障害のある社員とともに働きやすさを創出し、長期雇用を実現
2020年度掲載
- 事業所名
- 株式会社サニクリーン九州
（法人番号: 6290001013446） - 業種
- サービス業
- 所在地
- 福岡県福岡市
- 事業内容
- 環境衛生商品のレンタル・販売、各種ユニフォームのレンタル・販売、
ウォーターサーバーのレンタル、衛生管理サービスの提供、カーリースなど
- 従業員数
- 1,737名（28名） ※（ ）内はUS商品課の人数。以下同じ。US商品課については本文参照。
- うち障害者数
- 26名（7名）
-
障害 人数 従事業務 聴覚・言語障害 2名 商品仕分け 肢体不自由 3(3)名 商品仕分け、事務 内部障害 6(1)名 商品仕分け、事務、営業 知的障害 11(1)名 商品仕分け 精神障害 1名 商品仕分け、資材管理 発達障害 1(1)名 備品管理・手配 高次脳機能障害 1名 資材管理 難病 1(1)名 情報管理 - 本事例の対象となる障害
- 肢体不自由、内部障害、知的障害、発達障害、難病
- 目次
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US商品課のある福岡工場外観1. 事業所の概要
株式会社サニクリーン九州（以下、「同社」という。）は昭和42（1967）年、株式会社サニクリーンのフランチャイジーとして創業した。
マットやモップなどのレンタルで事業を開始し、クリーンサービスへのニーズの高まりとともにユニフォームレンタル、清掃・衛生関連の事業を拡大。現在は社員数が1,700名を超え、山口県下関市から九州沖縄全域に62の拠点を持つ企業へと成長している。
清潔で快適な環境を実現するそのサービスは家庭向けのみならず、オフィスクリーニングや、食品工場・病院などを対象とした高レベルな衛生管理サービスなど、幅広い業種・業態に向けて多角的に展開されている。本稿では、これら事業所向けサービスの中核を担う「ユニフォームサービス」を支援するUS商品課（以下、「同課」という。）を紹介する。
同課では、飲食店・工場・医療関連施設などにレンタルするユニフォームの定期的なクリーニングや補修も含めてトータルに管理する。そのため、ユニフォームの洗濯・加工・リユースを行う関連会社の株式会社ローズサービスと同じ建物内において、日々連携しながら業務を進めている。
同課の社員数は28名。うち、7名が障害のある社員である。まだ入社してから日が浅い社員もいるが、一度配属されると長く勤める傾向にあり、20年超と長く勤務している者も多い。障害を持つ社員はこの職場でどのような役割を担い、なぜ長く働き続けることができるのか。同課の木村課長にお話を伺った。
2. 障害者雇用の経緯と現況
同社が初めて障害者を雇用したのは昭和61（1986）年。言語と上下肢に障害がある方で、福岡市内の拠点で商品の仕分け業務に長年従事し、すでに定年退職している。当時すでに障害者の雇用は法で義務づけられていたが、この時は障害者の雇用を目的とした採用ではなく、同社へ応募した人が、たまたま障害を持っていたという経緯であった。
全社的に障害者雇用を推進し始めたのは、平成11（1999）年頃のことである。もともと同社は、「社会に役立つ企業」を企業理念として掲げており、環境保全やコンプライアンスの徹底、安心安全をサポートするサービスなど、社会の求めに応じて様々な取組を行ってきた。「雇用の維持・創出」もその一つである。企業の成長とともに、社会的な責任として障害者雇用を果たしていくことが決まり、まずは法定雇用率の達成を目指した。
障害者雇用を進めるうちに、障害があっても、本人の適性に合った職場に配置し、適切な配慮を行うことで力強い戦力になることがわかり、以降、計画的に雇用を拡大していった。
本稿で紹介するUS商品課は現在、久留米市にある物流センターに次いで障害のある社員が多く働いている部署である。同課における社員数の割合が示すように、障害のある社員は、同社及び同課にとって、なくてはならない存在となっている。
3. 障害者の職場配置と従事業務
