一人ひとりの能力を発揮し強みを活かせる企業
~ともに学び、ともに生きる~
- 事業所名
- 株式会社とうほうスマイル
(法人番号: 4380001021219) - 業種
- 製造業、サービス業
- 所在地
- 福島県福島市
- 事業内容
- 印刷事業、銀行付随業務
- 従業員数
- 26名
- うち障害者数
- 18名
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障害 人数 従事業務 聴覚・言語障害 4名 リーダー、キャッシュカード発行、書類発送、為替エントリー 肢体不自由 5名 印刷、名刺作成、総務 内部障害 2名 リーダー、ゴム印作成 知的障害 5名 手形・小切手帳発行、書類発送、為替エントリー 精神障害 2名 名刺作成、書類発送 - その他
- 特例子会社
- 本事例の対象となる障害
- 聴覚・言語障害、肢体不自由、内部障害、知的障害、精神障害
- 目次
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ビル外観事業所入り口
1. 事業所の概要、障害者雇用の経緯
(1) 会社設立の経緯
福島県に本社を置く地方銀行の株式会社東邦銀行(以下「東邦銀行」という。)が、創立70周年を迎えるにあたり、企業の社会的責任の原点である「地域に根差した企業としての責任、地域社会の幸せを考える企業」を認識し、経営の意思として平成24年(2012年)4月に特例子会社「株式会社とうほうスマイル」(以下「同社」という。)を設立した。社名は行員から公募し、「笑顔があふれる会社になるように」という思いが込められている。
(2)事業の概要
東邦銀行の付随業務である為替業務や印刷業務の一部を担っている。障害のある社員は、為替エントリー業務のほか、ポスター・書類印刷、伝票作成など多くの業務に従事している。
(3)障害者雇用の理念・方針
ア "ともに学び、ともに生きる"を理念に、障害のある社員が持っている能力を生かし、「働くことの喜び、人に必要とされることの喜び、褒められることの喜び」を感じ、良い人生を送ってもらいたい。会社はそれをサポートしていく。
イ 社員がそれぞれ能力を発揮し、働きがいを感じながら経済的自立の一助となす。
ウ 身体障害、知的障害、精神障害といった様々な障害のある社員たちが同じフロアで一緒に働く。
エ 一人の社員が一つの業務に固定せず、多くの業務に従事する。
(4)会社設立にあたっての施設・設備などの整備
東邦銀行においては、同社設立に向けての人事異動発令が、平成23(2011)年3月11日午後になされた。しかし、その直後に東日本大震災が発生する事態が生じた。そのため、設立に必要な資材調達などが困難となり、現在の東邦銀行事務センタービルの一部を改造し同社の事業場を設置することとなった。
事務センタービル内に事場を設置するにあたり、肢体不自由をはじめとする様々な障害があっても働きやすい職場とするため、2階の行員用大食堂の入口と休憩室を改造し、バリアフリー化された事務室を設けた。また、車いすでの移動を楽にするため通路幅は2mを確保、トイレもオストメイト付きを一か所増設し、作業台も上下10㎝程度調節可能なものとし、ドアも基本は自動、引き戸、両開きスライドドアを設置した。
また、事務センタービル正面入り口にはスロープはあったが、急勾配であったため、車いす対応のためのリフトの整備も行い、通勤車両を横付けし、車いすのまま入館できるようにした。
2. 取組の内容と効果
(1) 障害者が従事する業務、執務内容
ア 為替エントリー業務
東邦銀行の各営業店窓口で受付した振込伝票(単票)の一次入力処理を行うもので、銀行名、支店名、預金種類、口座番号、受取人氏名、依頼人氏名を入力している。
通常は自閉症(知的障害)の社員3名で、繁忙日は5名で、月末は端末10台がフル稼働し、ほぼ銀行全店分の処理を行っている。
こうした業務を行っているのは全国的にも他に一例があるのみである。
為替エントリー業務の様子
イ ICキャッシュカード発行
クレジット機能付カード以外の全ての東邦銀行のキャッシュカード発行を行っている。
ウ ポスター・書類作成業務
