本事例の対象者（以下「対象者」という。）は、本事例の事業所（以下「事業所」という。）への応募時は特別支援学校の生徒であり、在学中に職場実習を2回実施。2回目の実習終了後に実習のフィードバックも兼ねた対象者との面接を行った。その際に特別支援学校の進路指導と担任の先生が同席し、対象者の意向、学校での様子や本人の得意・不得意なこと等の確認も併せて行い、採用の内定を出した。

・事業所では入社希望者には原則として職場実習を経験いただくこととしている。これは、実習を経験することで実際の職場環境を理解するとともに、業務の基本的な部分を身につけるためである。実習は2回程度で、1回につき2、3日程度であるが、経験者は1日のみとするなど、習熟状況等に応じて柔軟に対応している。

・対象者の採用時は障害を持つ社員が少数であったため、障害を持つ社員がいる部署に配置するようにした。（現場の理解があること、本人も安心して働ける環境を作るため。）

・事業所は特例子会社であり、業務指導は作業場の班長を中心に行っているが、「作業場に障害者がいるのは当たり前」という雰囲気が社内にあり、班長以外の社員も必要に応じて指示を出している。
班長が不在の時等に障害を持つ社員が質問等のある場合は、あらかじめ対応者を決めている。対応者は正社員・パートを問わず、経験豊富な年配の社員に可能な限りお願いしている。また、障害を持つ社員との定期的な面談を障害者職業生活相談員の資格を持つマネージャーが担当している。

・対象者の業務指導や相談については、親会社から通算して勤務年数20年以上の班長が担当している。この班長には知的障害を持つ子供がおり、親子で一緒に働いている。両名は事業所設立の際に親会社から転籍し、班長はその際に障害者職業生活相談員の資格を取得した。
班長は知的障害を持つ子供を育てた経験から、障害の特性をよく理解しており、対象者が理解しやすい指示や指導をしたり、対象者の性格に応じた接し方ができたことで、対象者が業務や職場環境に早く慣れることができた。（対象者は自分のペースで仕事をしたいタイプであることから、適度な距離感を取っている。）
なお、相談がある場合はまず班長が受けるようにし、マネージャーに報告がいく体制を取っている。

一度に複数の業務を任せず、同じ業務を時間をかけて繰り返し教えていき、習得させている。
その業務に慣れてきて十分に任せられるようになったら、他の業務を教えるということを繰り返すことにより、徐々に出来る仕事を増やしている。
対象者については、作業の流れをよく理解しており、ある程度簡潔な指示を出しても作業を問題なく遂行することが出来る。また、そのようにした方が対象者にとっても任されているという自負となっているため、良いと考えている。
このような状況であるため、対象者は既にかなりの業務量をこなしている。
業務量を今以上に増やす、もしくは作業場（部署）を変えることがあるとすれば、まずは本人が現在担当している作業のやり方がマンネリ化していないか、等の確認をし、本人と相談して決めていこうと考えている。

必要に応じて手順書を作成することもあるが、原則として同じ作業場の班長や同じグループの社員が作業内容から手本を示し、覚えるまで繰り返し一緒に作業を行いながら教えていく方法の方がより適していると判断している。
事業所の作業はリネンのたたみ作業のように失敗してもやり直すことが可能で、不良品（ロス）にならないため、障害を持つ社員も気楽に取り組めている。

障害を持つ社員の中には疲れやすい者もいるため、終業時刻を超えて勤務させないように留意している。
対象者の場合には、集中すると終業時刻になっても仕事を続ける特性があるため、終業時刻になったら声をかけて退社させるようにしている。
また、夏場は作業場がかなり暑くなるため、班長や社員に声かけや水分・塩分の補給をするよう指示を出すように依頼している。

特別支援学校からの情報を元に、班長だけには障害に関する細かい情報を口頭にて伝えた。
また、他の社員に対しては、職場実習の際に特別支援学校の生徒である旨を伝えているため、障害を持っている者であるという認識はされていると考えている。しかしながら、班長のようにそれ以上の情報は伝えていない。

障害を持つ社員とは、毎月、本人、マネージャー、班長、障害者就業・生活支援センターの指導員を交えて面談を行っている。
また、卒業した特別支援学校の先生も定期的に来社して就業状況を確認しているため、困った時等に相談しやすい環境となっている。
なお、対象者については職場実習をする前に本人と面談をし、職場のルールと就業になった場合の注意点を説明した。その際、特別支援学校の先生にも同席していただいたため、上記以外の内容についても補足で確認をしていただけたと考えている。