障がいを意識せず、自然体で接する事で障がいのある人とない人の壁をなくし、一体感のある職場づくりを目指す。
- 事業所名
- 株式会社CWS 物流グループ、農産加工センター
(法人番号: 2150001002846) - 業種
- サービス業
- 所在地
- 奈良県磯城郡田原本町
- 事業内容
- 市民生活協同組合ならコープの組合員向けの宅配食料品などの出荷事業
- 従業員数
- 339名
- うち障害者数
- 36名
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障害 人数 従事業務 肢体不自由 1名 商品のピッキング・積み付けなど 知的障害 27名 商品のピッキング・積み付けなど 精神障害 8名 商品のピッキング・積み付けなど - 本事例の対象となる障害
- 肢体不自由、知的障害、精神障害
- 目次
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事業所外観
1. 事業所の概要、障がい者雇用の経緯
(1) 事業所の概要
株式会社CWS(以下「同社」という。)は平成12(2000)年に市民生活協同組合ならコープ(以下「ならコープ」という。)の子会社として設立。清掃、電話注文センター業務、サードパーティーロジスティクス、トータルメンテナンス、保育、フードサービス、エネルギー、葬祭事業など多方面に展開している。社名「CWS」は、Creative Workers Societyの頭文字で、創造的な仕事集団を意味している。
同社は、"社員の幸せと会社の幸せを重ね合わせて市民と地域社会に貢献します"を経営理念として掲げ、企業の社会的責任として無事故・無災害を実現することこそが使命であり、社員とその家族の幸せの実現こそが、地域社会への最大の貢献であることを経営方針としている。
(2)障がい者雇用の経緯
平成26(2014)年、奈良県と奈良労働局が設立した「障害者はたらく応援団なら」に登録、ならコープと共に障がい者の雇用推進の方針を定め、社内の理解を得るための活動を経て障がい者雇用を進め、現在36名の障がいのある社員を雇用している。
(3) 障がい者雇用の理念など
障がいのある社員の職務は、障がいのない社員と同様、本人の希望や能力、適性に応じて決定し、活躍できることを理念としている。障がいが同じだから同じ仕事というような考え方はしていない。個々人に応じた職務決定のため、障がいのある社員の採用に際しては必ず職場実習を行い、本人ができる仕事を見つける取組をしている。
また、同社では障がいのある社員の雇用形態は、個人に応じた柔軟な雇用契約(勤務日数・勤務時間など)を実現するために非正規雇用としているが、勤務状況や本人の希望などを勘案し、正規雇用への切り替えも可能としている。2. 取組の内容と効果
(1)障がいのある社員の仕事と配置
同社では、特別に障がい者のための業務というものは用意していない。多方面に事業を展開しているため、いろいろな仕事・職場があるので、障がいがあってもできる仕事は必ずあるという考えで、仕事と配置を決めている。したがって、障がいのない社員と同じ仕事、職場で働いている。また、知的障がいや精神障がいなどの障がい特性は一定の配慮(指示方法・勤務時価・通院など)をしているが、担当する仕事に関しては特別な区分はしていない。あくまでも本人の能力や適性に応じた担当と配置をしている。
(2)具体的な就業場所と仕事内容
ならコープでは、組合員の注文に応じて、自宅まで個別配達するサービスなどを行っている。店舗から遠い組合員、子育て家庭、要介護者のいる家庭、高齢者のみの家庭などからの注文が近年増加しており、地域に密着した社会貢献型のビジネスモデルともいえる。この個別注文に対するピッキングや、出荷準備までの一連の業務を同社が担当している。この業務は、季節要因など外部要因によって、仕事量が変動することが比較的少なく安定していることから、障がい者の職場として適しているといえる。
ならコープ物流センターの同一敷地内に、同社の物流グループと農産加工センターがあり、障がいのある社員の約8割が物流グループで、約2割が農産加工センターで就業している。物流グループでは、ならコープの組合員からの注文に対して、発泡スチロール製の保冷ボックスに注文書通りの商品をピッキングする作業がメインとなっている。個人の能力・適性に応じて、ピッキングする数量や方法を調整している。付帯作業として、保冷ボックスの清掃や準備、商品の準備作業などがあり、個人の業務能力に応じて配置されている。職場はすでに述べたように障がいの有無に関係なく様々な社員が一緒に働いている。障がいに応じた一定の配慮はしながら、各人の能力・適性に応じた仕事の種類と量が調整される仕組みができあがっている。