東邦銀行の業務用パンフレット、資料などをフルカラー印刷している。大型プリンターを保有し、A2ポスター、横断幕も作成している。
エ ゴム印・名刺作成業務
東邦銀行で使用する各種ゴム印や、行員(役員を含む)の名刺を作成している。
オ 各種発送業務
自社で印刷したDMを発送したり、各種パンフレット、営業推進ツールを全店に、さらには外部顧客あてに発送している。
(2)課題及び対応
ア 「愛情をもって、厳しく」~OJTを通じた指導・訓練の重要性~
作業を教えるにあたり、また、日々接していく中で、障害を有するゆえの難しい点もあるが、安定的に業務を遂行するためには、一人ひとりに相対して、OJTを通して対応している。
仕事の指示、しきり、手ほどきは常務が一元的に行っている。技術面の指導はスタッフが行い、また、平成30(2018)年度からは、障害のある社員の中からリーダー2名を選び、リーダーが作業の指示を行う取組も始めた。
イ 支援機関の支援・助言を活用
日々事業を進めていく中では、上司などの指導する側がこれが正しいと思ってやっていることでも、うまくいかないことは多々ある。こうしたギャップを埋めるために、福島障害者職業センター(以下「職業センター」という。)をはじめ、ハローワーク、障害者就業・生活支援センターなど様々な支援機関の支援を受けながら解決を図っている。職業センターのジョブコーチ支援を活用し、現場での具体的な指導法や雇用管理に係る提案、助言を受けることもある。
ウ 実績で理解を得る
障害者に対する世間一般の理解がまだまだ足りない面がある。障害者の実施する業務・品質への不安などある。しかしながら、障害者は高い能力を持っており、集中力も高い。その能力を発揮できる職務・作業であれば障害のない人よりも「正確で、速い」ということもある。同社では、日々の実践、「正確で速い仕上がり」という実績で見てもらい理解を深めていただくことが大切と考えている。
エ 声のボリュームに気を付ける、否定語を使わない
障害のある社員と接する中で、日々気をつけている点は、声のボリュームである。「大き過ぎず、小さ過ぎない」ということが難しい。障害種別に応じた、また、相手一人ひとりに応じた対応が必要である。また、基本的には否定語を使わないということで接している。時には、「これはダメ」ということを言わなければならない場合もあるので、伝え方には気をつけている。
オ 目を見て体調確認
体調管理が難しい。相手の目を見て体調を確認するという点を重視している。
障害のある社員の中には「頑張りすぎる」という傾向の人もおり、どこで止めるかという点を、日々考えて接している。体調に合わせ、休暇・休憩が取れるよう配慮している。
カ 日誌を活用した課題把握と解決
各人が抱える課題や執務作業への不安は、様々である。人や困りごとによっては上司などに直接申し出られないということも発生する。そのため、障害のある社員には日誌を書いてもらい、帰る前に提出することとしている。日誌は毎日常務が目を通し、コメントを書いて返している。こうしたことにより一人ひとりの状況・課題の把握と早期対応につながっている。また、日誌は必要事項の伝達・確認といった報連相の徹底にもつながっている。
(3)執務室内のサインなどの活用による課題対応と効果
執務・作業中の注意喚起を促したり、勤務時間が異なる社員間の円滑な事務引継ぎを図る、さらには社員の職務執行への意識醸成を図るため、室内に様々なサインなどを配置した。次にサインの実例を紹介する。
ア 「ホウ・レン・ソウ(報告・連絡・相談)」の吊看板
・ねらい うっかり思い込みによるミスを防止し、コミュニケーション能力を高める。
・効 果 毎日必ず「ホウ・レン・ソウ」を確認し、徹底が図られる。
イ ゴム印規格一覧の表示
・ねらい バラバラなゴム印注文の規格化、平準化を図る。
・効 果 業務の効率化による時間の短縮が図られる。
ウ 「入力ストップ→報告」シート
・ねらい 為替業務を開始するにあたり、徹底を図る。
・効 果 繰り返すこと、視覚に訴えることでミス、間違いの防止が図られる。
エ お客様満足度向上宣言
・ねらい 「とうほうスマイル」がやった仕事は不安だという声を払拭し、品質への信頼を得る
・効 果 「品質向上」をキーワードに作業を進め、東邦銀行行員からも評価を得ている。
オ 明るく楽しく元気よく!
