障害特性を個性として尊重しその特性に応じた
職場を提供することで障害者雇用を推進
2020年度掲載
- 事業所名
- 高橋石油株式会社
(法人番号: 1470001002674) - 業種
- 卸売・小売業
- 所在地
- 香川県高松市
- 事業内容
- 石油・LPG製品卸売、小売、身体障害者用自動車運転装置施工及び修理、国産きくらげ生産・販売
- 従業員数
- 165名
- うち障害者数
- 5名
-
障害 人数 従事業務 肢体不自由 1名 電気事業部 知的障害 2名 生産栽培業務 精神障害 2名 生産栽培業務 - その他
- 障害者職業生活相談員
- 本事例の対象となる障害
- 精神障害、発達障害
- 目次
-
事業所外観
1. 事業所の概要、障害者雇用の経緯
(1)事業所の概要
明治30(1897)年石油類を主とした雑貨商を創業、昭和26(1951)年「高橋石油株式会社」(以下「同社」という。)として発足。以降給油所・LPG充填所を高松市を中心に各所に開設。事業も電機事業、住宅設備事業、栽培生産事業と拡大してきた。
障害者向け事業では電機事業部に介護福祉課を設置し、身体障害者用車両への改造や点検を行っており、また、栽培生産事業部では国産きくらげ「さぬきくらげ」の生産・加工・販売業務に障害者を採用している。
創業以来、エネルギーの安定供給を通じて人々が豊かに生き生きと暮らす毎日、そのために私たちができることは何だろうかといつもそう考え、石油だけでなく、ガス、電機、住宅など、多様な事業展開を行ってきた。これからも、これまで培ってきたノウハウを生かし、様々なアイディアやプロジェクトを進めていく。
経営理念としては 1)高い技術でお客様に貢献、2)革命的なアイディアで積極的に挑戦、3)ハートにエネルギー、4)社会(地域)に貢献、5)責任ある行動を、6)協力・共有・協調、7)夢と希望を持ち成長し続ける である(頭文字をつなげると、「たかはしせきゆ」になる)。
(2)障害者雇用の経緯
石油業界においては、平成9(1997)年に採択された京都議定書を皮切りにさまざまな難題を抱える業界となっている。脱炭素社会を進めることは、同社としても非常に大事なことであり、同時に安定的な経営を目指すには、石油事業に依存するのではなく、いわゆる多角経営を視野に入れる必要があった。
併せて、国際的な障害者雇用の高まりがある中、残念ながら、同社では、危険物を取り扱う業務であること、また取り扱う際は資格が必要であることなどにより、安全の確保が難しく、障害者雇用がなかなか進められない状況であった。
そのため、経営理念にあるとおり、同社がより社会的な貢献を果たすためにも安定経営と障害者雇用を両立させることが必要となった。
しかしながら、自社内で模索するも石油事業関連のビジネスモデルが多く「これ」という結論になかなか至らず、障害者雇用において、事務などの間接部門での業務の切り出しなども試みたが、十分な業務量を抽出できず、思うように進まず、障害者雇用の状況は1名で、法定雇用率も未達成であった。
そうしたなかで、転機となったのがさきに触れたきくらげの栽培である。多角経営と障害者雇用の両立事業を模索するなかで、新規事業として農業分野でのキノコ栽培事業の情報を入手した。そして、同社には小規模ながら遊休社有地があり、少ないスペースで、比較的安全な作業で、安定した売り上げなどの可能性の高いきくらげ栽培に着目し、平成27年から「きくらげハウス」(以下「ハウス」という。)の名称で始めた。当初は障害のない従業員3~4名でスタートするとともに、障害者就業・生活支援センター(以下「センター」という。)の主任就業支援ワーカー、同社従業員の知人で就労支援施設勤務者やハローワークで障害者担当から異業種参入(農業分野への参入)により障害者雇用を達成している企業の情報を入手するなど準備を進め、ハウスでの障害者雇用を初めた。
採用に向け平成27(2015)年にセンターに相談、ハローワークより紹介を受けトライアル雇用制度を利用して1名を採用した。その後も採用の際には、トライアル雇用制度を利用しており、トライアル中にすべての工程で作業に従事してもらい、就業可能かをまず判断し、それから個々の特性に合わせた職場に配置している。
ハウスの一部の業務はある程度の経験が必要ではあるが、それ以外は特別の経験・資格は要しないことから、本人と面談し、納得の上で、最適と判断した作業に従事してもらっている。
そうした経緯を経て、同社においては障害者雇用率達成を意識しつつ、平成27(2015)年の知的障害者1名採用を皮切りに、平成28(2016)年2名、平成29(2017)年1名と継続的に障害者の採用を続けている。
2. 障害者の従事業務と職場配置
今回はハウスでの障害者雇用にスポットを当てて事例紹介する。ハウスには現在9名が所属し、うち4名が障害のある従業員である。
ハウスでの作業工程は大きく分類すると、栽培・収穫→検品→洗浄→乾燥→出荷前検査→商品化となっている。
このうち検品と乾燥作業は4名全員で行っていて、4名ともフルタイム勤務である。
次に各人の従事業務などを紹介する。
Aさん(知的障害者)は勤続5年となる。50歳代でセンターから紹介され採用された。主に単純作業に従事している。ハウスや事務所内の清掃業務や使用道具の洗浄・片付けを担当。9:00~16:00勤務である。
Bさん(知的障害者)は20歳代で、勤続4年となる。主に台車や一輪車を使用して原料や商品の運搬作業、2~3㎏程度の菌床の廃棄などの手作業、力仕事に従事している。勤務時間は8:30~16:30となっている。