また、農産加工センターでは主に産地から送られて来た農産物を、店頭販売や組合員への個別配送用に、ポリ袋などに個別包装している。野菜の種類によっては、重量を秤で量り、1袋あたりの重量を一定の範囲にそろえる仕事も行っている。
ふたつのグループは互いに連携を取り、グループ内のローテーションだけに限らず、グループ間の異動などもリーダー間で調整されている。また、障がいのある社員に関する情報は、リーダーを通じてスタッフの間でも共有されている。
(3)障がい者の採用方法など
障がい者の採用方法は、特別なルートや方法などはとっていない。ハローワークをはじめ、特別支援学校、障害者就業・生活支援センター(以下「支援センター」という。)、障がい者就労支援事業所など幅広く門戸を開いている。特に特別支援学校については、高等部1年生の時から体験実習を受け入れて職業体験の機会とするなど、地域への社会貢献も意識している。
障がい者の採用にあたっては、職場実習を必ず実施しており、1週間から2週間程度の実習を通じて、4~7種類の難易度の異なる仕事を体験してもらう。最初は中程度の難易度の仕事から始め、業務遂行能力を見極めながら、仕事の種類を調整し本人の能力・適性を把握している。採用の際には、実習での状況を重視している。
(4)社員間の関係づくり
障がいのある社員の配置は、原則として、障がいの有無に関係なく業務上の必要性で決められており、障がいのない社員と同じ職場で就業している。同社では社歴の長いベテラン社員が比較的多いので、障がいに対する理解も進んでおり何かあっても適切な対応がなされている。また、社員の約8割が女性ということもあり、職場の雰囲気は比較的なごやかであり、社員にとって働きやすい環境であるといえる。
ただ、仕事上のミスがあった場合は、障がいのある社員であっても障がいのない社員と同様に厳しく指導することもあり、やさしさの中にも厳しさのある職場である。また、障がいのない社員に対しては、入社間もない時期にベテラン社員から障がいのある社員についての説明や接し方などについて、指導をおこなっている。障がいのある社員への接し方としては、「配慮はするが、特別に意識することなく、自然体で接し、一体感のある職場づくりを目指す」ことを基本としている。そうした取組を通じて、障がいのない社員が障がいのある社員と接することは、彼らの成長につながると事業所では考えている。
(5)障がいのある社員への教育など
一見すると同社の職場内には、特に危険な設備・機械などは無いので特別な配慮は必要ないように思われる。ただし、食品を扱う仕事なので衛生管理には特に注意をはらっている。これらの教育は職場実習の期間中にも重点的に行われている。
採用後の配属先での教育は、配属されたグループで業務を通じて教えていくというOJTが主体となっている。また、タブレット端末を利用して作業効率アップを図り仕事のスキルアップにも取組んでいる。
(6) 取組の具体的事例から
ア 生じた課題
ある部門では、各メーカーから納品された冷蔵商品、冷凍商品を入荷検品、加工、商品セット、袋詰め、包装、出荷検品後、搬出・出庫作業を行っていた。しかし、そこで働くAさんは、作業内容が幅広く自身が能力発揮できる仕事を見つけることに苦労して休みがちになったり、作業中に注意が散漫になり、ミスが生ずるようなことが続いていた。
イ 取組
同社では、部門の管理者と日常的に指導教育する者が連携して対応した。
社員への職場教育として「障がいがあるからできなくても仕方ない」ではなく、「失敗に対してどこが間違って、そうなっていたか」をはっきり指摘するように職場教育者に指導すると共に、必ずこれまで取組んだ仕事への感謝、誉め言葉でフォローし、失敗を指摘するだけでなく働く意欲につながるように配慮している。こうした取組により、Aさんの作業には改善が見られ、ミスが少なくなった。同社ではこうした経験を社内で共有し、活用している。
また同社では毎年数名ずつ障害者職業生活相談員(以下「相談員」という。)の資格認定講習を受講しており、社員教育にも取り組んでいる。(2019年12月現在:相談員資格取得者14名)
(7)その他の取組
様々な障がいのある社員が増えてくるなかで、本人の体調に応じた勤務時間や日数を選択できるように柔軟に配慮している。例えば、体力面でフルタイム勤務が困難な者については、1日4時間勤務で週3日から5日の勤務パターンを設けて選択できるようにしている。
