2年ほど前に、本事例の事業所（以下「事業所」という。）が就労支援施設（以下「支援施設」という。）を対象に講演会を行い、支援施設の利用者であった本事例の対象者（以下「対象者」という。）が事業所に興味を持ち、応募したことから、採用面接を行うに至った。
そうした経緯から採用面接には、支援施設の職員（支援員）が同席した。

作業内容のミスマッチを防ぐため、面接を行う前に、採用となった場合実際に従事することになる作業の見学を設定し、対象者の意向を確認した。
そこでやってみたいという意向を対象者が示したことから、面接を行い採用することとなった。

事業所では障害のある職員への作業指導などは、担当者（以下「指導役」という。）を1人決め行っている。
対象者についても採用当初は、業務担当次長が指導役として、作業の流れや道具の使い方を指導していたが、現在は現場のスタッフが行っている。
採用当初はできていないところを注意することが多かったことから、注意をすると対象者は萎縮しているように見えた。そのため、よりソフトな接し方が必要と考え、指導役を経験が豊富でソフトな指導が得意な現場スタッフに変更した。この変更により、上手くできたところを褒めることを心がける指導になり、対象者のやる気もでてきた。
採用から2年が経過した現在は、基本的に指導役なしで、一人で作業ができるようになっている。

新しい作業に取り組むのは苦手なことから、採用当初から作業内容についてはほとんど変更、追加していない。
今後、本人が希望すれば新しい作業にチャレンジさせることも考えている。

職員向けのマニュアルは作成しているが、障害のある職員用のマニュアルというものは作成しておらず、個々人に合わせて工夫している。対象者の場合は、文章を読んで作業することが難しいため、職員向けのマニュアルを用いて簡単な説明は行うが、ほとんどは実際に他の職員の作業を見たうえで、体験することで覚えていくよう指導を進めている。その際には、複雑、複数の作業は指示しないようにしており、作業に慣れるまでは同じ業務を繰り返し行うようにしている。

職場環境に慣れるまでは、急な欠勤や体調不良が多く、業務にも集中できていないことが多々あった。そこで、支援施設の支援員に相談をし、対象者・指導役・支援員の3人で話し合いを行った。
まずは職場の環境に早く慣れてもらうために、現場スタッフに対象者とできるだけコミュニケーションを取ってもらうようにした。
また、指導役からは、休憩中に体調管理の方法を教えたり、対象者が会社にとって「とても必要な存在であり、急に休むと仕事がとまってしまい、みんなが困ることになるんだよ」と具体的に説明をしたことで、体調管理や意欲面での向上がみられ、今では、採用当初に比べ欠勤は少なくなり、性格も明るくなった。

障害があることについては、現場の全職員には伝えず、責任者にのみ伝えていた。