知的障害者の食品製造業における合理的配慮事例(3事例)
- 事業所名
- 合理的配慮事例・2019238
- 業種
- 製造業
- 従業員数
- 24人
- 職種・従事作業
- 本事例の事業所(以下「同社」という。)は、外食チェーン店を展開する企業の特例子会社で、主な業務内容は食品加工とクリーニング作業である。就業場所としては2工場があり、本事例の対象者3人が勤務する工場は食品加工を専門としている。
- 障害種別
- 知的障害
- 障害の内容・特性
就労上の課題 - 同社の障害のある従業員(以下「従業員」という。)は知的障害のある者が主であり、本稿で紹介する対象者3人(Aさん、Bさん、Cさん)も知的障害のある方で、それぞれの障害の特性や性格等は次のとおりである。
・Aさん(20歳代前半)
漢字を書くこと、計算することが苦手。作業は真面目に取り組み、同じ作業を継続して行うことができる。そそっかしい一面もあるが、失敗をした際にもあわてずに、自ら対処することができる。他者のことまで目配りができ、責任感もあるので、同僚や上司からの信頼が厚い。チームリーダーや実習生の指導役を務めている。
・Bさん(40歳代半ば)
漢字の読み書き、手先の細かな作業を行うことが苦手。上司の指示等を理解するのに時間がかかる。仕事には積極的に取り組んでいるが、記憶の維持が困難で、連休を挟むと、覚えたことや注意されたことを忘れていることが多い。明るく社交的で、多弁である。上司、同僚、実習生など誰にでも気さくに話しかける。パン製造等の就労経験がある。
・Cさん(20歳代前半)
他者とのコミュニケーションや自己表現が苦手。寡黙で感情が表出しにくく、入社当初は自分から話をすることはほとんどなかった。仕事はマイペースではあるが、一つの作業に集中してコツコツとやり続けることができる。
- その他
- 特例子会社
募集・採用時の合理的配慮
面接時に、就労支援機関の職員等の同席を認めること
1.前述したように同社では知的障害のある者をはじめとし、障害のある従業員を多数雇用している。したがって、以下に紹介する配慮の内容等は同社全体に共通するものである。対象者3人への個別の配慮である場合にはその旨を区分して紹介している。
2.障害のある応募者との面接時には、応募者が在籍している就労支援機関の担当者や特別支援学校の先生などの支援者(以下「支援者」という。)が同席をしている。応募者の中には自分の考えや気持ちを言葉で表現することが苦手な人や、質問にとっさに答えることが困難な人もいるので、支援者が同席することで不安や緊張を和らげ、リラックスして話すことができる。また、面接担当者からの質問に対し、支援者の補足説明が加わることで、本人をより深く理解することができると考えている。
なお、面接の前に職場実習を体験してもらうこととしており、詳しくは以下のとおり。
その他の配慮
1.採用面接の前に必ず職場実習を行ってもらうこととしている。採用にあたり最も重要なことは、応募者の「ここで働きたい」という気持ちと、雇用する側の「この人に働いてほしい」という意向のマッチングであると考えるからであり、双方がそれを見極めるために、実習の機会を設けている。実習から面接に至るまでの流れは以下のとおり。
なお、同社では実習や面接が応募者の社会性や職業的な成長につながることも考慮し、実施している。
(1)実習前に、まず職場見学を実施し、視覚、聴覚、嗅覚、触覚を使って体感して、同社についての理解を深めてもらう。その上で会社や業務内容等に興味を持った人に実習を行ってもらう。
(2) 1回目の実習(5日間)では、全員、キャベツ加工の基本作業(機械に置く、芯を抜く)を行う。実習最終日には応募者と実習先の従業員に感想を聞き、「ここで働きたい」、「働いてほしい」という互いの意向が一致すれば、2回目の実習に進む。
(3) 2回目の実習では、1回目の実習を踏まえて、各人に注意点や努力すべき点などを伝えて、個々の課題や目標を設定し、その達成に向けて努力する姿勢が確認できた時に採用面接へと進む。
(4)支援者同席の上、面接を行い、応募者の仕事に対する姿勢や、「ここで働きたい」という意欲を確認する。面接の最後に、対象者自身の言葉で意気込みを語ってもらう。
2.この面接によって採用・不採用を判定するだけでなく、応募者の勤労意欲を改めて確認することが目的なので、面接の際に質問する内容(同社で働きたいと思った理由、意気込み等)をあらかじめ伝えて、事前に回答の練習をして面接に臨んでもらっている。
3.応募者に実習での成長を実感してもらうことで「働きたい」という意欲がさらに高まると考える。そのために実習場面の様子をビデオ撮影し、初日と最終日の様子を面接の際に本人と支援者に見てもらい、成長した点を伝えるなどの配慮を行っている。
