働きがいのある職場環境を目指して
2020年度掲載
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会社外観
1. 会社の概要
株式会社丸協食産(以下「同社」という。)は、昭和49(1974)年5月1日 に設立された。
同社は、牛・豚・鶏肉及びバラエティーミートの加工品製造卸業を営んでおり、「新鮮・安全・おいしい食肉及び畜産副生物(ホルモン)をお客様へお届けする」という基本理念を掲げ、「食の安全安心」「食のおいしさ」「食の未来」というテーマを日々追求している。
従業員数は、現在、503名となる。うち障害のある社員は20名である。誰もが働きやすい環境を目指し社員が協力し業務にあたっている。
2. 障害者雇用の経緯
障害者雇用のスタートは、25年前に遡る。当時は、法定雇用率の達成を目的としていたが、その後、障害者を積極的に雇用するという会社の方針が定まり、継続的な採用を続けた結果、同社の障害者の実雇用率は、現在4.3%までになった。
同社が積極的に障害者雇用に取り組むこととした背景には、障害のある社員と一緒に働くなかで社員全体のコミュニケーション力などが向上したということがある。
障害特性などに応じたコミュニケーションの取り方や指導方法、人間関係の作り方などを実践するなかで身についたコミュニケーション力などは、ふだんから丁寧な言葉を使うことや、同僚に対して親身になって相談に乗れることにつながった。また、新入社員に対する丁寧な言葉で接し、理解しやすい方法で教えることなどにもつながった。
積極的に障害者雇用を進めるという方針には、障害雇用を進めることで、会社全体がコミュニケーションがよりスムーズに取れて、情報共有も進む会社になるのではないかという思いが込められている。そして、その推進役は現在の社長である。
社長は社長就任以前から障害者の採用、教育・指導に自ら取り組んでおり、現在も中心となって障害者雇用を進めている。
3. 障害者雇用の取組
(1)関係機関と連携した採用
同社では障害者の採用にあたり関係機関との連携をとっている。新たに採用を考える際には、ハローワーク、特別支援学校、障害者就業・生活支援センター(以下「支援センター」という。)との会議で募集内容の説明を行うともに、職場実習制度の利用などについての打合せを行っている。
採用までのプロセスは、応募者による会社見学、職場実習、面接を行ったのち、採用を決めている。採用はトライアル雇用からスタートし、継続が可能であれば常用雇用へと移行している。
職場実習は工場で行うが、特別支援学校の生徒については職業体験としての実習も含め、一人の生徒に複数回実施することもある。
また、就労移行支援事業などの福祉施設からの採用もしている。そうした場合には、施設外就労制度を利用して工場で受け入れ、福祉施設と連携しながら時間をかけて職場環境になじめるように配慮している。
(2)就業状況
ア 就業数と職種
現在在職している障害のある社員数は20名で、障害別には知的障害が10名と最も多く、ついで身体障害5名(聴覚障害2名、視覚障害1名、上肢障害1名、下肢障害1名)、発達障害3名、精神障害2名となっている。
職種は、営業職(身体障害)、企画デザイン職(身体障害)、事務職(精神障害)が、各1名。他17名は、製造職である。
製造職の仕事は、食肉を入れる容器の洗浄、工場の掃除などの間接的な作業が主体であるが、なかには訓練を経て直接肉を扱う食肉の加工なども行える者が出てきており、障害のある社員の職域が広がってきている。
イ 勤務条件
障害のある社員の勤務時間は他の社員と同様、一日7~8時間勤務が主である。障害のある社員の場合はトライアル雇用からスタートするが、最初は一日5~6時間勤務から始める場合が多い。その後状況を見ながら勤務時間を増やし、最終的に7~8時間勤務となる。そうした段階を経ることから、雇用契約はパートタイム契約からスタートするが、将来的には準社員契約に移行することもできる。
通勤は、両親の送り迎えの通勤が1人いるが、ほかの者は全員バス通勤である。
なお、障害のある社員の障害の障害状況・配慮事項などは、本人の了解を得たうえで配属部署の社員にもオープンにされており、必要な配慮が得られている。
(3)会社の体制作り
同社の敷地内には4つの工場があり、障害者雇用を始めた当初は第一工場だけに配置していたが、将来、障害のある社員が増えることを踏まえ、5~6年前からは、4工場すべてに障害のある社員を配属している。
障害のある社員を受入れる現場の社員にはあらかじめ会社から対応法を教育したが、戸惑いはあった。このため、現場の経験や指導のノウハウについて、朝礼などで指導者が情報共有し、それらをもとに個別のセクションごとに細かい指導を行ってきた。
また、社外からの情報収集にも力を入れており、支援センターなどが主催する情報交換会に参加し、トラブルがあったときの対応方法などについて学び、それらの共有も行なっている。
(4)様々な課題と対応
ア 直面した課題など
障害者雇用を進めるなかではいろいろなできごとや課題に直面してきた。以下にそのいくつかを紹介する。
・障害のある社員を雇用し始めた当初、障害のある社員がミスしてもどのように指導・教育すればよいか分からなかった。
・障害のある社員が仕事を一つ覚えると、指導者があれもこれもと仕事を課し、本人は一度に一つしか覚えられないのでパニックになった。
・指導担当の社員も人間なのでイライラしている時や、予定より遅れていて早く仕事をしたいという時に、つい言葉が乱暴になった。それを障害のある社員は叱られたと思い泣いてしまった。
・周りの社員から「あれをやって」などのあいまいな指示されても、障害のある社員は、理解ができなかった。
