視覚障害者の百貨店における合理的配慮事例
- 事業所名
- 合理的配慮事例・2019227
- 業種
- 卸売・小売業
- 従業員数
- 510人
- 職種・従事作業
- ヘルスキーパー、社内会議の議事録作成業務
- 障害種別
- 視覚障害
- 障害の内容・特性
就労上の課題 - 視力(右眼0、左眼0.04)、視野(10度以内)。歩行時は白状を使用。
募集・採用時の合理的配慮
募集内容について、音声等で提供すること
本事例の対象者(以下「対象者」という。)に対し就労支援機関の担当者が同席の上、業務内容、契約内容、通勤交通手段等の確認や就業上の課題点把握と解決策を話す機会を数回設けた。また、契約内容、話し合いの内容等を書面にし予め渡す、あるいは話し合った内容を書面で渡す等により、対象者が自宅の拡大読書器で確認ができるように配慮した。
採用試験について、点字や音声等による実施や、試験時間の延長を行うこと
採用試験は総務部長、総務部マネジャーによる面接のみ。
本事例の事業所(以下「事業所」という。)としては採用の方向としたが、採用に関して最も懸念されたのは「通勤ができるかどうか?」という点だった。本人は就労支援機関の協力を得ながら自宅から会社までの通勤の練習を開始。一人で通勤できるように朝、夕の通勤時間に合わせ練習を重ねた。徒歩で通う際,歩道のない箇所は僅かに見える道路脇の白線を目印に歩くようにしていたが、白線が薄くなっている部分があり(下の写真参照)、夕方、日が暮れそうな時間帯は見えずに困ることがあった。事業所としても帰宅時間には十分配慮して勤務時間を設定したが、天候によっては日中でも白線が見えにくいということから、市の道路課へ白線の修繕を対象者と事業所とで要望したところ、すぐに該当部分が調査され、翌月には白線が引きなおされた。就労支援機関や市の協力を得ながら就労へ向けて本人も努力をし、会社もできるだけ配慮をするよう心掛けた。

その他の配慮
あん摩マッサージ指圧師会の賠償責任保険加入。
保険料は年額8,540円で全額事業所負担。
採用後の合理的配慮
業務指導や相談に関し、担当者を定めること
総務部所属、勤務場所(施術場所)を会社内の保健室に設置。保健師と同じ室内での就労とし、いつでもサポートができる体制をとった。入社時の教育は4月の定期採用の新人教育に参加したり、個別に指導するなど、本人の障害特性や専門性に配慮し行った。また、様々な人と関わりを持つことで本人の障害について周囲が認識でき、総務部門以外の従業員からもサポートが受けられるようにした。
拡大文字、音声ソフト等の活用により業務が遂行できるようにすること
使用機器:拡大読書器(トパーズXLHDプレミアム)、読み上げソフト(PC-Talker)、パソコン
中央障害者雇用情報センター(当機構の施設)の就労支援機器貸出し制度(無償)を利用し、上記機器を使用して就労中。貸出し期間終了後は助成金を利用して購入を予定している。機器はマッサージ利用者のカルテ作成、データ集計、会議等の議事録文書起こし等で使用。
出退勤時刻・休暇・休憩に関し、通院・体調に配慮すること
労働時間:9:45~16:45(60分休憩) 通院日は診察時間に合わせて早退、体調不良時も遅刻・早退可能。冬季(11月下旬~1月下旬)は日の入りの時刻が早いことから安全に通勤できるよう、1時間早退で帰宅することも可能。
職場内の机等の配置、危険箇所を事前に確認すること
対象者・事業所(総務部)・就労支援機関とで、配属前から就労場所の保健室内(デスク、施術台など)、トイレ、休憩室内等を確認し、行動範囲の施設、物の配置や危険個所を把握した。また、対象者は就労支援機関の担当者と移動のトレーニングを重ね、安全に行動できるようになった。
移動の支障となる物を通路に置かない、机の配置や打合せ場所を工夫する等により職場内での移動の負担を軽減すること
マッサージの施術、カルテ作成で移動距離が少なくて済むよう、対象者のデスクの隣に施術場所を設置。また、トイレや休憩室、総務部が同じフロアで一人で移動できるよう配慮した(下図参照)。

本人のプライバシーに配慮した上で、他の労働者に対し、障害の内容や必要な配慮等を説明すること
対象者の同意のうえで、社内広報誌でマッサージ師採用の告知を行った。広報誌には、対象者が「肩こり予防のツボ紹介」などの記事を執筆、掲載している。また、社内朝礼での新入社員紹介に参加し、紹介を行うなど、従業員に広く周知し、理解を得ている。
その他の配慮
冬季は日の入り前に帰宅できるよう、勤務時間に配慮が必要。(短縮勤務にするなど)また、雪道の通勤トレーニングを本人が所属していた就労支援機関に依頼し、実施している。
障害者への配慮の提供にあたり、障害者と話し合いを行った時期・頻度等の配慮提供の手続きの詳細
採用のきっかけは立ち仕事の多い従業員のために、市内の就労継続支援B型事業所が実施する指圧マッサージをする場所を提供し、従業員が休憩時間を利用し安価でマッサージが受けられるようにした。そのマッサージが好評を得たことから、ヘルスキーパーとして採用する運びとなった。5月からマッサージサービスが始まり、9月から就労について話し合う機会を設けた。翌年3月に採用するまで本人、就労継続支援事業所、会社の三者で3度話し合い、労働条件や労働環境、通勤交通手段など確認し、疑問や問題点の改善や解決をしながら就労へ向けて進めていった。
配慮を受けている障害者の意見・感想等
採用前に所属していた就労継続支援B型事業所と現在働いている事業所の採用担当者・保健師には大変感謝している。保健室で保健師と一緒に勤務できることでたくさんのサポートが受けられる。トイレも近くで恵まれた環境だ。職場の様々な従業員の方から声を掛けてもらえ、時には行きたい場所まで手を引いてもらえる。事業所に採用される前に幾度か他企業の採用試験を受けたが、いずれも視力の問題で断られ続けた。自分を否定されたように感じ、何もしたくない気持ちになった。未来への希望も見通しもたてられなくなった。そんな時に盲学校でお世話になった方からB型事業所の紹介があり、企業や学校に出向きマッサージをする仕事を任された。そのなかのひとつである現在の事業所に通い始め数か月経ったころに求人の話をもらい、家族や支援者と相談をして希望した。たくさんの配慮と支援を受けて就労できるようになった。施術した従業員から感謝の言葉をかけられることが多く、今は働き甲斐を感じている。ここが自分の居場所だと実感できる。多くの障害者は健常者と比べると社会的にも立場が低いように思う。自分もマイナスからのスタートではあったが、もっと上を目指していきたいという向上心が芽生えている。これからも感謝の気持ちを忘れずに働いていきたい。
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