・ねらい 笑顔(スマイル)で仕事してもらいたい。
・効 果 みんなが笑顔で働いているとの来客の評価を得ている。
(4)障害のある社員の声(発送業務担当のAさん)
業務において気をつけていることは、必ず確認をすること。
毎日日誌を書き、常務に提出している。翌日コメントが返ってくる。困ったことがあってもことが大きくなる前に解決できている。
仕事することでサポートしてくれる人、耳を傾けてくれる人が増えた。大変な時も仲間と同じ空間で協力的に仕事をすることができている。
3. 障害者雇用の成果と今後に向けて
(1)成果(障害者を雇用することで分かったこと、成果・効果)
ア 高い能力を持っている
障害のある社員は個々の特性などにより制限もあるが、それぞれが高い能力を持っており、集中力も高い。その能力を発揮できる職務・作業では障害のない人よりも「正確で、速い」ということもある。
また、障害のない人にはない感性を持っている者もおり、印刷業務における色使いなどにおいて能力を発揮している場合もある。会社がこうした業務を見つけ、日々実施することで、銀行業務の一部を担い、東邦銀行の効率的運営の一助となっている。
イ アビリンピックでの活躍
平成27年からアビリンピックに参加し、毎年優秀な成績を収めている(参加・入賞状況は次のとおり)。こうした実績が、同社の業務と障害のある社員に対する社内外からの評価につながっており、今後も継続していきたいと考えている。
平成27年度 福島大会 オフィスアシスタント 金賞
平成28年度 全国大会 オフィスアシスタント 銅賞
福島大会 ワード・プロセッサ 金賞
平成29年度 福島大会 オフィスアシスタント 銀賞
平成30年度 福島大会 ワード・プロセッサ 金賞
パソコンデータ入力 金賞
令和元年度 全国大会 ワード・プロセッサ 出場
パソコンデータ入力 出場
ウ 親会社への波及効果
東邦銀行本体においても、多くの障害者が雇用され本店や営業店で活躍しているが、とうほうスマイルで培った経験や知見を活かし、同社による行員向け研修を、銀行本体における障害者雇用の推進や執務の円滑化に役立てており、銀行が目指すダイバーシティー推進の取組に寄与している。
(2)今後の障害者雇用に向けて
平成26年度には「独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構理事長努力賞」を受賞した。また、同社には多くの企業・団体が視察などで訪れ、障害者雇用の参考としている。
同社としては、今後も障害者雇用を進め、そのメリット、波及効果をさらに高め、銀行本体での雇用促進に寄与していくとともに、一人でも多くの障害者が社会参加し、様々な分野で活躍できる社会の実現に向けて支援していきたいと考えている。
終わりに
今回、株式会社とうほうスマイルを取材し、同社の多くの異なる種別の障害のある社員が障害のない人たちともに、様々な業務を自信をもって着々とこなしていく姿を目の当たりにすることができた。その中で障害のある社員のおひとりにインタビューした際に「働くこと、仕事をすることで人生を前に進めることができる。」と話していたのが印象的であった。こうした状況が多くの企業・団体等に広がっていくことが望まれる。
一方で、「障害者雇用の推進には、例えば特別支援学校を退職した先生が企業の中で専門家として現場を指導するなど、企業をサポートする体制が充実されれば心強いと思います。」と同社の担当者は話す。このことは障害者を雇用する企業が独力でカバーしきれない部分に対する支援体制を企業の現場は求めており、社会全体で考える重要な課題であることを端的に言い表していると思われた。
執筆者:独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構福島支部
高齢・障害者業務課
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