4.同社では、実習を通して「社会性を身につける」という点も重視しており、挨拶や身だしなみ、生活態度なども指導している。もし採用につながらなかった場合でも、この実習で学んだことや身につけたものが今後の就労につながればと考えている。
採用後の合理的配慮
業務指導や相談に関し、担当者を定めること
1.現場作業を深く理解している主任を担当者(以下「担当者」という。)に選任し、日常的に指導にあたる者(以下「指導員」という。)と協力して従業員をサポートする体制を整え、マンツーマンできめ細やかな業務指導・助言、相談を行っている。
担当者・指導員が指導にあたって心がけている点は、以下のとおりである。
(1)従業員の中には複数の者からの指示だと混乱してしまう人もいるので、指示系統を担当者に一本化している。ただし、担当者が不在の時もあるので、誰でも対応できるよう指導員全員で情報を共有し、従業員の状況把握に努めている。
(2)担当者と指導員との間で指示内容にズレが生じたり、解釈に個人差がないように経営理念、ハウスルール(社内ルール)を基に勉強会を行い、考え方を統一している。
(3)担当者並びに指導員は、ジョブコーチや障害者職業生活相談員の認定講習を受講し、知識を深めている。
2.日々の運営については、従業員各々が毎日記入する「業務日誌」(以下「日誌」という。)を活用している。日誌には、その日の業務内容(担当したポジション)のほか、課題や問題点、不明な点などを記し、担当者と共有している。また、定期的に実施する面談の際にも活用している。
本人の習熟度に応じて業務量を徐々に増やしていくこと
1.同社の方針として、業務量を増やすことを目的にはせず、従業員それぞれの興味や意欲を引き出すことに重点を置いている。業務の中心はライン作業なので、個人の習熟度によって業務量を増やすことはないが、一つの作業がある程度の習熟度に達したと認められる人には、本人の意志を確認した上で、新しい作業習得へと進み、一つずつ作業項目を増やしている。ただし、個々の適性や興味、本人の希望などによって、一つの作業を専門に行っている人もいる。
2.3事例(Aさん、Bさん、Cさん)への配慮について
3人は、いずれも会社を設立した初年度(2017年)に採用され、全員、「キャベツを機械に置く、芯を抜く」という基本作業からスタートした。入社から2年9ヶ月が経過した現在の、それぞれの主な業務内容は次のとおりである。
・Aさんは、キャベツ加工の基本作業から検品、機械の洗浄、段ボール圧縮などの雑務まで、オールマイティに仕事をこなせる。現在は、パソコンを駆使して原料を自動倉庫から出し入れする作業を担当している。この作業はこれまで担当者が行っており、その日の出荷量から必要なキャベツの量を算出しなければならない。担当者は「Aさんは計算が苦手なので、あえて挑戦することを勧めた」という。現在は従業員のリーダーとして、パソコンを使って指示を出したり、実習生の指導役も務めている。
・Bさんは、キャベツを「機械に乗せる」「芯を抜く」という2つの作業を継続して行っている。これらは実習の際に取り組む最も基本的な作業である。Bさんは不器用なところがあり、キャベツを機械の中心に置くことが難しいようだ。また、覚えたことや注意事項を忘れてしまうことが多く、上達しても連休明けにはふり出しに戻っている。しかし、2年9か月の間、同じ作業を繰り返していても、決して意欲が低下するようなことはなく、自分は“キャベツマスター”だとポジティブに捉え、毎日意欲的に仕事に取り組んでいる。
・Cさんは、寡黙で感情が表出しにくく、マイペースで淡々と作業をこなしている。キャベツ加工全般を担当していたが、増員を機に段ボールを圧縮機で潰す作業やごみ箱の交換などの雑務も作業のローテーションに加え、全員で順番に行うことになった。Cさんは段ボール圧縮作業が気に入ったようで、毎日これをやりたいと自己申告があり、現在は段ボール圧縮作業を専門に行っている。担当者によると「他の作業の時は無表情なのに、段ボール潰しだけは笑顔で嬉々として取り組んでいる」とのことである。
図等を活用した業務マニュアルを作成する、業務指示は内容を明確にし、一つずつ行う等作業手順を分かりやすく示すこと
1.写真や矢印などを多用し、短い言葉でわかりやすく解説した従業員用の「手順書」を作成している。しかし、業務指導は手順書に頼らず、「担当者が正しい手順でやって見せる→対象者にやらせてみる→口頭で簡単な指示→手を添えて行う」という実践して習得する指導法を採用している。手順書は、実際に作業をして、思うようにいかないという時に、確認して改善の糸口を見つけ出す目的で活用している。
