障害者雇用をより推進するための取組
~出雲養護学校との連携を軸に~
- 事業所名
- 社会福祉法人壽光会
(法人番号: 1280005003250) - 業種
- 医療・福祉業
- 所在地
- 島根県出雲市
- 事業内容
- 社会福祉事業
- 従業員数
- 171名
- うち障害者数
- 8名
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障害 人数 従事業務 肢体不自由 2名 介護、リハビリテーション 内部障害 1名 調理 知的障害 4名 介護、調理、環境整備 発達障害 1名 看護 高次脳機能障害 1名 環境整備 - 本事例の対象となる障害
- 肢体不自由、内部障害、知的障害、発達障害、高次脳機能障害
- 目次
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事業所外観
1. 事業所の概要、障害者の雇用の経緯
(1)事業所の概要
社会福祉法人壽光会(以下「当法人」という。)は、平成12(2000)年度の法人創設以来、『地域の人々との共生を目指し、利用者一人ひとりの人権を尊重しながら、皆が潤いのある豊かな暮しが送れるよう日々努力し、福祉サービスや暮らしの環境がいきいきと創造されることを目指します。』を法人理念として掲げている。地域の人々や利用者などと共に生きていく「共生」、この実現のため日々実践を重ねていく「努力」を行うと共に創りあげていく「創造」を3本柱として、「地域住民に選ばれる法人(施設)」を目指している。
法人本部のある場所は、風光明媚な神西湖畔にあり、豊かな湖畔の四季を感じながら穏やかな毎日を過ごすことができる。夏には花火が夜空を舞い、秋には名月に照らされ、冬には多くの渡り鳥たちでにぎわっている。また、近隣にスーパーマーケット・コンビニエンスストアー・協力医療機関などもあり、地域資源に恵まれている。地域交流及び地域行事への参加やボランティアの受け入れも定期的に行い、地域に開かれた事業所づくりが可能である。当法人のサービスは多様であり、法人本部のある湖陵拠点以外に、今市拠点・大社拠点で事業を展開している。地域の様々な課題に積極的に取り組みながら、地域との絆を大切にして交流を深めている。そして、活気ある魅力的な職場として新たな雇用を生み出し、より安定した法人(施設)を運営し、みんなで質の高いサービスを目指している。
(2)障害者雇用の経緯
福祉職に対するマイナスイメージの先行や人口減少による労働力人口の減少で、年々、福祉人材の確保が当法人にとっても困難な状況であり、福祉人材の採用・育成が喫緊の課題になっている。「人を支える仕事だからこそ、支える人を大事にしたい」という法人の思いがある。法人理念のもと、職員にとって働きやすい・魅力ある職場づくりを構築し、地域の方に選んでもらえる法人(施設)づくりを目指している。
平成24(2012)年度に、近くにある島根県立出雲養護学校(以下「同校」という。)の卒業生を採用した。このことをきっかけとして、法人全体で障害者雇用を徐々に進めていくことになる。進めるにあたっては雇用を専門職に限定するのではなく、介護や調理の補助業務や環境整備の業務も含め、同校の卒業生を中心に障害者雇用の拡大を行っている。また、職員採用の枠を福祉人材の養成校卒業生に限定するのではなく、高齢者・障害者・子育て期間中の女性などにも広げていくことが、社会福祉事業を担う当法人の責務だと認識しており、障害者雇用の積極的な推進に取り組んだ。その結果、現在は法定雇用率(2.2%)の2倍を超える障害者の実雇用率を実現している。
本稿ではそうした当法人における障害者雇用の取組について、同校との連携を中心に紹介する。
2. 取組の内容と効果
(1)島根県立出雲養護学校との連携
平成24(2012)年度の採用を契機に同校からは4名を採用しており(いずれも知的障害のある者)、現在は、介護補助2名(1名は採用時は環境整備)、環境整備1名、調理補助1名で全員が継続して働いている。採用後の定着率は100%と良好で、当法人としては大きく胸を張れる数字と自負している。これは本人の適性や努力はもちろんのこと、学校側による手厚いサポートがあったためである。
