人の和を大切にする企業風土の醸成
による障害者の定着率安定の事例
2020年度掲載
- 事業所名
- 株式会社陽和
(法人番号: 8290801003859) - 業種
- 製造業
- 所在地
- 福岡県北九州市
- 事業内容
- エンジニアリングプラスチックの精密切削加工など、工業用機能部品の製造
- 従業員数
- 112名
- うち障害者数
- 3名
-
障害 人数 従事業務 知的障害 3名 樹脂部品製造機械のオペレーター - 本事例の対象となる障害
- 知的障害
- 目次
-
事業所外観
1. 事業所の概要、障害者雇用の経緯
(1)事業所の概要
株式会社陽和(以下「陽和」という。)は昭和29(1954)年に創業し、「明るい人の和を広げ、会社を発展させていきたい」という創業者の願いを社名にした会社である。企業理念には「明るい人の和を大切にし、社会に貢献する」としている。また、企業ミッションとしては、「当社は事業を通じ世の中に貢献するために存在する」と掲げて、人と社会へ貢献することが会社存続の意義としている。
昭和40(1965)年よりフッ素樹脂の成型を開始。多くの同業者が安価な材料の樹脂成型を行う中、原材料が高価であるが精密部品成型にはフッ素樹脂製品の市場が今後成長するとの想いで、フッ素樹脂に特化した製品づくりに挑戦した。苦難を乗り越え、現在ではオンリーワンの製品作りが出来る会社へと成長し、平成23(2011)年には北九州オンリーワン企業に認定され市長賞を受賞した。
会社のホームページには、陽和の「和」として陽和は、フッ素樹脂に特化した独自の「技術力」を深化させる事とともに、社員個々人の「人」と、その個々人が持つ特徴・能力を融合する「和」についても大切にしています。その「技術力」と「人」の両輪の力強い推進力により、企業の競争力を高め、会社の発展をめざします、と掲げている。
その目標のとおりに、人の和を大切にした取組で、20年間にわたり新卒社員離職ゼロを続けている。障害のある社員を含む、働く人の全員が働きやすい会社としての魅力を紹介する。
(2)障害者雇用の経緯
障害者雇用へ取組むきっかけは、平成23(2011)年に会社見学のため来社した、『日本でいちばん大切にしたい会社』の著者である坂本光司氏から言われた次の一言だった。
「御社のモノづくりは素晴らしいが障害者は雇用していますか」
どれだけ素晴らしいモノづくりをしていても、地域社会から必要と認められる会社になることが必要。障害者と一緒に働くことで、多くの学びを一緒に働く社員に理解させることができるとの教えがあった。
そこで、陽和の現社長の越出理隆氏(以下「越出氏」という。)は会社近くの特例子会社(以下「A社」という。)を訪問し、職場見学を行った。障害者が元気に生き生きと働いている姿とA社が生産性を高めるために小さな改善を沢山行っていることに越出氏は感動した。これまでは、障害者雇用は中小企業には関係ないことと、関心を持つことなく会社経営を進めていた自分の誤りに気付き、障害者と一緒に働くことの本当の意義を理解した。
さらに、障害者雇用を進めるために、トップダウンも必要だが、社員全員がその必要性を理解することが重要であることも知った。障害者が働いている姿を見たことがない自社の社員が5S(整理・整頓・清掃・清潔・躾)と改善活動が盛んに行われているA社の職場を見学することで意識改革ができると信じた。全社員を小グループに分けて、約8割の従業員を特例子会社へ見学に行かせた。
見学に行った社員からは、「障害者が元気に働いている姿と小さな改善のための知恵出しが素晴らしい」との感激した言葉を多く聞くことができた。陽和として障害者雇用を進めることへの否定的な意見は一言も上がることはなかった。
そのような取組を行ったことで、社員から障害者と一緒に働くことへの反対もなく、平成26(2014)年3月に最初の障害者を雇用した。その後、障害者の採用では地域の特別支援学校より実習生として受け入れた生徒を採用することにした。
2. 障害者の従事業務と職場配置
障害者雇用にあたり、陽和の人事担当者は業務の切り出しについても悩み、参考とすべく障害者雇用を長年行っている会社見学も行った。見学先では、障害者は流れ作業か補助的な作業を行っているケースが多くみられた。
