障害者雇用により、みんなが居心地のいい職場づくりへ
~過疎地の工場に優秀な社員が集まる理由~
2020年度掲載
- 事業所名
- 協栄金属工業株式会社
(法人番号: 9280001005672) - 業種
- 製造業
- 所在地
- 島根県雲南市
- 事業内容
- 金属製品製造業
- 従業員数
- 79名
- うち障害者数
- 7名
-
障害 人数 従事業務 肢体不自由 1名 配送運転手及び出荷業務 知的障害 4名 現場作業 精神障害 2名 現場作業 - 本事例の対象となる障害
- 肢体不自由、知的障害、精神障害
- 目次
-
1. 事業所の概要、障害者雇用の経緯
(1)事業所の概要
「過疎地域の雇用を守りたい」そんなみんなの願いから協栄金属工業株式会社(以下「当社」という。)の歴史は始まった。そもそもは当時の飯石郡掛合町(現在の雲南市掛合町)が過疎地域の雇用対策として誘致した大阪の自動車部品メーカーが建てた工場である。円高不況でいったん閉鎖されたが、雇用の光を消すまいと地元の企業、医者、商店主らが出資しあい、「故郷(ふるさと)にともった灯(ひ)を消すな」を合言葉に町ぐるみで会社再建に努力し、今の会社になった。創業精神に基づく「地域と共に成長・発展する企業を目指す」という想いは、今も変わらず受け継がれている。
このようにして昭和47(1972)年2月に設立した当社は、令和2(2020)年8月1日現在(以下「現在」という場合には令和2年8月1日を指す)、精密薄物板金加工(プレス、タレパン、レーザー、曲げ、溶接)、パイプ三次元曲げ加工、組立、自社製品の製造販売などを行っている。
取引先は山形県から福岡県までの全国80社以上で、業務用冷蔵庫や製氷機などの厨房機器やトラクターやコンバインなどの農業機械、レントゲンや歩行練習用階段などの医療・介護福祉機器、ショベルカーなどの建設機械、中堅メーカーのOEM製品など5,000種類を超える金属部品の製造をしている。
生産施設は、約4,270坪の広大な敷地に6つの工場と1つの複合事務棟。そこにはタレットパンチプレス機やファイバーレーザー加工機、プレス機などの大型機械を含め全部で120台以上の製造機械があり、精密薄物板金加工業界では山陰地方で最大級、中国地方でも5本の指に入るほど非常に多くの設備を所有している会社である。
当社の強みは、充実した設備と長年にわたり培ってきた技術により、「材料調達から設計、加工し、完成品として納入する」という一貫した生産ができることである。
現在の社員数は、男性が67名、女性が18名の合計85名(役員・非常勤含む)で、18歳から75歳のベテランまで、幅広い年齢層の社員が活躍している会社である。
第一工場内 第二工場内
(2)障害者雇用の経緯
リーマンショック時に大きく落ち込んだ当社の売上は、景気回復に伴い平成22(2010)年度以降、急激に受注量が増加していった。しかし、人口減少が著しい過疎地域の雲南市掛合町(現在人口2,709人、高齢化率44.89%)では、求人してもなかなか応募がなく、やっと採用できたとしても退職する者が少なくなく人手不足状態が続いていた。同じころ「雲南障がい者就業・生活支援センターアーチ」(以下「支援センター」という。)から障害者職場実習(以下「実習」という。)の依頼があった。少しでも作業補助になればと実習を受け入れたところ、障害のある人の素直で真面目な態度と丁寧な仕事ぶりに驚き、無限の可能性を感じた。障害者に対する偏見が徐々に全社員から無くなって行き、その結果、採用につながった。その後、継続して採用でき、それまで当社の障害者雇用率は1%程度であったものが現在は8.86%となり、障害者雇用率に関して雲南市内でトップクラスの事業所になった。
2. 障害者の従事業務と職場配置
当社には、障害者専用の業務は無い。製造・生産管理・検査・配送など様々な職種があり、障害の有無に関係なく、その人の向き不向きに合った業務・職場に配置している。もちろん、知的障害や精神障害などの障害特性には一定の配慮(指示方法・勤務時間など)をしているが、担当する業務に関しては特別な区分はしていない。あくまでも本人の能力や適性に応じた配置を心がけている。また、待遇について、入社当初は本人の体調などによって柔軟に就業時間を短縮あるいは出勤日数を調整することができるようパート(短時間勤務)または準社員(時給社員)で採用する。その後、業務や職場に慣れ、通常勤務が可能になった人の中から正社員への登用を行っており、令和2(2020)年4月に希望者全員(4名)を正社員に登用した。
