精神障害・発達障害への理解の促進と働きやすい職場づくり
2020年度掲載
- 事業所名
- 株式会社総合プラント
(法人番号: 8330001002624) - 業種
- サービス業
- 所在地
- 熊本県熊本市
- 事業内容
- 総合人材サービス(人材派遣、人材紹介、再就職支援、業務請負、教育訓練、販売代行)
- 従業員数
- 本社48名(会社全体2,000名)
- うち障害者数
- 8名
-
障害 人数 従事業務 精神障害 2名 事務 発達障害 6名 事務 - 本事例の対象となる障害
- 精神障害、発達障害
- 目次
-
事業所外観
1. 事業所の概要、障害者雇用の経緯
(1) 事業所概要
株式会社総合プラント(以下「総合プラント」という。)は昭和61年(1986年)の創業。人と企業の未来を築く"夢・未来応援企業"を掲げ、総合的な人材サービスを展開している。
(2) 障害者雇用の経緯
障害者雇用に関する制度改正が進み、就職を希望する障害者が増える中、総合プラントでも障害者からの就職の相談や人材派遣への登録の希望が増えてきた。しかし、就労意欲と能力を持ちながら、障害があるために働く機会を得にくい障害者が多い現状を知り、その課題を解決するために自社で雇用の場を提供することとなった。当初は、身体障害者での募集を行っていたが、なかなか応募がない中、熊本障害者職業センター(以下、「職業センター」とする。)に相談したところ、精神障害者の雇用を勧められたことがきっかけとなり、精神障害者の雇用にチャレンジすることとなった。平成26年に1名を採用。その後、毎年1~2名の採用を続け、現在、2名の精神障害のある社員と6名の発達障害のある社員を雇用している。
(3) 障害者雇用までの準備
障害者の雇用を始めるための準備として、複数の就労移行支援事業所や就労継続支援A型事業所を見学し、障害特性を理解することから取り組んだ。次に、支援体制を整備するため、既存の部署に障害者を受け入れるのではなく、本社内の人材開発事業部にジョブサポート課を設置し、採用から就業場所までを一本化し、安心して働ける職場環境と支援体制を構築した(ジョブサポート課の名称は、設置当初は他部署にも課の内容が分かるように「障害者就労支援事業課」としたが、その後、障害のある社員との相談を経て現在の課名に変更した)。また、全社員に協力を仰ぎ業務内容の精査を行い、障害のある社員に任せられる仕事を切り出す作業を実施した。さらには、社内での障害者理解を促進するために、職業センターや外部の支援機関を講師に迎え、全社員を対象に障害者理解のための勉強会を定期的に開催し、現在は内製化して新入社員教育時にも実施している。
新入社員教育時の勉強会2. 障害者の従事業務と職場配置
障害のある社員8名はジョブサポート課に所属し、広報・企画、営業、総務の3つの部署にそれぞれ配置され、自社のホームページ制作や求人票の作成などのオフィスワークを中心に働いている。8名の全員がフルタイム勤務。最長勤続年数の社員は6年で、約7割の社員が3年以上継続して勤務している。
3. 取組の内容と効果
(1) 取組の内容とその効果
イ 採用時
採用にあたっては、ハローワークに求人を公開後、職業センターや障害者就業・生活支援センター(以下「支援センター」という。)などの支援機関に相談している。就職希望者があった場合は、職場見学を実施し、リアルな職場を見てもらったうえで応募の判断をするようにしている。その後の面接では、支援機関の同席も積極的に受け入れ、時間をかけて、就労意欲や障害の自己理解、生活リズムや健康管理、支援体制の状況などを就職希望者と支援者の双方からしっかり聞きとることに努めている。また、面接を通過した就職希望者には、必ず2週間の職場実習を実施し、職務能力、就業意欲、挨拶などの最低限の対人能力、安定した生活リズム、自分の症状や変化を伝える能力を主に確認することにより、雇用前にミスマッチの発生を防いでいる。さらには、実習最終日には振り返りを行い、本人と企業側が職場実習で感じたことを話し合い、採用につながらない場合であっても、今後取り組むべき課題の提示、障害の自己理解、適性に合わせた職種の提示など就職希望者が今後の道筋をつけられるよう支援している。
ロ 採用後
精神障害や発達障害のある社員を中心に雇用している同社では、その障害特性を踏まえた配慮や工夫を積極的に行い、職場に定着するための様々な支援を実施している。例えば、心身ともに疲れやすい、心配性、曖昧な状態が苦手、プレッシャーに弱い、緊張しやすいといった精神障害・発達障害の特性に対し、体調に変化がある場合は随時休憩をとるように伝える、会社に貢献できていることを伝える、指示などの際には明確にわかりやすい表現とするなどといった対応を心がけ実践している。
そのほかにも、採用後の就労継続のポイントとして、以下のことに取り組んでいる。
(イ)就労支援機関との連携
採用後も職業センターや支援センター、就労移行支援事業所などと、障害のある社員の就業生活に関する情報共有を積極的に行っている。そうした支援機関から第三者的立場でのアドバイスをもらうことで、障害のある社員の仕事と生活面のフォロー体制を充実させている。また、障害のある社員が支援機関との面談を希望した場合は、できるだけ早く話し合いの機会を設け、一人で悩む時間を短くすることで、心配事や不安を解消しやすくしている。