そこで、陽和としても原材料や部品の運搬など、補助的な業務を行ってもらうことをまず検討した。しかし、実習で受入れた特別支援学校の生徒の作業手順の理解力が想像以上に高いことや熱心に作業を行う姿を見て、社員と同じ作業ができるのではないかと思った。他方、陽和の製造現場では、一人ひとりが樹脂成型機や切削機を一人持ちで自己完結の作業を行っているため、複数人で行う作業が少なく管理者の目が届かない場合があり、そのままでは安全面・品質面での懸念があった。そこで、安全面と品質面に配慮した改善を図ることで、知的障害者も切削機械の一人持ち作業ができることを考えた。
障害者には単独作業が難しいと思うと何もできないが、やり方によっては作業することは可能と信じ、安全装置やポカヨケ(作業ミスを防止する)改善を行うことで切削機械や樹脂成型機の一人作業ができるようになっていった。現在では障害のある社員全員が他の社員と同じように加工機を一人作業で行っている。
現在障害のある社員は3名で、樹脂成形機オペレーター1名、マシニングセンタオペレーター1名、射出成型機オペレイト及び当該製品の組立作業1名である。障害の特性と業務に対する適性を判断して配属先を決め、業務内容と業務量を設定し徐々に業務範囲と量を増やし、障害のある社員も障害のない社員と同様に作業ができるように配慮していると越出氏は語る。
従業員と家族を招いて行われた創業65周年祝賀パティーについて説明する越出社長
3. 取組の内容と効果
(1)障害者の採用と雇用の安定
障害者雇用の採用ルートとしては、ハローワークからの中途採用もあるが、陽和では特別支援学校の生徒を職場実習として受入れ、生徒と受け入れた職場の双方が納得した上で、採用活動を進めることにしている。
平成26年の最初の採用では、初めての障害者雇用ということで、受入れ側としては、自信がなかったが、配属先の年配者の社員をエルダーとして定め、指導などに当らせた。障害のある社員とは孫ほどの年齢差がある中で、年配社員はエルダーとして指導教育を行い順調な育成ができ、定着につながっている。
現在の障害者雇用計画は、2か年に1名のペースで特別支援学校から採用を行っている。業務量などの関係で大量採用とはならないが、障害者雇用を長期的・安定的に進めることを会社と特別支援学校の双方が納得し、2か年毎の採用として進めている。採用人員を一定にすることで、学校側の進路担当者も計画が立てやすい。
また、会社としても新たに採用した障害のある社員の育成と次回の採用に向けての準備などへの対応が行いやすく、無理なく採用ができる。現在は、隔年採用により障害のある社員への教育指導が十分にできるようになり、本人も受入れ部署も負担を感じることなく、安定した雇用につながっている。
さらには、北九州障害者しごとサポートセンターの就労支援ワーカー(以下「支援ワーカー」という。)と連携し、入社後1年から2年間は、障害のある社員及び上司との定例面談(2か月に1回程度)を行っている。上司は障害者の業務面及び指導面において支援ワーカに逐次相談することで障害のある社員に対応するとともに、障害者雇用に関するアドバイスを受けるなど情報交換を行っている。
障害者雇用では、トラブルが発生することもあるので対応体制についても越出氏に伺った。
トラブル発生時の窓口はまずは、所属する職場のリーダーであり、所属する職場のリーダー・所属長→製造課長→総務課長と情報共有を図りながら対応している。さらには必要に応じて、支援ワーカーと連携しアドバイスを受ける体制を取っている。障害のある人もない人も区別なく、気軽にメンタルヘルスカウンセラーと面談できる仕組みがあり、業務上・プライベートに関係なく悩みを相談している。陽和は新入社員の定着が良いが、それは新人を孤立させずに受け入れることが企業風土として根付いているためであると自信を持って越出氏は語った。
そうした取組の結果として、障害のある社員の雇用安定にとつながっている。また、受入れ職場でのトラブルなどがあっても、早期かつ適切に対応することで、問題の重症化を避けることができているとのことである。
このような方法は、事業規模の小さい会社における障害者雇用の進め方としては、モデルになる事例ともいえると筆者は感じた。
(2)一人セル生産への挑戦
樹脂成型や切削加工では、一人ひとりが複数の加工機を担当し未加工品の供給から加工完了品の寸法チェックなど、品質確認をすべて一人で行うようになっている。
