど、同法人における障害者雇用を支える役割を担っている。
仕事以外のサポートとしては、同法人が職員のために独自に送迎バスを運行しており、障害のあるスタッフは、全員が送迎バスを利用し通勤できるようにしている。また、送迎バスは決まった時間での運行であることから、障害のあるスタッフが仕事の都合で送迎バスに間に合わないときは同じ方面に帰宅する障害のない職員が自家用車で送るなどのサポートが行なわれている。
(4)人間関係など
職場の人間関係については、良好である。同じ職場で同じような障害のあるスタッフが働いているが、同じ立場の仲間であるのでお互いに気遣いがある。お互いの生い立ち、障害に対する不便さなど共感しているので非常に仲がいい。コミュニケーションもよくとれている。先ほど退職者があると述べたが、退職理由は開業が多い。同法人で働くことで自信をつけて開業したものである。ほかにも結婚退職などがあるが、同法人の就労環境が原因で辞めたという事例はない。
3. 事例から
リハビリテーション科で働くBさんは40歳台で勤続21年である。2年前に職場結婚をしている。盲学校在学中にあん摩マッサージ、指圧、鍼、灸の資格を取得し卒業。卒業と同時に同法人に入職。
視覚障害の程度は、小さな文字などはルーペを使って判読でき、人の顔を見て誰かは判別できないが普段廊下を歩いていて人とぶつかることはない程度である。
勤務は週5日で、1日の勤務時間は7時間10分。第1、3、5土曜日が半日出勤となっている。通勤は、自宅から同法人の通勤バスが通うところまで公共交通機関を利用している。通勤に介助は必要としていない。
Bさんが仕事場で苦労したことは、弱視であるために患者の名前とどんな治療をしている患者さんなのかが一致しないことである。障害のないスタッフは、名前を聞いて顔を思い浮かべどんな治療をしたかなどを思い出せるが、障害のあるスタッフは名前を聞いても誰であるかを判別することが難しい。これは、病院の患者から見るといつまでも名前を覚えてくれないことになり、迷惑をかけてしまうことになる。対策として周りのスタッフの助けや、声の特徴、仕草の特徴などを覚えるなどの努力を行なっている。
病院の外での活動として、全国の鍼灸・マッサージ師の資格を持って医療機関に勤務している障害のある方々で構成する団体に所属し、資格、技術、自己研鑽と、各方面からの情報交換を行なっている。
Bさんは、患者との会話を通じて患者の痛みとか、高齢の患者の悩みを聞くなどにより日常の中で信頼関係を築き、患者が継続して病院に来て下さる時に仕事の達成感を感じている。
Bさんは、患者皆から親しまれていて、これからも、できる限りこの仕事に携わって患者さんの心と身体の痛みを軽減して喜んで頂けるような治療を行なっていきたいと考えている。
Bさんの施術場面4. 今後の展望と課題
同法人における障害のあるスタッフの雇用は、現在、リハビリテーション科だけであり、他の部署での採用はこれからである。清掃作業やベッドメイクの補助などといった業務での採用を今後は考えていかなければならないと考えている。そうした取組のひとつとして、まだ採用には至っていないが、2年前から身体障害以外の障害者の受入に向けた検討を特別支援学校を交えて行なっている。
同法人としては、指導する相談窓口、障害のあるスタッフを配属する部署の理解、業務の範囲、作業をどこまで細かく整理できるのかなどの摺り合わせをいまから行なわなければならず企画段階であるが、テストケースとして実現してゆきたいと考えている。
執筆者:独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構長崎支部
高齢・障害者業務課 麻生 香
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