下の写真は同校から採用した職員4名(Aさん、Bさん、Cさん、Dさん)の働いている様子である(カッコ内は担当業務と勤務年数)。
Aさんの様子<介護補助:8年目> Bさんの様子<介護補助:8年目>
Cさんの様子<環境整備:4年目> Dさんの様子<調理補助:3年目>
(2)現場実習の受け入れ
同校では、学校での様々な学習の発展として、生徒が事業所で実際の仕事を体験する「現場実習」を実施している。現場実習は生徒が自己理解を深め、卒業後の進路に向けた自己選択・自己決定をするための大切な機会として捉え、社会的及び職業的に自立した生活をすることができる力を身につける機会となっている。
Aさんをはじめとする4名全員が、同校高等部時に当法人で現場実習を複数回にわたり実施した経験を持つ。一般企業に就職を希望する生徒は、高等部の2年生になったら様々な企業で現場実習を行っている。当法人では、毎年1名から3名の実習生を受け入れている。職種は、介護補助・調理補助・環境整備・保育補助で、受け入れ日数は、3日から15日である。採用側のメリットは長い期間をかけて本人の特性を理解することができ、生徒側のメリットは現場実習を通して職場環境を理解することができることである。
(3)採用後の職場定着に向けた取組
ア 学校などと連携したフォローアップ
採用後の同校のフォローアップ体制がとても厚いことが、採用後の定着率100%につながっていると筆者は考えている。学校生活とは違い、社会人となると様々な年齢層の職員と関わりを持たなければならないし、利用者とのかかわりも求められる。就職による大きな環境の変化は、障害の有無にかかわらずストレスであり離職につながってしまう可能性がある。採用後のギャップを埋める手段として、同校が中心となって就職後一年間に「移行会議」が実施されている。会議の構成メンバーは、本人、学校、ハローワーク出雲、出雲障がい者就業・生活支援センターリーフ(以下「リーフ」という。)、職場(配属先の担当者)である。採用後に職場へうまく溶け込めなかったり何か課題を抱えているようであったら開催回数を増やすなど、本人の就業実態に応じて、移行会議は1か月から6か月に1回実施している。一年を経過した後は、相談主体が同校からリーフに移行し、継続してフォロー体制が構築されている。
本人にとっては、移行会議があることで数か月を振り返り、自分自身の言葉にすることで、思いや悩みを関係者と共有することができる。また、障害者雇用が初めてでどう接したり指導したらいいか迷っている職場のリーダーや管理職にとっては、定期的に気軽に相談できる移行会議はたいへん効果的である。
イ 新たな業務の創出とマネジメント能力の向上
介護補助や調理補助の業務と異なり、環境整備は障害者雇用を契機に創設された職種である。創設前は専門職が行っていた清掃や草刈りなどを障害のある職員が担当することで、専門職には専門職の業務により多くの時間を割いてもらうため、環境整備の業務として特化したもので、現在2名が担当している。そして、環境整備には週2日は障害のない職員で指導できる者を配置し一緒に作業しながら指導し、残りの週3日は環境整備の職員が自分たちで業務が行えるような体制を徐々に整えていった。また、業務日誌を作成することにより、本人たちには日々の業務の振り返りをしてもらうこととした。業務日誌による可視化で、指導する職員は勤務しない日の様子を把握し、管理職も日誌を確認することでコミュニケーションに活用することができた。日誌の作成を長期に続けることで、本人たちは年間・月・週・日ごとに必要な業務がわかるようになり、自分たちで優先度や天候に合わせて日々の業務を組み立てていけるマネジメント能力を身につけることにつながった。
ウ エルダー制度の活用
