~「和」・「堅実」・「人間性重視」~
多様な人材を認め合い、受け容れる職場環境で、
お客様に喜ばれる商品・サービスを創り出します。
- 事業所名
- 谷口醸造株式会社
(法人番号: 710001022547) - 業種
- 製造業
- 所在地
- 長野県飯田市
- 事業内容
- 漬物(野沢菜漬、ザーサイ、やまごぼうなど)製造業及び、観光業
- 従業員数
- 95名
- うち障害者数
- 8名
-
障害 人数 従事業務 肢体不自由 2名 観光事業兼務役員、食品製造職 内部障害 2名 観光事業調理師、食品製造職 知的障害 3名 食品製造職 発達障害 1名 食品製造職 - 本事例の対象となる障害
- 肢体不自由、内部障害、知的障害、発達障害
- 目次
-
事業所外観
1. 事業所の概要、障害者雇用の経緯
(1)概要
谷口醸造株式会社(以下「当社」という。)は昭和元(1926)年、谷口醤油店として、鼎村(現在の飯田市鼎)の地に創業した。創業当初は味噌醤油の醸造所を生業としていたが、時代の変化に合わせて業態を漬物製造業へと変化した。昭和32(1957)年に法人化、昭和61(1986)年経営の多角化を目指し観光業へ進出し現在、お漬物直売店、茹でたてのお蕎麦を提供するドライブイン、飯田水引の美術館の特色ある3店舗を飯田、下伊那地方に開業している。
当社で作られている代表的なお漬物は「野沢菜漬」と「ザーサイ」であり、全国の量販店や飲食店などに採用されている。
漬物製造業、観光業どちらにもいえることだが、当社の事業は「信州」の文化や自然に支えられ生業を続けている。限りある資源(モノ、コト)の中で今後は、従業員の「和」、地域の「和」を一層深めながら、信州を「視て」、「聴いて」、「触れて」、「嗅いで」、「味わって」楽しむサービスを次世代につなぐことを目的として事業を継続させていく。
(2)経営理念・経営方針
〈経営理念〉
「和」・「堅実」・「人間性重視」・「消費者の皆様に喜ばれる製品づくり」〈経営の方針〉
・厳しい中にも愛情のある経営の実践(人間性重視・和・堅実)
・お客様に喜ばれる商品の提供(品質、価値)
・企業とは従業員一人一人の努力により創り出すもの
(3)障害者雇用の経緯
当社が障害者を初めて雇用したのは、昭和54(1979)年4月である。地元の中学校の進路指導の先生より相談があり、同校を卒業した知的障害者を1名採用した。その従業員は現在勤続41年となり、漬物製造にかかわる作業をしている。
以後、当社の障害者雇用数については、令和2(2020)年4月末で延べ12名の障害者を雇用した経緯があり、うち8名の障害のある従業員が現在も当社に在職をしている。
数年前まで積極的な障害者の新規雇用をしてこなかったが、平成27(2015)年長野県の障害者雇用優良事業所表彰を、翌年には従業員が優秀勤労障害者を受賞したことがきっかけとなり、再び障害者雇用に力を入れ始めた。また、当社は、「ア 将来的な障害者実雇用率低下の懸念」と、「イ 従業員の新規採用ルートの開拓の問題」も抱えていた。特に後者においては、採用難が続き新規雇用者を探していた折、地元の養護学校や就労支援施設の見学を通じて、思った以上の障害者の能力の高さとまじめさなどに改めて感銘したこと、当社社長の社会的責任を果たすことへの強い想い、障害者を受け入れる職場風土があることを当社の強みと認識したことにより、障害者雇用を従業員採用の柱のひとつとして位置づけた。そして、養護学校や、障害者就業・生活支援センター(以下「支援センター」という。)からの紹介で、長野県障がい者短期トレーニング促進事業(以下「短期トレーニング」という。)による実習生の受入れを積極的にするようになった。平成28年から令和元(2019)年にかけて8名の短期トレーニングの受入れを行い、その結果3名が雇用につながり、現在は貴重な戦力となっている。
また、平成30(2018)年に、高齢・障害・求職者雇用支援機構の理事長表彰を受けたことも当社にとって大きな出来事となった。以前は筆者だけが障害者職業生活相談員(以下「相談員」という。)であったが、平成30年、令和元年に1名ずつ相談員を増員し、正しい知識と意識向上、障害のある従業員の相談の窓口を広げる施策を行った。また、長野県の信州あいサポート運動にも参加し、全従業員に対して障害者に対する啓蒙活動も行っている。筆者自身も現在、企業在籍型職場適応援助者(ジョブコーチ)の講習を受講中であり、会社内で障害に応じた指導方法の確立や職場改善について本格的に力を入れ始めようとしている最中である。
