人手不足を補う主要な戦力として位置付け、
継続的採用・育成を図る
—本人の希望で採用、個々人の特性に応じて配属—
- 事業所名
- 青山商事株式会社
(法人番号: 1240001029674) - 業種
- 卸売・小売業
- 所在地
- 千葉県千葉市
- 事業内容
- 各種衣料品の企画・販売に関する事業
- 従業員数
- 6,734名(うち千葉センター85名。令和2年3月31日現在)
- うち障害者数
- 149名(うち千葉センター34名)
-
障害 人数 従事業務 肢体不自由 50(2) 軽作業全般、清掃、商品検査 知的障害 55(14) 軽作業全般、商品運搬、清掃 精神障害 44(18) 軽作業全般、商品検査 - 本事例の対象となる障害
- 肢体不自由、知的障害、精神障害
- 目次
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事業所外観
1. 事業所の概要
青山商事株式会社(以下「同社」という。)は、「洋服の青山」を中心としたビジネスウェア事業を展開する企業である。事業の約7割をビジネスウェア事業、残りの3割を雑貨販売事業とその他の事業が占める。広島県福山市に本社機能を置き、広島県(福山市神辺)、岡山県(井原市)、福岡県(田川市)、千葉県(千葉市)に商品センターがある。
中でも千葉センター(以下「同センター」という。)は、店舗面積の限られた都心への積極出店を遂行するため、平成22年6月に竣工した同社最新鋭の大型高機能物流センターである。敷地面積13,771㎡、5階建、延床面積27,568㎡で、通販用を含むスーツ、洋品など、常時約10万点の商品在庫を誇っている。首都圏(1都3県)のバックヤード機能を担っており、そのため「365日稼働し、深夜に自動ピッキング、早朝に出荷作業を行って店舗開店前に届ける」という「多頻度少量ジャスト・イン・タイムの配送体制」を構築している。地価の高い都心での出店では、店舗のバックヤードを削減し、可能な限り売場面積を拡大する必要がある。そのため、同センターは「ルート便」と呼ばれる専用車両で出荷商品を決まったルートで各店舗に配送し、「前日に各店舗が販売した商品を翌朝には店舗に補充する」ことによって店舗の疑似的な倉庫の役割を果たしているのである。
同センター内は「ハンガーレール・ホイールシステム」により、ハンガーの移動が全面的に自動化されている。また、各ハンガーには無線で読み書きができる「ICタグ」が装着されていて、当該商品の在庫位置や仕向け先などの情報を無線信号によって書き換えることにより、「商品のピッキング・仕分け」から「倉庫内の作業管理・設備の制御管理」まで自動化することが可能になっている。
2. 障害者雇用の経緯
同社が障害者雇用を手掛けたきっかけは、当初「法定雇用率の充足」が目的であった。社員の多くが店舗の接客業務に従事する同社で法定雇用率を満たすには、主に「商品センター」で障害者の雇用を拡大する必要があった。井原センター(岡山県)などではすでに数十名規模の障害者雇用を行っていたが、同社全体が法定雇用率を達成するには程遠かった。同センターにおいても、開設にあたってハローワークを通じ2名の身体障害者をパート採用し、平成25年には最寄りの「障害者就業・生活支援センター」である「(NPO)ワークス未来千葉」と連携した継続的な採用に向けた取組を開始して、その後の3年間に6名を採用した。同センターはハンガーレール・ホイールシステムによって高度の省人化がなされているといっても、それはピッキングとソーティングの分野のみであって、入出庫に伴う商品のハンドリングやハンガーレールを含む庫内の清掃に人手を要した。そこで平成28年、同センターでは、全社の実雇用率を高める狙いもあって「人手不足分は障害者雇用案を採用する」方針を固めた。ちなみに同センターでは、障害のある社員を「サポートメンバー」と称することとしている。平成28年には同センター内に障害者雇用に特化したプロジェクトを立ち上げるため、副センタ—長を中心とする「サポートチーム」部門を設置した。そして、ジョブコーチと障害者職業生活相談員の資格を取得した専任者を配置すると共に、数多くの障害者を雇用している企業を参考にすべく、サポートチームはJFEスチール(株)の特例子会社であるJFEアップル東日本(株)を見学した。さらに翌年には、現場を構成する4チームにそれぞれ障害者職業生活相談員資格認定講習を受講した担当者(兼務)を配置して、後述する受入れ体制をセンター内に構築すると共に、「千葉県立障害者高等技術専門学校」からの職場実習生の受け入れを始め、「高等特別支援学校」などとの連携を開始した。そして、これらの取組を通して近隣の「特別支援学校」4校などから毎年春秋の2回、実習生の受入れを行うことによって採用人数が急速に増えていった。採用人数の推移を見てみると、平成22年2名、25年3名、27年3名、28年7名、29年8名、30年3名、令和元年7名、2年3名となっており、来年(令和3年)春までに7名の採用を予定している。その間の退職者はわずか3名にとどまっている。
