集団力を活かしたナチュラルサポートによる
職場定着及び継続雇用の実現
- 事業所名
- 一般財団法人医療と育成のための研究所 清明会(大浦保育園・みどり保育園)
(法人番号: 7420005004856) - 業種
- 医療・福祉業、うち除外率設定業種
- 所在地
- 青森県弘前市
- 事業内容
- 医療業、児童福祉事業
- 従業員数
- 415名
- うち障害者数
- 7名
-
障害 人数 従事業務 内部障害 2名 看護業務、看護補助業務 知的障害 2名 病院内清掃業務 精神障害 3名 病院内清掃業務、保育補助業務 ※保育園勤務2名 - 本事例の対象となる障害
- 精神障害
- 目次
-
事業所外観
1. 事業所の概要、障害者雇用の経緯
(1)事業所の概要
一般財団法人医療と育成のための研究所清明会(以下「同法人」という。)は、明治27(1894)年に鳴海定五郎氏が青森県弘前市松森町に開業した鳴海医院をはじめとする鳴海病院及びみどり保育園などを運営する財団法人鳴海研究所清明会と、元和元(1615)年に津軽藩の藩医として創業した小野家をはじめとする弘前中央病院を運営する財団法人秀芳園の2法人が合併し、平成24(2012)年1月に財団法人医療と育成のための研究所清明会として設立。平成26(2014)年4月には弘前市より民間移譲となった大浦保育園と鳥井野保育園が同法人に加わった。
現在では弘前市内に病院2施設(鳴海病院・弘前中央病院)、診療所1施設(あおもりPET画像診断センター)、保育所3施設(みどり保育園・大浦保育園・鳥井野保育園)を運営している。
本稿では、同法人の保育事業における精神障害者雇用に焦点を合わせ、みどり保育園と大浦保育園での精神障害者2名の採用・職場定着・継続雇用についての取組事例を紹介する。
その取組の特徴は、支援機関などを利用した制度的な支援によってではなく、職場内での人的な支援、障害に対する正しい理解に基づく合理的配慮によって職場定着及び継続雇用を実現していることにある。
(2)障害者雇用の経緯
障害者雇用のきっかけは、法定雇用率達成を目標に、同法人理事長より3園を統括する統括園長に保育園での障害者雇用の依頼があったことを発端とするが、統括園長の「他の人よりも弱さや苦手感があるだけ」との障害者に対する認識が保育園全体の共通理解・認識ともなっており、障害者雇用についても反映している。
そのため採用後の担当業務についても、清掃員などの短時間雇用といった業務ではなく、保育事業本体において「子供と関わり、長く勤めてほしい。」との思いから、保育補助員としてハローワークの障害者専用求人において募集を行った。
2. 取組の内容と効果
(1)障害者雇用にあたっての考え方について
同法人では保育事業において大切なのは、職員が自分と他者の苦手な点を意識するとともに、職員が集団でお互いに補い、支え合う集団として力(集団力)であると考えている。そして、子供たちへのかかわりにおいても集団力は重要と考えている。
例えば苦手な課題に直面して困っている子供がいた場合、周りの子供たちに「こういうことが苦手なようだけど、どのようにしたら良いと思う?」と、子供たちが他の子の苦手なことを理解し、対処法を自ら考えるように促すなど、子供の成長を支える接し方をとっている。また、一人ひとりの違いを正しく理解し、どのように補えば他の子供たちと同じ場面・時間を共有・経験し、成長していけるかに配慮しながら、真に平等な環境を提供できるようにしている。
それは障害者雇用においても同様であり、障害の有無に関わらず、誰にでも不得手があると考え、その不得手を正しく理解し、自然に支え合えることを大切とし、同じ職場の一員として受入れることを共通認識としている。
(2)採用について
ア.採用基準
障害の種類や程度などに関係なく、子供と向き合う姿勢に優しさが感じられるか、愛情を持って接することができるかを重視している。障害については、本人の不得手な事柄や、働く際に必要な配慮を理解する上での参考として考えている。
イ.採用の流れ
ハローワークにて障害者専用求人として保育補助員の募集を行い、応募を受けて採用面接を実施。面接にて、就労意欲や人柄、適性を確認し、合否を決定、採用としている。
ウ.採用状況
そうした採用活動により本稿で紹介する2名(AさんとBさん)を採用した。
(ア)Aさん
Aさんは精神障害のある方で、子供と関わる仕事がしたいと思っていたところ、ハローワークで募集を見て応募し、面接を経て採用された。支援機関の利用はない。
(イ)Bさん
Bさんは精神障害と発達障害のある方で就労移行支援施設を利用していた。ハローワークで同法人の募集を知った就労移行支援施設の勧めで応募し、面接、採用となった。
Bさんは障害特性上、想像力が弱く場面に応じた判断が苦手なことや、情緒不安定な面があったため、職場定着のため採用後約1週間は地域障害者職業センターのジョブコーチ支援を利用した。統括園長が過去に中学校の「心の教室相談室」の相談員をしていた頃、Bさんとは生徒として出逢っていたことから、特性への理解もあり、問題なく職場に受入れることができた。