難病による障害、肢体不自由、内部障害、知的障害、発達障害と、US商品課に勤務する社員の障害種別は様々である。勤務歴が25年を超える社員1名が、レンタル契約の顧客に関する情報管理などを担っているほかは全員、「マテリアルスタッフ」と呼ばれる職に就いている。障害のない社員を含めて計19名のマテリアルスタッフのリーダーは、定期的な通院を必要とする内部障害のある社員が務めている。マテリアルスタッフの業務は以下の5つに大別される。※（ ）内は障害種別と人数
(1) マーキング（肢体不自由1名、知的障害1名）
ユニフォームの管理に必須となるバーコードシールの貼付・貼替、袋剥がし・袋入れ、各営業所への仕分け・発送準備を行う。
(2) ピッキング（肢体不自由1名）
指示書にもとづいて倉庫から在庫商品をピッキング。クリーニング済みのリユース品の倉庫への棚入れも行う。
(3) 入荷（内部障害1名）
在庫がない場合、メーカーへ発注し、商品の入荷を管理する。
(4) リペア
ユニフォームの補修のほか、企業名やロゴの刺繍を行う。
(5) 備品・設備（発達障害1名）
ユニフォーム関連のカタログや備品の管理・発送を行う。
マーキング業務における各営業所への仕分け・発送作業
上記のように、障害のある社員は、専門技術を要する「リペア」以外のすべての職場に配置されている。これら配置ごとの固定業務のほか、毎日、膨大に発生する業務がある。
それは、クリーニング済みのユニフォームのシミ・破れ・ほつれをチェックし、処分するものとリユースするものとに仕分ける業務である。処分品は抜き取ってハンディターミナルで除籍処理を行い、リユース品はきれいにたたんで倉庫の所定の位置に棚入れする。
1日2,000枚にも及ぶこの業務は現在、ピッキング担当の社員が主に行っており、業務の集中度合いに応じて他の者が応援に入る形となっている。
「毎日、誰かがやらなければ山積する作業が大量に発生する。これらを黙々ときっちり遂行してくれる人がいてくれなければ、当課の業務は成り立たない」と木村課長は語った。4. 取組の内容と効果
（1）自主性の尊重
「障害のある人が働きやすい職場づくり」に力を入れている企業は多いが、同課の場合、その工夫は障害のある社員を含む全社員が行っている。
「整理」「整頓」「清掃」「清潔」「しつけ（作業手順や環境の改善と標準化）」、これら5つの「S」によって社内の整備を目指す5S活動に、障害のある社員も参加。他の社員同様、自ら企画書を作成し、全員の前で提案する。
例えば、背が低い女性や、腕を上げづらい社員でも容易に手が届くように、倉庫の高い位置にあるボックスに持ち手を付けたり、身体の動きに制限があってもきれいに速くユニフォームがたためるような台紙を製作するなど、単に職場を美しく整えるだけでなく、自身の業務を効率化し、全社員にとって役立つ改善が、障害のある社員たちの提案によって実現した。
倉庫の棚の持ち手を付けたボックス
たたみに活用される台紙
（2）スキルの可視化
スキルマップについても、同課では、わかりやすいように工夫された「スキルマップマーキング」を作成している。
社員のスキル習得状況は、「未着手」「理解している」「一人でできる」「人に教えることができる」の4種のマークで表示され、誰もがひと目で各人の状態を把握できるようになっている。この評価は自己申告と周囲からの意見をもとに決められ、半年ごとに更新される。
障害の有無にかかわらず全社員の氏名が並ぶ一覧表のほか、習得状況を時系列で記録した個人別の表もあり、成長の過程も確認できる。
障害のある社員の中には、正しい自己評価が難しい者もいるが、このマップによる評価が、自分ではできていると思っているスキルを客観的に見直す機会となる。また、現状がわかることで、次に取り組むべき課題や挑戦したい業務が明確になり、仕事へのモチベーションがアップ。その結果、スキルの向上につながっている。
スキルマップマーキング
（3）学びへの支援
提供するのは商品やサービスであっても、顧客に接するのは「社員」という「人」である。フェイス・トゥ・フェイスのホスピタリティマインドを大切にする同社では、人材教育に力を入れている。
そのため社員の学びを応援する制度も充実しており、例えば業務に関連する通信教育については会社が受講費用の全額を負担する。さらに修了するとポイントが付与され、貯めたポイント数によって金券カードなどと交換できる仕組みも整っている。
マナー関連やペン習字など、業務と直接関係のないものについても半額が補助されるため、同課で働く障害のある社員も積極的に、この制度を利用して自己研鑽に励んでいるという。業務とすぐに直結しなくても、自ら前向きに行動して成果を出す、その行動のプロセスを学ぶことが、仕事に役立つ自主性を育んでいる。
