障害についての職場の理解を促し配慮を提供
することで、障害者の定着につなげた事例
- 事業所名
- 株式会社キタカミデリカ
(法人番号: 6400001006355) - 業種
- 製造業
- 所在地
- 岩手県北上市
- 事業内容
- 食品製造
- 従業員数
- 233名
- うち障害者数
- 12名
-
障害 人数 従事業務 聴覚・言語障害 2名 盛付け、包装、容器洗浄 内部障害 1名 野菜処理 知的障害 5名 盛付け、包装、容器洗浄、野菜処理など 精神障害 4名 盛付け、包装、容器洗浄、野菜処理など - 本事例の対象となる障害
- 聴覚・言語障害、内部障害、知的障害、精神障害
- 目次
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事業所外観
1. 事業所の概要、障害者雇用の経緯
(1)事業所の概要
株式会社キタカミデリカ(以下「キタカミデリカ」という。)は、食品メーカーである株式会社キユーピー(以下「キユーピー」という。)のグループ会社デリア食品株式会社の子会社(100%株主)として、平成15(2003)年に設立。平成16(2004)年10月から操業を開始した。365日24時間稼働でサラダや惣菜、麺類、デザートなどを製造し、東北6県のスーパーなどに納品している。
(2)障害者雇用の経緯
ア 雇用が継続しなかった操業開始時
キタカミデリカでは、操業開始当初から障害者を雇用。しかしなかなか定着せずに短期間で辞めてしまう傾向があった。障害者の採用などを担当している管理課の高橋さん(以下の「 」は高橋さんの発言である)は、「当時は、障害に対する社内の理解が進んでおらず、障害者=健常者と同じように働けない、気も遣うし扱いにくい、面倒な存在、というイメージを持つ社員が少なくありませんでした。特性を理解されない環境で働く障害者の方々は居心地が悪く、フラストレーションが溜まり退職していったのでは」と分析する。
そうした状況が4年ほど続いていた平成20(2008)年、高橋さんはハローワークの主催で、障害者を雇用している北上市内の企業(繊維工場)へ見学に行く機会があった。
「障害者の方々が生き生きと働いているようすに驚いた」と高橋さんは話す。「その会社では、障害に対する理解があり、特性を生かしながらサポートする体制ができていると感じました。キタカミデリカでも、障害者の方々の雇用を定着させることで社会貢献をするとともに、障害者の方にも仕事を通じて成長する実感を味わったり、社会に貢献しているという喜びを感じながら働いてほしい、と思いました」と振り返る。
イ 職場定着の取組み
同じ頃、キユーピーをはじめとするグループ企業でも、障害者を積極的に雇用しようと取組みを始めていた。
「先進的に取組んでいるグループ会社から話を聞き、社会貢献の大切さ、そして働いている障害者は優秀な人が多く雇用するメリットも大きいことなどを伺いました。また、うちのような工場だけでなく、事務的作業がメインの職場でも障害者の方々が働いていて、障害の特性を理解し生かせば活躍の場が広がるのだ、ということも知りました」。
そうした流れを背景に、キタカミデリカもハローワークが主催する地域の障害者雇用面接会に参加。何人かと面接を行い、職場見学の機会も設けた。そのとき高橋さんは「能力は高いが、それを発揮できずにいる人が多い」と感じたという。
「見学に来ていただいた時も、説明を真面目に聞いてくれるなど態度が良く"やってみたい""興味がある"という意欲も示してくれました。しかし一方で、一緒に働く周りの理解や配慮がなければ、そのポテンシャルを生かすことは難しいんだなと思いました」
当時のキタカミデリカでは「障害を持つ人は扱いにくい」という先入観を持つ社員が少なくなかった。それを払拭するためにはまず相互理解が必要、と考えた高橋さんは、見学や研修の段階から現場担当者との関わりを積極的に設けることにしたという。
