物流センターでのサンテナ洗浄が知的障害者雇用の転機に
2020年度掲載
- 事業所名
- 株式会社仁科百貨店
(法人番号: 3260001014350) - 業種
- 卸売・小売業
- 所在地
- 岡山県倉敷市
- 事業内容
- スーパーマーケット事業、レンタル事業
- 従業員数
- 1,631名
- うち障害者数
- 39名
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障害 人数 従事業務 肢体不自由 12名 本部事務、青果、加工日配3名、レジ2名、商品管理、POP、精肉、惣菜2名 内部障害 2名 鮮魚、店次長 知的障害 18名 洗浄6名、鮮魚3名、惣菜4名、センター仕分け、精肉2名、青果2名 精神障害 5名 レンタル、ベーカリー、惣菜、鮮魚、加工日配 発達障害 2名 惣菜、加工日配 - 本事例の対象となる障害
- 知的障害、発達障害
- 目次
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事業所外観
1. 事業所の概要、障害者雇用の経緯
(1)事業所の概要
株式会社仁科百貨店(以下「同社」という。)は、明治33(1900)年に岡山県浅口市里庄町浜中出身、仁科喜惣治により創業した万(よろず)屋「浜中屋」を前身とする。
昭和24(1949)年、 倉敷市水島に「株式会社仁科百貨店」を設立。昭和50年代からは百貨店からスーパーマーケットへの業態転換を行い、地域密着型のローカルスーパーとしてチェーンストア化を進め、平成5(1993)年には物流センターを開設している。
現在は、スーパーマーケットに加えて、TSUTAYAと衣料品店の経営、関連会社として不動産事業も手がけている。
そして、基本理念として「私たちは真心を持って人に接し、安心と潤いのある暮らしを実現します」を掲げ、事業を展開している。
(2)障害者雇用の経緯
平成5(1993)年までは身体障害者の雇用に留まり、実雇用率も1.8%で法定雇用率を下回る状況が続いていた。雇用する意志はあってもその手段がない状態で、当時、行っていたのは、ハローワークへの求人票の提出と、障害者対象の就職面接会「ふれあい面接会」への参加のみで、外部からの働きかけもなく途方に暮れていた。
転機になったのが平成5(1993)年の物流センター(以下「センター」という。)の開設である。センター内でサンテナ(網目コンテナ)の殺菌をするために高圧洗浄機を導入するにあたり、知的障害者を雇用して担当させることになった。初めての知的障害者の雇用であり、ハローワークに相談したところ障害者雇用の担当者とつながりができ、情報を得られるようになった。
センターの開設・稼働に伴う内勤での就労可能場所ができたことが契機となり、身体障害者中心の雇用から知的障害者の雇用へと広がり、実雇用率においても改善が図れるようになった。3年後の平成8(1996)年には法定雇用率に達した。
平成18(2006)年頃から社内で企業内メンタルヘルスケアの取組が始まり、人事部に担当を置き、産業医と産業保健スタッフと連携。ノウハウを学び、実践する中で精神疾患などに関する対応力が高まり、精神障害者の雇用への取組も自然に進んでいった。現在(令和2年)、当社では39名の障害のある従業員を雇用し、実雇用率は2.85%である。
同社の基本理念から、同社の障害者雇用の使命は「自立支援の環境提供」ととらえ、雇用した障害者一人ひとりが「自立」し、仕事を通じて「自己成長」できることを目指している。
あくまで自立支援が雇用の目的なので、ボランティア感覚で雇用するつもりはなく、障害者を採用する際の基準は他社より厳しいかもしれないと人事担当者は語る。しかし、同社では障害の有無にかかわらず従業員全員が平等で公平な関係であることを大切にしている。入社時は障害に対する合理的配慮を意識しながらサポートし、入社後1年をめどに、「ナチュラルサポート」へ移行できるよう試行錯誤を続けている。
2. 取組の内容と効果
(1)取組の内容
ア 人事部の役割と活動
障害者の募集・採用から職場定着にいたるまで、人事部が中心となって進めているが、主たる事項は次の4点であり、詳しくは後で紹介する。
(ア)店舗での職場実習について
職場実習(以下「実習」という。)の事前打合せから反省会まで人事部が同席し、実習生の特徴や店舗での作業状況の評価や情報を共有する。
(イ)選考後の担当業務・配置の設定
「どの店舗、どの仕事が合うのか」「どの店長、どのチーフやパートタイマーと一緒に仕事をするのがよいのか」などのマッチングの検討および配属先を設定する。