（4）非常時への備え
同課はビルの5・6階に位置している。自力で非常階段を降りることができない社員も勤務しているため、地震などでエレベーターが停止した場合、安全かつスピーディに階段から避難できるように非常用の避難チェアを購入した。
安価な避難用具も検討したが、階段をスムーズに降りられる安定感や、支える社員の負担が少ないこと、また、平地に降りれば車いすとしてそのまま移動できることから、社員の安心安全を第一優先とし、該当社員1名につき1台、計2台を購入した。
業務を支援する機器や補助具は購入しても、使うか使わないかわからない非常用の高価な福祉機器・設備を導入する企業は多くはないだろう。障害の有無にかかわらず、社員一人ひとりを大切に思い、長く働いてほしいという同課の姿勢が表れている事例であり、それに応えるかのように障害のある社員の勤務年数は毎年伸び続けている。
非常用避難チェア
5. 障害に応じた配慮事例
肢体不自由や内部障害のある社員には仕事内容や通院への配慮を、知的障害のある社員には、業務を習得しやすい手順書などを作り、周囲が必要な支援をする。障害者雇用に長い歴史を持つ同課では、これらの一般的な合理的配慮は当然のように行われているが、以前勤務していた一人の発達障害の社員のための工夫が今、新たに雇用した同じ障害を持つ社員や全社員に役立っていると聞き、詳細を紹介する。
発達障害の特性の一つに、急な予定変更や臨機応変な対応が苦手という点がある。
そこで職場では、当該社員専用のスケジュールを作成し、毎朝、渡すことにした。本人が安心して業務にあたれるようになっただけでなく、このスケジュールをチェック表として用いることで、行うべき作業を忘れることがなくなり、一人で自信を持って業務にあたれるようになったという。
その他、備品の在庫管理業務においても、発注中であることがひと目でわかる札を作った。在庫がない時は発注担当に報告する決まりとなっているため、既に発注中であっても実際に物が入るまでルール通りに毎日、「在庫がありません」と発注担当に報告することが続いたため、このような工夫がなされた。併せて、発注してほしい時に確実に伝えるために担当に渡す札も作った。
また、カタログの管理についても、在庫がないものはラベルを上下逆さまに貼っておく、数えやすいように5冊ずつ向きを変えて重ねるなどの工夫がなされて、現在に至る。
「障害のある社員が入社したことでこのような構造化ができ、結果、全社員にとってわかりやすい仕組みができた」と木村課長は語った。
発注状況がわかる工夫
カタログの収納ラベル
6. 今後の課題と展望
「恐らく当課の社員は、障害者だから云々とは誰も思っていない」と木村課長が語るように、障害のあるなしにかかわらず、困っている社員がいれば皆で改善の策を考え、必要な手を差し伸べる。一人のための配慮が標準化され、全ての社員に役立つものとなる。管理職はもちろんのこと、職場の社員全員が互いを大切に思っているからこそ、生まれた組織風土である。
理想的に思える職場環境だが、あえて木村課長に今後の課題を伺ってみたところ、次のように話された。
「自らの業務の全体像が見え、どのように社会に役立つかをイメージできるようになると、自分の仕事に誇りを持つことができ、自信につながる。障害のある社員も、単に日々の業務をルーティンとして行うのではなく、意欲的に仕事に取り組み、毎日新しいことにチャレンジしてほしい。今後は全員がスキルの幅を広げ、ゆくゆくはマテリアルスタッフ内でローテーションができるようにしたい。
当社は"日本一の定期訪問ルートをつくる"をテーマに掲げており、私どもUS商品課も全員で日本一の出荷品質を目指していきたい」。
そして、障害者雇用のみならず、同課が採用する際に必ず伝えるのが、「長く働いてほしい」ということ。そのためには、適切な人材配置、社員の意欲を引き出す仕組みづくり、評価制度、支え合える職場環境、教育支援などが欠かせないと考えているとのことであった。取材を終え、そのすべてが、同課にはあると筆者は感じた。
執筆者：福岡市障がい者就労支援センター
ジョブコーチ 紺谷 和泉
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