支援機関を活用して職場定着を進めた事例
- 事業所名
- 新明電材株式会社
(法人番号: 7030001004387) - 業種
- 製造業
- 所在地
- 埼玉県さいたま市
- 事業内容
- 電気工事材料等の電設資材卸売業
- 従業員数
- 966名
- うち障害者数
- 17名
-
障害 人数 従事業務 肢体不自由 3名 商品小分け、ジャンコード貼り作業 知的障害 8名 商品小分け、ジャンコード貼り作業 精神障害 6名 商品小分け、ジャンコード貼り作業 - 本事例の対象となる障害
- 肢体不自由、知的障害、精神障害
- 目次
-
事業所外観
1. 事業所の概要、障害者の雇用状況
(1) 事業所の概要
新明電材株式会社(以下「同社」という。)は、電設資材総合卸売業として昭和44(1969)年、埼玉県大宮市(現さいたま市)に設立した。電設資材とは、電線や電線管付属品、高圧機器等、生活に欠かすことのできない電気に関する様々な資材をいい、住宅や商業施設、公共施設などのあらゆる建物の建設に利用されている。
昭和63(1988)年4月にさいたま市内に本社屋を完成・移転し、平成25(2013)年12月に流通の拠点となる物流センターを増床、本社を物流センター内に移転した。現在は関東を中心に1都11県に80以上の拠点を構え、取引先は関東周辺約9,000店にのぼり、電設資材のベストパートナーとして躍進を続けている。
会社方針は「業界で1番の会社を創る」。業界で1番を目指し、人事方針としては「業界で1番働きたい会社の実現」をスローガンに掲げている。
本稿では、同社の障害者雇用の取組について、同社管理部人事担当の菅野純一部長への取材をもとに紹介する。
(2)障害者雇用の経緯
平成21(2009)年に物流センターが完成したときに初めて障害者を採用したが、当時、障害者の雇用管理は物流センターの現場に任されており、会社としての障害者雇用に関しての方針やルールが確立されていなかった。会社規模が大きくなるにつれて企業としての社会的責任・地域貢献を意識し始め、障害者雇用を進めることも地域貢献のひとつと考え、経営陣から内部統制の一環として障害者雇用を推進していく方針が示された。
取組を進めるにあたり、社員に対して「障害者の法定雇用率制度」といった基礎知識の教育から始め、社内全体に障害者雇用に関する意識を浸透させてきた。
(3)障害者の雇用状況
障害者の雇用状況は、身体障害者は平成21年に初めて採用し、 現在3名(うち 1名は重度)を雇用している。また知的障害者は平成23年に最初の1名を採用し、 現在8名(うち 4名は重度)を、精神障害者は平成22年の2名採用から始め、現在 6名となっている。
配属先は主に大宮営業所の特販事業部で、物流工程のうちの一部の業務を担当している。その他、障害者への十分なフォロー体制や職場環境を整えられる営業所を選定して数名配置している。
(4)障害者の業務・職場配置
同社に勤務する障害のある社員は様々な業務に配置されているが、ここでは最も多くが配置されている大宮営業所の特販事業部での担当業務を紹介する。
特販事業部で勤務する障害のある社員は現在14名。2チーム体制に分かれ、商品を小分けして袋詰めにする作業や、商品を入れた袋などにジャンコード(商品識別番号等が記載されたシール)を貼る作業などを行っている。小売店で販売されている袋詰めにされた部品などをイメージしてもらえると分かりやすいだろう。商品の種類も多く覚えることが大変だが、それぞれ数を確認しながら正確に早く袋に詰めていき、丁寧にシールを貼っている。
2. 取組の内容と効果
経営陣からトップダウンで障害者雇用を推進していく方針が示されたことをきっかけに、障害者に配慮した雇用のモデルケース作りに取り組んだ。以下では、その取組の一部を紹介する。
(1)募集・採用時の工夫
同社では障害者の採用にあたり、就職希望者にはまず職場見学と面接を実施している。
採用時に重視しているのが、職場見学で実際に職場を見た際にどのような感想や考えをもったかということである。そのため、職場見学時には、実際に働く場所だけでなく休憩所なども必ず見てもらう。そうすることで職場の雰囲気を肌で感じてもらい、本人のやりたいことに合っているか、自分が働いている具体的なイメージを持つことができるかなどが重要と考えている。また、働くためには、家族に理解があるかどうかも重要だと考えているため、必要に応じて家族にも見学いただき、同社で働くことへの理解を深めていただくようにしている。
面接においては、職場見学の感想などに加え、障害状況を踏まえてどの業務が適しているのかを十分にヒアリングして採用の可否、配属先を決めている。さらに個人の体調や状況に応じた柔軟な勤務条件で雇用している。例えば、基本的な勤務条件は週5日、一日8時間勤務であるが、週3日、一日6時間勤務の社員もいる。休憩時間についても、必要な社員については通常よりも長く設定している。また、採用後も体調の変化に合わせて、本人や就労支援センター、家族などとも相談のうえ、柔軟に勤務条件を変更できる仕組みになっている。薬を変更したタイミングで勤務時間を変更した方などもいる。
このように、柔軟な勤務条件を個々に設定することによって、障害のある社員の働きやすい環境を整えているため、雇用のミスマッチが少なく定着率も良好である。
(2)就労支援機関との連携などにもとづく指導、相談体制など
障害者雇用を始めた当初は社内に障害者雇用に関する知識を持つ者がおらず、十分な対応(指示・指導、労務管理など)ができているといい難かった。そこで、人事担当者が適切な対応の実現に向けた専門機関の協力や支援を得るためのリサーチを重ね、その結果、ある就労移行支援事業所(以下「支援事業所」という。)の協力を得ることができた。
まず支援事業所からは障害に関する知識の豊富な専門の支援員(以下「支援員」という。)の派遣を受け、社員向けの研修会を開催した。また、支援員が実際に障害のある社員が働いている部門を訪ね、障害に応じた職務の選定や指導法などに関する助言を得た。