(ウ)今後の採用予定者
AさんとBさんのほかにも採用に向けた話が進んでいる方が1名ある。その方は知的障害のある方で、現在養護学校の在学生である。
養護学校から保育園での職場実習の受入れ依頼があり、園としては初めてであったが保育の補助業務で受け入れた。園児への声掛けの上手さや人柄は良好で、本人にも保育園で働きたいとの意欲が見られたので、次年度採用に向けた採用面接を予定している。
(3)配慮・取組の実際-1-:業務の指示出し方法及び相談体制について
作業手順などの指示出し及び相談の窓口については、統括園長に加えて個人別に担当者(以下「担当者」という。)を決めており、Aさんの場合は組主任、Bさんの場合は固定で一緒に働いている先輩職員2名が担当している(統括園長や担当者の休みと負担軽減に配慮し複数名の体制としている)。入社当初の1週間程度は統括園長が担当したが、その後は個人別の担当者が中心に担当し、統括園長と担当者が連携し、統括園長の不在時対応や情報共有が適切に図れる体制としている。
業務や勤務に係る指導については、障害の有無に関わらず統括園長が直接行うが、周囲からの良い評価は統括園長を通じて間接的に褒めるなど、職場の人間関係が円滑に運ぶように心掛けている。
また定期的な面談については、年度末の雇用契約更新の際に、統括園長が労務関係の説明とともに今年度の振返りと次年度の目標立ても行っている。それ以外にも必要があればその都度面談の機会を設けている。
定期的な面談では、Aさん、Bさんが担当するクラスの決定について、本人の負担とならないように確認しながら行っている。
なお、面談に際しては、本人が苦手なこと、嫌なことについて本人から何度も聞くことは自信を無くす要因となるため、二度聞きしないように心掛けている。そして、苦手な業務は全職員で対処するなど、チームとしての集団力を活かし、サポートしている。
(4)配慮・取組の実際-2-:健康管理及び休暇取得について
健康管理については、日頃から顔色や表情に気を配り、不調が見られれば「疲れているように見えるけど、無理していない?」「疲れた時は無理せず休んで大丈夫だよ。」とナチュラルサポートを心掛けるとともに、必要に応じて面談などを行っている。ただし、年末年始や長期の連休明けは変化が出やすいため必ず声を掛けるようにしている。また、定期通院などについては、平日の休務日や有給休暇を利用して行っており、職場としては休暇の取得や相談がしやすい体制を整備している。
(5)配慮・取組の実際-3-:休憩及び昼食について
昼食については保育園の給食を提供しており、休憩の取り方については、それぞれの特性に合わせた形としている。
ア Aさんの場合
園児の昼食補助をしながら給食をとり、休憩は担当クラスの教室にて他職員と一緒にとっている。特に本人から個室での休憩希望はないが、休憩できる場所は確保している。
イ Bさんの場合
偏食傾向があり、給食の盛付けにおいて配慮が必要なためBさんの特性を理解した盛付けをお願いしている。また、人と一緒に食事をとることを苦手としているため、個室にて一人で休憩・昼食をとれる環境を整備している。
(6)配慮・取組の実際-4-:障害特性や配慮事項の周知について
障害特性や職場の状況を勘案し、以下の個別対応を行っている。
ア Aさんの場合
全体への周知はしておらず、主任、各クラスの組主任、副主任、子育て支援センターのセンター長、Aさんのクラスの職員のみの周知としている。
イ Bさんの場合
障害特性により自分の意思を表現しないことが多いため、本人の同意を得て、全職員に周知し、情報共有することで、誤解やトラブルが無いよう対応している。
(7)配慮・取組の実際-5-:福利厚生(職員行事)への参加について
法人全体の忘年会が年1回、保育園としての食事会が年2回程度、会費は会社負担で行われており、出欠については主任が各職員に声を掛けて取りまとめ、AさんもBさんも参加している。
Bさんについては、障害特性上、具体的な想像・段取りができないため、周りの職員から、何月何日に仕事が終わったら、いったん家に帰りどんな服装に着替えて、何時にどこに集合して、誰の車に乗り、どうやって帰るのかなど、一連の流れを具体的に説明している。また、ふだん一緒に仕事をしている先輩職員が参加することや、どういう服装で行くか写真を提示するなど、具体的な説明により見通し、安心感を得られるための配慮をしながら参加を促している。
(8)支援制度の利用について
両名ともハローワークの紹介であり、「特定求職者雇用開発助成金」を利用した。
また、前述のようにBさんについてはジョブコーチ支援を利用した。
(9)職場定着・雇用継続の状況について
ア Aさんの場合
Aさんは本人の保育業務で長期的には働いていきたいとの希望もあり、働きながら子育て支援員の資格取得にも取組み、同法人としても応援し、取得することができた(注参照)。
