（1） 障害者雇用の経緯
　ダイフクでは以前より製造現場等で障害者を雇用していたものの、製造現場単体では職域開発を思うように進められず、企業全体で法定雇用率を達成することが難しかった。そのため、企業全体の目標として障害者雇用の促進を掲げ、平成19（2007）年にまずは滋賀事業所に専門の部署「業務サービスグループ」（以下「業務サービスG」という。）を立ち上げることから始めた。業務サービスGは事業所内の各部署と連携しながら障害者の採用から定着までを支援する部署であり、企業在籍型ジョブコーチや指導員等が配置されている。
　滋賀事業所においては、新たに採用した障害のある社員はまず業務サービスGに所属し、事業所内の環境整備・事務補助作業・清掃などの業務に従事していたが、採用できる人数は限定的であり法定雇用率は未達成であった。障害者の雇用をより拡大するには、雇用率の達成はもとより、ものづくりの現場（製造現場）にも障害者を雇用し、安定して定年まで働ける仕組みづくりを進めることが必要と考え、ハローワークや高等養護学校の進路指導部の先生、地域の障害者就業・生活支援センターと相談し、県内の高等養護学校から知的障害のある生徒の職場実習を受け入れることから進めることとした。
　

（2）高等養護学校からの採用及び配置
　当初は高等養護学校在学中に職場実習を行い、その後に選考を行い正式に採用。採用後は、業務サービスGに所属し、環境整備・事務補助・社内メール業務・製造などの業務を中心にジョブローテーションしながら、本人の特性やコミュニケーション能力などを確認し、業務内容とのマッチングを見極め、習熟度をもとに製造現場に適応できる者から派遣するかたちで対応していた。しかし、派遣先であるIL事業部、CR事業部、AM事業部、AW事業部の繁忙期が終わると業務サービスGに戻ってくることがあったり、本人たちの担当する仕事が安定・習熟しないなどの状況が続いた。そうしたやり方が、本人たちの将来の自立に向けた仕組みとしていいのか、今後雇用する障害者の増加に伴い、個々への対応が難しくなるのではないかという課題が社内で認識され始めていた。
　そこでこれまで複数年かけてマッチングを見極めていた教育カリキュラムを再検討し、高等養護学校から実習を経て職場配属するまでの教育カリキュラムを再構築し、「業務サービスGビジネスモデル」（以下「ビジネスモデル」という。）を令和元（2019）年度に作成した（下図参照）。

　　　　　　　　　　　　　　　「業務サービスGビジネスモデル」



 

（3）「ビジネスモデル」の仕組みについて
　まず、「採用前実習期」には高等養護学校在学生を対象とした職場見学会を開催し、実際の現場を見学して生徒さんたちにダイフクに興味をもってもらう機会を設け、その後、学校推薦のもと2年生は1週間、3年生は2週間の職場実習を受け入れている。はじめの実習の時点から事業所にマッチングするかどうかと併わせて、「ビジネスモデルにあてはまるかどうか」を見極める時期としている。
　その後、「会社適応期」において実習、面接、採用前実習などを経て入社となり、入社後最初の5年間は業務サービスGの所属とし、今後必要になる業務上の基礎知識、継続して出勤する体力づくり、社会人としてのマナーやモラルなど、会社で働く基礎を身に着ける実習を繰り返し行っている。
　そして「職場実習期」「職場適応期」では事業部での実習がメインとなり、実際の現場で、実際の製品に触れ、組立などの作業実習を通じて物づくりの醍醐味を体系的に体験する。職場に適応できると6年目以降は一般社員と同じく正社員採用試験（論文・面接）を受け、合格すると「職種専任型社員」として定年まで製造業務に従事することとなる。
　
（4）「ビジネスモデル」における「会社適応期」1年間のスケジュールについて
　入社後1年目の流れとしては、採用直後の4月から5月までは本人の得意・不得意・特性を見極めるためにできるだけ複数の作業を経験させたうえで支援計画書を作成する。

　6月から10月には様々な作業を通して本人の特性やコミュニケーションの取り方、社会適応能力の訓練、安全・マナー・言葉遣いなどについて座学を含めた研修など、2年目以降の事業部派遣のマッチングに向けてトレーニングをすることとしている。高等養護学校在学中に行った実習時ではわからなかった新たな一面が出てくることもあり、職場への定着に向け、業務サービスGに配置された企業在籍型ジョブコーチや指導員が個別にフォローしながら教育をしている。また、この時期には報連相・コミュニケーションの機会を増やすように設定したり、働くための生活習慣の形成（仕事・余暇の過ごし方他）の講習をしたり、時間の意識を持たせるよう、自ら設定した目標に対してどのくらいできるのかなどの作業計画をたてる練習も行っている。目標に対してどのようにすればできるのかを常に意識して作業をすることで、周りの整理整頓や作業の順番などから時間短縮や効率化を図ることができるようになる。

　その後、11月以降は4つの事業部にて約2週間の体験実習を行い、各事業部でもこの体験実習の期間に本人の特性などを見極め、2年目以降の派遣に向けて、実際に事業部の作業に向いているかどうか、作業内容が特性とマッチングするかどうかなども含めて評価をしている。業務サービスGの指導員も、現場における一人ひとりの適正性、マッチング度合いを確認している。
　この期間は4月からトレーニングしてきたことを活かすこともでき、課題があればこの時期に時間をかけて解決することもできる。また、障害のない社員とともに実際の組立や作業を行うため、人間関係も築きやすく、正式に配属された後も職場にスムーズに馴染めるメリットがある。

（5）これまでの教育カリキュラムとの違いと効果
　1年間かけてマッチングを行うこのビジネスモデルを経て2年目からは各事業部に派遣となる。入社5年目までは適性を見ながら基本的には事業部の担当者が障害のある社員が一人では難しい部分をフォローし、業務サービスGの指導員と情報共有している。
　このビジネスモデルはこれまで複数年かけていたマッチングの期間を1年に短縮したことだけではなく、将来的には自立をし、「一時的なお手伝い」の「人材」から配属先の社員とともに企業全体の生産性を高める「人財」へ成長してもらう事が狙いである。
　ビジネスモデルを経て事業部へ配属した障害のある社員は、周りの社員とともに手順書を確認し、スムーズに作業をこなし、企業の一社員として製品を生み出しており、事業所にとってなくてはならない「人財」となっている。
　障害のある社員はダイフクで仕事がやりたいという夢をもって入社しているが、中には1年で派遣先を決めるのが難しいケースもあり、その場合は、派遣をいったん見送り、2年目も実習などを重ねて慎重に派遣先を決めることとしている。
　職種専任型社員になると、事業部の上司が指導担当となるため、仕事の相談や困っていることなどは上司へ伝え解決できるようにしているが、月1回開催している各事業部と業務サービスGとの定例ミーティングなどを通じて様々な課題などの情報共有も行い、業務サービスGも事業部と連携しフォローを継続して行っている。