「採用が決まったら、工場見学や4日間ほどの研修を行うのですが、こうした就労までのオリエンテーションは、こちら(管理課)が対応していました。しかしそれだと、働く側と現場とのコミュニケーションが足らず、お互いに戸惑ってしまう、と考え、見学の段階から配属予定である生産課の担当者も一緒に対応するようにしました。また就労前の面談にも同席してもらい、どんな場面でどんな配慮が必要なのかなどを共有しました」
ウ 支援機関のサポートを活用
企業が障害者を雇用する際、障害者支援機関などに所属するジョブコーチ支援を利用し、本人と職場の双方に必要なサポートを得ているケースが多い。しかし高橋さんは「ジョブコーチという存在を、しばらく知らなかったんです。なので最初はどのように対応するべきか、手探り状態でした」と笑う。
「雇用した障害者の方に、そういうサポーター役がいることを教えてもらい、それからは支援機関やジョブコーチを利用しており、対応などで悩んだときは相談するようにしています。本人の性格や特性、生活環境などもしっかり把握していてアドバイスも的確ですし "頼れるところは専門家に頼ったほうが断然いい"というのを実感しています」。
現在は、しごとネットさくら(岩手中部障がい者就業・生活支援センター)、地域のハローワーク、ジョブカフェさくら、北荻寮(就労継続支援事業B型や就労定着支援事業を行う多機能型支援事業所)、高齢・障害・求職者雇用支援機構などの支援機関のサポートを積極的に活用している。また、障害者を多く雇用しているグループ企業などに相談することもあるという。
2. 障害者の雇用状況と従事業務
(1)雇用状況
現在は12名の障害のある社員が勤務している。勤務歴が一番長い社員は、平成27(2015)年に入社した精神障害のある40代の社員である。直近の採用者は、2020年春に特別支援学校を卒業し入社した知的障害のある社員である。以前は、毎年秋頃に開催される障害者雇用面接会での採用がほとんどだったが、徐々にハローワークからの紹介で面接・採用に至るケースが増えてきた。現在の内訳は、6名がハローワーク経由、4名が障害者雇用面接会、2名が特別支援学校からの新卒採用となっている。
雇用契約については、本人の希望や障害特性、配慮すべき事項などを勘案しながら個別に内容を決めている。その際にはできるだけ負担の軽い勤務からスタートすることに留意している。
そうしたことから、採用当初は短時間勤務(一日5~6時間の週5日勤務)のパート契約の人が多い。その後は、本人の意欲や能力、勤務状況などによりフルタイム勤務(一日8時間の週5日)の「契約社員」への登用も行っており、現在、勤務歴が長い人を中心に7名が契約社員となっている。
また通勤は、家族が送迎している2名(知的障害のある方、難聴のある方)を除き、自動車通勤している。
(2)従事業務
障害の種別は、知的障害5名、精神障害4名、身体障害3名(透析、平衡機能障害、難聴)となっている。
いずれも工場のライン業務で、「野菜処理(キャベツの芯取り、グリーンリーフの選別、玉ねぎの芯のくり抜きなど)」「芋処理(汚れている部分を除去、ベルトコンベアに載せるなど)」「盛付け・包装・容器洗浄」にそれぞれ配属。障害の種別ではなく、一人ひとりの障害の特性や適性、本人の希望などを踏まえて配属される。
野菜処理(キャベツの芯取り)野菜処理(野菜かごの殺菌)盛付け作業(惣菜の盛付け)盛付け作業(サラダの盛付け)3. 取組の内容と効果
(1)取組の内容
ア 作業の指示上の工夫(共通配慮事項)
どの作業にも障害に配慮したマニュアルがあり、その指示にしたがって作業を進める。曖昧な指示は避け「この作業を」「何人で」「いつまでに」など具体的に示すことと、「目で確認」できることを意識している。
例えば盛付けなら、最初に「エビを2個」「この惣菜を〇g入れる」「唐辛子を全体的にまぶす」といった個数、重量、配置などの具体的な指示や見本写真を載せたレシピを配付している。さらに作業チェック表も用意し、進捗状況も確認しながら作業できるようにしている。また、容器洗浄など機械を操作する作業は障害のない社員とペアを組み、確認しながら行うことでミスや事故を未然に防いでいる。
