・本事例の事業所（以下「事業所」という。）は、高齢者福祉施設等を運営する企業の特例子会社であり、社内に精神保健福祉士、臨床心理士を配置している。そして、障害者の採用面接時には現場担当者に加え、精神保健福祉士または臨床心理士が同席し、会社独自のチェックシートを使用して気になる点や配慮してもらいたい事項があるかどうか確認することとしており、本事例の対象者（以下「対象者」という。）も同様であった。
・支援機関等の職員（以下「支援者」という。）の同席については、障害者からの要望があれば認めているが、対象者の場合には本人のみとの面接であった。

・事業所では随時職場実習を実施している。これは、適正業務の検討や入社後に配慮すべき点の参考とするもので、実習を希望する者は実習説明会に参加したうえで2週間程度の実習を実施する。実習後に本人・支援者と会社所属の精神保健福祉士または臨床心理士・現場担当者による振り返りを行う。対象者についても2週間の実習と振り返りを行った。その結果、本人から入社希望が出され採用した。
・配慮の提供については、本人からの要望をベースに、実習を通じて会社側で配慮が必要だと感じた点があれば対応を検討し、本人・支援者に説明し了解のもとに実行している。

・事業所ではジョブコーチ・精神保健福祉士・臨床心理士等の専門家を含む定着支援チームを設置している。
・新規採用者にはジョブコーチがマンツーマンで業務指導を行い、指導や相談の窓口も一本化している。対象者についてもジョブコーチが指導などを担当した。

・片付けが苦手であるため、物を置く場所や片付け方法は写真やマークを使って視覚的に示したものを、壁に掲示しておくことによって、見たものをそのまま再現すれば片付けられるようにしている。
・スケジュールは「月曜日の午前中はどこで何をする」といったことを分かりやすく簡潔に記載して壁に掲示している。
・業務指示は手順書に明確に記載し、壁に掲示している。対象者が自分で書くほうが覚えやすいため、手順書は本人自身が作成している。手順書どおりに作業をしたときに何か不備があれば、本人とジョブコーチで相談しながら随時内容を見直している。
・業務内容やスケジュールを急に変更するとパニックになるため、極力急な変更をしない。どうしても変更になる場合は、ジョブコーチが間に入って本人が混乱しないようにフォローしている。
・事務所内の照明のON／OFFを依頼したときに全ての照明を消してしまうことがあったため、照明のスイッチには押せばどの場所の照明が点くのか場所を示したシールを貼っている。あわせて、スイッチと対応するフロア図を掲示することによって、どのスイッチを押せばどの照明が点くのか一目で分かるようにしている。

・障害のある社員の健康面への配慮として、精神保健福祉士が常駐しており、日々声がけを行い健康状態を確認している。
・Webで稼働する日報システムを活用し、毎日、対象者自身が作業の進捗や体調等を自己評価して入力することによって自分の健康状態等を振り返ることができるようにするとともに、入力内容を上司や精神保健福祉士等が共有して、健康状態に問題がないか確認している。
・通院等で休みやすくするため、通常は入社して6か月経過後から取得できる年次有給休暇を、入社当初から取得できる制度を設けている。
・「休暇を取っても何をして良いか分からない」との相談があったことから、グループワークの中で余暇の過ごし方を考えることもテーマに加えている。

・パソコン作業中に周囲の人と目線が合うことが気になっていたため、本人に必要かどうか確認したうえで、机上にパーティションを設置した。
・職場に観葉植物を飾り、好きなジャンルのBGMを流すことによって、疲れにくくなり作業に集中できるようになった。

・障害のある社員については、本人の了承を得たうえで、精神保健福祉士から上司や同僚に対して、障害特性や配慮が必要な事項について説明している。
・一緒に働く社員は、精神・発達障害者しごとサポーター養成研修や障害者職業生活相談員資格認定講習等を受講し、障害に関する知識を習得している。