2.上記の手順書とは別に、従業員が関わる全工程をマニュアル化した担当者・指導員用の「標準手順書」も作成している。これは手順や気を付けるポイント、指導員の指示の仕方などを事細かに、具体的に記載したもので、指導員によって指示の仕方や内容がバラバラということのないように活用している。この標準手順書はたいへん情報量が多いので、基本的に現場には持ち込まない。
3.実際に作業した上で、どうしても失敗してしまう時には、その人用のカード形式の「個人手順書」を作成し、現場で活用している。これは従業員用の手順書から、失敗する箇所をピンポイントで抜き出したもの。例えば、「左手でキャベツをつかみ、右手で芯を取る」という手順なのに、どうしても先に右手が出てしまう場合、カードにはその部分の写真とともに大きな文字で「左手が先」と書かかれている。これを作業途中で見せたり、視界に入る場所に貼付するなどして活用している。
4.ライン作業は1個3秒のペースなので、現場で作業中に指示や注意をする際は、「左手が先」、「ここ」、「今」など短い言葉で言う。そして、それとは別に現場を離れたところで、その指示や注意をした理由をきちんと説明して、納得してもらうようフォローしている。説明する際には曖昧な表現ではなく、具体的な言葉で伝えると理解してもらいやすい。
5.その日のポジション表や、「誰々が出張」、「実習生が来る」といった連絡事項は、朝礼ボード(掲示板)を活用して伝達している。さらに朝礼の際にも口頭でも説明し、確実に伝えるようにしている。
出退勤時刻・休暇・休憩に関し、通院・体調に配慮すること
<勤務時間>
工場のライン作業であるため、基本的には全従業員の勤務時間(8:30から17:00)に統一している。
<休暇>
・体調不良、通院等に関しては、遅刻、早退、欠勤を許可している。本人が気付いていない場合でも、担当者が休養の必要があると判断した場合には、早退などの指示をすることもある。
・年次有給休暇は、10日前までに申請するよう伝えている。自分から言えない、あるいは休みたくないという人に関しては、担当者から支援機関を通して家族・保護者に案内を送り、相談している。(支援機関との連携については、下記のとおり。)
<休憩>
作業が片付いたタイミングでラインを止めて機械を洗浄し、一斉に休憩に入る。休憩時間は、休憩室で雑談、ゲーム、ビデオ観賞など、思い思いに好きなことをして過ごしている。 また、事務所内にイスを設置した静かなスペースがあり、一人で過ごしたい人は、そこを休憩場所として活用している。
<体調>
体調面に関しては特に気をつけており、毎日声掛けをして体調の変化やストレスなどが溜まっていないかなどを見逃さないようにしている。(声掛けについては、「話し合いを行った時期」の項目で詳しく述べる。)
[ 支援機関との連携 ]
・採用後も定期的に支援者から従業員へ日常生活の様子についてヒヤリングを行ってもらい、同社からも就業状況を報告、互いに情報を共有、擦り合わせを行っている。必要に応じて、当事者を含めて面談を行うなど、早期に対応している。また、その中での変化、課題については担当者・指導員で共有し、日々の業務指導に反映させている。
・年4回、3か月ごとにそれぞれの支援者に集まってもらい「支援者会議」を実施している。会社全体の動きや、個人への対応について情報交換を行っている。支援者と顔を合わせて話すことで、対応の相談が円滑に進められたり、課題の早期発見・解決に結びつくこともある。
本人のプライバシーに配慮した上で、他の労働者に対し、障害の内容や必要な配慮等を説明すること
1.担当者と指導員は、実習の段階から本人の状況や特性、必要な配慮事項などについて把握し、指導方針や支援体制などについてミーティングを行い、指導方針の統一を図っている。
2.従業員同士は「先入観をもたずに接してほしい」との思いから、個々の障害の内容を他の従業員に伝えることはない。ただし、趣味や好きなスポーツ等は伝えており、会話の端緒になればと考えている。「こちらから障害特性や注意点などを伝えなくても、それぞれが同僚を思いやる気持ちを持って毎日一緒に働いていれば、自然に助け合ったり、励まし合ったりして、従業員同士の程よい距離感、心地よい関係性が築けると思う」と担当者は話す。
その他の配慮
従業員たちが毎日意欲的に働けるように、同社では以下のようなことも行っている。
1.教育訓練、オリエンテーションの実施
ヒヤリハットに基づく現場で行う危険予知訓練、座学で行う理念教育やハウスルール、社会人としてのあるべき姿についての講習を繰り返し行っている。安全配慮に対する知識や意識、仕事に対するやりがい、働きがいについて理解することで、従業員自身が働きやすい職場づくりの一員になりえると考えている。