新規に採用した職員(以下「新人」という。)の定着を図るため、当法人ではエルダー制度をすべての職種に導入している。エルダー制度とは、新人が一日も早く職場に慣れることと、根拠(エビデンス)を持ったサービス提供や暮らし方・日々の生活を支援する視点を培うことを目的に、「エルダー」と呼ばれる先輩職員が上司と連携しながら、一年間にわたり育てていくものである。新人はエルダーと話しあうことで、職場での自分の立場が客観視でき、仕事に前向きになる。一方、指導・育成にあたる先輩職員にとってもマネジメント技術を身につける場となっている。障害のある職員についてもエルダー制を適用しており、平成28(2016)年度に新規採用されたCさんのエルダーにはAさんがなった。同じ出身校で年齢が近い先輩のAさんがエルダーとなったことで、Cさんにとってはとても親しみやすく話しやすい環境であったといえる。Aさんにとっては、このエルダー制度が、次のステップに到達する良い機会になった。自分が入社した時に不安に思っていたことや悩んだ経験を背景にCさんへこまめに声をかけてくれた。また、後輩に職務を伝えることで自身のマネジメント技術も向上した。筆者としては、Bさん、Cさん、Dさんたちについても、今後同校の卒業生が採用された際にエルダーを経験することで次のステップに飛躍してもらいたいと考えている。
(3)進路見学の対応
同校の卒業生を職員として採用し、職場に定着していることが学校側に評価され、平成28(2016)年に高等部1年生の、平成29(2017)年に中等部1年生の進路見学先として、当法人施設が選ばれた。職場でいきいきと実際に活躍している先輩の姿を在校生に見てもらえる絶好の機会になった。また、その際にはAさんたちに体験談を話してほしいとの依頼が同校からあった。自分の思いを人前で話すことに不安を感じたりしないかと心配したが、母校の後輩ということもあり全員が好意的に受け止めてくれた。当日は各自が「業務内容」「入社理由」「仕事をする上で楽しかったこと」「仕事でうまくいかなかったときの対処方法」「学生時代に取り組んだらよいこと」を話したが、ふだんは人前で話す機会がなかなかない本人たちにとっては、貴重な体験となった。
進路見学(高等部1年生)の様子 進路見学(中等部1年生)の様子
(4)地域サービス班との双方向の交流
同校では「作業学習」を高等部の教育活動の中心に置き、総合作業班をはじめとする数種の作業班を設けており、「働く力を養う」ことを各班共通の狙いにしている。高等部がコース制を導入したのを契機として、平成29(2017)年度に、高等部に「地域サービス班」が創設された。人と関わる力をつけることを狙いとし、主に地域とのつながりのある取組を行っている。創設当初は先生方も試行錯誤のなかで、地域とのかかわりを模索している状況であるという話を耳にしたこともあり、当法人も協力することとし、デイサービスセンター湖水苑(以下「デイサービス」という。)での交流を開始した。交流は月に一度ぐらいのペースで生徒がデイサービスを訪れ、利用者の人と交流を深めた。交流の内容も、毎回生徒がアイディアを出し合い、歌をうたったり、折り紙やシール貼りをした作品づくりをしている。また、デイサービスの壁画に、季節ごとに趣向をこらした壁画を、学校の授業で制作して展示している。壁画は四季に合わせての作品で、利用者の目を楽しませてくれている。
交流2年目に生徒から、同一建物内の特別養護老人ホーム(以下「ホーム」という。)でも交流ができないかとの話があがった。3年生の生徒の一人が、将来介護職を目指しているということもあり、また、当法人には介護補助で採用している先輩職員もいることから協力することとした。ホームの利用者は、デイサービスの利用者に比べ介護度が高く、コミュニケーションがとりにくいことが多い。そのため、経験が豊富な3年生を主体にホームで、2年生はデイサービスでと分かれて活動するようになった。
何度か交流の後に、ホームの職員から生徒の来る時間帯はユニットで活動している時間帯なので、ベッドメイキングをしてくれたら助かるとの話が出された。学校側も賛成したことから、職員が学校に出向きベッドメイキングの実技指導を行った。何度か練習を重ね、交流当日は学校に出向いた職員が見守る中、生徒は先輩のBさんと一緒にベッドメイキングを行った。学校に出向いた職員とBさんは、人に教えるという貴重な経験を積むことができた。そのほかにも、デイサービスの管理職が学校に出向き「高齢者理解」を深めるための講義を実施するなど、双方向の取組にしている。
