・本事例の対象者（以下「対象者」という。）は障害者就業・生活支援センター（以下「支援センター」という。）の支援を受けており、面接時には支援センターの支援員（以下「支援員」という。）が同席した（経緯は「その他の配慮」に記載）。
・対象者は、面接の前に本事例の事業所（以下「事業所」という。）で支援センターの制度による職場実習を行っている。面接はハローワークの紹介による。

・事業所からは複数名の役員、障害者雇用担当者が出席した大人数での面接であったが、対象者にとって分かりやすく、答えやすい言葉での問いかけをするなどの配慮を行い、和やかな雰囲気で対象者も落ち着いて面接を受けることができた。
・同席した支援員に対象者の障害特性や配慮すべき事項等についての助言を求め、必要な情報を得ることができた。

1．採用までの経緯
対象者は特別支援学校を卒業後、ある企業に就職するも就職当初の業務がなくなり、企業も新たな業務の切り出しが難しくなったことが理由で退職し、就労移行支援事業所（以下「支援事業所」という。）を利用。事業所から障害者を雇用したいとの相談が支援センターにあり、対象者を推薦し、雇用を前提とした職場実習が行われた。
実習では、支援センターと移行支援事業所の支援を受けながら、精米補助作業等に従事した。支援センター等では毎日現場を訪問し、腰痛に配慮した米袋の持ち上げ方の指導など、本人の状況を見つつ必要な支援を行った。実習状況や面接の結果から事業所での採用が決定した。

2．その他の配慮等
対象者からは以下の要望が出され、配慮することとした。
・腰痛への懸念から、採用当初は米袋（30kg）の運搬は一日3時間までとしたいこと。
・家族旅行等の際に連続休暇を取得したいこと。

・事業所では法人全体の障害者雇用を担当する職員を決め、当該職員は熱心に雇用に取り組んでいる。
・事業所の中で障害のある職員数が一番多いのは店舗部門であり、店舗部門では店舗のリニューアルオープンに際して地域障害者職業センターのカウンセラーに講師を依頼し、職員全員に対し障害者雇用について研修を行っている。
・対象者の配置部署（精米部門）には対象者を含め常時3名が在籍している。精米部門の責任者と上司が主に対象者の担当である。まれにではあるが、責任者と上司の両方が不在の時には同じ建物内にいる別部署の職員同僚が対象者に指示したり、対象者から質問を受けるようにしている。対象者が曖昧な表現の指示を理解することが苦手であることは別部署にも周知されており、指示を出すときには“的確な表現とし、曖昧な表現はしないこと”が徹底されているため、指示を受ける相手が違っていても、対象者は混乱することなく業務を継続することができている。

・現場にマニュアル等はなく上司からその都度、指示を受けることが多い。対象者は、口頭での指示をしっかりと理解し、疑問が生じた場合は、すぐに上司等へ質問ができている。職場としてもふだんから対象者に声をかけるなど、質問等がしやすい雰囲気づくりに努めている。
・対象者の担当業務としては、二つのパレットから交互に米袋を精米機へと運ぶ作業がメインとなっている。精米前の米袋をどの部分からとるか間違えないように、運ぶ前にプラスチック製の鉢皿を移動させることで目印にしている（下の写真左側参照）。
・精米前の米を専用の機械に入れる作業では、規定量になるとランプが光るようになっていることなどが、上司より教えられている。対象者がまだ業務に慣れず、余裕のない段階では、上司は性急に繰り返し指導するのではなく、本人が慣れるまでゆっくり時間をかけてフォローをしながら助言等を行っていた。その結果、現在では、対象者自らランプに気づき、米の投入を控えられるようになっている。
・精米された米袋をパレットに積み込む作業は特殊な積み方をするが、パターン化された並べ方であるため本人の障害特性に合っており、説明を一度受けただけで、間違うことなくスムーズにできている（下の写真右側参照）。就職後9か月が過ぎた最近は業務に慣れてきたこともあり、当初は3時間までとしていた米袋運搬が、3時間を超えてもできるようになっている。運搬作業が終了すると、学校や施設等への配達同行、倉庫の清掃や使用済みの米袋の処理を行っているが、対象者や作業場の様子を見ながら、上司が「的確な指示」を出しており、対象者も上司からの「的確な指示」によって混乱することなく、スムーズに取り掛かることができている。

・一日6時間（8時30分から15時30分）の週5日勤務。
・すでに述べたように、腰痛予防のために米袋（30Kg）の運搬作業を、採用当初は一日3時間までとし、腰痛は起きなかった。就職後9か月となる現在は、作業に慣れてきたこともあって3時間を超えて運搬することもあるが、本人も職場も気をつけており、腰痛は起きていない。
・対象者の体調維持等には職場以外での様子も重要であると考えることから、事業所から家族に対し、対象者の様子に気をくばり、必要があれば支援者や事業所に連絡するように依頼している。
・家族旅行等のための連続休暇も取りやすいよう配慮している。

・支援員から腰痛予防のため、コルセットの装着を勧められ利用している。米袋を持ち上げるときの姿勢・動作についても、腰をかがめるだけではなくスクワット式に膝を曲げて行うよう助言した。また、そうした腰痛予防への対応については、支援員と事業所との間でも情報共有を図った。

・支援センターでは、実習時から支援事業所とも相談したうえで支援計画書を作成し、事業所の担当者へ提示した。支援計画書には本人の特性や配慮事項も記載されており、就職後も支援員や支援事業所職員からは必要に応じて具体的な情報が提供され、コミュニケーションが図られた。事業所ではそうした情報を役員と人事部門、配属部署（精米部門）の職員で共有している。

・集中力が切れないよう、できるだけ空き時間ができないように気を付けている。
・急な空き時間ができた場合は、対象者へ「〇分間休憩します。」と具体的な数字で示すなど、混乱しないように配慮している。
・対象者の家族も協力的であり、支援センター・支援事業所・家族と事業所は連携している。