2.レクリエーションの実施
定期的に食事会や慰安旅行、役員や親会社の社員も一緒に参加するレクリエーション等を実施している。中でも、親会社が運営する店舗で行う新入社員の歓迎会は、自身が手がけたキャベツを使ったメニューを実際に食べることができたり、お客様が美味しそうに食べる姿を目の当たりにすることができるので、働く喜びが実感できると毎回好評である。
障害者への配慮の提供にあたり、障害者と話し合いを行った時期・頻度等の配慮提供の手続きの詳細
1.毎日、業務終了後に、一日の振り返りを行う面談の時間を設けている。日誌を基に一人ずつ行っており、特に気になる点がなければ1分程度で終わり、作業上の不明な点など話したいことがあれば10分ぐらいかけて話すこともある。ささいなことでもそののうちに確認することで、従業員は安心して、翌日からも仕事に臨むことができる。
2.定期面談は半期に一度、評価表を作成したタイミングで行っている。作業能力と職務プロセスの双方から作成した評価表を基に、社会人としての“あるべき姿”や目標を自覚してもらうためにフィードバック面談を行い、モチベーションの向上に役立てている。これをベースとして、週間の目標や、明日何をがんばるかということを、日々の日誌を用いて振り返る。
3.上記の面談を通して、話す機会は設けているが、対象者の中には自分の思いを他者に伝えることが苦手な人もいるため、日ごろから声掛けを行うなどコミュニケーションを取るようにしている。「朝礼や作業の合間のちょっとした時間に『ちゃんとご飯食べてるか』とか他愛もない話ですが、毎日声をかけるようにしています。別に返事がなくてもいいんです。毎日声をかけていると、その様子や顔の表情で、体調の変化や疲れ、ストレスが溜まっているなということが感じ取れます」と担当者は話す。日ごろからコミュニケーションを取り、話しやすい雰囲気を作って信頼関係を築いてきたことが功を奏したと思われる事例を紹介する。
4.Cさんの事例
Cさんは他者とコミュニケーションをとることが苦手で、表情が顔に出ないタイプの人である。入社してからしゃべっているのを聞いたことがないというぐらい寡黙で、担当者が声をかけてもいつも返事は返ってこなかった。それでも毎日声掛けを続けて8、9か月経ったある日、Cさんのほうから映画の話をしてきた。前日観た映画の感想だった。それから担当者とCさんは、映画、漫画、アニメなどの話をするようになった。「好きなことはこんなによく話す人だったんだ」と思ったという。その後Cさんは、業務量の項目でも述べたように、「段ボールを潰す作業がやりたい」と自分から申し出た。この作業をCさん一人に任せられるようになるまで2か月を要したが、今では自信を持って「段ボール潰しは僕に任せて」と言えるまでになり、毎日笑顔で段ボールの圧縮作業に励んでいる。
障害者の雇用について、「入社させることがゴールではなく、継続的に働いて会社の一戦力として働いてほしいと思っている」と担当者は話す。
知的障害があるといっても内容や特性は人それぞれであり、一人ひとりの性格や体力、好き嫌いなども異なるので、個々の職業適性を見極め、かつ、成長や可能性が広げられる業務内容のマッチングは重要である。さらには新卒で就職し、同社が初めての職場になる従業員が多い中で、仕事面だけでなく、心身のコンディションや生活態度まで親身になって気にかけてくれる上司や担当者がいるという安心感は、従業員たちの心の支えになっており、それが同社の従業員の定着率の高さにつながっていると思われる。
配慮を受けている障害者の意見・感想等
<Aさん>
学生の時、仕事は堅苦しいものと思っていたが、ここでの仕事は毎日楽しい。自分のできなかったことが、できるようになっていくことが楽しいし、やりがいにもなっている。何でも相談できる上司がいて、自分の目指すべき目標だと思っている。最初は従業員6人だけだったが、今は後輩も増えたので、これからは自分のことだけではなく、もっと全体を見られるようになりたい。
<Bさん>
どの作業も簡単ではないが、指導してくれる人たちの言葉を励みに毎日がんばっている。褒められた時はすごく嬉しくて、「よっしゃ!」という気分になる。ラインの前後の人に迷惑をかけないよう、自分のポジションに責任をもってやっていきたい。前の職場では人間関係の悩みもあったが、ここはみんな仲が良くて働きやすいので、これからも継続して働いていきたい。


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