雇用者数を追うだけではなく、
長期的な雇用を前提にした取組が重要
- 事業所名
- ANA関西空港株式会社
(法人番号: 2120101044155) - 業種
- 運輸・物流業
- 所在地
- 大阪府泉佐野市
- 事業内容
- 関西国際空港における空港オペレーション業務に関する総括管理・統制業務など
- 従業員数
- 1,066名
- うち障害者数
- 22名
-
障害 人数 従事業務 視覚障害 1名 制服管理 聴覚・言語障害 1名 制服管理 肢体不自由 10名 搭乗手続き、グランドハンドリング(航空機の誘導等)、事務 内部障害 5名 事務、グランドハンドリング、オペレーションサービス 知的障害 2名 事務、現場業務 精神障害 3名 事務、現場業務 - 本事例の対象となる障害
- 視覚障害、聴覚・言語障害、肢体不自由、内部障害、知的障害、精神障害
- 目次
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事業所外観
1. 事業所の概要、障害者の雇用の経緯
(1)事業所の概要
大阪府の南に位置する泉佐野市にある関西国際空港。ANA関西空港株式会社(以下「同社」という。)は、その関西空港を拠点に空港地上支援業務を行っている。会社設立は、平成24(2012)年4月。主な業務は次のとおりである。
・空港オペレーション業務に関する総括管理・統制業務
・航空旅客の搭乗に関する手続き及び案内業務
・航空機の誘導、けん引及び旅客搭乗に関連する設備の取扱
・航空貨物・航空手荷物・航空郵便物・客室用品の取扱
・航空機の整備補助
・航空機および空港内における保安・警備業務
・車輌整備業務
・その他付帯業務など
(2)障害者雇用の経緯
初めに、総務部人事課の中谷友巳マネージャーにお話をお聞きしたので、その内容を記載する。
なお、同社の障害者雇用は総務部人事課が中心となって進められている。
過去、同社では、法定雇用率達成のため、人数を追いかけて採用していた時期がある。しかし、数字の達成のためだと定着率が良くなかった。業務の切り出しや、受け入れる側の環境整備が見いだせない状況下で、人数だけを追いかけてもどうなのかということが、3、4年前に課題として顕在化した。
障害の有無にかかわらず、社員一人ひとりの雇用をどのように本来考えるべきかという原則をしっかり意識し、会社として雇用に対する考え方を改めた。そのタイミングで障害者職業生活相談員資格認定講習の受講を促し、業務の切り出しのあり方を検討するなど、長期的な雇用を前提にした取組を開始した。
障害のある社員一人ひとりについて、配慮はしっかり行うが、仕事に求める成果については、他の社員と同じものを求めていくという基本線を意識した上で、実雇用率の向上を追うだけではなく、一緒に働いて楽しく活き活きと活躍する人を雇用することを基本としてきた。
会社全体としても、徐々にそういう考え方が各部門に浸透してきて、障害者の受け入れに積極的な部門が増え、かつ、長く働く人も増え、近年障害のある社員数が非常に増えてきた。会社から呼びかけたわけではないが、同社が障害者雇用に理解のあることが社内で理解されるにつれ、中途障害などで障害者手帳を取得した社員からの連絡や相談がされるようになってきた。
インタビューに答える中谷マネージャー(左)2. 取組の内容と効果
(1)取組の内容
ア 募集・採用
募集・採用については、障害者採用のためのイベント(ハローワークが行う合同面接会など)に年2、3回参加するほか、人材紹介会社からの紹介も受けている。イベントのブースには、障害のある社員が説明・引率担当として人事の担当者と共に参加している。イベントに参加する人は不安感もあると思うので、障害のある社員が対応することで、安心感を持って相談できるようにしている。
そうしたイベントには、障害者を採用したい企業が数多く参加するので、参加する障害者も、各社の特徴や事業内容などをしっかり比較検討している人が多い。その結果、「働く」ということとしっかり向き合っている人と話ができる点が参加企業にとってのメリットである。
