・本事例の対象者（以下「対象者」という。）は、10年以上の福祉施設における調理業務ののちに、デイサービス業務に異動（職種変更）した事例。
・採用面接時は、ジョブコーチと本人の保護者の同席を認めた。
・平成20年12月の採用から調理業務に携わり、平成31年2月からデイサービス業務へ異動した。

・本事例の事業所（以下「事業所」という。）は、対象者の採用に際しては地域障害者職業センターのジョブコーチ支援を利用。ジョブコーチからの説明で、あらかじめ対象者はコミュニケーションが苦手であったことを把握し、人間関係への配慮や、本人の希望を考慮して、調理場での試行的なトライアル雇用を経て採用した。
・事業所では平成31年1月に調理業務を外部に業務委託した際に、対象者には慣れている調理を引続き頑張ってもらうことを考えた。しかし業務担当者や周囲の人が、辞職や異動でほとんどいなくなってしまうことから、対象者は人間関係に不安を感じ、関係者もまじえ、事務長と相談を重ねた。
・慎重に話し合いを重ねた結果、事務長の判断と本人の意向を尊重して、平成31年2月からデイサービス業務へ異動した。

・現在デイサービスでは、対象者と他のスタッフ以外に担当職員が2人在籍しており、本人が勤務する際は、必ず担当職員1人以上が勤務するようなシフト体制を組み、本人は補助的な業務を行っている。
・また、入浴作業時など担当職員不在の時間帯でも、他のスタッフが見守り、フォローしている。

対象者のデイサービスでの担当業務は、主に入浴準備やタオル等の洗濯作業である。作業自体は単純だが、入浴業務などを円滑に遂行するための補助的業務として必要不可欠である。
・仕事を次々に与えるのではなく、本人の習熟度に応じてできる仕事を、職員や周りのスタッフで探してあげる事で、プレッシャーを与えないような配慮を常に心掛けている。

・デイサービスの作業は、マニュアルなどはないが連絡ノートが常備されており、特に指示がなくても、連絡ノートでその日の連絡事項・やるべき作業などを確認しながら業務が遂行できるようになっている。
・入浴作業は入所者の安全面への配慮などから、担当職員のみで作業を行うため、その時間帯は他の片付け・清掃などを行っている。

・勤務形態は、本人の体力面等を考慮し、短時間勤務とした。
・体調管理は、本人も日頃から気を付けているので心配ないが、業務中に体調が悪くなった場合等は、業務責任者が保護者に連絡及び確認するように気をつけている。

・作業現場の職員に対しては、対象者の得意・不得意や配慮事項、緊急時の対応なども含めた周知を徹底して行っている。
・また本人も長い勤務経験で馴れたのか、業務の事で分からない時はすぐ聞き、体調に不安がある場合も我慢することなく伝えることができるので、周囲の担当スタッフも安心して見守っている。

・調理からデイサービスに異動の際は、せっかく頑張ってきた調理をできれば続けたい気持ちもあったようだが、調理業務の指導担当者や、慕っていた他の方が次々と辞めたり異動したことで、かなり不安やプレッシャーを感じた様子。
・事務長と相談をくり返していく中で、調理・デイサービスの他にもいくつか選択肢を用意し、改めて本人に希望を聞いたところ、デイサービスに落ち着いたとのこと。（調理に比べデイサービスは、業務量など負担が少ないのではないかという事務長の配慮もあった。）