障害者雇用で最初に考えたのは、職場の安全管理についてだったと越出氏は言う。知的障害者にも同じように作業を行ってもらうための改善を行った。切削機械は高速で刃物が回転をしており、刃物が回転している時は非常に危険である。安全対策として、すべての加工機にロックセンサーを取り付け、作業中に加工扉を開けると自動的に停止する安全装置を備えた。これまでは、樹脂の作業特性や品質を優先し、機械の種類によっては、センサーの未設置や未使用のケースもあった。しかし、障害者雇用を進めることで、職場の安全確保が大きく前進し、会社全体の安全意識も高まったことは大きな成果となっている。そのことは、無災害記録ボードに無災害944日継続中として誇らしく掲示されていた。
また、樹脂品の寸法測定では、デジタルタイプの測定具にすることで、測定作業の難易度を下げ、障害者でも測定ミスが生じないように改善を進めた。結果、現在では社員と同レベルで作業ができるようになり、生産性・品質面含め問題なく働いていると力強く説明があった。
作業指示にあたっては、安全教育をはじめ作業手順書をもとに時間をかけて個別指導を実施している。通常使用している手順書に写真などを増やし、作業の際に必要な道工具についても、現物を写真で分かりやすくした手順書を作成し、障害のある社員にとっても分かりやすいように改善している。また、通常1工程で完了する作業を障害のある社員のために2工程に分け、ステップを踏みながら徐々に他の社員と同じ手順へステップアップさせるなどの工夫も行っている。障害があるから難しいと最初から決めつけるのではなく、どうしたらできるかを考え改善することで、「できない」を「できる」にすることを会社としても学んでいるように感じられた。
クリーンルーム内では、樹脂成型機のオペレーターとして入社5年目のBさんが今年入社の社員へ成型機の操作について指導を行っていた。知的障害のある社員が指導する姿を見て、頼もしくも思え、会社として障害のある社員を戦力として育て上げていることに感服した。
さらには、マシニングセンタ(MC)で半導体向け部品の切削作業を担当しているCさんは切削部品の挿入、取出し、その後切削品をハイトゲージで寸法検査を行っていた。高い精度が要求される部品の生産を一人で行っていることも驚きである。
作業に必要な道工具が分かりやすい手順書
加工完了品の測定を行うCさん
(3)社員満足向上への取組
働く環境面の整備として、トイレ・食堂・休憩場所などのハード面の整備が十分になされている。「快適な職場環境から良い品質と良い人材が育つ」との思いで、明るく快適な職場環境を働く人へ提供している。特にリフレッシュコーナーの赤い色の壁は、働きたいとの思いが沸き上がってくるかのように感じる。
ソフト面についても、職場のレクレエーションとして毎年新入社員の入社後に親睦を深めるために、部署ごとにチームを組みチーム対抗戦の形式を取り、チーム力を養うことを図った。内容としては、日帰り旅行、料理づくり、スポーツなど多彩な企画を考え行っている。ほかにも周年記念行事や各種イベントを行い、部署を越えた交流の機会を設け社内の縦・横の風通しをよくする努力を感じる。
また、最近では健康イベントを企画し部署毎に健康目標を掲げて社員全員の健康増進も図っている。小さな行事の積み重ねが社員一人ひとりの満足向上へとつながっている。
このような、従業員やその家族の健康増進につながる先進的・効果的な取り組みが認められ平成30(2018年)「第5回北九州市健康づくり活動表彰」の企業部門・市長賞を受賞している。
リフレッシュコーナーの掲示板について説明する若林課長
4. 今後の展望と課題
総務課の若林課長へ今後の障害者雇用について尋ねたところ、次のように話された。
「障害者雇用を始めて6年が経過し、障害のある社員を特別に意識する社員も少なくなってきたように感じる。社員一人ひとりが一緒に働く仲間として、職場の和が築かれている。障害のある社員も所属する部署内では障害のない社員と同様に教育を行い、個人のスキルに応じた業務に携わっており、周囲からの障害への理解と気配りにより障害者雇用の環境は定着してきた。現在は、知的障害のある社員のみの雇用となっているが、今後は精神障害者や聴覚障害者も人材として幅広い障害者を雇用し、会社の戦力としていきたい。さらに、高齢者・障害者・外国人労働者などの多様な人材と一緒に働く機会が増えることで、様々な考えや想いが持てる人材が育ち、その成果として柔軟な対応ができる組織に成長することができると考えている。」
素晴らしい職場環境でコロナ禍の影響を受けることなく、社員の皆様が元気に生産活動に向き合っている姿が筆者には、特に印象として残っている。
執筆者:公益社団法人全国障害者雇用事業所協会
福岡相談コーナー 西村和芳
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