(ロ)業務の組み合わせや業務の再構築による疲れない工夫
通常業務とその他の臨時的な業務を適宜組み合わせることで、気持ちの切り替えや煮詰まりを防ぎ、心身ともに疲れないようにしている。
(ハ)業務の進め方の具体的な指示・調整
毎日行われる朝礼でその日の業務量を確認し、仕事の優先順位を具体的に指示することで、発達障害のある社員も見通しを立て、安心して仕事に取り組むことができている。また、新しい業務を任せる場合は、内容を説明した後、自身でマニュアルを作成する時間を作ることにより、業務の理解を深めている。
(二)勤務時間の調整と通院休暇の導入
採用後は、無理なく働くことができるよう、4段階の勤務時間を設けている。雇用開始時は一日5時間からスタートし、その後、1時間ずつ延長しながら、最終的に8時間のフルタイム勤務を目指す仕組みをつくっている。また、勤務時間を延長する際は、会社の判断だけでなく、3か月毎に状況の確認を行いながら、主治医や支援機関に相談した上で決定している。また、その日の体調に合わせて勤務時間を柔軟に調整したり、通院のための休暇取得制度も導入している。
(ホ)指揮命令系の統一
組織内での指揮命令を統一することで、障害のある社員のコミュニケーションの不安や仕事の混乱を軽減している。
(へ)ソーシャルスキルトレーニング(SST)の実施
必要に応じて、障害のある社員が希望するテーマをもとに、ソーシャルスキルトレーニングを取り入れている。苦手なことについてロールプレイングを通して練習することで、「知らない」や「できない」を少しずつ克服し、自信をつけるとともに、チャレンジする気持ちを養っている。
(ト)自由な休憩時間
休憩はあえて干渉しないことで、各人が一番リラックスできる時間を過ごすことができ、午後の仕事の活力に繋がっている。
(チ)社内のグループLINEの活用
社内でグループLINEをつくり、気軽に相談しやすい環境づくりを目指している。メールや面談と異なり、シンプルな言葉使いでコミュニケーションが取れるLINEでは、困っていることや心配事についてのサポートを求めるサインを出しやすく、それに対する返信も早いため、悩みや不安が軽減されやすくなっている。また、他部署とのやりとりもできるため、普段接する機会の少ない社員とも関わることができ、お互いのことを知るきっかけとなり、障害のある社員に対する周囲の理解も深められている。
(リ) キーパーソンの配置
社内に何でも相談できるキーパーソンを配置し、話しやすい環境を作っている。現在は、企業在籍型のジョブコーチがその役割を担い、人間性や仕事ぶりが障害のある社員にとってお手本となるようにも努めている。
4. 今後の展望と課題
本稿の作成にあたり、ジョブサポート課のお二人に取材させていただいた。お二人は同課の立ち上げから障害者雇用に関わってきた方であるが、今後について次のように話された。
精神障害者や発達障害者の雇用が進んでいない頃から、総合プラントではいち早くその採用にチャレンジしてきた。外部の支援機関と協力しながら研修を定期的に開催するなど、全社員の障害者への理解促進のための努力を続けている。しかし、実際に障害者とあまり接することのない社員には、障害に対する「壁」がまだ残っている。
「障害があるのに仕事ができるのだろうか」、「障害があるからやっぱりミスをする」
そうした社員の声が未だに聞こえてくることがある。そうした社内に残る「壁」を取り除くために、まずは、社員が障害のある社員とできるだけ関わりが持てるよう、障害のある社員に直接社員が仕事を依頼する機会を増やし、実際に障害があっても「できるんだ」という実感とともに、理解を深められるようにしている。そして、社内の理解をより一層進めることで、今はまだ本社にとどまっている障害者雇用を支店や営業所などにも展開していくことを期待している。
さらに、そうした社内にある「壁」だけでなく、社会全体に依然として残っている障害者への「壁」を取り払うことにもチャレンジしている。
これまで培ってきた精神障害者や発達障害者の雇用の経験と知識を社会に発信することで、一社でも多くの企業が、精神障害者や発達障害者の雇用に踏み出せるようにと啓発活動にも意欲的に取り組んでいる。
取材の最後に、お二人に、これまでの障害者雇用の取組の中での嬉しかったエピソードを伺ったところ、総合プラントを退社して起業した障害のある社員が挨拶に来てくれたことであったと次のように話された。
総合プラントでは、障害者が仕事を通して自信を回復し、自分の得意なことを発揮して社会で活躍できるようにとの想いを持ち、障害のある社員が自ら自分の人生にチャレンジできるよう支援してきた。ともに苦労を乗り越えて優秀な人材となったその社員を手放すことは正直痛手ではあるが、それが、その人らしく生きることであれば応援したい。
総合プラントは、障害のある社員とともに、障害があっても自分らしく働き生きることができる会社づくり、そして社会づくりに弛まずチャレンジし続けている企業であることを筆者は強く感じた。
執筆者:NPO法人 KP5000
代表理事 原田 文子
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