3. 障害者の従事業務と職場配置
同センターの仕事は、まず入荷した商品を種類別に扱うものとして、スーツなどの重衣料をハンガーで扱う「ハンガーチーム」と、シャツなどの軽衣料を袋に入れて扱う「ケースチーム」に分かれ、これに、営業店舗支援のための「ルートチーム」と、ハンガーレール・ホイールシステムのメンテナンスを行う「システムチーム」、それに前述した「サポートチーム」の5グループに分かれている。主にパート社員が従事している各グループの業務を具体的に説明すると、まずハンガーチームには、入庫商品にサイズを表記したチップを取りつける「サイズチップ付け」、目視での入庫検品と金属の混入がないか機械を通して調べる「検針機掛け」、商品に傷・汚れが付かないように1着ずつ袋を被せる「ビニール掛け」などがある。次にケースチームには、シャツ専用の「カンガルーバック」とよばれる特殊なハンガーに1点ずつシャツを入れていく「入庫作業」、納入先店舗別に取りまとめられたシャツをカンガルーバックから抜き取って梱包する「出庫作業」、商品指示書に基づき携帯型商品管理端末を用いてピックアップし梱包する「ピッキング作業」がある。またルートチームには、店舗から依頼を受けた備品を格納庫からピッキングしルート別にセッティングする「備品フォロー」、出庫商品に汚れや傷がないかを確認しルート別にセッティングする「出庫準備」、店舗へ返送あるいはお客様にお渡しをする補正品に皺がないようプレスを行う「補正品プレス掛け」などがあり、それらの作業の全てに障害のある社員が従事している。同センター内には仕切り壁がなく、それぞれのチームは1~3階の入出庫エリアにあるそれぞれの搬送装置に付随して固定した作業拠点、あるいは担当商品が搬送される経路に沿って広い倉庫内を移動しながら作業を行っている。勤務は朝7:00~夕16:10、および8:50~18:00の2交替制で、夜間の監視作業は外部委託している。なお、障害のある社員は8:50~17:00の実働7時間勤務もしくは8:50~18:00の実働8時間勤務とし、勤務できる体調か否かは各人の主治医の判断に任せている。
現在の障害のある社員34名を所属別にみると、ハンガーチーム4名、ケースチーム14名、ルートチーム3名、システムチーム2名、サポートチーム11名である。なお、サポートチームのうちの6名はクリーンナップ(清掃)の仕事に従事し、残りのサポートメンバーは主となる業務を行うとともに各チームの業務サポートも行っている。ちなみに同センターを所属別にみると、ハンガーチーム28名、ケースチーム23名、ルートチーム11名、システムチーム5名、サポートチーム15名であり、多いところでは部門の約半数を障害のある社員が占めていることになる。
それぞれの職場に求められる能力は異なっていて、例えばルートチームでは、衣服の細かな皺や繊維の乱れを素早く見付けて「プレスがけ」を行うため、手先の器用さが求められる。またシステムチームでは館内に張り巡らされたハンガーレールのメンテナンスを行うため、ハンガーレールの仕組みを理解することが要求される。入社後しばらくの間はサポートチームに所属しながら幾つかの現場を体験し、本人が納得し、また周囲とも馴染めるようになった時点で正式に配属するようにしている。
4. 取組の内容と効果
同センターが障害者を受け入れる際は、「見学→職場実習→面接→入社→サポートチーム所属→各チームへの配属」のプロセスを踏む。まずは特別支援学校の先生方や各種支援機関の関係者に現場を見学いただき、生徒などへの情報提供や職場実習(以下「実習」という。)に向けた調整を行っていただく。次に、生徒などに実際に実習を経験していただいたうえで、同センターへの就職を希望する実習生と面接して入社を決めるのである。その間、早くて半年、長くて数年かかることもある。興味があっても自分の適性が分からない生徒もいるので、実習では、まず多種類のハンガーが入っている段ボールの箱の中から種類別に仕分けをして規定の箱に梱包をしていくハンガー整理の仕事を通して適性を判定し、やってみたい仕事を決められるようにしている。同センターの開所当初は、採用した障害のある社員を(サポートチームを除く)3つの現場チームに直接配属しても大きな問題は起きなかった。しかし平成28年に7名が一度に入社したことで、現場では障害のある新入社員の指導・教育に手が掛かり、本来やるべき業務に支障が出るといった問題が生じた。このため、現場と障害のある社員の双方に大きなストレスが生じて相互にコミュニケーションが取れない状態となった。そこで、「まずは入社した障害のある社員をサポートチームで受け入れてきめ細かな生活指導などを行い、本人が現場に溶け込めるようになった段階で正式に各チームに配属する」という、上記の方式が採択された。平成28年の「サポートチーム設立」にはこのような経緯があったのである。