Cさん(精神障害者)は40歳代で勤続4年である。きくらげの菌床のメンテナンス、栽培・収穫時の選定作業に従事している。菌床はカビが発生しやすく、細かなメンテナンスが必要であり、万一カビが発生したら即撤去作業を行うなど、かなり神経を使う作業でもある。季節によって収穫のサイズが変化するので、収穫の時期の判断も必要となる。適正な収穫サイズはスケール盤で明示しており、正確に判断する目利きも必要となる。栽培周期は約3か月間で通年栽培している。
Dさん(精神障害者)は40歳代。勤続3年である。主な業務は商品作りで袋詰めや商品名のシール貼りなどである。成分表の一部訂正用のシール貼りなどの細かい作業が苦手のようである。他の人が気にしないようなことでも落ち込む時がたまにあり、細かな見守りとケアが必要である。
きくらげハウス外観3. 取組の内容と効果
採用時、センターやハローワークからの情報を参考にはしているが、実際に就業する場で性格・行動などを見ながら、適性を判断している。
そして採用した障害のある従業員の障害者手帳の内容や障害特性などについては配属先などの従業員に対して詳細ではなく、最低限度気をつける程度の情報のみ提供している。そのため、従業員は先入観を持ってステレオタイプな応対の仕方をするのではなく、それぞれ特徴的な個性を持った人としてとらえている。従業員が障害のある従業員と協働することが過度に負担とならないような配慮であり、関係する従業員も障害のある従業員に自然に接することができている。
相談などに対応する担当についても配慮している。4名は男女各2名であるが、話しやすさを考慮し、男性には障害者職業生活相談員である吉岡氏(男性)が、女性にはベテランのパート女性従業員が担当している。吉岡氏はハウスに常駐していて、障害のある従業員の業務上の相談に即座に対応できるような体制でおり、また、生活面での支援も関係機関との連携も含めて的確に行えている。
栽培においては関係者以外の立入禁止はもちろん、作業衣の規定や徹底した消毒などに、厳しく管理された特殊設計ハウスで行われている。
一日の作業内容や特記すべきことは全て記録しており、得手不得手それぞれに応じた仕事の指示などで身体的・精神的ストレスを軽減するように工夫している。そして、人事担当の理解だけでは目の届かない点が生じることがあると思われるので、スタッフ全員が同じ目線で配慮や支持ができるよう心掛けている。スタッフミーティングも実施し、課題点の洗い出しや共有、労務管理の改善などに取り組んでいる。
ハウス内では1年を通してきくらげを栽培している。就業環境対策に関しては、夏季のハウス内作業は暑さ対策に留意しており扇風機や送風機を適所に設置し、休憩時間も昼休憩60分のほか、午前・午後に各10分間の休憩を通常1回を2回ずつとし、充分休養できるよう配慮している。
また、冬季の暖房設備も快適な作業を継続できるよう、配置している。
作業手順書は特に作成しておらず、共同作業している担当者が口頭で都度、指示している。
月に最低一度は面談を実施し、生活、経済面、家庭の問題を含めて解決を図っている。
特に体調面の変化やストレスの発見に努めている。
さらにセンターの担当者が不定期に来訪し、本人が従業員に直接言えない相談事がある場合にヒアリングを行っている。ヒアリング内容で会社と相談した方がよいことについては本人の同意のうえで会社と共有し、必要な対応を行っている。
周囲の従業員も個々の特性を理解しており、アットホームな雰囲気で接している。
以上のような日々の見守りや配慮によって、ハウス立ち上げから現在まで大きなトラブルが発生したことはない。
4. 今後の展望と課題
経営上、ハウスには売り上げでのノルマを課せられているが、絶対的なものではなく、達成を目指す指標・目標として設定されている。現在はやっと軌道に乗りかけた状況であり、現状、課題は多いが、全従業員間の意識も高く、売上と品質の向上を目指している。
現在、日本で流通しているきくらげは中国産の輸入品がほとんどで、95%以上のシェアとなっている。国産きくらげの需要度は高く、中国産に比べて高価ではあるが、安全性や栄養価の高さから近年目覚ましく、注目を浴びている。障害者や高齢者の雇用対策として、民間や市町村で事業化されるケースも増えていて、将来性はあると見込んでいる。同社としては、今後は個人のスキルアップを目指すことで、生産量を増やすことに注力していきたいと考えている。
ただ、障害の度合いにより、成長していくことをプレッシャーに感じる人もいる。
将来的に事業拡大時にはこのような感じ方をしがちな者への対応と、更に身体障害者の採用という場面でもしっかりとその雇用の機会と場を提供することが必然となってくると考えている。
同社では、支援機関など関係機関と密接に連携しながら、個人の成長を願うとともに将来への生活不安を払拭し、就業と事業発展の充実感を得られるよう、そして更なる社会貢献を果たせるよう様々な工夫を凝らしながら事業を進めてゆきたいと考えている。
執筆者:独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構
香川支部 高齢・障害者業務課
アンケートのお願い
皆さまのお役に立てるホームページにしたいと考えていますので、アンケートへのご協力をお願いします。
なお、事例掲載企業、執筆者等へのお問い合わせや、事例掲載企業の採用情報に関するご質問をいただいても回答できませんので、あらかじめご了承ください。
※アンケートページは、外部サービスとしてMicrosoft社提供のMicrosoft Formsを使用しております。