・本事例の事業所（以下「事業所」という。）では、過去に発達障害者の雇用経験がないため、当初は社内に採用に難色を表明する者もいた。しかし、会社（人事部門）としては採用を前向きに進める中で、ある事業主団体から地域障害者職業センター（以下「職業センター」という。）を紹介され、協力を得ながら雇用を進めることとした。
・本事例の対象者2名は職業センターの利用者であり、面接時には、職業センターの担当者が同席した。

・両者とも3か月間のトライアル雇用後に採用となった。Bさんについてはトライアルに先立ち1週間の職場実習を行った。入社時期はAさんが先であるが、それぞれの入社日前に職業センター職員を講師に、配属先の全員（約20名）に対する勉強会を計2回実施し、障害に対する社員の理解を深めることができた。勉強会で障害特性を学べたことはその後の受入れに大変役立った。

・受入れに当たっては、勉強会の内容を踏まえ、本人の申し出や職務経験を基に、障害に見合った業務の切り出しや、職場環境を整えた。Aさんは、イレギュラーなコミュニケーションが苦手なので、そういった活動が不要な業務を担当とし、Bさんは、過去に職業経験のある消耗品管理業務を担当とするなどの配慮を行った。

・Aさんは、会社にとって初めての発達障害者の雇用となるため、当初は、過去に障害者雇用の経験がある部長が、毎日1対1で対応した。指示系統を部長一人に絞り、その日の業務内容の指示や、業務のやり方の説明を行った。連日対話を多く重ねて、Aさんが業務の取り組みで困らないよう配慮した。仕事が定着してからは、日々の業務指示は所属課長と社員に任せるようになった。 なお、採用当初は職業センターのジョブコーチによる支援も活用した。

・Bさんは、当初は職業センターの担当者が月に1度面談を行い、事業所と情報共有していたが、本人が職場に慣れてからは、Aさんと同様に所属課長と社員1名が担当となり、定期的に話を聞き、困りごと、できないことがないかを確認をするようにした。

・Aさんには、苦手な電話対応や外部とのやりとりが発生する業務を除くなどの配慮をし、業務指示者は部長に限定した。作業自体については、本人がマニュアルをじっくり作り、確認する時間も十分確保できるように配慮した。自分で作ったマニュアルを基に作業を進めていったAさんは、仕事に慣れるにつれ、持ち前のエクセルの知識を活用し、職場で活躍するようになった。例えば、従来は数時間以上もかかっていた従業員の勤怠管理の集計作業を、Aさんがマクロを組んでボタン1つでできるようにし、周囲から驚かれたりした。

・Bさんについては、指示を受けた時にきちんとノートにメモを取ることができており、そのノートがBさんのマニュアルになっていることから、メモをとるための時間が確保できるように配慮した。Bさんはノートを確認することで自身の着実な仕事ぶりにつなげることができた。

・現場では両者が業務過密で混乱しないよう、余裕をもった業務配分、スケジュールとなるよう配慮している。

Bさんは、集中力が高く、熱心に仕事をするが、一方、全く休むことをしないため、本人にとって業務が過負担となることが懸念された。そのため、当初は担当からは意識的に声をかけ休憩をとるようにさせ、疲労が溜まらないよう配慮していた。本人は、仕事が早いため、まかせた作業がすぐに終わってしまい、次の仕事の指示待ちとなるが、手一杯になると過負担が発生するので、余裕を持たせつつ少しずつ仕事量を増やすように配慮している。

両者の障害内容等については、部内の社員に対して周知し、勉強会で障害特性や必要な配慮等について説明した。他部署の社員に対しては、知らせるべきか否かについて社内で相当議論をしたが、周知は行わないこととした。

業務内容が変わる時に指示の仕方が変わると、配慮がおろそかになるおそれがあるので、指示の仕方に注意を払っている。現在は、社長・部長・課長・担当者とも障害者雇用に対し前向きで、理解もあり、障害に対する配慮は得やすい環境にある。今後、人事異動により体制が変わっても今の状態を継続できるようにしていこうと考えている。