また、「障害のある社員が現場に溶け込めない」といった事例の多くが精神障害や発達障害のある社員の雇用において発生した。しかし、そうした状況の原因は「障害のある社員が自分の思いを上手に表現できないために周囲が誤解をしてしまう」という、いわば「コミュニケ—ションの齟齬」によるものであることが分かってきた。例えば、障害のある社員は通常の生活や作業環境に対して異なる感覚で受けとめており、そうした思いを彼らなりの危機感をもって訴えるのである。しかし周囲はそれを「指示への否定」や「不満」と受け止めてしまい、障害のある社員の人格を否定してしまうような誤解が生じるのである。サポートチームでは、そうした「行き違い」を早期に発見し、ささいなうちに解決を図るため、「気が付いた兆候を漏れなく業務日誌に記録」し、また「障害のある社員からの相談事や気になる出来事(通常とは異なる行動やトラブルなど)を口頭連絡やミーティングにより関係者間で共有」している。
こうした「障害のある社員への理解」が深まるにつれ、サポートチーム以外の現場にも変化が生じてきている。例えば、社員への一般的な連絡指示の仕方や、日常会話での言葉遣いまでもが、障害のある社員にも誤解を生じないような気配りをした表現になってきたり、設備や作業環境について障害のある社員しか気が付かないような不安全な箇所が指摘されると、それを基準として安全対策が施されるようになったことが挙げられる。
5. 今後の展望と課題
同センターにおいては、「健常者が障害者に仕事を教える」といったことはほとんど見られない。障害の有無に関係なく社員が相互に教え合うことはもちろんのこと、障害のある新入社員に対する教育についても、障害のある先輩と後輩の間で仕事を教え合い、自然な形で仕事の領域を拡げていける関係ができている。それは、支払われる賃金も障害の有無による区別を設けていないからである。その結果、障害のある社員に自信とプライドが生まれ、キャリアアップを目指す意欲が醸成されるものと思われる。高い人事評価を得ている障害のある社員も多いという。
障害のある社員の幾人かに取材したところ、いずれも気軽に応じてくれた。遠慮する態度を示したり言葉を取り繕うようなことはほとんどなく、思っていること、感じていることを素直に語ってくれるのである。例えば、ケースチームで入庫作業をしているAさんは、「カンガルーバックにワイシャツを入庫するのが面白くてたまらないからこの仕事をしている。」と言い、ルートチームで補正品のプレス掛け作業をしているBさんは、「お金を稼ぎたいからこの仕事をしている。」と素直に話してくれた。いずれも若者らしく溌溂とした態度で、前向きな様子が感じられた。
同センターでは、仕事の範囲を同センター以外の社内他部門に出張するかたち、例えば「本社部門のサポート」や「(店舗敷地の除草や倉庫改善など)近隣の店舗支援作業」などを行っている。
取材の最後に同センターの担当者の方に、障害者雇用に取り組む他社へのアドバイスを尋ねたところ、以下のように話された。
これから障害者雇用に携わる支援者に対するアドバイスとしては、障害者雇用を推進する企業人としてこれまでの経験を踏まえ、「障害の病名や医学的な診断を頼りに判断する」だけでは解決できない。そして、「(そうした障害に対する既成概念に惑わされることなく、)個々の障害のある社員について『具体的にどんな仕事で力を発揮できるか?』を企業独自の視点で見極め、彼らが活躍できる新たな仕事を構想し創造すること」が大切である。
さらに、「個々の成長につなげられる障害者雇用の在り方を考えていくことこそが大切であると思っている。」と強調された。
執筆者:独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構
千葉支部高齢・障害者業務課
65歳超雇用推進プランナー
新井将平
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