イ 障害特性に応じた配慮事例
(ア) 精神障害
面談で「訳もなくイライラしたり、不安になる」という話があった。そのため周りが「大丈夫。ちゃんと仕事できているよ」、「〇〇さんを頼りにしているよ」等伝えることで安心して仕事に取組める環境を作るようにしている。また、本人の了解を得て通院している病院に同行し、就業時の症状とその対処について医師に相談をすることもしている。
(イ) 知的障害
特に集中力が続かない人に対しては、タイミングを見て水分補給を促し気分転換を促すほか、「この分が終わったら休憩」と目安を提示したり、飽きてきたら別の作業をお願いするなど、状況を見ながら声かけをしている。
(ウ) 身体障害
聴覚障害を持つ社員にはボードを使い筆談で指示。筆談の場合でも簡潔で具体的な指示を心がけている。平衡機能障害を持つ社員は、特に歩くときにふらつきやめまいを感じることが多いため、最初は玉ねぎの芯抜きなどあまり動かずにすむ作業を担当させていた。しかし力があり機械操作も得意だったことから、現場の上司が「容器の洗浄の方が向いているのでは」と判断。「試しにやってみないか」と声をかけたところ、適性があり本人のやる気もあったことから、現在は容器洗浄の作業を担当している。
「この人にこの仕事は無理、と決めつけるのではなく、一人ひとりをきちんと見て判断することが大切だ、ということを実感しました」
ウ そのほかの取組
通院や治療のための休日等を配慮している。また障害のある社員を対象に、2か月に一度の面談を実施している。面談では、現在の仕事の状況や人間関係、気がかりなこと、要望などをヒアリングしている。内容は所属長や部課長間で共有し、改善や対応を行っている。
(2)効果
「何より大きな変化は、職場の雰囲気の変化です。障害を持つ社員に対して"フォローしてあげよう"というだけでなく、職場全体が思いやりの気持ちを持つようになったと感じます」と高橋さん。それにより従業員間のコミュニケーションが良好になり、障害の有無に関わらずお互いが状況に応じた配慮を心がけるようになったり、業務の見直しによって効率化が進むなど、職場全体の環境改善にもつながっているという。
「もともと能力のある方々が戦力となって活躍してくれるため、以前より生産性が向上しました。現場からも"彼らが働いてくれて助かっている"という声が聞こえるようになりました」
雰囲気だけでなく、会社の待遇にも変化があるそうである。
「以前に比べると昇給率が高くなりました。スタートの時給は高いと言えないのですが、障害者雇用に関する社内の理解や生産性の向上により、障害のある社員の方々も能力や頑張りに応じて、昇給できるようになりました。中には時給100円単位でアップした方もいらっしゃいます」
そうした様々な変化、効果によりキタカミデリカは障害のある社員にとって働きやすい職場となり、離職する人は少なくなり、職場定着につながっているとのことである。
4. 今後の展望と課題
以前に比べると昇給率は上がってきているものの、障害のない社員とはまだ給料や待遇面での差があるのが課題。「能力はあるので重要な仕事を任せたり、正社員への登用なども考えていきたい」と高橋さん。
また、操業開始時に比べると「障害者と働く」ことに対する理解、環境づくりはだいぶ進んだが、社員全員が障害の種類や特性について学ぶ機会はまだ設けられていない。「特に、若い世代や臨時従業員を対象にした研修や勉強会も行っていきたい」と話す。
5. これから雇用しようとしている事業所へのアドバイス
障害者雇用を検討している事業所に対して「まずはあまり構えず、気軽に実習や研修などを受け入れてみるのがいいと思います」とのこと。
「障害者の方々も、最初は興味のない職種だと思っていても、実際に実習をしていくうちに意欲的になる場合が多い。まずは参加してもらうことが大事だと思います」
執筆者:鈴木いづみ
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