しかし、子育て支援員の資格取得や様々な行事が重なり、頑張り過ぎてしまったことや冬期間のそううつ傾向が重なり調子を崩し、約3か月間休職となった。同法人では休職期間中は、家族と月2回程度、定期的に連絡し状況を確認するとともに、「いつ戻ってきても大丈夫。いつまでも待っているよ。」とメッセージを伝えてもらい、安心して本人のペースで復職してもらえるように努めた。
復職後は、本人の負担を考え休職前と同じ通常勤務としたが、その後、子育て支援員の資格が必要な「早朝保育」を含む早番勤務への変更を検討した。変更を検討した理由は、早朝保育では、様々な年齢の園児をまとめて見るため負担や責任は増えるが、資格を活かせるとともに、そこで得られる経験が本人の成長にもつながること。また、以前より30分早い勤務となるが、Aさんの生活習慣上、早番の勤務時間帯の方が働きやすいとのことから、本人と相談の上、勤務を変更するとともに資格手当を給与に反映した。今後も頑張り過ぎて、不調となることがあるかもしれないが、本人のペースを大事にしてあげたいと考えている。
また、この職場で定年まで働いて良いとの安心感を持って、未来を前向きにイメージして働いてもらえるよう、採用後には勤続年数による有給・介護休暇などの制度や様々な補償、退職金制度などについて具体的な説明も行っている。
(注)子育て支援員とは、国の「子ども・子育て支援新制度」のもと、保育の仕事や子育て支援に就業する人を増やす目的で創設された、子育て支援の担い手のこと。指定された研修を受けることで支援員の資格を得ることができる。
Aさんの子育て支援員研修に係る受講経費は会社負担、研修期間は有給休暇で対応している。
イ Bさんの場合
担当していたクラスの進級時に、引き続き同じ子供たちを担当したいため、上のクラスに変更してほしいとの相談がBさんからあった。今後の卒園を考えると気分の落ち込みなどが考えられ、またサポートする職員の配置や能力的な観点からまだ上のクラスを任せることが難しく、変更はできなかった。
そこで、Bさんの思いに寄り添いながら「子供たちが上のクラスになって別れるのは悲しいよね。でも、4月になったら、同じくらい可愛い子がいっぱい入ってくるよ。」と、別れへの理解と次年度のイメージが持てるように丁寧かつ詳細に説明を行った。その後は同様の相談はなく、業務に励んでいる。
(10)Aさんの声
これまでは介護や接客業など、様々な仕事を経験したが、冬場になるとそううつ傾向が出やすくなることから1年以上定着したことがなかった。そんな中、ハローワークでこちらの求人を見つけ、以前から子供と接する仕事に興味があり応募し、採用された。採用後は、知識も経験もなく不安だったが、周囲の人が優しく、困っているとすぐに声を掛けてくれ、本当に有難かった。長く働きたいと考え、日頃から健康管理に気を配っている。仕事を長く休んだ時もあったが、復職後も以前と変わらず優しく迎え入れてくれ、本当に嬉しかった。また子育て支援員として、いろんな年齢の子と接するようになり、勉強になっている。
入社時から「先生が働きやすいように事前準備をすること」「子供たちに寄り添うこと」を目標としてきて、現在では子供たちと信頼関係が築けるようになったと感じている。子供たちが本当に可愛く、子供たちにとって私が園にいたら嬉しい存在になりたいと思っている。今後は保育士を目指したいと勉強中であり、ここで長く働いていきたいと思っている。
Aさんの就労場面:お遊戯会の衣装準備をサポート3. 今後の展望と課題
(今回取材した同法人の統括園長から)
今後は、同法人としての方針や各保育園の状況を見ながら、新規採用と職場定着を図りたいと考えている。また、障害特性を正しく理解し、不得手を補い、上手く集団の中に溶け込めるよう配慮した真に平等な環境を築いていきたいと考えている。受入れる側が障害の有無にかかわらず職員を自分の家族のように大切に考え、接することで、全職員も同じように園児を大切に考えることができ、良い連鎖が生まれてきている。
また、障害のある職員の成長も見守って行きたいと考えている。担当するクラスの年齢によって必要となるスキルが変わる。0歳児は言葉の意思疎通ができないため何を求めているのか察する力が、1歳児はミルクのあげ方やアレルギー食材の誤食防止などの、接し方や食と命の大切さへの知識が必要とされる。障害のある職員の負担に配慮しながら、成長につながるようクラス配置を決め、集団力を活かして支えていきたい。同様に、個別の夢や目標を持つ職員がいれば、実現できるよう全力でサポートしていきたいと考えている。
執筆者:独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構
青森支部 高齢・障害者業務課 小関 優子
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