（1）従事業務
　障害種別に関係なく、大半の者が清掃業務に従事しているが、身体障害のある社員数名が施設管理、宿直警備業務に従事している。
　細かい役割分担については「できることをやってもらう」という方針の下、採用前の現場実習や面談を通じて特性や能力、得意分野を把握し、その者に合った仕事を割り振っている。

（2）職場配置
　各現場に均一に配置しているため、障害のある社員同士のトラブルも発生しない。
　勤務先は行政機関、病院、教育機関などが中心であり、本人の居住地に近い場所に配置している。


 

（1）取組の内容
ア　募集・採用
　主に特別支援学校（以下「支援学校」という。）の職場体験実習（職場実習）からの受け入れ、障害者就業・生活支援センター（以下「支援センター」という。）からの紹介により採用を行っている。
　また、群馬県が実施する障害者対象の委託訓練を通じて採用することもある。
　なお、採用に際しては、自力で勤務先まで通勤することを条件としており、障害者だからといって特別扱いはしない方針を採っている。

イ　職場環境
　原則として障害のある社員と障害のない社員の複数グループで業務に従事しているため、困っている時に迅速にフォローすることができ、障害のある社員が安心して業務に取り組むことができる環境が整備されている。
　また、障害のない社員のみのグループに障害のある社員を配置する場合は、事前に障害のある社員が作業に従事している場面を障害のない社員に見学させ、さらには本社の人事係長が対応の仕方や障害特性に関する研修を行うことで、不安や抵抗感を払拭している。
　
ウ　支援体制
　職場に配置する前に挨拶の仕方や身だしなみ、清掃道具の使い方などをできるまで教育をしている。
　配置後は現場の主任担当者を中心に、一緒に働く社員が責任をもって指導をする現場一任形式を採っている。
　現場で教育などを行う主任担当者（以下「主任担当者」という。）には、面談や業務成績などからリーダーとしての適性を持ち、かつ面倒見が良い社員を任命することで、障害のある社員と障害のない社員の両方のフォローが可能な体制を整備している。
　また、現場の社員は高年齢者が多く、障害のある社員と年齢が離れていることが多いため、自分の子供や孫のように可愛がり、面倒をよく見ている。
　なお、日頃からの現場の主任担当者と本社の人事係長との情報共有が図られているため、トラブルが発生した場合も必要に応じて人事係長がフォローに入るなど、本社と現場との連携が取れている。

エ　障害者就業・生活支援センターとの連携
　障害のある社員は家庭環境に問題を抱えている者も少なくないが、私的な部分には会社が立ち入らないようにし、生活指導や家庭の問題については必ず支援センターに対応を依頼している。
　また、日頃からの障害のある社員に関する情報共有を双方で緊密に行っている。さらには、支援センターと連携して「障害者トライアル雇用」や特定求職者雇用開発助成金を活用したり、人材紹介を受けたりすることで、障害者の雇用につなげることができている。
　このように、支援センターに協力を仰ぐことで、トラブルの解決や障害者の雇用などについて、同社単独で行うよりもスムーズにゆくとともに、会社と本人の負担が軽減できている。　

オ　障害者の業務・職場配置の事例
(ア)Aさんの事例（知的障害と精神障害を有する方）
　Aさんは平成16（2004）年12月に支援センターの紹介により正社員として入社し、本社でモップ洗浄を担当している。
　同社に入社前は複数の企業で働いていたが、清掃業務は未経験であった。
　Aさんが入社するまでは本社管理部の社員がAさんの業務を交替で行っていたため、業務を覚えるまでは従事していた社員がAさんの教育を担当した。
　洗浄するモップは近隣の事業所（病院など）から回収したもので、1日に6～7回洗濯機と乾燥機を回すほど大量であるが、今ではAさん1人で業務をこなしており、同社にとって欠かせない存在になっている。
　未経験の業務にも関わらず、Aさんは入社してから現在に至るまでにつらいと思ったことはなく、精神障害に起因した気分の波が現れることもなかったと言い、これは、人事係長を始めとした本社社員が1日に何回かAさんに声がけをし、困ったことがあれば速やかに質問・報告などがしやすい環境を作っているからである。
　業務に真摯に取り組み、常に笑顔で皆に接するAさんは社員の間で人気者だ。
　Aさんの作業場が社用車などの駐車場に面していることもあり、外出先から帰社し、作業場に立ち寄って世間話をしてから自席に戻る社員が多く、本社内の雰囲気の良さにもつながっている。
　同社では何の支障もなく働いているAさんであるが、生活面での課題があるため、支援センターが定期的にAさんの生活状況などを確認し、Aさんの就業が継続していくための支援をしている。
 

　　　　　近隣の事業所から回収されたモップの一部　　　　　　　　　　　　　　　　洗浄作業に取り組むAさん
　　　
 (イ)Bさんの事例（知的障害と精神障害を有する方）
　Bさんは障害者を対象とした委託訓練を経て平成30(2018)年10月に正社員として入社した。
　同社に入社前は食品関係の企業で働いていたが、ミスが多いために企業側から支援センターに相談を寄せられたことがきっかけで障害を持っていることが分かり、支援を受けることになった。
　支援センターが関わっていくなかでBさんは精神面が不安定であったため、病院（精神科）の受診を勧められ受診したところ、うつ病と診断され、併せて知的障害の傾向も見受けられるとの診断を受けた。そのため、病院の相談員と支援センターが連携し、精神障害者保健福祉手帳と療育手帳の取得に向けた支援が行なわれた。
　その後、Bさんは食品関係の企業を退社し、支援センターの支援を受けながら再就職活動を行い、同社に採用された。
　同社に入社後、Bさんは本社に所属し、定期的に現場を巡回清掃するグループに所属している。
　巡回清掃は4～5人で病院などの現場を巡回し清掃をして回る業務である。
　巡回清掃業務では、Bさんが入社するまで障害のある社員がいなかったため、最初は一緒に業務を行う社員が接し方などに戸惑い、そのような雰囲気を察したBさんも気に病んでいる状況であった。
　さらには、一緒に働く社員が置かれている状況を理解しないで不用意な発言をし、トラブルに発展することもあった。
　このような状況を打開するために、一緒に働く社員に対し人事係長が対応の仕方や障害特性に関する研修を行ったほか、「障害の有無にかかわらず、未経験の業務は誰しも最初はできないのが当たり前」という意識付けを行い続けるなど、主任担当者と連携してBさんが仕事と職場に馴染めるように尽力した。
　人事係長と主任担当者の尽力が功を奏し、Bさんは今ではほかの社員と同じように仕事をこなし、一緒に働く社員とも冗談を交わせるほど打ち解けている。また、一緒に働く社員も障害特性への配慮以外は、構えることなく接することができている。
　Bさんは決められた量以上の服薬をしてしまい、出社できない期間もあったが、病院と支援センターならびに同社の人事係長と主任担当者の連携により、服薬の管理や服薬に関する周りの理解などが得られたことにより、現在では定期的な通院もでき、業務に支障をきたしていない。
　BさんもAさんと同様、家庭や生活面での問題は支援センターに対応を依頼している。

　　　　　
　　　　　　定期清掃（お手洗い）に取り組むBさん　　　　　　　　　　　　　　　定期清掃（床面）に取り組むBさん