注)「長野県障がい者短期トレーニング促進事業」について(長野県HPより)
長野県独自の制度で、障害のある方が企業などで実践的な短期のトレーニングを行う場合に安心して行えるように必要な経費
(傷害保険費用など)を助成する制度。対象者は障害者就業・生活支援センターの登録者で、実習期間は一人につき1か月以内
(実習時間は60時間以内)。
2. 障害者の従事業務と職場配置
現在、新規で採用する障害のある従業員については、短期トレーニングを行った後、支援センターの支援員と一緒に就業の意思確認、本人のやりたい作業や能力、障害の特性や適性を考慮しながら配置する職場を決めており、障害のない従業員と一緒に仕事をしている。
従事する業務については、新規で採用された障害のある従業員は食品製造の業務に従事し、在職中に障害を持つに至った従業員は、障害を持つ前と同じ職務に復帰しており、食品製造と観光事業部の業務に携わっている。業務別の状況は次のとおりである。
(1)工場内の業務
食品製造(漬物)では、主に下記の業務に障害のある従業員が携わっている。
ア.野菜など原材料の洗浄及び選別
イ.仕掛品の成形、計量
ウ.仕掛品の包装機への投げ込み
エ.製品の検品、仕上げそうした工程の多くは機械化が難しいため、人の手が必要となる仕事が多い。特に野菜などの原材料は品質・形等の状態が一律ではないため、選別時の判断に困る時などもあるが、周りの従業員に助けられ徐々に選別もできるようになっている。一部の障害のある従業員は包装機を使用した投げ込み仕事を担当しており、その際には機器の設定なども行っている。
(2)観光事業部の業務
観光事業部では、主に下記の業務に障害のある従業員が携わっている。
ア 食堂(ドライブイン)
(ア)盛り付け作業
(イ)調理作業(そばを茹でる)
(ウ)食器類の洗浄及び片付け
イ 兼務役員業務(主に営業業務)
(ア)顧客対応業務(出張など含む)
(イ)周辺観光施設との連携
(ウ)従業員の育成在職中に障害を持つこととなった従業員であることから、その前から携わっていた仕事を担当することを基本としているが、以前は一人で作業していたことを複数人で分担し、本人に負担がかからないようにする、車の運転が負担であるため、通常は車で行う出張を公共交通機関とするなどの配慮をしている。
3. 取組の内容と効果
平成28年以降、障害者の新規採用に関する取組と効果について紹介する。
(1)取組の内容
ア 募集及び採用について
当社の場合、主に支援センターからの依頼で採用をしており、どの障害者も採用までの過程は下記の通りである。
(ア)支援センター、就労支援施設などからの短期トレーニング依頼及び打合せ
(イ)4者面談(支援員、障害者とご両親などのご家族、会社担当者)及び会社見学
(ウ)短期トレーニング
(エ)短期トレーニング終了後、4者面談を実施し、双方の意見交換と意思確認。
(オ)3か月間のトライアル雇用開始。
(カ)トライアル雇用終了2週間前に、4者面談を実施し、双方の意見交換と意思確認。
(キ)トライアル雇用終了後、本採用。
当社で最も気を配っていることは、障害者本人、ご両親などのご家族に対して納得して短期トレーニングを受けてもらえるように配慮していることである。そのために、実際に作業をしている現場へ案内して説明をするなど、職場の雰囲気を感じてもらえるようにしている。
イ 障害者の業務・職場配置及び取組の効果について
当社の雇用の目的は、いかに当社の中で「和」を保てるかということである。ここでいう「和」とは、従業員が自然に会社の雰囲気や仕組みに溶け込んで、仕事に対して「集中」ができる状態になることである。自然に「和」が保てれば、必然的に気持ちが一つになり、会社の業績に寄与し、従業員が幸せに暮らすことができる。障害者雇用も同じような考え方で行っている。
平成29(2017)年から4名の障害者を雇用し、現在3名の障害者が一緒に仕事をしている。そのうち2名の実例を紹介する。
(ア)Aさん(20代、知的障害のある従業員)
Aさんは平成29年1月に支援センターより依頼を受け短期トレーニングを実施した。その後トライアル雇用へ移行し、3か月後、パートタイムとして採用され勤務している。仕事内容は、やまごぼう、「本漬野沢菜」、「若採りザーサイ」などの原料選別、成形、計量、包装機への投げ込み、箱詰め及び作業終了後の清掃作業に従事している。
Aさんを雇用するにあたっての取組は下記の通りである。a.支援センターと就労支援施設との情報共有及び連絡体制の構築
