本事例の対象者（以下「対象者」という。）は特別支援学校(以下「支援学校」という。）の高等部在学生。そして、対象者はコミュニケーションが苦手ということもあり、本事例の事業所（以下「事業所」という。）での面接には、支援学校の担任教諭（以下「担任」という。）と対象者の母親も同席した。担任と母親からのフォロー（助言・説明等）により、対象者と採用担当者との面接（会話や質疑）はスムーズであった。また、障害状況や配慮すべき点について担任等からの説明で事業所は把握することができた。

面接のみ実施。特別なことはなく、口頭で面接した。先に触れたように担任と母親が同席しており、対象者の状況について、学校や家庭での様子も含め、詳しく知ることができた。また、事業所からは本人・担任・母親に対し会社の事業内容や担当業務等の説明を具体的に行った。

担任によると学校でも掃除の時間があり、対象者も積極的に取り組んでいたとのことでもあったため、事業所の清掃部門での2週間の職場実習を2回実施したのち、清掃での採用となった。

直属の指導役として、高齢者であるが、定年後再雇用の現場作業員（以下「指導担当者」という。）を選定した。選定にあたっては、対象者が自立することを目標に、本人の理解度に合わせて、こまめに丁寧に繰り返し指導できるとともに、時には厳しく指導できる人であることを重視した。そして、相談や指示の方法はマンツーマンを基本とし、例えばモップのかけ方も、どこに注意して清掃するのかを繰り返し具体的に指導した。

指導担当者が一から丁寧に指導することで、対象者は清掃作業を覚えていった。当初は、指導担当者に何度も注意指導されていた時期もあったが、徐々にモップのかけ方、かける位置等作業内容を理解し、的確にできるようになった。その次には、室外の敷地内を掃く作業、窓ガラス拭き、壁拭きと幅を広げ、今では、清掃のなかでも難しいレベルの扇風機、空調の大型ファン、製品を立てかけておく鉄の支柱の清掃もできるようになった。

自転車通勤している。昼休みは食堂で弁当のあと休憩している。勤務中は当初休憩を取らずに仕事を続けてしまうところがあったので、午前と午後の休憩を必ずとるように指示し、対象者が自ら時計を確認して必ず休憩をさせるようにした。今では、自ら休憩をとることができるようになった。通院は月一回。

障害に特化した装備等は必要ない。ただし、社員共通であるが工場内作業であるため、安全通路の清掃でもヘルメット着用、会社の清掃用のつなぎの制服、安全靴にて作業。ほこりの多い作業はマスクの着用を義務付けている。対象者もそうした装備をルールどおりに使用している。

現場の従業員には全員、対象者に障害があることや対人コミュニケーションが苦手であること、作業についても、具体的に何度も繰り返し指示し、経験しないと内容が把握できないことなどを説明している。

採用から3年半になるが、採用当初より「業務日誌」（下記PDF参照）を活用している。業務日誌は、1週間（5日）分を一枚にしたもので、事前に本人に配付しておき、1日就業したら、記入して自宅へ持ち帰り、母親に確認してもらう。何か気になることや連絡事項があれば記入してもらい、翌日、担当部長に渡す。担当部長は内容を確認することとしている。この業務日誌には今日の体調面（睡眠や朝食の状況）、業務面（作業内容の目標・反省）が記入できるようになっており、本人の体調面・業務面での状況が日々、家庭と会社で把握できるようになっている。何か心配な面があれば、本人やご両親に連絡できる態勢になっている。会社としても、体調面で、特に気を付けており、気になるところがあれば本人に声掛けしている。本人が働くことについて、ご両親に不安があったこと、会社側も家族に理解を得ることから始めた業務日誌であるが、業務日誌という配慮事例が日々の体調と業務の進み具合を把握することができ、大変有効で、今後も継続してゆくこととしている。
　　　　　　　　　　　　

業務日誌