・入社後、家庭の事情で会社の寮に入ったが、夜になり仕事のストレスなどで寂しくなってお母さんのところに帰ろうとし寮を抜け出して行方が分からなくなった。
イ 対応の内容とポイント
前述のような際の解決方法が最初からあるわけではない。同社では様々な工夫や試行錯誤を繰り返しながらひとつひとつ対応し、そうした経験やノウハウを社内で共有してきた。
さらに、社内の経験だけでは限界もあり、関係機関が開催するセミナーなどに参加して幅広く知識を得ることも重要と考えている。そして、そうした知識・ノウハウをもとに社員が経験を積むことが重要と同社は考えている。
同社では、指導を担当する社員(インストラクターやベテランのパート社員など)に対して、日頃から、障害のある社員の特徴、性格をよく見極め、トラブルが起きたときの対処法をイメージするように指導している。また、障害のある社員との関係においては、「強い口調をあまり使わないこと」、「多くを求めないこと」、この2つが要点だと指導している。
同社の知的障害がある社員は、一度覚えた作業は同じペースで作業するという特長を持っており、同社では、本人が持っている能力の最大限に活かすことを教育、指導の目標としている。
ウ 関係機関との連携
同社は関係機関と連携して障害者雇用に取り組んでいることは先に紹介したが、採用後の課題についても同様の取組みを行っている。特別支援学校の卒業生については学校と連携することが効果的であり、生活面での課題については支援センターとの連携が解決につながりやすい。
また、同社では福祉事業所(以下「施設」という。)と連携し施設外就労の場として施設利用者(以下「利用者」という。)を受け入れているので、利用者と施設職員が工場内に派遣されている。そして、利用者から同社に採用される者もいる。そうした者について就労後に問題が生じた場合には、施設職員が現場にいるため、早急な対応が行えることと、顔がみえる状態で情報共有が行え、今まで指導者の悩みであった対応方法など、現場がわかっている施設職員が近くにいるため、状況報告や相談しやすくなった。また体調が崩れる際などの予兆なども早期に把握、情報共有ができ事態が大きくなる前に対応できる機会も増えた。
(5)職場の環境
同社の障害のある社員は特別支援学校出身などの若い方が多い。一方で指導する立場の社員はベテランのパートタイム社員が中心で、年齢が50代後半、60代なので、年齢的に親子関係という感じになり職場の人間関係は良い。
障害のある社員間での関係も良好であり、以前に、障害のある社員同士の社内結婚があった。子供ができたときには子供の顔を会社に見せにきてくれたことがあったが、それからは子供を自分が育てなければならないという自覚が出てたくましくなったのをまわりの社員が感じたこともあった。
社内のイベントとしては、ガーデンパーティー、ボーリング大会、忘年会、ソフトボール部活動、バレーボール部活動など多岐にわたる。ガーデンパーティーは、毎年8月にユニセフチャリティー行事として開催しており、平成31(2019)年度は23回目の開催となった。障害のある社員は、これらのイベントに積極的に参加し他の社員との親睦を図っている。
(6)これからのステップ
障害のある社員が力を発揮できる場を広げていきたいと考えている。例えば、食肉加工部門では障害のある社員だけでは、まだ対応できない仕事が多いが、安定して働いている者がいるので徐々に職域を広げ、間接的・補助的作業から直接的な加工作業に戦力としてシフトしていき、障害のある社員だけで食肉加工のラインを作りたいという夢を社長は持っている。
(7)就労事例から~コンテナ洗浄作業を行っているAさん~
Aさん(60代)は、支援センターの紹介で入社。入社して8年目。障害種は視覚障害で、片目が見えず、もう片方も視力は弱いが、現在の仕事には支障はないという。
仕事は、洗浄装置を使って使用済みの食肉運搬用のコンテナの洗浄作業を担当している。所属部署には、Aさんも含めて社員が4名いて1日4000~5000枚のコンテナを洗浄している。Aさんは、その部署のリーダーである。リーダーとなった経緯は、前任のリーダーが退職したためにその後任になったという。
Aさん以外の3名は知的障害の方が配属されている。Aさんは、リーダーになる前からのこの部署に所属し、3名と同じ立場で仕事をしていたため、この部署でリーダーを務めることに不安などはない。知的障害の3名は、仕事に対しては真面目であり、Aさんは指導していくうえで、同じ目線で指導をおこなっているため、対人面でのトラブルなどはほとんどないという。ごく自然にナチュラルサポートという技法が確立できている結果が生まれた。
Aさんのコンテナの洗浄作業4. 今後の課題と展望
同社で働く障害のある社員の人数は20名になった。数年前からは4工場すべてで障害のある社員が働いているが、それでもまだ一部の社員しか障害のある社員に関わることがない。今後はいかにしていろいろな職場の社員に障害への理解を深めるかが課題と考えている。
障害への理解を深めることで社員全員が、障害のある社員に声をかけられるようにしたい。そうすることで、障害のある社員の仕事への意欲が高まり、本人の能力を引き上げることができ、生産性も上がり、働きがいを感じて長く働いてくれると考えている。
また、新たに障害者を採用することも必要であるが、今働いている障害のある社員が長く働いてくれることが一番重要で、障害の特性に合った働きがいがある環境を整え、コミュニケーションを適切に取れば、本人たちはのびのびと仕事ができると考えている。
執筆者:独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構
長崎支部 高齢・障害者業務課 麻生 香
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