現在、当社では7名の障害のある社員が勤務しているが、そのうちの2名について、従事業務と職場配置を紹介する。(カッコ内は、障害の種類・担当業務・勤務年数)
(1)Aさん(知的障害・組立工・8年目)
実習を経て養護学校から新卒で入社。配置は、第一工場にある農業用多目的昇降装置やリハビリ用歩行練習用階段などの組立工程にした。社内で抜き、曲げ、溶接加工し、外注で塗装した部品を組み立て、完成品にする最終工程である。組み立てられた完成品は大きく、例えば昇降装置の重量は35キログラム近くになるが、知的障害のあるAさんはとても力持ちで、完成品の箱詰めなどの作業を楽々こなす。今では、梱包はAさん無しでは考えられない作業になった。また、出荷用の大型トラックへの積み込みの手伝いも担当しており、非常に頼りになる存在。とても明るく、礼儀正しく、運動神経も良いAさんは、組立職場のムードメーカーである。ちなみに、Aさんはスペシャルオリンピックス日本の島根県代表選手で、大会では何度も入賞しているアスリートでもあり、ボランティアなど社会貢献活動にも積極的に参加している。
Aさんの作業の様子(組立) 大会でのAさん(オレンジ色のシャツの選手)
(2)Bさん(精神障害・バリ取り工・3年目)
切断やプレス加工の工程で発生した金属の不要な突起物であるバリ。これを削り取る作業が「バリ取り」である。バリ取りは一見地味な作業と思われがちだが、製品の精度や安全性を左右する「決定的に重要な工程」。グラインダーを当てる時の製品との角度、力の入れ具合が難しい職人技のとても高い技能が必要な業務である。Bさんは、支援センターからの紹介で実習を経て入社。非常に手先が器用で、入社直後から第一工場バリ取り工程に配置した。Bさんの仕事ぶりを同僚に尋ねると「とにかく素直でちゃんと人の話を聞いてくれる」、「集中力を長く持続させることができ、ミスすることはほとんど無い」、「精神障害があるが体調は非常に安定していて、これまで急な休みは一度も無く、とても助かる」、「手が空いた時は率先して他の仕事もやってくれ頼りになる」と高評価ばかりである。職場周辺に他工程の同僚はいるものの、第一工場のバリ取りは全てBさんに任せられるほど、みんなから信頼されている存在だ。
Bさんの作業の様子(バリ取り) Bさんの作業の様子(タップ)
3. 取組の内容と効果
採用については、支援センターから6名、養護学校から1名、ハローワークから1名の紹介を受け採用している。ちなみに、現在も支援センターや養護学校からの実習の受け入れは続いており、その数は、この10年間で合計29名となった。
実習の様子(プレス) 実習の様子(タップ)
実習は職業体験を目的とする場合もある。そのため、採用に際しては、実習した者の中で入社を希望する者を対象に選考を行い、全員を採用した(ただし、配送運転手・出荷業務を担当している者の採用に際しては、そうした業務での経験があることから実習は行っていない)。その際、様々な業務の中から、本人が希望する職種への配置を基本としているため、実習の経験から安心感を持って入社でき、全員が継続勤務しており、長期雇用につながっている。このように支援センターと定期的に実習の受け入れと情報交換を行っているので、当社の業務内容を熟知した支援センターから当社の社風に合った人を紹介してもらったことで、ミスマッチが無く、多くの障害者雇用につながった。
入社後、障害のある社員が会社や業務に慣れるまでは「1秒たりとも一人ぼっちにするな!」を合言葉に、上司や同僚が障害状況を踏まえ、徹底してサポートする。当社が配慮していることは、「いろいろな業務がある中で能力に見合った仕事をしていただくこと」「体調に合わせた勤務時間にすること」「絶対に孤立させないこと」である。なお、個人的な悩みや心配事があっても支援センターがきちんとフォローしてくれているので、トラブルは一切ない。