b.障害のある従業員への指導経験のある従業員を配置
c.同じ作業場内にいる従業員へ理解をしてもらう施策
d.Aさんが困ったときにすぐに相談できる体制づくり
e.公共交通機関に合せた勤務時間の配慮
令和元(2019)年に仕事をしながら普通自動車免許を取得し、将来は8時間のフルタイムで働くことを視野に入れて日々仕事に励んでいる。
やまごぼうの選別
「若採りザーサイ」梱包作業
(イ)Bさん(20代、発達障害のある従業員)
Bさんは地元の高校在学中であった平成30年10月に、支援センターの依頼により短期トレーニングを行い、翌年4月からトライアル雇用を実施し、3か月後にパートタイムとして採用され現在も勤務している。仕事内容は野沢菜の洗浄と選別、野沢菜の成形作業台への運搬、成形、計量、包装機への投げ込み、及び作業終了後の清掃作業に従事している。
Bさんを雇用するにあたっての取組は下記の通りである。a.援センター及び高校(進路指導室)との情報共有及び連絡体制の構築
b.障害のある従業員への指導経験のある従業員を配置
c.わかりやすく、はっきりとした指示をする
d.定期的な面談を実施し、日々の生活や困ったことなどを話す機会を設ける
e.公共交通機関に合せた勤務時間の考慮
Bさんは地元の成人式実行委員会のメンバーに選ばれるなど、地元活動を精力的に行っている。自動車免許については医師より取得の許可が下りたので、現在取得に向けての準備を進めている。
野沢菜タタミ作業
野沢菜投込み作業 野沢菜包装作業
2名を雇用して得られた効果は、「従業員の障害者への理解が進んだこと」、「社内の雰囲気の変化(障害を理解することで従業員同士の関わり方を考えるようになった)」、「新規雇用の創出(新卒採用にも良い影響)」、「障害者自身の働く意欲と自立心の向上」の4点である。
障害のある従業員の場合にはそうでない従業員と比べると、作業スピードや作業手順の理解に時間がかかり、雇用した直後の生産性が低くなる場合があることは否めない。しかしながら、指示を遵守しようとする態度や、自宅に帰って作業の動画を見ながら練習をするなど、就労意識・意欲に関して障害のない従業員より評価できる点が多く、見習うことはまだまだ沢山あると感じている。
4. 今後の展望と課題
現在抱えている課題としては、次の2つがあげられる
(1)指導方法についての意識の差と新任指導者のバックアップ体制
障害のある従業員の配属先で指導などにかかわる従業員の意識やスキルに差がある。特に初めてかかわる従業員については不十分な点が少なくなく、そうした配属先へのバックアップが重要と当社では考え、相談員を中心にバックアップしている。そして、バックアップする側のスキルアップも重要と考えている。
配属先の上司などが指導を重ね、トライ&エラーで改善を重ねていくことに加え、相談員などが支援センターや企業内ジョブコーチ研修などの外部研修を受講することで、社内の意識の差をなくし、指導方法のスキルアップを図る必要があると考えて取り組んでいる。
(2)一人暮らししている者への対応
一人暮らしをしている障害のある従業員については、プライバシーの問題もあり、生活環境については把握することが困難である。今は家族と一緒に住んでいる者も、事情により一人で生活することになるかもしれない。その対策として、面談の機会を積極的に取ることや、関係機関と連携して問題が大きくなる前に対処をしていく必要性を感じている。
当社は会社と従業員とがお互いに話をしながらできるだけ長く働くことができることに注力している。特に当社がある地域は高齢化や若年層の地元離れが進んでおり、従業員の確保は大きな課題である。今後は障害者を含む多様な人材を確保するため、多様な働き方を認めながら雇用をしていくこととしている。
最後に、勤続20年を迎えた知的障害のある従業員が社内報に寄せたメッセージを紹介し、終わりにする。
「20年前に双子の姉と入社。姉と一緒に仕事に来るのが楽しかった。姉の寿退社で寂しくなったけど、おかあ(面倒を見てくれる従業
員)や優しい人達のおかげで寂しくなく仕事に来れる。
始めは野沢菜洗いだったけど、今は計り、たたみ、投げ込みなどいろいろできるようになりました。
自分が作った野沢菜漬をお客さんに美味しく食べてもらうことが嬉しいです。」
執筆者:谷口醸造株式会社
総務課長 小原賢滋
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