（1）事業所の概要

ア　事業の特徴
　株式会社ムカイ(以下「当社」という。)は、昭和41 (1966) 年創業の婦人アクセサリー、ファッション雑貨の企画・生産・販売を行う専門商社。直営店事業と卸売事業を柱として国内外に事業展開を行っている。

イ　経営理念・方針
　　アクセサリーで輝き・ときめきを。お客様を笑顔に。

ウ　組織構成
　静岡市に本社を置き、直営店などを全国に展開している。海外についても、香港と上海に子会社の現地法人がある。
国内外の社内物流を行う拠点として本社の近隣に商品センター(以下、「同所」という。)がある。同所には10名の障害のある従業員が在籍し、婦人服飾雑貨に関連する業務に携わっている。

エ　障害者雇用の理念
　　人が輝く社会、文化、環境を作り出すための活動に取り組む。


（2）障害者雇用の経緯・背景
　平成18(2006)年に同所において、知的障害者を雇用し、障害者雇用を開始する。直営店舗では、一店舗あたりの配置従業員数が少なく、障害のある従業員への配慮が難しかったことから、同所にて雇用を進めた。平成28(2016)年には、就労移行支援事業所（以下「支援事業所」という。）の職員のアドバイスもあり、精神障害者と発達障害者の雇用も始める。

（1）取組の内容

ア　障害者雇用における流れ
(ア) 担当者を定める
・同所に職場リーダーを配置し、その者がキーパーソンとなり障害のある従業員への指導を行うとともに、相談役となっている。
・仕入れ部門に所属し、仕入を主な業務とする者が、人事担当を兼務する、障害者職業生活相談員でもある障害者雇用担当者（以下「雇用担当者」という。）は、障害者の採用、職場内巡回時の声掛け、障害のある従業員との面談、支援事業所との連絡を担当している。

(イ) 採用方法
　新たに障害者雇用をする際には雇用担当者から支援事業所に声をかけ、最初に支援事業所の職員が同所の見学を行うことが多い。次に支援事業所から適性のある人材(以下「対象者」という。)の紹介を受け、対象者が支援事業所の職員と共に同所の見学を行う。見学後に対象者が就職を希望した場合は、ハローワークを通して応募するように依頼し、採用面接を行う。採用面接時には、対象者が利用している支援事業所の職員の同席を得て、障害状況、配慮点などについて、補足説明を受ける。面接後には、静岡県の事業主委託訓練制度を活用した職場実習を行い、仕事や職場の環境と対象者のマッチングを判断したうえで採用を決定する。

(ウ) 労働条件・健康管理上の配慮
　疲れやストレスが溜まると体調不良が起きやすい障害のある従業員は、主治医の診断や、支援事業所の職員からのアドバイスなどにより、採用当初は、一日あたり4時間半の勤務を認めている。一定期間の勤務を経て、その間の本人の様子を観察しながら徐々に勤務時間を延長していくこととしている。出勤時間は、配慮が必要な者は、時差出勤で混雑を避けるように配慮し、障害のない従業員より30分遅らせている。通院や体調不良による遅刻、早退、休みは、事前に職場リーダーに報告することで許可している。

(エ) 障害者の業務切り出し
　障害のある従業員は、本人の能力に応じて、出荷・荷受事務、ピッキング作業、物流補助作業などの業務を行っているが、雇用人数を増やし、安定した作業量を確保するために、外注していた値札の取り付けと袋詰め作業を社内で行うように変更した。

　　　　　

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　値札の取付作業と資材


(オ) 職場配置前の事前説明会
　障害のある従業員を職場に配置する前に、配置先の従業員を対象に、支援事業所の職員から、本人のプライバシーに配慮した上で、障害状況、配慮点などについての説明を聞く、「事前説明会」を開催する。

イ　指導方法と指示の出し方
（ア）障害者の従事業務と職場リーダーによる指導
　入社した当初は、納期に余裕のある商品で、ノルマは課さず、プレッシャーがないよう、焦らず確実に作業が身に着くように心掛けて、値札の取り付けと袋詰め作業を行わせている。慣れてきたら徐々にスピードアップして行き、長く続けられることを目標に職場リーダーが指導する。