作業については、口頭での指示だけでなく、例えば「セットする方向を間違えやすい作業については、図を表示して分かりやすくする」(下の改善例1)、「個数を間違えやすい作業については、数えなくても良い治具を考える」(改善例2)、「袋詰め作業で入れ間違いを防止するため、見本を示したうえで必要な数量を事前に小皿に取り分けることで、視覚的に分かりやすくし、ミスがあってもすぐ分かるようにする」(改善例3)など色々な工夫をしている。
改善例1(表示)
改善例2(治具)
改善例3-1(小皿)(作業前)
改善例3-2(小皿)(作業終了時)
このような取組の結果、知的障害のある社員の不良発生率は、ほぼ0%、精神障害のある社員もほとんど休まなくなった。障害のある社員は、非常にまじめで能力も高い。もし、障害のある社員が全員一斉に休んだら、当社の生産ラインは完全にストップする。障害者を雇用することは弱者救済や社会貢献のためではない。障害のある社員は当社の強力な戦力である。
障害者雇用を進めていく中で気付いたことがある。障害者を雇用すると社員みんなの面倒見が良くなり優しくなる。その結果、障害者雇用率アップと連動して障害のない社員の離職率が下がり、経常利益率が向上していった。ちなみに、過疎地域の雲南市掛合町にある当社には、近年、毎年、多くの新卒者が入社してくるようになった。令和2(2020)年4月は新卒6人。そのうちの一人は、なんと片道51.0キロメートルの遠方から入社し、毎日1時間以上かけ通勤している。島根県の3年以内の新卒離職率は40%前後であるが、「常に誰かが寄り添い、一人ぼっちにしない」、「各人に応じた配慮をする」といった取組を新卒社員にも水平展開した結果、当社の5年以内の新卒離職率は現在0%となり、地元以外からも多数の人が入社を希望する会社となった。
4. 今後の展望と課題
平成31(2019)年2月22日に雲南市で開催された「障がい者就労学習会」において、精神障害があるBさんが登壇した。参加者は93名。大人数の前で、Bさんはこんなスピーチをしてくれた。
「社員の皆さんが親切で職場の雰囲気も良いので実習の時から不安はありませんでした。今も不安に感じることはありません。むしろ居心地がよく本当にいい会社へ就職できたと思っています」。
「居心地のいい会社」。この言葉が当社の社風の全てを言い表している。当社では「人材」ではなく「人財」を使う。なぜなら当社の一番大切な資産は社員だからである。
障がい者就労学習会(全体会) 学習会で話すBさん
当社の社長は年20回以上、累計200回以上の講演をこなし、工場には県外を中心に年300名以上の工場見学者が訪れる。そこでこのような障害者雇用についての取組を広く発信している。
参加者とはこんなやり取りがある。
「協栄さんって、優秀な社員さんが多いからできるんですよ」「もちろんそうです!ただ、あなたの言う優秀な社員って定義は何ですか?」
当社の社員の最終学歴は、現在、全社員中73.17%が高卒。つまり当社には高学歴で勉強ができる社員は少ない。ただ、絶対的に言えることは「優しさに秀でている社員ばかりだ」ということだ。これを優秀だというのなら、正に当社は日本一優秀な社員ばかりである。
バーベキュー(Aさん) バーベキュー(Bさん)
忘年会 社員旅行
これまでの障害者雇用による取組で「みんなが居心地のいい職場づくり」へ一歩ずつ近づけたと思う。ただ、外部環境は非常に厳しいものがある。当社がある雲南市掛合町は平成16(2004)年11月1日(雲南市合併時)に3,901人いた人口が現在2,709人になった。これは毎年75.7人ずつ人口が減少している計算になる。2,709人を75.7人で割ると35.8年。つまり今年入社した高卒社員が54歳になった時、掛合町は消滅している。そうなれば、もちろん当社も事業を継続できない。みんなを幸せにできない。当社が背負っている使命。それは、大切な故郷を守ること。当社は過疎地域の雇用を守るためにできた会社。「みんなが協力し合い繁栄する会社になってほしい」と地域のみんなの願いを込めた社名の会社である。これまで多くの皆さんに助けていただいたおかげで今日がある。今、我々にできることは何か…。それは、自分だけ良ければいいというのではなく、これからも地域と共に成長、発展していく企業を目指していくことだ!
執筆者:協栄金属工業株式会社 代表取締役社長 小山久紀
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