各支援機関との連携・協力により雇用が進んだ事例
- 事業所名
- 九州エナジス株式会社
(法人番号: 3340001005531) - 業種
- 製造業
- 所在地
- 鹿児島県日置市
- 事業内容
- 電気機械器具装置および電気絶縁物、エネルギー供給機械器具装置の製造
- 従業員数
- 46名
- うち障害者数
- 1名
-
障害 人数 従事業務 精神障害 1名 製造スタッフ - 本事例の対象となる障害
- 精神障害
- 目次
-
事業所外観
1. 事業所の概要、障害者雇用の経緯
1.事業所の概要、障害者雇用の経緯
(1)事業所の概要
九州エナジス株式会社(以下、「同社」という)は、昭和59(1984)年11月に九州高松電機株式会社として設立され、地域に根差した企業として顧客に支えられながら堅実な成長を続けてきた。昭和62(1987)年11月には社名を九州エナジス株式会社と改め社会のニーズに応えて事業領域の拡大を進めている。
同社は、総合配電機器メーカーである、エナジーサポート株式会社の関係会社で、電線ヒューズ、高圧カットアウト用ヒューズ、高圧限流ヒューズなど各種ヒューズ類を製造している。
企業理念として
私たちの使命に「社会に新しい価値をそして、幸せを」を念頭に考え
私たちが目指すものとして「人材」「製品」「経営」「挑戦し高めあう」「期待を超えていく」「信頼こそが全ての礎」としている。
現在では、新たな企業像の確立を目指し、上記の企業理念にもとづき
・信頼される品質の確保
・働きやすい職場づくり
・地域社会との調和
をモットーに全員参加の企業活動を推し進めている。
(2)障害者雇用の経緯
同社の活動のなかで、「働きやすい職場づくり」「地域社会との調和」を推し進めており、障害者雇用についてもそうした考え方の下、受け入れ体制を整え、ハローワークと連携を取りながら雇用を進めてきた。今回は、就労支援機関である「かごしま障害者就業・生活支援センター」(以下、「支援センター」という。)を通して採用されたAさんの事例を紹介する。Aさんの採用に際しては、雇用前に鹿児島県の独自事業である「障害者雇用体験事業」を活用するとともに、雇用後には、ハローワークを通して、国の制度である「トライアル雇用制度」を活用した。
2. 障害者の従事業務と職場配置
Aさんは、精神障害(うつ病)のある方である。現在、配電機器の高圧限流ヒューズ組立て部署の配置で、三種類(打ち込み・砂入れ・表示通し)の業務に従事している。
採用当初は、スピードを目標とし、一種類の業務に対して2名社員がサポートしていたが、1年2か月を経た現在は、各業務とも概ね単独で行うことができるようになった。それには、スピードではなくミスの少ない丁寧な作業を重視するという同社の方針のもと、従業員の協力を得てチームで行う配置や相談ができる体制の整備に配慮いただいた。コミュニケーションがとれる環境にあることで、本人の課題である精神面の負担軽減となり、順調に業務が遂行され、勤怠も問題なく職場定着が図られている。
Aさんの作業風景3. 取組の内容と効果
(1)障害状況、取組内容など
Aさんは高等学校卒業後に専門学校へ進学し、卒業後は縫製関係など数か所の職歴がある。発症時期は35歳頃で、他人に迷惑をかけて嫌われているのではと、不安感や恐怖感を感じ、「うつ病」の診断を受ける。
発症後は、「就労継続支援A型事業所」(以下「A型事業所」という。)を利用することとなり、2年間の利用継続ができたことから、一般就労したいという本人の気持ちが強くなり、ハローワーク担当者から筆者の所属する支援センターを紹介され、支援センターの支援を受けながら就職活動を始めた。
支援センターでは本人との相談などにより現況確認を行い、仕事の量や本人に対する業務負担の配慮があれば一般就労は可能と考え、サービス利用中のA型事業所のサービス管理責任者と、サービス等利用計画作成担当の相談支援事業所担当者を交えて、今後の就労支援の方向性について話し合いがもたれた。
ア 関係機関との情報共有
話し合いでは、サービス管理責任者から「過敏性大腸炎があり、勤務当初は緊張やストレスなどでトイレに行く頻度が高いが、職場の環境や業務に慣れると問題ない」と意見があり、相談支援事業所担当者からは、「本人の意向を尊重したい」との意見があり、一般就労に向けて関係機関が連携し、協力していくとの共通理解が図られた。
イ 職場見学
Aさんは、ハローワーク担当者からの紹介された自宅から近い同社のフルタイムの一般求人に関心を持ち、本人単独で同社へ連絡し職場見学を行った。
ウ 「障害者雇用体験事業」を利用した職場実習
「障害者雇用体験事業」(以下「体験事業」という。)は鹿児島県の独自事業で、障害者の雇用経験のない事業所において、短期の職場実習を実施し、障害者雇用の機会を拡大することを目的とした事業。実施に向けた相談や支援は支援センターが行い、体験実施後は、体験受け入れ事業所に奨励金と、体験障害者には、手当が支給される。見学後の支援センターとの相談の中でAさんからは「テーブルで座って行う作業であり、隣で作業する職員との距離が気になる」などの話はあったが、同社での職場実習を希望するとの意向が示された。そこで、支援センターと本人は同社を訪問し、体験事業の担当者である障害者就業開拓推進員も同席の上、体験事業について本人、企業双方に説明を行った。本人が職場実習を希望していることと、同社としても障害者の受け入れが初めてであることや、本人が実際に作業する姿を確認したいとの要望もあり、9日間の予定で体験事業を活用することとなった。