3年目を迎えた令和元(2019)年度には、交流場所としてたいしゃ保育園が新たに加わった。同校からは自転車で1時間かかる場所ではあるが、幅広い年齢層の利用者とのかかわりが増え、新しい取組として定着させていきたいと思う。
デイサービスセンターでの実習の様子 特別養護老人ホームでの実習の様子
保育園での実習の様子 デイサービスセンター前の壁画の様子
学校でのベッドメイキングの実技指導の様子 Bさんとのベッドメイキングの様子
(5)学校主催の催しへの参加
当法人では職員を同校の催しに積極的に参加させている。障害者雇用に関係する部署だけでなく幅広い部署の管理職、職員の参加を促している。最近、同校の改修工事が終了し、従来の学校のイメージを大きく変える校舎と活動を見学することで、養護学校の生徒に対する職員の見方(就労の可能性など)をより積極的なものに変化させたい狙いもある。
催しには、『学校見学会・企業の学校参加日』『職業コース営業日』『is you フェスタ』など、様々なものがあり、年間を通じて何度も参加させている。参加する職員にとっては、交流する機会が多くなった地域サービス班の生徒が校舎内を案内してくれるのも楽しみのひとつになっている。
(6)生徒の作品展示
特別養護老人ホームの玄関先にあるハマナスホールにおいて、月単位で地域の方々の様々な作品(竹細工・押し花・写真・絵画・模型など)の展示を行っており、令和元(2019)年6月には同校生徒の作品を展示した。玄関先ということもあり、利用者(入居者)だけでなく、利用者の家族や来客者も気軽に立ち寄れる場所での展示で好評であった。
ハマナスホールでの展示の様子
3. 今後の展望と課題
これまでの取組を継続・発展させ、採用後の定着率100%をできる限り継続していきたいと考えている。一方で今後の最大の課題は障害のある職員の処遇の向上や正規職員への登用に向けた検討を進めることであると考える。
当法人では、同校(養護学校)から採用した職員は正規職員としての採用ではない。その理由は、当法人の正規職員の採用条件に業務に関連する資格(介護福祉士、調理師など)を有していること(見込み含む)を掲げているからである。法人としては、障害の有無に関係なく職員の資格取得に向けた支援はできるが、障害によっては実際の取得はハードルが高い。しかし、長期的に継続勤務してもらうためには、処遇面の改善や正規職員への登用などにより一人ひとりの達成感や意欲などにつなげることが大切と考える。また、同じ学校の先輩が責任あるポジションで生き生きと働く姿は、後輩の憧れ・目標となるものであり、就職希望者にもつながるものと考える。
また、次の課題としては障害者雇用に関する職員全体の意識やスキルの向上などがある。
出雲養護学校生徒の採用を通して、障害者雇用への取組は少しずつではあるが前進しており、当法人は今後も障害者雇用を積極的に進めていく方針である。そのためには職員の理解を深めるなどの必要があることから、法人として『あいサポート企業・団体』認定制度への登録をしたいと考えている。あいサポート企業は自社の従業員に研修を実施し、受講者はあいサポーターとして、多様な障害の特性、障害のある方が困っていること、障害のある方への必要な配慮などを理解して、日常生活において障害のある方が困っているときに手助けができるように育成するものである。現在、複数の職員が、研修講師となるためのメッセンジャー研修を受講しているので、研修受講者が法人内での研修を実施し、全職員があいサポーターとなることを目指している。そのことにより、今以上に職場全体での障害者雇用の推進につながると期待している。
執筆者:社会福祉法人壽光会 たいしゃ保育園
園長 石川佳照
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