ハローワークの紹介による採用である。地域障害者職業センター（以下「センター」という。）のジョブコーチ、ハローワークの専門援助部門の担当官が同席のもと、面接を行った。

募集時の主な職務は工場内の清掃であった。最初に2週間のトライアル雇用を実施し、清掃中心の仕事を体験。そして、清掃以外の仕事もしたいという本人の意向をふまえ、期間を延長し、約3か月実施。その間、工場の他の仕事も体験し、その結果も踏まえ、本採用とした。なお、トライアル雇用の段階からセンターのジョブコーチ支援を利用している。

業務指導等は、採用当初は、工場長が直接担当していたが、就労安定後は、実際の業務の指示等は現場の班長が担当している。

・採用後は工場長が、本人に実際の現場や図面を見せ、ライン工程を丁寧に教えていった。採用の際、事前にしっかりメモをとる時間を確保して欲しいという本人・センター等の要望があったので、時間確保を配慮した。本人が熱心にメモを取る姿を見て、記憶の定着を図るため「間違ってもいいから自分で工程表を作成したら」と促したところ、周囲が感心するほど分かりやすい工程図を本人が作成し、業務の習得の一助となった。また、現場では製造ラインがよく変わるが、「砂をこうする」「機械はこうする」などの細かいことだけでなく、「全体像」を併せて教えることで理解を促進させた。
・本人はガス溶接免許も持っていて、いろんなことをやりたいという希望があるが、工場内には回転物など危険な機械があり、集中しすぎて周辺への注意が不足し怪我をする可能性があるので、業務の幅をむやみに広げることをせず、まずは確実にできる業務をしっかり取り組むように指導している。
・同時期に色々と多くのことをいわれると本人にとって収拾がつかなくなったり、同じ作業が続いた後に作業が変更となったときに、やるべき手順が抜けてしまうことがあるので、作業変更時は他の社員が入って、完全にやり方を変えてから、本人が引き継いでやるようにしている。

・通常の勤務時間は8時から17時までであるが、本人が「朝がきつい」というので、1時間遅らせ9時からの勤務に変更した。また、通常は交代勤務制だが、交代勤務なし、残業なし、夜勤なしの勤務としている。
・夜、眠れなくて昼間に調子を崩すこともあるので、休憩は小刻みに多めにとれるように配慮している。
・会社が特に気にかけているのは安全面と体調である。本人の勤務態度は真面目で、休むことはほとんどないが、体調については常に会社側は注意を払い、顔色等を見て体調が悪そうな時は、本人の申し出がなくても早退を指示したり、仕事をセーブさせる。例えば、安全面を考えて、病院に行く1週間前からはフォークリフトに乗ることを控えるようにしている。災害防止のため、一般的に事故が発生しやすいといわれる休み明けの対策として、土日祝日の前後の朝礼、終業時には注意するよう本人に声掛けをしている。

入社当初の朝礼で、工場長から現場の社員に障害の特徴や対応で留意すること等を伝えた。障害の有無に関係なく会社の貴重な戦力の一人として見ているが、どの作業が本人に合っているかを見極めて仕事の切り出しをしている。清掃だけの仕事だったら続かなかったであろうとのことである。現場の社員もある程度障害に関して理解しており、本人にはできることをやってもらうという理解を得て協力しながら仕事をしている。

この工場で初めての障害者雇用であり、工場長は障害特性について調べて現場対応をするようにしている。工場長は、「本人も自立していかなければならないし、仮に違う職場にいったとしてもここでの職業生活が本人の人生にとってプラスになることがあればいい。社会人として教えられることがあれば教えたい」という思いがあって、障害の有無に関係なく、厳しく言う時は言うようにしている。例えば、書類を雑に記載した場合には、大人として、また社会人として目上の人に提出する書類は、丁寧に書かなくてはいけないと指導した。
また、孤立しないよう他の社員との輪に入れるため、本人と他の社員にコミュニケーションを積極的にとるように促している。