雇用体験初日、支援センターの担当支援員(以下「支援員」という。)が同社へ訪問し、現場担当者へ本人の紹介と、今後の体験業務について、本人と確認した。その後、作業部署に移り、現場担当者から本人へヒューズ組み立て業務内容について、一通りの作業手順について説明を受け、1日目の作業が始まった。
2日目以降も支援員が定期的に職場訪問を行い、作業状況や体調面などについて確認を行い、雇用体験は、予定通り9日間実施された。
懸念されていた点(緊張やストレス、体調など)については、Aさんからは「現場責任者ほかの従業員から声掛けがあり、安心して取り組めた」、「過敏性大腸炎については、服薬している薬が効いており問題なかった」と感想が聞かれた。
雇用体験後の振り返りでは、同社からは「勤務態度は非常に真面目であり、担当する作業に正確に取り組んでいて周りの評価は高かった。一方で、周りへの気遣いが強いため、今後、かえってストレスが溜まるのではと思う。課題として休憩時間など積極的に仕事仲間と過ごせるか、また、組み立てラインのスピードにいかについていけるか」との評価が示された。
本人は、「周りの従業員と比べて作業スピードが遅いことが不安である。わからないことについては、職場環境の配慮があり、不安なく取り組むことができた。この会社で働きたい」との気持ちが示された。
エ 「トライアル雇用制度(精神障害者)」の活用
雇用体験の状況から、同社としては、正式雇用となると作業スピード(目標個数など)が求められるが、Aさんは強いプレッシャーを感じるのではないか懸念しており、Aさん自身も周りの従業員の作業スピードについていけるか、不安を感じていることから、もう少し時間をかけてステップを踏むことが必要と関係者は考え、双方の同意を得てハローワークの「トライアル雇用制度」(以下「トライアル」という。)を活用することとなった。
なお、トライアルは原則として3か月間が実施期間であるが、精神障害者などの場合には6か月から12か月の期間設定が可能で、Aさんの場合は6か月であった。
トライアル移行後も支援員は引き続き、定期的に職場訪問を実施し、本人の作業面と健康面を重点に確認し、必要に応じて、関係機関の協力を得て、ケース会議を開催し経過見守りと必要に応じた相談対応の体制を図った。
そして、トライアル終了前に、本人と企業にトライアル雇用後のことについて確認した。
本人は、雇用体験からトライアルへ段階を経て、周りの従業員との関係性を築けたことで、自信を持って業務遂行できるようになった。引き続き同社で就労を継続したいとの意向を述べられた。同社からは、一般従業員と比べて、まだ作業スピードは80%ぐらいであるがミスはない。丁寧にミスなく仕上げられている状況は評価でき、他者と比較はしない考えであることから、本人の意向を重視し継続雇用で頑張って欲しい、との評価が示され、正式採用となった。
(2) 取組の効果
最初の段階で、本人の意思を尊重し方向性が統一され、関係機関との連携と共通理解を図れた。また、「手先が器用である、簡単な商品製作・組立て作業は集中して取り組むことができる」ことを本人の強みとして、関係機関が共通理解することができ、スムーズな支援計画を図ることができた。また、本人が抱えていた過敏性大腸炎の症状や職場の人間関係などの不安については、「障害者雇用体験事業」や「トライアル雇用制度」を関係機関と連携を図り、段階的に実施できたことで、本人の強みと課題を整理する機会ができ、同社においても無理のない障害者雇用が図れた。
正式採用後、同社からは、「本人が与えられた業務に対して誠実に取組む姿勢を評価する」との考えが、本人からは、「困りごとに対して、安心して相談ができる職場です」との考えが示され、双方の思いがつながり、本人が自信を持ち意欲的に働くことにつながった。
4. 今後の展望と課題
正式採用が決まった際には「周りの人に気を遣うことで辛くなるので、昼食は車の中で食べます」と話していたAさんだが、実際には初日から、食堂で数人と一緒に時間を過し、日替わり弁当が選べることを楽しみにするなど、周りの従業員からも仲間として受け入れられている状況である。現在は順調と思われるが、今後、様々な課題が生ずることも支援センターとしては想定し、現況をしっかり把握し、引き続き定期的に職場訪問を実施していくこととしている。
Aさんは、今後の目標として、「これからは少しでも人の手伝いができる、人を助ける人になりたい」と話す。障害の有無に関係なく、従業員同士が互いに支え合う思いやりを持ち、温かい人間関係がある同社で働くなかで意識された目標と思われる。本人の得意とする手芸の技術を活かして、ティッシュカバーを作り職場内環境整備にも貢献している。
働く理由はそれぞれであるが、収入を得るだけではなく、誰かの役に立ちたいという本人の思いを大切にして、引き続き職場定着支援を図っていく。
執筆者:かごしま障害者就業・生活支援センター 副所長 谷山勝啓
支援員 胸元芳子
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