なお、ブースでの面談後、同社で次の選考に進みたい場合は、履歴書を預かり、日を改めて選考試験を受けていただく。選考試験は筆記試験(WEB形式)と面接を行っている。
会社として障害について学ぶ研修を、就労支援機関の協力を得て実施している。現場でサポートをする社員などが、この場に参加している。
イ 障害者の業務・職場配置
冒頭にあるように、現在、同社では22名の障害のある社員が、事務、搭乗手続き、航空機の誘導、制服管理などの様々な業務・部署で働いている。
今回の取材では2名の障害のある社員の方にインタビューと実際に働く場面の見学などを行ったので、人事課からの話も交え、次に紹介する。
(ア)Aさん
Aさんは、視覚障害(弱視)の障害を有する方である。取材時は入社6ケ月で総務部総務課配属にて、主に空港で働く人たちの制服の管理をしている。
仕事をする上で活用している就労支援機器は、拡大読書器であり、他にルーペも併用している。その他、パソコンを操作する際は、画面拡大ソフトも使っている。
毎日の通勤については、社員寮から通勤バスに乗って移動している。公共交通機関を使っての移動も不便なくできるが、駅の電光掲示板は見えないので、スマートフォンの乗換案内を拡大して確認している。
Aさんに、実際に働いてみての感想を聞くと、「働く上で良い環境だと思っている。周りの人が障害について理解してくれていること、このことが大事だと思う。そうした関係の中で、自分の障害を隠さずオープンにすることができて、コミュニケーションも取りやすくなるし、一緒に働く社員に恵まれたと思っている」とのこと。
筆者の知人で弱視の人が、廊下ですれ違っても相手の会釈が分からず、「不愛想だ」と思われてしまった体験を話すと、その点も入社の時に会社と色々話し合い、「すれ違う人が誰か分からないと困るよね」などといったやりとりをして、障害による不便さや対応方法などについて共有したとのことであった。
中谷マネージャーは、「視覚障害者の採用はAさんが初めてだったが、こちらが構えていても仕方がなく、一番よく知っているのは本人なので、本人に聞けば良いと考えた。採用側の立場で言うと、自分自身で何ができて何ができないという、正しい情報をこちらに伝えてもらえると、適切な対応や配慮につながる」と補足されていた。
最後に、今後の展望をAさんに聞くと「入社したてで自分の担当する業務が、まだ先輩にサポートしてもらいながらの部分もあるので、とりあえずは一人でこなせるようになっていきたい」とのことであった。
拡大読書器を使うAさん
(イ)Bさん
Bさんは、頚髄損傷で手動車いすを利用している。入社して2年半、仕事は、社内規程や通信機器の管理などを担当。上肢(手指・腕)の力が入りにくいため、車いすを手動で操作するときや書類をめくる際には、車いす用のグローブを使用している。
社屋についてはバリアフリーであり、段差は基本的になく、エレベーターでどこにでも行けるので不便はない。また、電車通勤であるが、最寄り駅から社屋までの通勤路は雨に濡れることなく移動できる環境で、大変便利である。
仕事をする上で、特に就労支援機器は使用していない。社内備え付けの自動販売機に、電子マネー支払機能がついているので、小銭の取り出しの必要がないのも便利である。
また、社員のデスクは退勤時には施錠することになっているが、出退勤時に自分では開錠・施錠動作ができないので、同僚のサポートを得ている。その他、棚の上にあるものなど、届かないものについては、声をかけて取ってもらっている。
この会社に採用されるまで、2、3社にアプローチしたが、なかなか面接までいけるところはなく、車いすというだけで門前払いのところもあった。また、駅から遠くて出勤途上で雨に濡れてしまう可能性や、途中に段差があって遠回りしないといけないようなところだと、通勤そのものが困難になってしまう。この会社の場合、そうした点がクリアされていたこと、また、週3日の勤務を希望したが、その点も柔軟に対応してくれて、全然問題はありませんと話してくれた。