（イ）作業指示とマニュアル作成
　作業指示においては、まず職場リーダーがやって見せて理解を促す。また、「値札の取り付け」や「袋詰め作業」などの作業ごと、「イヤリング」や「ネックレス」などの品種ごとに、手順のマニュアルを作成し、分らない時に確認できるようにする。業務の優先順位や目標を明確にし、指示を一つずつ出す。そして、先の見通しがつかないことで不安とならないよう、作業予定は、あらかじめ職場リーダーから伝えるようにしている。
　以下にマニュアルの例を紹介する。

　　　　　　　　　　　　　
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　マニュアル例　


　上記の写真は、「シール貼りのマニュアル」である。
　このマニュアルは、指示された部門シールを貼る作業について、「指示された部門シールが貼っていないケース」と「指示された以外の部門シールが貼ってあるケース」における、値札シールと部門シールの貼付位置について解説している。

（ウ）チェックリストの作成と活用
　　「値札の取り付け」の業務をしている中で、不良品が発生することがあった。そこで、不良品の判断がしやすいように、イヤリング・ネックレス・ピアスなどのアクセサリーやヘアアクセサリーの商品を一覧に掲載した写真付きの不良品チェックリストを作成して活用している。
　写真（不良品の例）と対象品を見比べて判断することで、感覚的な判断や曖昧な判断が苦手な障害のある従業員の判断する時間が速くなった。不良品チェックリストを導入したことで、どうしても自分で判断できない時に、職場リーダーへ確認する回数も減少した。

　　　　　　　　　　　　　　　　　
　　　　　　　　　　　　　　　
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　不良品チェックリスト

ウ　コミュニケーション
　職場リーダーは、常に障害のある従業員からの困りごとや悩みごとなどを聞ける環境にしている。また、雇用担当者による巡回の際の声掛けで体調などを確認、必要に応じて、障害のある従業員と職場リーダー、雇用担当者の3者による面談で、相談できる機会を設けている。
 

エ  職場における課題と解決策
(ア)職場配置で生じた課題とその解決策
　知的障害のある従業員においては、障害のない従業員と同じ職場に配置しているが、発達障害のある人で初めて雇用したAさんは、当初、同様に配置したところ、周りの人の動きや音が気になり、仕事に集中できず、作業もうまくいかず、気持ちが不安定になり、体調を崩しやすかった。そこで、支援事業所の職員のアドバイスにより、人の会話や出入りが少なく、電話の呼び出し音もあまりしない、静かな職場に配置転換することで、落ち着いて作業に集中できるようになった。

(イ) 職場環境で生じた課題とその解決策
　同じ職場に精神障害のある従業員と発達障害のある従業員を配置すると、障害のある従業員同士で作業スピードを比較し合ったり、他の障害のある従業員の発言や行動に影響を受けて、気持ちが不安定になる事例が度々起きた。そこで、地域障害者職業センター（以下「職業センター」という。）のジョブコーチのアドバイスにより、パーテーションを設置し、作業机ごとに仕切り、作業中、他の人が視界に入らないようにすると、周りに影響されにくくなり、落ち着いて作業に集中できるようになった。
　なお、両名については、精神障害者と発達障害者の採用は当社として初めてであったため、採用時から職業センターのジョブコーチ支援を利用した。

　　　　　　　　　　　　　　　

 　　　　　　　　

　　　　　　　　　　　　　　　　　　パーテーションの設置

 （2)取組の効果
ア 効果
　課題があるたびに、皆で協力して対策を考え、改善することで、社内に障害のある人とない人が一緒に働く環境が整ってきた。

イ 障害者自身のコメント
（精神障害のあるBさんより）
　「分からないことは、いつも聞きに行って教えてもらっています。作業スピードを周りの人と比較すると、あわてて失敗したり、ミスが多く出てしまうので、自分のペースで作業しています。会社で働くことができて、アクセサリーのいろいろな商品があって楽しいです。」
 

　障害のある従業員も、必要な配慮はしながら、本人の努力次第で、配置転換を行い、スキルアップできるようにさせていきたい。また、当社の理想である、障害のある人もない人も、一緒に協力して働ける職場を目指したい。
　課題としては、今年、60歳を迎えた障害のある従業員もおり、障害のある従業員も65歳まで雇用する中で、体調や体力の変化、生活環境の変化など、高齢化対策が必要になると考えている。