特に支援事業所の利用者についてはそれまでの支援経過などを踏まえた個別の支援が行われた。具体的には、支援員が障害のある社員の担当業務を現場でよく理解し、障害特性などに応じた教示方法やチェックすべき点などを同社の担当者に伝えるとともに、障害のある社員へのフォロー(業務指示への補足説明、理解の程度や感想の確認など)を行った。
このように支援員が具体的にかかわることによって、個人の障害特性や性格を踏まえた適切な指導ができるようになった。例えば、作業ミスをしたときに叱ると極端に落ち込んでしまう社員に対してどのように声をかけたらよいか、また、作業が慎重になりがちな社員に対してスピードを重視してもらいたい場合にどのように伝えたらよいか、といった日々の細かな指導の仕方についても支援員のアドバイスを得ることができた。
障害のある社員とともに働く同僚にとって、業務上の適切な指示の仕方、コミュニケーションのとり方、雇用管理に関する助言を得られることで安心して仕事ができるし、障害のある社員にとっても自分を支援し、何かあったときに相談できる人がいることは安心感につながった。
また、障害のある社員間でのトラブルが発生することもあるが、支援員が関わることで状況を正確に把握し、会社と連携することで、例えばトラブルの当事者たちの就業場所を離すことで解決するなど、大きなトラブルになる前に必要な対応がスムーズにとれるというメリットもある。そうした積み重ねにより、障害のある社員同士のコミュニケーションも良く、相互に助け合える環境となり、令和元(2019)年からの取組であるが、チームに障害のある社員のリーダー、サブリーダーを配置するといった業務体制を構築できるまでに至った。
(3)勤務状況・体調把握と柔軟な勤務条件の設定など
様々な障害・疾病のある社員の継続的・安定的な就業には、勤務状況や体調の把握とそれに応じた対応が重要であると同社は考えている。
同社は物流センター内に本社機能を持ち、物流センターと少し離れた場所に、障害のある社員が多く勤務する大宮営業所が設置されている。建物が別であることもあり、以前は現場(大宮営業所)と人事部門との情報共有が十分でないことがあった。そのため、障害のある社員の勤務状況などについて迅速な情報共有ができずに対応が遅れたこともあった。しかし、現在は、勤怠情報をクラウドで管理するシステムを構築し、毎日、現場で記録された勤怠情報を人事部門のパソコンで見ることができるようになった。人事部門の社員は勤怠状況をシステムで随時確認し、休みが増えたような社員があれば様子を見に行って声かけを行い、迅速で丁寧な対応が可能となった。また、必要な社員については、勤怠情報を元に支援員と障害のある社員との面談を月1回実施している。面談結果は現場の管理職である統括管理者とも情報共有しており、状況に応じた対応に役立っている。
先に述べたように同社では雇用契約(勤務条件)を柔軟に変更できる仕組みにしているので、勤怠状況や面談などの状況から、体調などに課題があれば本人や家族と相談のうえ、勤務日数や勤務時間を減らすなど、勤務条件を変更している。減らすだけでなく、もっと働くことができるようになった場合には、勤務日数を週3日から4日や5日に増やしてしばらく様子を見るなど、無理がないかに注意を払いながら、柔軟な対応をとっている。
以上のような取組、システムがあることは、障害のある社員にとっても相談のしやすさや安心感につながっている。その効果もあってか、障害のある社員のメンタル不調や体調不良による長期休暇といった事案はほとんど発生しておらず、現場の戦力となっている。
3. 今後の展望と課題
同社は、以上の障害者の雇用及び定着に係る取組が評価され、令和元年度の独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構の障害者雇用優良事業所表彰において理事長努力賞を受賞した。
今後も障害者雇用を推進するため、現在は主に大宮営業所特販事業部での商品仕分け作業などへの配置にとどまっているが、さらに広い地域から多くの障害者を雇用し、より多くの業務・部署への配置を展開するべく他部門での障害者雇用に取り組み始めた。まずは本社の管理部門への配属を目指し、さらに物流センターの他部門や各営業所への配置を目指している。
4. 最後に~障害者雇用を検討している事業所へのアドバイス~
最後に、取材にご協力いただいた菅野部長から、これから障害者雇用に取り組む事業所へのアドバイスを尋ねた。
「障害を意識しすぎて雇用に消極的な企業もあると思う。しかし、当社が障害者雇用を進めてきたうえで感じたことは、障害とは人それぞれの個性と捉えることも1つの取組み。特別な対応をする必要は無く、過剰に身構える必要も無い。障害がない人と同様に相手を思いやって接するだけでよい。
私たちも以前は、言葉をダイレクトに伝える職人気質の言葉遣いをするような企業風土があった。しかし、障害者雇用を進めることによって、社員への教育を進めていくことと、実際に障害のある社員と接する機会が多くなったことにより、日常会話やその他の場面で、障害の有無に関係なく相手を思いやった言葉遣いをするように社員が変わってきた。
これから障害者雇用を進める事業所の方においては、障害者に対して過剰な特別扱いをする必要は無い。心を開いて話せば伝わる。相手を思いやる心を持って接することが安定した雇用につながると思う。そしてそれは障害の有無は関係ない。
障害の有無を問わず、誰もが働くからには『おもしろさ』『達成感』を感じて働いてもらいたい。それが当社の人事方針である『業界で1番働きたい会社の実現』でもあり、人材スローガンに掲げる『思いやりの心を持って自ら考え行動できる人材の採用と育成』でもある。」
執筆者:独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構
埼玉支部 高齢・障害者業務課
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