(ウ)配置部署(受入れ店舗)へのサポート
受け入れ店舗が抱える「不安」「心配」「戸惑い」を人事部がきめ細かくサポートすることにより払拭する。
(エ)職場の人間関係への働きかけ
受け入れ店舗のスタッフと障害のある従業員の双方が気軽に相談や声かけができる関係づくりを構築する。
イ 募集・採用
(ア)募集・応募について
現在、求人については、障害者対象の就職説明会への参加の際に一時的にハローワークへの求人提出を行っているが、原則として就労支援機関(以下「支援機関」という。)や特別支援学校(以下「支援学校」という。)からの応募(連絡)に対応することとしている。
求職者が直接応募してきた場合にも対応はしているが、支援機関との連携が必要と考えており、支援機関の利用を勧めている。支援機関を利用していない方については、支援機関に登録してもらってから対応することを原則としている。
(イ)採用と定着について
どのような経路の応募でも、共通する採用条件としているのは下記の4点である。
・「あいさつ」と「ほう・れん・そう」ができる。
・身だしなみが整っている。
・時間管理ができる。
・基礎的作業能力がある(数える・量る・作業に継続して取り組めるなど)。上記の採用条件は、障害の有無に関係なく新卒の応募者に対しても最低限求めている内容である。これらの事項が日常的に行えていることが重要であるため、求職者の在籍する学校や家庭に対して働きかけ、習慣化することをお願いしている。
採用においては、これまでの経緯から採用担当者自身の経験と直感が想像以上に重要であることを再認識した。その直観の中でも最も大きな要素が「相性」である。つまり、何としてでも採用しなければと焦らずに、採用後も「協力し合える」イメージが抱ける障害者を受け入れ、配属部署の従業員から「一緒に頑張ろう」と感じてもらえることが次につながる。そのためにも採用担当者は自身の経験と直感を信じ、妥協せず、責任をもって関わることが必要である。
同社では、受け入れ店舗が抱える不安や心配、戸惑いを共有し、適切にフォローすることこそが雇用定着への第一歩である、と考えている。障害者の受入れに際しては、職場に漂う先入観や不安、例えば「特別な対応をしないといけないのでは?」、「コミュニケーションをとるのが難しそう」、「トラブルになったらどうすればいいのか」などといった不安などを事前に払拭し、円滑な人間関係と明るく活気ある職場環境を構築する役割を人事部担当者が一手に担っている。
次に、経路別の採用までの流れを紹介する。
(ウ)就職面接会から採用に至る場合の流れ
採用の流れは、就職面接会での面談→店舗見学→受入店舗での面談→職場実習(5~10日間)→選考→採用 である。
就職面接会で受けた印象(表情・声の大きさ・こだわり・障害特性・しぐさ)から、就労のイメージが持てるかどうかを検討する。店舗見学及び受入店舗面談の段階では、受け入れ店舗の欠員状況と人員構成のバランスを勘案して雇用の可否を判断している。職場実習では、実習担当者が原則マンツーマンで行動を共にする。実習期間中に通常のパート採用基準(簡単な作業・勤労意欲・一般常識・協調性)に達することが難しくても、採用後の一定期間内での到達が可能かどうかを見極めて選考を行い、採否を決定している。
(エ)支援学校・支援機関などからの応募から採用に至る場合の流れ
採用の流れは、支援学校・支援機関からの問い合わせ→受け入れ店舗・部門の検討→関連機関との協議→職場実習(9日間)→反省会(振り返り)→選考(この流れを複数回実施)→採用内定→入社手続き→就労移行支援会議→入社 である。
ウ 障害者の業務・職場配置
同社では、センターのサンテナ洗浄とセンター内清掃を知的障害者の就労可能場所とした実績をもとに、その経験を店舗内作業へと広げていった。
次に、知的障害者のある方を中心に事例を紹介する。Aさんは、令和2(2020)年4月に支援学校から新卒採用した知的障害のある方である。支援学校2年生時と3年生時に各1回の職場実習を行い、採用に至った。新型コロナの影響で4月入社が5月に延期となったが、定期入社のパートタイマーとして1日5時間、週休2日のサイクルで、惣菜コーナーのサラダを担当。冷凍品の仕込みや仕分け、調理補助、器具洗浄、品出しなどの作業を行っている。以下の写真はAさんの作業の様子などである。
Aさんの洗浄作業 Aさんの品出し作業
OJTでAさんを指導する上司(右)
