社会福祉法人キャンバスの会（以下「同法人」という。）は、多様な福祉サービスがその利用者の意向を尊重して総合的に提供されるよう創意工夫することにより、利用者が個人の尊厳を保持しつつ、自立した生活を地域社会において営むことができるよう支援することを目的として、「第二種社会福祉事業」、「障害福祉サービス事業」を行っている。
　同法人が運営するCBSリネンサービスとしみ事業所（以下「同所」という。）は就労継続支援A型（以下「A型」という。）として、病院や高齢者施設、工場、飲食などで使用されているタオル、制服、エプロン、テーブルクロスなどのクリーニングやレンタルクリーニングなどを行っている。
　同所には現在32名の従業員が働いており、就労継続支援の利用者として働いている者（以下「利用者」という。）と、支援員などの一般就労の者（以下「スタッフ」という。）で構成されている。そして、スタッフは下記の心構えで、利用者の権利に配慮しながら働いている。
　本稿では同所における障害者雇用の取組について、精神障害のある従業員を中心に紹介する。

＜スタッフの心構え＞
・働くことを希望する障がい者の思いを尊重すること。
・安心して継続的に働くことができる必要な支援を行うこと。
・働く権利を保障すること。

＜利用者の権利の具体的な内容＞

（1）障害者雇用の概況
　同所従業員数32名のうち利用者は21名、スタッフは11名で、スタッフのうち6名が障害のある従業員であり、合わせると27名が障害のある従業員である。当所は日曜日を除き常に稼働しており、精神障害、知的障害、肢体不自由など多様な障害のある従業員が勤務している。基本的な勤務時間は8時から17時であるが、個人の健康状況に応じて勤務開始時刻や一日の勤務時間を個別に設定している。ただし、一日の勤務時間は5時間以上、週20時間以上での就業が可能であることを採用要件としている。

(2)精神障害者の就労について
　障害のある従業員のなかでは精神障害のある者が12名と最も多い。精神障害者が就労を希望する場合、あるいは働いている場合には、仕事に関するスキルや適性がわからない、就職しても人間関係や仕事が続かないなど、様々なことで悩んでいる。同所の精神障害者に対する採用面接では、主治医の意見、通院の必要性、薬の服用などを確認するとともに、同所の仕事のなかで就業可能な作業はどれか、苦手なことなどを確認し、総合的に採否を決定し、適材適所で配置している。
　同所に主な作業内容は洗濯物の受け入れ、仕分け、水洗乾燥、アイロン、たたみ、出荷、縫製、衣類修理、配達（納品・集荷）であり、基本的に配達以外の業務は精神障害のある従業員を含む全員が担当できるような体制づくりに取り組んでいる。

＜精神障害者の悩みと不安＞
　同所が応募者との面接や、働いている精神障害のある従業員からの話で把握しているのは次のような点であり、それらを踏まえたうえで同所は雇用に取り組んでいる。

・長年仕事から遠ざかっているので、復帰するのが不安。
・人間関係がうまくいかない。
・将来に対する不安が大きい。
・自分に合う仕事が見つからない。
・いつも仕事が続かない。
・働くイメージができない。
・この年齢で仕事を始められるのか。
・仕事のスキルに自信がない。
・仕事を始めたいけど、スキルがない。

(3)情報収集とその活用
　同所は、障害のある従業員を雇用している事業所と、利用者に関してはA型という福祉施設の両面を有している。そのため、採用に際しては、応募理由、職業上のスキルや将来の目標などとともに、障害や病気、生活状況などについても把握し、必要な配慮などを視野に入れながら検討している。
　そのようにして得られた情報は、採用後にも指導・育成、支援に活用している。

 

（1）障害の理解
　同所では、精神障害のある従業員の安定した就労を実現するには、まず一人ひとりを理解することが肝要であると考えのもと、「読むこと（記録）」、「観ること（観察）」、「聴くこと（傾聴）」に重きをおいて情報収集を行い、その情報を利用者・スタッフで情報を共有することで、理解を深めることに取り組んでいる。
　各人の情報は個人ごとに整理し、フェイスシートという統一的な資料にまとめられている。
　　
（2）業務体制と指導
ア．担当者
　得意・不得意はあると思うが、まずは全業務ができるようになることを目指しており、新人への指導は先輩が行っている。覚えることが苦手な者もいるが、できることを少しずつ増やしていき、どの従業員もすべての業務に対応できる状態を実現することで、当日欠勤者が出ても別な者がその穴を埋められる体制の整備につながっている。
　また、スタッフ（支援員）は利用者との信頼関係が第一であると考えており、勤務時のあいさつや何気ない世間話など、自ら声をかけることを大切にし、接している。忙しい時期などで、全員に声かけができない日があると、気になってしまうこともある。
　なお、精神障害のある利用者の場合には、出勤時の顔色に留意し、意識的に声掛けを行うこととしている。利用者が当日急に欠勤する場合があるが、その際は電話により体調を丁寧に確認するとともに「また職場でね」といった声をかけることで、休むことへの安心感と翌日以降の仕事への意欲につながると感じている。

イ．指導上の工夫
　作業指導などについても視覚的に分かりやすい作業指示書を作成し、スムーズに作業できるような工夫も行っている（下の指示書参照）。
 
　　　

　　　　　　　　　　　　　　　作業手順書の例（作業の手順やポイントを分かりやすく表示している）


　　　　　　　　　　　　　　　　　　
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　作業風景（手順書に沿って丁寧に作業を進めている）