今後は体調面で配慮が必要な者に対する体調管理を業務の中で察知できる仕組みづくり、相談員の配置・増員、支援センターなどとの連携強化を図っていくこととしている。
(8)障がい者雇用のメリット、波及効果など
昨今、労働力の確保が厳しい状況が続く中、同社のように人の手が不可欠な事業において「人財」の確保は非常に重要であり、障がいのある社員は貴重な戦力となっている。また障がい者が頑張ってくれることで周りの社員も刺激を受けて良い影響を与えてくれている。
3. 今後の展望と課題
(1)今後の展望
ア 今後の方針と職場づくり
同社の全社員の平均年齢は、約50歳と比較的高齢であり、今後5年から10年後に社員の入れ替わりが発生する見込みである。今後も同社は障がい者が活躍できる職域を更に拡大させて、障がい者を戦力として雇用していく方針である。また、現在は障がいのある社員の勤務体制は原則日勤が主になっているが、今後は早朝・夜間の時間帯にも拡大を図っていく予定である。
また、現在は、障がいのある社員は様々な部署に分散して働いているが、将来的には障がいのある社員が中心となって働くグループを作ることを目指している。自分たちで考え、自分たちで動きやすい職場を作る、その実現を会社として支援することができれば理想といえるであろう。
イ 関係機関などとの連携
県内の地区別支援学校とは、従来通り、体験実習の場の提供などで地域社会への貢献を図っていく予定である。また、県下の支援センターや、就労移行支援事業所(以下「支援事業所」という。)などとも従来通り連携を図っていくこととしている。
また、奈良県と奈良労働局が設立した「障害者はたらく応援団なら」に登録していることもあり、障がい者雇用のモデル事業所として紹介されたこともある。今後、障がい者雇用を推進しようとする企業に対して、参考となる事業所としての役割を果たしていきたいと考えている。
(2)今後の課題
ア 社内態勢
雇用する障がい者の人数が増えるに従い、障がいのある社員に対する管理者や相談員を充実させる必要性を感じているが、大企業のように経営的な体力が乏しいので十分な配置ができるかどうか不安である。ジョブコーチや専任の管理者の配置に対しての対応が今後の課題と考えている。これらの配置に関して、国や自治体からの助成や補助を望むところである。
イ 定着に向けて
会社にとっての戦力化や障がいのある社員の生活の安定などを考えると、職場定着は重要である。同社における障がいのある社員の定着状況をみると、18年間勤務している社員がいる一方で、採用後半年以内に離職した者もいる。同社の印象では、特別支援学校の卒業生の勤務年数は長いが、職歴のある再就職者には早期離職者が多いように感じている。そして、後者の離職理由を見ると、前職を辞めた理由と同じ理由である場合が見受けられる。
そうした者の定着を図るためには、ハローワークや支援センター、支援事業所などの就労支援機関との連携などが重要と考える。具体的には、就労支援機関による就労後のフォローや情報共有などが必要であり、現在も職場実習時の情報共有などを行っている。
ウ 身体障がい者の採用に向けて
現在、身体障がいのある社員は軽度の肢体不自由がある1名のみであり、より幅広い身体障がい者に対応した職域・就業環境の整備も課題のひとつであると考えている。聴覚障がい者であれば、現在の仕事・環境でも受入れ可能であると思われるが、手話が必要とされた場合には手話のできる社員も必要となる。ただし、音声・文字変換ソフトなどの活用で必ずしも手話でなくとも対応できる可能性もあると考えている。また、通勤が困難な重度の身体障がい者に対しては、テレワークによる在宅勤務での事務業務なども今後の検討課題と考えている。職場をバリアフリー化するよりも、テレワーク対応の方が、費用面でメリットがある可能性もあり、将来の採用計画の中で検討を予定している。いずれにせよ、1企業単独では難しいところもあり、支援機関・行政などと連携しながら進めていきたいと考えている。
エ 最後に
展望・課題とはやや異なるが、最後に同社で障がいのある社員が働いている場面の写真を以下に掲載する。物流ライン風景ピッキング作業風景
物流ラインへ箱を流す場所袋詰めが完了した農産品
執筆者:独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構
奈良支部 雇用管理サポーター 馬郡 繁
(障害者就労支援コンサルタント サポート21・なら 代表)
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