Aさんのほかにも、知的障害のある方を就職面接会を契機に、職場実習を経て採用した。その方は現在、物流センターでサンテナ洗浄とセンター内の清掃(トイレ掃除全般、フロアのモップ掛け、窓ふきなど)を担当するパートタイマーとして勤務している。勤務態度・姿勢が評価され、「優秀勤労障害者岡山県知事賞」を受賞している。なお、センターの洗浄チームにはAさんも含め知的障害のある方6名が勤務しており、センター長と事務担当者のほか、本社人事部がバックアップ体制をとっている。障害のある従業員がチームとなって作業している特性もあり、お互いの仲間意識が芽生えた利点もある。さらにセンターの事務担当が彼らの「職場でのお母さん」的役割を果たしており、個々の表情や言動に変化があるときの声掛けなど細かな関わりを担っている点も順調に勤務できている大きな要因となっている。
また、発達障害のある方を、就職面接会を通じて、店舗見学、受入店舗面談、職場実習などを経て採用し店舗に配属した。その方は現在、パートタイマーとして、日配食品業務(商品棚に不足している牛乳や清涼飲料水などを倉庫から運び、補充・陳列する)を担当し、店舗の戦力となっている。店舗に勤務する方についても、店舗の担当者が本社人事部と連携しながら障害のある従業員のバックアップを行っている。
店舗から勤怠、作業の習得、コミュニケーションなどについて、困りごとがあれば本社人事部へSOSを出してもらっている。その際は人事担当が本人と面談し、背景や原因を究明しながら、本人の抱えているストレスの軽減と店舗の負荷の軽減を目指し、時には長期にわたり問題解決に向けて対応している。
その際に必要となるのが(2)で取り上げている関係各所との連携である。
(2)連携による取組の効果
生活環境の変化や家庭内外の問題は就労状況に大きな影響を与えるため、早期の気づきと対策が重要となる。そのため関係各所との連携は不可欠で、同社は支援学校、地域障害者職業センター、ハローワーク、障害者就業・生活支援センター、就労移行支援事業所などを積極的に活用している。また、これまでは必要に応じて外部のジョブコーチに依頼をしていたが、同社の人事担当者が企業在籍型ジョブコーチ資格を新たに取得したことで就労支援の幅が大きく拡がり、支援体制が一段と向上した。
支援機関に対しては、「一方的に求める」だけでなく「双方向」でwinーwinの関係性を構築し、発展させることを常に心掛けている。たとえば、体験実習など雇用のマッチングを見極めることのできる支援を積極的に受け入れることで、同社の職場環境や仕事の特性を支援機関に理解してもらうことができ、その結果として同社に合った人材の紹介が増えるという好循環が生まれている。
地域障害者職業センター、地域産業保健センター 、障害者就業・生活支援センターと密接に連携することで職場におけるさまざまなアドバイスはもちろん、生活面での各種支援、訪問面談など適切で親身なサポートを受けることが可能となり、就労の安定化を図ることにつながっている。また、障害の有無を明確に判別できない場合や支援機関の選定に迷った場合などの相談機関としても貴重な存在となっている。
3. 今後の展望と課題
同社では障害のある従業員のなかで勤続年数が長い従業員が増加しており、勤続3年以上が全体の61.9%、5年以上が52.4%、10年以上が42.9%を占める。また、同社では高齢者の雇用にも取り組んでおり、パートタイマーも正社員同様65歳を超えても働く能力と意欲があれば活躍できるため50歳代以上の従業員が多い。しかし人員構成のバランスを図る上では、今後、若年者の雇用拡大、次世代の育成に積極的に取組む必要がある。この次世代の育成という点では、人事部においても同様の課題を有している。同社の障害者雇用については、現在、人事部の女性担当者がただ一人で中心的かつ多様な役割を果たしているが、すでにその業務量は一人の従業員が担う業務量を大幅に超えた状況となっている。このため、業務を継承し、強力にサポートする人材およびチームの育成が急務となっている。
なお、同社は、他社に先駆けてダイバーシティ(多様性)を推進する取組を行っており、その一環として障害者雇用の拡大、外国人従業員の受け入れを積極的に行っている。こうした企業活動の根幹には<従業員全員が平等で公平な関係を築き、一人ひとりが仕事を通じて自己成長を目指す>という理念が力強く息づいており、将来への発展を展望する上での大きな指針となっている。
執筆者:神垣あゆみ企画室 神垣あゆみ
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