就職の際、会社には私(Bさん)のできることとできないことは正確に把握してもらいたいし、間違った情報が伝わって入社したとしても、会社にとっても自分にとっても困る。その辺りのすり合わせが、この会社の場合、面接段階でしっかりできたことが良かったとBさんは話す。
最後に、Bさんに将来の希望を聞くと、「航空会社なので、飛行機を利用される車いすの方など、様々な障害者の方がいらっしゃるが、まだまだそこのケアが足りていない部分があると感じている。自分自身も飛行機に乗ることがたまにあるが、不便に感じるところがあるので、そういう点の解決に向けて、障害のない人とは違う視点から、提案していけるようになればと考えている」とのことであった。
デスクワーク中のBさん(2)取組の効果
障害者雇用を通じた会社全体の変化、取組の効果については、中谷マネージャーから話があった。
業務の切り出しについては、「こういう仕事がある」という声が各部門からあった場合、そうした情報を人事課でストックしておいて、応募者とうまく合った場合に、その仕事にチャレンジしてもらうこととしている。
そうした考えのもとで、来春採用予定の障害者にマッチングできた実例として、同社では、搭乗手続きの訓練を日常的に行っているが、その際には搭乗者名簿が必要となる。しかし、実際のデータは使えないので、訓練担当者が架空の名簿を200名、300名規模で訓練の都度作っていた。そこで、そうしたダミーの名簿作成業務をやってもらえる人はいないだろうかという話があり、今回マッチングできたものである。
仕事の切り出しについては、今ある仕事を2つに分けるという考え方についても議論したが、やはり新しい仕事を切り出すべきではないかという結論になった。そこで各部門に話をしていった。キーワードとしては、「それをやってもらえれば助かる」「手伝ってくれて嬉しい」という仕事。ここに着眼して進めていく中で、最近は、「あ、こういう仕事があった」と、現場のスタッフが発見し、人事課に連絡してくる事例が増えてきた。
3. 今後の展望と課題
今後、東京オリンピック・パラリンピック2020、大阪万博2025と、空港利用者の大幅な増加が予測されるため空港関係会社は働く人の拡充を考えていると思うが、そういう中での障害者雇用の展望について、中谷マネージャーに聞いた。
「人事計画として毎年必ず新入社員を約150名規模で採用している。法定雇用率が現在より0.1%上がって2.3%になったとして、だいたい毎年2名ぐらいのペースで障害者を新たに採用するということを、会社としての目標に置いている。しかし、その2名という数字を追いかけるのではなくて、良い人材と巡り合えれば3名、4名と採用することを考えている。そして、採用した人をいかに継続雇用するということも重要と考える。
現在、当社の実障害者雇用率は法定雇用率を大きく上回っている。そして、障害のある社員一人ひとりを見ると、活き活きと働いている人がたくさんいる。
障害者雇用については、採る年と採らない年があるのではなく、継続的に採用し続けるということで、先を見据えて、障害の有無に関係なく社員として一緒に活き活き働いていく関係というものをめざす。これが課題であり目標。それを定着をしていけば、各部門も育つと思うし、そこで1名、2名しかいないということではなく、3、4名、5、6名常時各部門に障害のある社員がいれば安心もしてもらえる。
さらに、今はまだ事務系が比率としては多いので、現場で働いてもらえるような人、例えば、障害のない社員と一緒にカウンターに立つとか、航空機の安全を支えるような人を、どのように増やしていくのか。そのことを、会社の課題として認識し、環境配慮や働き方の工夫などにつなげて、雇用する障害者数も増やしていきたいと思っている。」取材を終えて筆者は、障害者雇用数を追うだけではなく、長期的な雇用を前提にした展望に基づいて様々な取組を進める同社の今後に期待していきたいと思った。
執筆者:一般財団法人フィールド・サポートem.(えん)代表理事
/ 日本福祉大学実務家教員 栗原 久
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